Fate/Imagin Breaker   作:黒幕系神父

1 / 1
正義の味方

全てを失った。全てをなくした。今まで必死に手を伸ばして掴んできたものを全て否定された。

 

 

上条当麻と呼ばれるとある少年がいた。その少年はどこまでも不幸で、それでも、否だからこそ。目の前にいる人だけでも救える命があるのならばと全てをなげうって、救おうとした。

 

そうして救えてきた。それはまるでヒーロー。英雄と呼ばれる物であった。

 

かつての友人を、見知らぬ人を、敵を―――。

救って、救って、救って、救って――――。誰もが笑える最高のハッピーエンドを目指して。

そうして最後には、ついに神と対峙して。

 

 

 

神との戦いで、少年はついに折れた。

 

 

 

対峙した神はどうしようもなく全能だった。何もかもが可能な、文字通りの神、オティヌス。かつてオーディンとも呼ばれた北欧神話の主神。

神は世界を作り変えた。誰もが幸せで理想的な黄金の世界に。その不幸な少年の心を折るためだけに。他殺ではぬるい。もしかしたら横槍が入るかもしれない。確実な死。自殺を。完全なる死を突きつけるために。

 

「私が殺してもいい。だがお前は何故だか外的要因から奇妙に抜け出す、悪運のようなものがある。死すべきときに死ねないのはお前の絶対的な不幸かもな。私はお前を99%の確立で殺せるが確実じゃない。お前が自害するのが100%確実だよ。」

 

 

その世界はかつての少年が覆した悲劇なんてないし、少年が生まれる前。少年がその事件の内容を知る前に犠牲になった、もう死んだ人達も幸せに生きている世界。

 

 

その余りにも罪深い、けれど美しい世界を見た少年は、世界を否定できなかった。

 

今まで決して心が折れなかった。でも、この光景だけは否定が出来なかった。

どうしようもなく、完璧な世界。

 

「お前の言うとおり、この世界は完璧だ。隙がない、完全無欠な世界。お前が救うという前提を取り除いている、完全な黄金比の元作られた世界。逆に言えば、お前という救う存在がいるだけで世界はその黄金比を壊し誤作動を起こす。この完璧な世界は、呆気なく崩れ去る。お前が生きている限り。だから――――上条当麻」

 

「自分の命に決着をつけろ。それ以外にこの世界を守る方法はない。」

 

どうしようもない。

世界は少年の肩に乗った。彼が戦えば、もしかしたらこの神を1%の確立で打倒できるかもしれない。世界を元通りにできるかもしれない。

だが、それは―――本当に正しいのか?

 

「ほら、選べよ。この完璧な世界を破壊してかつての世界を目指すか。もっともソレこそ出来る可能性なんてないに等しいがな。全てを背負う、この世界の幸せを踏み台にしてかつての世界に戻りたいなら。その覚悟がないのなら死ね。自害しろ。」

 

そう言って、神は去っていった。

 

 

 

 

ポツンと、ベンチに座る。目の前には幸せそうな親子の姿。

その姿を見て、彼らを否定するのは…。

…ああ。この世界では、俺が悪者なんだ。俺がいないことで絶対的な幸せを皆得ているんだ。だったら、俺だけがこの世界を否定してもどうにもならない。それは悪だ。この世界の幸せを否定する絶対的な悪だ。それだけはダメだ。

 

元の世界へ返りたい。

全てを元に戻したい。

かつての日常に戻りたい。

上条当麻という人間が当たり前にいる世界に戻りたい。

 

だけど。

 

そんなもの望んでいるのは世界に一人だけだった。

 

ベンチに腰をかけ、上条当麻はその両手で自らの顔を覆った。

「ああ」

 

「悪と断じられるのはやっぱり俺だったんだ。この世界を作ったアイツはどうしようもなく正しいし、この幸せの世界を否定する俺はどうしようもなく最悪なんだ」

 

「…分かったよ。オティヌス。死に場所を探そう。」

 

 

