身体に鎧を、心に愛を   作:久木タカムラ

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今さらヒロアカの面白さに気付いたので試しに投稿。
……オジサマー?
もうちょっとだけ待ってください。
KH3楽しみだぜひゃっほい。


1. 甲鎧纏士郎:オリジン

「ひゃー、筆記もだったけどすっごい人数だねーコーちん! 何だかワクワクしてきたよー!」

「コーちん言うな。無駄にはしゃぐな。倍率三百倍なんだから大勢いるに決まってんだろが」

 

 国内最難関、ヒーローの登竜門と称される国立雄英高校。

 その実技試験の説明会場――人海と呼ぶに相応しい受験生達の中に、その少年と少女はいた。

 少年の風貌はフレンドリーからはほど遠く、二メートルに届きそうな長身に、無数の剃り込みが走る坊主頭と、何より眠そうに細められた――殺気立っているとすら言える双眸が、不運にも彼の周りに居合わせた者達の緊張を不必要に高める要因となっていた。

 一方でそんな少年の隣に座り、唯一平然と話し掛けている少女もまた、頭から生えた一対の角と紫に近いピンク色の肌、黒の瞳に金の虹彩を持ち、少年とは別の方向で目立つ外見だった。

 少年の名は甲鎧(こうがい)纏士郎(てんしろう)

 少女の名は芦戸(あしど)三奈(みな)

 かれこれ八年以上の付き合いがある幼馴染――纏士郎曰く『ただの腐れ縁』なのであった。

 ちなみに服装は二人仲良く中学時代のジャージだったりする。

 

「もう、相変わらず省エネなんだからコーちんは。雄英の入試だよ? 実技試験だよ!? もっとこうさぁ……『おっしゃやるぞー!』ってならない!?」

「……俺の分までお前がやる気になってるからこれで丁度なんだよ。こちとら何処かの誰かさんの長電話に一晩中付き合わされて寝不足なんだ。『眠れないから適当に駄弁ろうぜー』とか遠足前の小学生かよ。しかもその誰かさんは夜中に叩き起こしたくせに早々に寝落ちしやがったし」

「にゃははは、めんぼくねぇ」

 

 眉を八の字にして苦笑いを浮かべる三奈。

 対して纏士郎は大欠伸をし、腰のポーチから取り出した栄養ドリンクを一息に飲み干す。

 雄英の実技試験では何を持ち込んでも自由と入試要項に記されてはいるのだが、それはあくまで受験者の補助となる道具や衣装を指しているのであり――つい先日まで中学生だったとは思えない威圧感の少年が、まるで三徹目を迎える歴戦のサラリーマンのような表情で大量の栄養ドリンクの持ち込みを申請したのだから、持ち込み品のチェックを担当した教職員はさぞ戸惑った事だろう。

 

「アタシもさ、心臓バクバクで眠れなくて朝までオールかなーって思ってたんだけど、コーちんと話してたら何だか身体がフワフワしてきて……」

「目が冴えちまった俺を残して爆睡してくれやがった、と」

「コーちんの”個性”なら寝不足でも楽勝っしょ!」

「思いっきり体調に左右されるんだが?」

 

 "個性"――中国で生まれた『発光する赤児』を発端として、今や世界人口の八割の人間が有する特異能力の総称。

 その種類や性質は個人の代名詞となるほど多岐に渡り、血と血が交わり、世代が入れ替わる度に複雑かつ多様化されていった。機械技術に勝る利便性がある反面、悪用されれば大犯罪にも繋がる厄介極まりないものであり、それ故に『ヒーロー対(ヴィラン)』の社会構図が生まれたとも言える。

 何時の世も、強い力を欲するのが人の業。

 事実、現在『第五世代』である纏士郎や三奈の祖父、あるいは曾祖父の時代には、己の"個性"を強く、より優れたものに変質させる目的で配偶者を選び結婚する"個性"婚があったらしい。

 今を生きる若者からすれば、モンスター同士を合体させて強力なモンスターを生み出すゲームと大差がない。だからこそ当時も問題となり、忌むべき因習として廃れた。

 そうやって産み落とされた『優れた"個性"持ち』達の子どもや孫が、さらに力を増した"個性"をその身に宿し、腕の数や姿形さえ変えて、こうして一同に会している訳である。

 

「そう言えばさ、あの子達も受験してるのかな?」

「あぁ?」

 

 こいつはちょっとくらい黙ってられねぇのか、と纏士郎は呆れ顔で三奈を見やる。

 

「ほら、一年くらい前、ニュースで少し話題になったじゃん。ドロッてる(ヴィラン)をオールマイトがぶっ飛ばして……そん時映ってたっしょ? アタシ達と同い年くらいの男の子二人」

