「アンタ、名前は?」
「ああ、よろしく!アタシは宇田川 巴だよ!」
「あまの、ゆうき…優季くんね!よろしく!」
「へー、転校生?ま、テキトーによろしくねー」
「あまのゆうきくん…よろしく、天野くん!」
懐かしい記憶。小波のように浮かんでは消えて、でもそれは絶え間なく流れていく。
「何度みんなで夏祭り行くんだけど、どう?」
「暇なら一緒にいかないか?」
「ね、いこー?」
「カキ氷奢ってー」
「皆で行きたいんだけど、小日向君もどう?」
その波は徐徐に強さを増して、記憶の深い闇の中に呑まれていく。
「今度、皆で集まるんだ。来なよ。」
「菓子とか持ってきてしゃべるだけだけど、どうする?」
「お菓子一緒に作ってみないー?」
「ひまりちゃんと一緒にお菓子作るから、来てくれると嬉しいな。」
楽しくて、いつまでも聴いていれるような小波の音。でも、水面は徐徐に荒立っていく。
荒れる水面に写るのは、苦難を越えて、山場を越えて、ライブを終えて涙を湛えながら抱き合う彼女らと、それを遠くで眺めている自分。そんな風景はたくさん増えていって、見ていることさえ辛くなって、跳ね上げるように飛び起きた。
首筋を伝う冷や汗がだらだらと絶え間なく流れていく。体は重たくて、枕元に放り投げておいた紙袋は適当に放置されていた。
「夢ならよかったのに…」
古びたアルバムを見て、それで昔を懐かしんできたこの間とは違う。今はもう、埃が被っていてもどうでも良いと思ってしまう。
もう、きっと戻らない幸せなんだろうな、と思う。
最後に彼女たちが教えてくれたんだと、いま、思っている。いつか言おうと思っていた想いも、貴方と居なければ永遠に届けられないのに。
ああ、もう。
暗い想いを振り払うように頭を振る。
でもきっと振り払えないんだと思う。
きっともうこれ以上、傷つくことは無いんだろうな、とわかっている。
あの日、悲しんでいた君が。
あの日、苦しさで涙していた君でさえ。
その弱い君のことを想っていたと言うのに。
「アンタには関係ない!幼馴染みでもなんでもないアンタに、私たちのことを知ってるなんて言われたくない!」
まさか、あんな風に言われるなんて思っていなくて、またあのときのことを思い出してしまう。
でも、それでも胸に浮かぶのは、彼女の不器用な笑顔。
胸に残り、離れない、彼女の笑顔や、笑い声。女の子の、甘い、柑橘系の匂い。いっそのこと、雨に打たれればこの気持ちを一緒に流してくれないだろうか、と思案する。でも、そんなifの話に意味はなくて、彼女たちの声が、仕草が、笑顔が。
彼女の声が、すべてが愛しい。
いまでも僕の心には、彼女たちの輝きが潜んでいる。