静かに、音もなく少年はベンチから立ち上がる。

フラフラと糸の切れた風船のように、ゆっくりと。それでいて確実に。

黄金の世界を、彼は歩き続ける。

 

 

 

どんな死に方がいいか。

オティヌスが言ったとおり、自分はなんというか…死にづらい性質だ。だからこそ、確実に死ななければならない。もし仮に自殺して生き延びて、それで希望を見ればそれは…いや、考えないでおこう。とりあえずは、確実な死に方だ。

 

街をフラフラと歩きながら考える。

包丁を持っての自殺。だめだ、リスクが高すぎる。そも自分の悪運では確実性がない。

 

投身自殺。もしかしたら清掃用のゴンドラに乗ってしまって、そのまま希望を見るかもしれない。ボツだ。

 

ボツ。ボツ。ボツ。様々な死を考え、それを否定していく。

 

焼身自殺。確実性がある。ガソリンを思い切り燃やしたらもし雨が降ったとしても、俺が燃え尽きるまで炎は続くだろう。目指すはガソリンスタンドだ。

 

 

どこにあるか、歩き続ける。

通り過ぎる人。通り過ぎる人。通り過ぎる人。その人々の中に、既知感があった。

かつて救った人。かつて救えなかった人。かつて対峙した人。様々な”人”がそこにはあった。

 

だが、誰もが共通して言えることは、皆が…幸せだった。

上条当麻が仏頂面しか見たことがない男は、満面の笑みを。

かつての事故から体の一部が破損している少女は、五体満足に走り回っていて。

 

どうしようもなく、誰もが幸せな世界。なるほど。どうしようもない。

オティヌスはどうしようもなく完璧な世界を作り出した。ならば、確実に死ななければならない。それこそが彼らが幸せに生きていくことが―――。

 

「かおりー!ステイルー!」

そんな、利きなれた声が目の前に広がる。金色の刺繍をした真っ白なシスター服を着た、彼女のその声は…少年の知る限り、銀色の髪を持つインデックスという名で呼ばれた少女。

どうしようもなく、自分が執着した少女。その少女の為に、一度は記憶を失った。それほどに、自分が愛した少女。最も大切な存在。

 

上条当麻は自ら頭をあげ、目の前の光景を焼き付ける。見ておきたかったから。彼女の姿を。

人ごみを避けるように走るその銀髪の少女は、自分の胸元に三毛猫を抱えていた。すでに目的の人物を見つけているのだろう。その動きに迷いはなかった。

 

そうして、一瞬の停滞もなく上条当麻の隣を通り過ぎていく。

インデックスは、そもそも上条当麻など見ていなかった。

 

 

 

これが答え。上条当麻が救わなかった、否。救う必要すらない彼女が上条当麻と関わりを持つ必要がない。

彼女は、確かに幸せそうな顔で―――だからこそ、上条当麻が介入する余地はなかった。

 

 

 

背後からかましい声が聞こえる。それでも上条当麻は振り返らない。

今ので、決まった。モヤモヤしていたものが確定した。覚悟が決まったというべきか。

本当に守るべきものを―――彼女の幸せを、見つけれたような気がした。

だったら、自分がすべきことは決まっている。

 

 

 

 

 

 

そうして、遂にガソリンスタンドについた。

無人のガソリンスタンド。そこには不思議と人が寄り付かない。何故だろうかと、近くによって見れば、大きなボタンのようなものがあった。

 

「はは…。そうか、このボタンを押せば、か。」

 

上条当麻は英雄であってもただの高校生である。そんな少年がガソリンスタンドで焼死などできるはずがない。だからこそ、オティヌスは先に用意していた。流石は全能の神といったところか。

 

ボタンを押せばガソリンスタンドは燃え尽きる。爆発するかもしれない。どちらかは分からないがそれは、オティヌスが用意した確実なる自害へのルートのボタン。

このボタンを押せば、それだけで自分は確実に死ぬ。なるほど、幸せな世界を守るために、誰もこの場所には近づかないのか。だってこのガソリンスタンドは唯一不幸な結果を生み出すことが出来る場所なのだから。

 

 