「……いたっけか、そんなの」

「いたってば! アップされてた動画見せたもん!」

 

 憤慨する三奈だが、ヒーロー関連のニュースなど挙げていけばキリがない。

 華々しい(ヴィラン)退治の主役として取り上げられるのは勿論、コメンテーターとして番組に出演するプロヒーローも多い。それこそ、テレビでヒーローの顔を見ない日はないほどに。

 三奈が名を出した『オールマイト』――『平和の象徴』と謳われランキング一位の座に君臨する大人気ヒーローだが、正直言って、纏士郎にとっては他のヒーローとさして変わりはない。

 有名なスポーツ選手でも、無関心な人間には『あー、テレビで見た事あるわ』くらいの認識しかないのと同じ――結局は『その分野で凄い人……らしい』の一言で事足りてしまうのだ。

 

「……ンなこの場にいるかも分からねぇ奴らより、切島の事も心配してやったらどうだ?」

 

 受験番号は連番であり、座る席も同じ出身校同士で固まっている。

 高校デビューを目指すあの赤いトゲトゲ頭ともさほど離れてはいないはずだが、こうも異形やらデカブツやらが多いと姿を探すだけでも一苦労だ。

 

「コーちんは心配してるの?」

「全っ然してねぇ」

「じゃあアタシもしないー! 切島なら大丈夫っしょ! 多分!」

 

 纏士郎の『心配してない』と三奈の『心配してない』では意味合いに隔たりと言うか、正負的な違いがあるのだが――深く言及しない方が誰にとっても幸せなのだろう。

 と、そこで前方の壇上に髪を逆立てた何者かが姿を現し、爆音じみた声が会場内に轟いた。

 

『Yeahhhhhhhh!! 聞こえてるかァァいリスナー!? 聞こえねェなら耳の穴ママンによーくかっぽじってもらいなァ!! たった今から雄英高校実技試験のプレゼンを始めるゼェェイ!!』

「うるっせぇ……」

「声デカいねー」

 

 ラジオのパーソナリティーも務めるボイスヒーロー『プレゼント・マイク』だ。

 纏士郎が抱いた第一印象は『喧しいグラサン』――そのまんまである。

 試験の内容は模擬市街地演習。多数配置された計四種類の仮想(ヴィラン)を行動不能にしてポイントを稼ぐ、どちらかと言えばゲーム色の強いものだった。三奈などは目をキラキラ輝かせている。

 懸念があるとすれば仮想(ヴィラン)の中で一種類、倒してもポイントを得られないお邪魔虫が各会場に配置されているらしいが、たった一体だけなのが引っ掛かる。

 裏を返せばそれは、一体いれば十分――と言う事だ。

 

『ちなみに! リスナー同士協力し合うのは問題ないが、他人への攻撃や悪質な妨害など、アンチヒーローな行為はアウトだぜアンダスタン!?』

「協力ね……周り全員ライバルなのに仲良くやれるとも思えねぇが」

「アタシとコーちんも場所別々だしねー」

 

 すでに受験生達は、学校側によってAからGまでのグループに振り分けられている。

 連携などするはずもないと確信した上で言っているのだから、中々に性格の悪い煽りであった。

 

『かの英雄ナポレオンは言った――「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と! 邪魔な壁なんざ乗り越えちまえリスナー! ”Plus Ultra”!! 健闘を祈ってるぜェ!!』

 

 ナポレオンが英雄か否かはさておき、プレゼント・マイクの激励を締めとして説明は終了した。

 この後は各自割り当てられた演習会場に向かい、楽しい楽しいロボット退治をする訳だ。そんな人形を大量生産する金が何処から出ているのやら。

 各々が期待と不安の入り混じった表情で席を立ち、外へ排出されるように人の波が生まれる。

 その流れに紛れながら、纏士郎はかろうじて聞こえる声量で、

 

「……三奈、ゴジラみてぇにデケェ奴が出て来たらすぐ逃げろ。多分そいつが0ポイントだ」

「ゴジラ!? 本当!?」

「何で『ちょー見てみたい』って顔してんだお前は。逃げろっつってんだろが。今回ばかりは俺もお前のお守りができねぇんだからな」

 

 あうー、と右頬を引っ張られて抗議する三奈。

 彼女の”個性”は攻防両面に活かせるタイプだ。ましてや狙う的が機械なら、後れを取る可能性は限りなく低いはずだが、この調子に乗りやすい――はっきりと言ってしまえばドが付くアホの子な性格のおかげで、どうにも纏士郎は不安を拭い切れずにいた。

 

「ねぇ、コーちん」

「ああ?」

「もしかしてアタシの心配してくれてる?」

「…………しちゃあ悪いか?」

 

