第四天の逝く型月散歩(旧題:型月散歩)   作:しましまパンダ

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 一応終わり。モブ聖杯戦争編。


 前回のあらすじ
 
 聖杯戦争なう→なんか一般人っぽいのがいた(今ここ)


亜種聖杯戦争の記録 その2  『怒りは短い狂気である  自然に従え』

 影法師のような捉え所の無い男という第三者の出現に二組の主従は警戒する。なぜならば、この最終局面で、なおかつ最後の戦いの火蓋が切られるようなタイミングで出てくる男、しかも普通の一般人とは到底思えない捉えどころの無さを持っている存在を無警戒でいるほどサーヴァントにしても、そのマスターも甘くはない。

 

「貴様……何者だ」

 

「何者か、ふむ……どういったものか。其の問い掛けに君たちが納得するような答えを渡すのは難しい。何故ならば、君のような生粋の魔術師である者が持つ思考は非常に偏っている。そしてそういった存在は例え私が真実を言ったところで君自身が納得できなければ納得しないだろう? その点、そこの戦場を渡り歩き、状況に応じて流動的に動けるおっさん……もとい、フリーランスの殺し屋のヒロシだったか。彼の方がまだ話しやすいというものだ。」

 

「黙れッ! 私の問に答えてもらおうか。さもなくば今炭になりたいのか?」

 

「お待ちくださいマスター。彼は正体不明とはいえ、あの魔力量からしても一般人が濃厚。一般人に危害を加えるなど……」

 

「セイバー、貴様の論は表の世界での倫理だ。魔術というのは秘匿しなければならない。故に、仮に不幸にも盗み見てしまった一般人は消されるか、記憶を操作する。」

 

「流石は魔術師様だなァ、手前勝手な理論をベラベラと……そんなんだから何時まで経っても根源だけっか? それにいけねえんだよ。」

 

「ドブネズミ風情が、崇高なる魔導を語るな……死にたいのか。」

 

「さっき迄おっさんに殺されかけてセイバーに助けられた雑魚が威勢良く吠えるじゃねえか。」

 

 影の様な男そっちのけで、今にも殺し合いを始めそうな二組。殺気立つ二組の主従に影法師は語り掛ける。

 

「殺し合いを始めるのなら私はお暇してもよろしいか?」

 

「貴様は後回しだ、私に殺される前に失せよ。」

 

「面白い冗談だ、数分後にはお前いないのによォ!」

 

 

 そさくさと、影法師の男がその場から消えようと歩を進め始め、再び戦意を高め始めた二組。多少のアクシデントはあれど、今度こそ願望器を巡った戦争の最終決戦が始める時、その場にいる誰でもない声が響いた。

 

『カール、それは卿の悪癖だぞ。表舞台で動きたいのに面倒くさがり他人に丸投げ、未知に満ちているこの世界ではやめたらどうかね?』

 

 カールとは誰の事なのか、三度戦意を滾ら、また水を差された主従はさすがに憤りを露にする。それもそのはずだろう。

 あと一歩でほしいものが手に入るという所で、意味不明な現象と男に邪魔されているのだから。

 

 お互いの名を知っているマスター同士、そしてサーヴァント同士はカールでないことを知っているから……消去法でさきほどこの場を去ろうとした男がカールであるということになる。

 

 そうなってくると、可笑しいな点が出てくる。先ほど影法師は一人でおり、それ以外の人気などなかった故、この人ならざる美しく、そして荘厳な声の主は誰なのか。

 

「獣殿、貴方が表に影で有っても出てこられてしまうと、残存魔力量から言ってもよい事ではない。」

 

 声の主に反応したのはさきほどの男だった。では、声の主はどこにいるのか、辺りを警戒する主従であったがそれらしき存在は確認できず──イラつきが頂点に達した魔術師が今にも己のサーヴァントに指示をだすところで──

 