その場所からは、ガソリンスタンドからは街が良く見える。この場所は暗く隠遁と、けれど目の前の町からは黄金の、光り輝く世界。

 

「ああ」

光が、差し込んだ世界。

 

「コレは確かに。」

直視できない絶対的な幸せがそこにあった。

目の前に広がる黄金の世界。警察のサイレンのような無粋なものは一切存在しない。ただ聞こえるのは笑い声。吹き抜ける風は清涼のように。温度は適温で、光は黄金に輝く。世界を見るだけで、上条当麻の心を癒していく。

なるほど、この世界は作り物なのだろうと分かる。それでもこの世界はどうしようもなく、幸せだった。

 

 

「人生の終わりには最高の場所だよオティヌス。俺の手じゃここまでのものは作れなかった。」

 

 

始まりは、記憶喪失だった。銀髪のインデックスと呼ばれる少女を救うために、前の自分は必死になって足掻き続けて、そうして記憶を喪失して、今の自分となった。

 

 

―――結局、自分は記憶が失っていないとインデックスに偽った。

ただ、インデックスに泣いてほしくないから。罪悪感を感じてほしくないから。そう言い訳して、自分はその嘘を貫きとおした。

インデックスが知っている思い描いた上条当麻。記憶喪失前の自分を演じるために、かつて、インデックスを助けたような英雄的な行動をとり続けた。

それが、記憶を失ってまで少女を救おうとしたかつての自分だと信じて。

 

 

人を救おうとしたキッカケなんてそんなものだった。

苦しかった。痛かった。それでも、数多の悲劇を救うことが出来た。

それだけで、自分は進むことが出来た。傲慢だけど、それでも人を救えたことが嬉しかった。

 

…だけど、その先に何があった?

仮に…仮にだが。この世界から抜け出して、元の世界に戻ったとして…。そうして、続くのは戦いだけだ。

敵はいる。誰かを不幸にさせようとする敵は、必ず尽きることはない。だからこそ、戦い続けるだけの日々。そこに、何があるというのか。

 

それに比べたら、目の前の世界は。誰もが幸せで平等で、全員が笑っている世界は。

この世界には、自分が懸念するような”敵”は現れない。世界という単位を変えたのだ。現れるはずがない。

この世界は悪意が欠片も存在しない黄金比の世界。そんな世界に例え悪意が生まれようと”神”であるオティヌスは決して許さない。そんな不完全な物を”神”は許さない。

 

たとえ神がどれほどに傲慢でも、絶対的な支配のもとこの世界が運営されても、それでもこの世界の人達が全員が幸せだというのならば。

 

自分の思いだけで、この世界を否定するのを絶対に許されることではない。それほどに、この世界は完璧で完全で最高の黄金の世界だった。

 

 

 

目の前のボタンを見る。

何の変哲もない、赤いボタン。このボタンをおせばそれだけで全てが終わる。

世界は救われ、悪意:上条当麻は消滅する。世界は無事幸せだけで満たされる。

 

不思議と手は震えなかった。ゆっくりとだが、確実に手にボタンは近づいていく。

目の前が霞む。壊れた涙腺から雫があふれ出る。

当たり前だ。もう、終わりなのだから。彼女に会うことは、かつての日常はもうないのだから。

 

ただ、それ以上に

 

「どうしようもなく、悔しいよ」

 

 

そう呟いて、

ボタンを、押し――――――――

 

 

 

 

 

 

 

グシャグシャになった。

意識は完全に一度消え、体は完全に炭となった。

 

 

それでも、彼の神浄の討魔たる魂は。

ドラゴンたる彼の因子は。

世界の修正点である、少年が持つ特異な手は。

 

 

そうして世界は、彼の死を否定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ハッ!?」

 

『上条当麻』は、そこで目を覚ました。

 

確かに、自分は自害した。あの時光に当てられて、痛みを得て確実な死を得たはず。

だが、何故自分は生きている。何故…まさか。オティヌスが?

