「■▼●▼▲!!」
蜘蛛は初めての痛みに絶叫した。戦場に生きる者からすれば大したものでないのかもしれないが、無敵の鎧に包まれ守られていた中身には痛みに対する耐性などないのだ。
ゆえに、至上の怒りを持って敵を殲滅することを蜘蛛は決める。はじめは言われたので掃除するというどちらかといえば作業に近い気分で行っていた戦を蜘蛛は滅ぼしにかかる。
蜘蛛は攻勢に出る。無限に降り注ぐ流星から、巨躯を活かした攻撃、攻め込んできた黄金に対しての地からの明確なカウンター、その何れもが黄金の体を捉えていた。
「ははははッ!」
にもかかわらず、笑う黄金。これは、自らの全力に対してそれ以上を持って応えてくれるものがこの世界にも存在したことに対する歓喜か。蜘蛛はお構いなく攻め立てる。これ以上黄金は喰らわない。極限の武すら超える戦闘技術を持っている獣にとって簡単に二度目の攻撃はない。
だが、躱しているだけでは倒せない。故黄金は新たな手を行使する。
「この身は悠久を生きし者。ゆえに誰もが我を置き去り先に行く
追い縋りたいが追いつけない。才は届かず、生の瞬間が異なる差を埋めたいと願う
ゆえに足を引くのだ――水底の魔性
波立て遊べよ―― 」
まずは止めなければ必殺の一撃は当たらない。戦闘において必殺の一撃を放つのは隙があった時だ。隙もないのに大技を使えば逆にカウンターをくらうのは自分だから。故に、この技を使う。
「
触れたものの動きを止める影を出す。蜘蛛はその巨体ゆえに掛かる。膂力も極大であるから今にも振りほどきそうではあるものの、この隙を逃さない。
ここぞで使うのは、あの世界で黄金を最も愛した業火だろう。
「我は輝きに焼かれる者。届かぬ星を追い続ける者
届かぬゆえに其は尊く、尊いがゆえに離れたくない
追おう、追い続けよう何処までも。我は御身の胸で焼かれたい――逃げ場なき焔の世界
この荘厳なる者を燃やし尽くす――」
これぞ真の業火。かの水銀の一撃にすら拮抗した尊き炎。
「
放たれた一撃に蜘蛛は飲まれる。初めての攻勢に意識が向いているが故、疎かになった自己の防衛。槍の一撃すら確かに耐えた鎧ではあるが──
「 ●▼▲ ▲ ▲──! 」
「卿の鎧は確かに素晴らしい。隙など無いだろうが……信ずる愛がない。」
絶叫する蜘蛛に対して黄金は語る。多少変われど本質は変わらない。黄金は万物を愛している。柔らかく、柔軟になってはいるものの、本質はここにある。
猛る業火は焼き尽くしにかかる、蜘蛛は抗いそれを消すことに躍起になるが……見ているだけの黄金ではない。
「さあ、幕引きだ。我は終焉を望む者。死の極点を目指す者。唯一無二の終わりこそを求めるゆえに、 鋼の求道に曇りなし――幕引きの鉄拳 砕け散るがいい―― 」
此れこそ、必殺という名に相応しい一撃。死があるものを強制的に幕引く審判の一撃。
「
この戦の最中において蜘蛛は信じられないような超速で変化を続けていた。それによって、この一撃は危険だと瞬時に理解したのかもしれない。破神の業火に身を焼かれながら瞬間に小規模であるものの黄金の獣を中心に異界の中に同じような異界を何重も重ねて作り出した。
明らかに特異な現象だ。固有結界を一度展開しているにもかかわらず、もう一度中で小規模とは言え展開するというのは──
星レベルの生命体の追い込まれた時に起こる火事場の馬鹿力とでもいうものはこれほどの事すらやってのけるということだろうか。
必殺の機会を逸し、瞬間に隔離された黄金は察知する。蜘蛛がこの小世界ごと自らを押しつぶそうとしていることを……
「そうはさせぬよ。」
黄金は槍を振り下ろす。限定的とは言えどもこの一撃は概念であろうとも文字通り終わらせる。つまり、異界規模においても通じる。突き出された槍の穂先が世界の内面に振れると、本来果てしないほどにの強固なモノであるはずの世界が何ともないガラスのように砕けた。
──これこそ、かつて黒騎士と呼ばれたものが極めた主たる黄金の獣にすらも届き得た求道の残滓。例え残り滓であろうとも、自足時間に影響はあるものの効果その者は変わらない。
小規模の異界層を砕かれた蜘蛛と必殺をうまく躱される形になった黄金の獣。お互いの先の攻撃は別の存在で有れば何もできずに消されていただろう。これほどの規模の攻撃を交し合っているにも関わらず、蜘蛛は軽傷。黄金も手傷こそ負っているものの何ら問題ない。