『分かっているとも。だがな、唯一の友である卿が折角の機会を無為にしようとしているのだ。私も影とは言いつつも、出てくるというものだ。』

 

 二組の主従は驚愕した。何の変哲もない影の薄いだけの一般人だと思っていた男の影からこ黄金が出てきたからだ。

 とはいえ、黄金はそこにいるというよりはプロジェクターか何かで投影されているかのような不安定さが有り、此方に対して危害を加えてこれるようには思えない──が、黄金はその場にいるだけで圧を放つ。

 それがこの世界において誰も知らぬ在りし日の三柱の決戦、愛した刹那における黄金の億分の一であろうと、只人は黄金そのものが手加減や配慮をしない限り苦しいと感じるほどの圧が放たれる。

 

 故に、これは当然の行動だったのだろう。

 

「セイバー、奴を殺せ。(ランサー、殺れ)」

 

「了解ッ!(あいよっ)」

 

 数メートルは離れている距離を音を置き去りにして即座に詰めるランサー、やや遅れるが数センチにみたない間、その遅延が自然のコンビネーションを生んだ。セイバー、ランサーいずれもヒトの枠を超えた神秘による一撃が影法師の首を捉えかけた刹那。

 

「私の方は荒事は苦手だが……」

 

 そう呟いた影法師の背後から二つの巨影が二騎のサーヴァントへ襲い掛かった。いずれもスキルにならずとも戦場で培った直感を信じて動いていた二騎は巨大な影が襲い掛かってくると同時に己のマスターの元へ離脱しており事なきを得た。見えた己を襲い掛かった大きな、とても大きな存在──

 

『苦手と言うのであればカールよ、その笑みを消したらどうかね。』

 

 黄金は消え、自然の圧は消滅したが、二組の主従は認知できなかった。それよりも大きな、超級の重圧に襲われていたから……。

 

「貴様……何なんだソレ(・・)は。」

 

「何とは……先ほど魔術師殿、貴方の問い掛けの答えだよ。納得していただけるかどうかは分からんが。」

 

 影法師であったはずの男は揺らぎ消え、確固たる真実の姿を敵対する勢力へ見せた。捉え所の無かった姿は黄金に対を為すかのごとき宇宙すら連想する黒と、ソレを前にはサーヴァントすら霞かねない神秘の塊である対の巨大なヘビ。呆気にとられる魔術師と、すでに行動を起こしていた戦場を生きる(おっさん)の違いは経験の差だろう。

 

「ランサー、令呪を持って命ずる。奴を打倒せよ──命ずる、セイバーと共に奴を打倒せよ。最後の令呪を持って命ずる、勝利せよ。」

 

「任せときなァ! 怪物退治は英雄の本懐ってなッ!」

 

 瞬間移動すら可能にする奇跡の塊である令呪。それを己のサーヴァントの強化に使ったおっさん、もといヒロシは戦うという選択肢(・・・・・・)の中では最善の一手を打ったのだろう。それに呼応するかのように魔術師も隠したと侮っていた男に先に最善を打たれたこともあり、憤怒に染まってはいたが、同じように……

 

「セイバー……令呪を持って命ずる。あの化け物を打倒せよ。……令呪持って命ずるランサーと共に奴を打倒せよ。最後の令呪を持って命ずる、必ず勝利を我らの手に。」

 

「マスター、貴方に勝利を。」

 

 そうして先ほどのと比べ数段格の上がったサーヴァント二騎を前にカドゥケウスを従える影法師であった男は変わらず軽薄な笑みを浮かべている。まるで意に介していない、竜からして見ればアリが羽を持ったところで何も変わらないと感じているのと同じように。

 

「獣殿……いや、ハイドリヒよ、心配はいらん。不安定だろうが、全盛の万分、億分であろうとも──問題ない。」

 

「「いくぞォ!」」

 