いや、ありえない。あの神はソコまで慈悲深いわけがない。ましてや自分が自害することをオティヌスは望んでいた。わざわざ生き返らせる道理はない。

 

ならば、ここは―――――。

 

 

「…え?」

ここは、何だ?この場所は、何だ?

これ、は―――言葉にするならば…地獄か?

目の前に燃え尽きる家の数々。ボロボロにやけた木々。大量の瓦礫。こげる肉の匂い。

そして、大量の炭。

 

何だこれは。

 

何だコレは何だコレは何だコレは。

理解したくない。コレは理解してはいけないものだ。

 

まさか、まさか。この目の前の炭は…。

 

目の前の黒い炭は…まるで、人間のサイズのようで。

 

そうして、理解して。

「うっあッぐっお――――」

ビチャビチャと。思わず、口の中から吐瀉物が出た。当たり前だ。死体など見たことがない、ただの少年がそんなものを見ればそうなるに決まっている。

 

グラり、と体が震える。意識が刈られそうになる。心がズタボロに、墜ちていく。

あの世界。天国から地獄へと。理想の黄金郷から、燃え尽きる地獄へと墜ちた。

 

だが、それでも。たとえここが地獄でも。

「誰か!誰かいないのか!」

 

ワケは分からない。何故こんな所にいるのか、そんな理由自分には分からない。

それでも、炭があるのならば、もしかしたら生きている人間がいるのかもしれない。

 

だから、走り続けた。

不思議と体は軽かった。気づけば、自身は小さな子供となっていた。けれど、ソレに気づいたところで何の感慨もなかった。

 

ただ、ただ助けるために。

もしかしたら、一人でも。一人でも助けれるかもしれないと走り続けて。

 

結局、ソレに意味はなかった。

 

 

――――地獄を見た。

燃え尽きる家。風景。景色。人。全てが燃えて。チリチリと、焼ける人の臭い。

それは、まるで自分の心を否定するかのように。

 

――――地獄を見た。

生きている親子を見つけた。その親子を助けようと近づいた瞬間に、彼らが住んでいた家に押しつぶされる瞬間を見た。おびただしい血の量は、確実に助からないと分かるようだった。

 

――――地獄を見た。

助けを請い、せめてこの子だけでもと赤ん坊を差し出す血塗れの母親を。

息も絶え絶えで、朦朧とした意識の中差し出し、その命のともし火を消して言った母親の姿。

その母親が持っているのは、とうに死骸だというのに。

 

人は、生きている人は見つけられた。

そしてそれら全てが目の前で死んでいって。

 

 

 

それでも、上条当麻の心は折れなかった。

だが、体は別。何故か小さな子供に代わっている身体は、燃え盛る地獄を耐えれるはずがない。

ついに、ついに脚が止まった。そうして、地面に倒れ付した。

 

身体は動かない。

何も助けれない。

人を助けることは、あの黄金の理想郷はもう届かない。

 

 

ああ、それでも

 

「ちく、しょう。これで、おわ、りかよ」

 

それでも、助けれることが出来る命があるのならば、もし、この地獄で人を助けれたなら、それはどれだけ良いことか。

 

たとえ、世界の悪と断罪された自分でも、もしかしたら…と。そんな希望を抱かずにはいられなかった。

 

だからこそ、自分が救われた時。そのときの、とある男の顔は強烈に覚えている。

 

 

「―――生きてる!生きている!」

 

唯一の希望。パンドラの箱に残った希望。それを見て。その顔を見て。

彼の、衛宮切嗣の。本来ならばあり得ない人を救えたという安堵の表情を見て。

余りにも嬉しそうな顔を。まるで救われたのは俺ではなく、彼ではないかと思ったほどに。

 

その男の顔は、以前の俺のような。まるで失った何かを持っていたその男の瞳は。

希望を失い、全てをなくした俺が、かつて持っていたその瞳に。

 

――――どうしようもなくその笑顔に、憧れた。

 

 

 

 

 

この物語は、最高の不幸を得る物語だ。




衛宮士郎と上条当麻って似てるよね。
だったら混ぜたら最強じゃね?という元書いてみた。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。