この世界規模の闘争はこのまま何方かが滅ぶまで続くのか──
『獣殿、時間だ。今の貴方では魔力切れが起こるかもしれん。』
猛る獣の影から傍観者であった片割れ、水銀が忠告をした。いくら聖杯擬きを燃料にしているとはいえ、異界の鬩ぎ合いをしつつ、同出力の技を使い続ければ、魔力の回復が間に合わなくなる可能性もある。
『それと、一つ、二つ程度ではあるが此度の戦にて耐え切れなかった杯があるようだ。』
「──そうか、かまわん。カール、私は今満ちているのだよ。見たまえ、私の
黄金は止まらない。ただ己の衝動に身を任せ槍を操り、自らの世界を操り、異界と化した戦場を修羅の軍勢──己の爪牙と共に駆け抜ける。
蜘蛛は成長し続ける。幾千の攻めに対して、一つずつ、しかし確実に対応し続ける。
黄金の獣も攻め続けるわけにはいかないのだ。なぜなら蜘蛛が新たに得た小規模の異界を何重にも重ね、その世界事消滅させるという必殺を持っている故に。
それを攻め続ける黄金に対し時折使うのだ。異界を破れるほどの技は黄金は今の段階では1つしか持ち合わせていない。破れる技は黄金と生前の事情により色濃く残滓として残っていないため長時間展開できず、消費魔力も他の物とは桁違いなのだ。
様々な要因によって黄金は決めきれずにいた。にも拘わらず黄金の顔には喜悦が浮かんでいる。心の底から蜘蛛進化とその奮戦を歓喜しているかのように……。
『──そこまでにしてもらいたいな、獣殿。この肉体は一応私の物でもあるのだよ。』
戦意を滾らせている獣を鎮めたのは唯一の友である水銀。かつてのノリで自壊しながらも戦い抜こうと思った獣であったが、今生においては共生していると言うこともあり、ある程度満足もしたため戦意を鎮めた。
蜘蛛の方はそのようなことはお構いなしに攻め立ててきていたが、そこは術にも精通する水銀による異界からの転移によって何事もなかったかのように余波だけでも世界を破壊しかねない戦争は唐突に終わった。
唯人の住む通常の世界に対しては未だ被害は出ておらず、異界内だけでの戦であったことは世界にとって幸運であったと言えよう。
この戦争が激化し、水銀までもが出張り始めたとき、蜘蛛と黄金たちの世界の狭間に世界が新生し、現状の人々は蜘蛛か黄金の世界に呑まれ、新生した世界から蜘蛛と黄金の恩恵を受けた超人たちが闊歩する新世界が創造されていた可能性もあった。
そうなってしまえば、世界はコレを切り離し。無理やりこの世界を終わらせようとしただろう。とはいえ、黄金と蜘蛛だけならばそのまま消える可能性はあるだろうが、術師としての極み以上に立っている水銀がいることもあり、世界の思惑通りに消えるとは思えないが……。
これはあくまで可能性の話。此度は戦は終わり、裏の世界の住人の一部は蜘蛛の動きや魔力の残滓などで異常事態を察知するかもしれないが、上記のような事態にはならなかった。
「カール、次は負けぬ。久方ぶりだな、壊そうと思って壊せなかった存在は。」
『悔しそうな言葉のわりに、顔が緩んでいますが』
「何度も言ったがね、嬉しいのだよ。創造と残滓とはいえ我ら黒円卓の全力を受けても倒れず反撃までしてきたあの蜘蛛……名前はわからなかったのが残念だ。」
『獣殿、それでは当面は杯の修復と共に見聞を広めましょう。あの者は私の見立てではこの世界で最強の一角だ。様々なこの世界の知識を深めることで人からの呼称でしょうが分かるかもしれませぬ。』
「──それもいいかもしれんな。その道程に武ではない別の未知が待っているやもしれん。」
水銀と黄金は行く。現状の己の武がどれほどかは理解した。そうすれば次は知識だ。世界を知ろう、そうすればまだ見ぬ強者や未知が待っている可能性が高い、故に──まだ旅は続く。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
旅は続く、それは世界を守るか、それとも破壊するのか、はたまた別の所へいくのか。もしかすれば世界単位で何処かへ行くのかもしれない。
ORTには勝ちきれません。個人的にそんな技ねえだろとか思う方もいるかもしれませんが、ORTクラスなら何してもありかな~とか思いつつ。
幕引きの鉄拳は個人的に練炭の方に言っちゃったんでコストがかかる感じにしました。
そうじゃなければずーっと使ってれば勝てちゃいますからね。
……マキナはやっぱチートですね。