 気が付けば宙は黒く、星は不可思議な動きをしているが、それに気付くほど彼らに余裕はない。超級のホンモノの怪物を前に己の覚悟を決める声と共に疾走する剣士と槍兵。強化されたその速さに並みのサーヴァントは置いてかれ首を刎ねられている所だが──

 

「届かぬよ──■■■■ ■■■■ 」

 

 唱えたのは異界の言語か、いや言語なのかも怪しい呟いたソレによって現れたであろう障壁によって二騎の通常であれば必殺の一撃足りえたものは阻まれた。その後も速さ、そして自らの宝具を以てしても傷の一つもつかないカドゥケウス。

 

「どうした、それで終いか? ……もう無いのだな」

 

 まるで、全てを見せろと言わんばかりの台詞を言われたランサーとセイバーであったが、出すものはもうなかった。己の切り札であった宝具も通用せず、打ち出した悉くが打ち砕かれた。今の彼らを動かしているのは英雄としての誇りか、これまでの聖杯戦争における道程か、令呪による縛りなのかは分からぬが戦意は衰えず、己のサーヴァントがあきらめないことからもマスター達もどうにかあの手この手で攻撃しているが……

 

Ira furor brevis est.( 怒りは短い狂気である ) Sequere naturam.( 自然に従え )

 

 紡がれた詠唱は彼らには意味は理解できなかったが、起こり始めた事象を以て何が起こっているのか理解した。先ほどまで盾しか張っていなかった蛇を従える男はここにきて初めて攻勢に入った。詠唱が終わり、男の手のひらには、球体が集まり……視覚強化を即座にした魔術師には星のように、おっさんにはぱっと見ビー玉かなにかの集まりに見えた。

 球体状の物体はやがて軋み、ビキビキという音を立てて──爆ぜた。これぞ、異界における宇宙そのものであった存在を一撃で消し飛ばした男の技といえるものだ。いわゆる、 超新星爆発。とはいえ、 その破壊の威力は力の安定していない男では嘗ての威力と比べると塵以下でしか出せないが、サーヴァント二騎程度を葬ることに関して言えば大した障害足りえない。

 神すら葬った技は奮戦をしていた二組の主従をその熱量を持って文字通り消した。

 消え際に、おっさんは思った。もとより、こんな奴と戦うという選択肢を選んでしまった時点で間違いだったと……

 

 

 

 辺りはカドゥケウスによって守られていたため被害はないが、この一帯に限り隕石の落下等比較にならない被害が出ていた。

 焼野原どころではない一帯の中心に、本来消えた二組のうち一組が得るはずだった聖杯が出現した。

 

 

「これが……擬きとはいうが聖杯。私の読み通り燃料としては申し分のない機構を備えているようだな。願いを叶えるどうこうよりも私が改良して燃料専用とすれば問題ない。」

 

『ほぉ、これが聖杯か。』

 

「そのようだ。擬きとは言えよくできているよ。溜め込み機構としてだがね。」

 

 手に入れた聖杯を弄びながら自らの影と会話するという奇妙は風景であったが、違和感が無いのは二人が異なる世界において対の存在であったからだろうか。

 

『上手く使えば形成くらいは安定するかね?』

 

「ふむ……そのレベルであればいけると思われるが──」

 

『なら良い。』

 

 

 そうしてなにもなかったかのように消えた黄金の後を見て、再び影法師になった男は言う。

 

「この世界は我らにとって未知に溢れているようだ。先ほどのサーヴァントなる存在しかり、魔術しかり……獣殿、此度の旅は私をしても楽しめそうだ。」

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 星は放っておくはずがない、己すら滅しかねない化け物を……目には目を歯には歯を、怪物には怪物を……真の約束の時は未だ来ず。

 

 

 

 




 少し強すぎかなとか思いつつ、やってたいことをやれているんかな~?
 
 感想などあれば頂けると嬉しいです。

 三人称ってこれでいいのかなと思ったりもしますが、頑張ります。

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