 ドスを利かせた声に三奈は一瞬だけ顔をきょとんとさせた後、照れ臭そうにはにかむ。

 

「うぇっへっへっ、やっぱりコーちんは優しいっす♪ 目付きはサイアクだけど!」

「…………」

 

 早々に前言撤回したくなった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 学校の敷地内に小規模ながらも街がある――それも一つではなく、おそらく七つかそれ以上。

 受験シーズン以外は戦闘訓練にでも使用されるのだろうが、今からこの街並みがロボット軍団と自分達の手で盛大に破壊されるのかと思うと、一納税者として考えてしまうものがある。

 まあ、その空しさは今から湧いて出るであろう人形共にぶつけるとしよう。

 

「えくすきゅ~ずみ~」

 

 三奈と別れ、特に着替える必要もなくジャージのまま入場した纏士郎。

 他の受験生達が遠巻きに彼を眺めて戦々恐々とする中、場の緊張と雰囲気をぶち壊すかのように届いたのは、そんな気の抜けた声だった。

 

「あ、下です下。るっきんぐゆあれっぐ~」

「………………ちっさ!」

 

 促されるまま足元を見てみれば、そこには体長四十センチほどの、体操着姿の生き物がいた。

 生き物と言うか……二頭身の少女がくりくりとした両目で纏士郎を見上げていた。

 何だこれは。何なのだこれは。雄英に生息する座敷童かコロポックルか。

 

「妖怪ではないで~すよ。こう見えても私、貴方と同い年です。ついでに言うと受験仲間です」

「マジか」

「本気と書いてマジなのです」

 

 恐れ入ったかと言わんばかりに胸を張るコロポックルもどき。

 今の時代、自分も含めてデカい奴は珍しくないが、同年代でここまで小さい人間は初めて見た。

 彼我の身長差、およそ一メートル四十センチ強。

 見下ろす方も見上げる方も首の筋を痛めそうな出会いだった。

 

「……で、俺に何か用か? チビスケ」

「用もないのに声を掛けたのだとしたら、それはそれで失礼だと思いますが?」

 

 もっともである。

 初対面にも関わらずズケズケと言うこの珍生物に好感を覚えた纏士郎は、ちょっとしゃがめ、とジェスチャーで指示され、大人しくそれに従った。

 傍からは、子どもに食らい付く寸前のティラノサウルスのように見えた事だろう。

 

「あのですね……この試験、協力しませんか?」

 

 小声で提案されたのは、纏士郎自身不可能だと思っていたものだった。

 

「協力だと?」

「はい。この試験は如何に早く(ヴィラン)を発見してポイントを稼ぐかが重要です。岡目八目――軽くて小さい私なら、貴方にしがみ付きながらでも邪魔せずに発見できます。勿論ご自由に倒してくれて構いませんし、止めを刺す時に何体か分け前を頂ければ問題ないで~すよ。貴方は索敵を考えずに戦闘に専念できるし、戦いに不向きな私もポイントをゲットできる――ほら所謂あれです、互いに利のある……ウィンウィンウィンウィンウィンウィン?」

「多い多い多い」

 

 それじゃマッサージ器だ。

 ただまあ――チビ子の言う通り、眼前の標的を破壊している最中も別の場所で暴れる仮想(ヴィラン)を見つけ出してくれるのなら、探知系の能力を持たず、物理的に眼球を増やしたりできない纏士郎にとってもメリットはある。

 制限時間十分の間に鉄人形が何体出て来るかも分からず、実質二人分のポイントを稼がなければならないが――受験生同士で獲物を奪い合えと学校側が暗に言っているのだから、助太刀を装って漁夫の利を得るのも問題はないだろう。

 目先の餌に必死になる若造共が、他校の知らない奴と共闘なんかできるはずがない。

 何処かで見ている大人達がそう考えているのなら、若造らしく反発してやろうじゃないか。

 

「その悪そうな顔は、商談成立と受け取りますよ?」

「ほっとけ、生まれつきだ。……甲鎧纏士郎。よろしくなチビスケ」

 

 袖振り合うも多生の縁。

 少女のより七、八倍は大きな右手を差し出し、纏士郎は名乗る。

 

可愛(かわい)幼子(ようこ)です。こちらこそよろしくです、エンジェルさん」

「……待て、それは何から連想したアダ名だコラ」

「まあまあお気になさらず。百人連続で拒否された私に手を差し伸べてくれたのですから、貴方は私のエンジェルさんなので~すよ」

 

 両手で握り返し、ぶんぶんと嬉々として上下に振る可愛。そのままロッククライミングよろしく纏士郎の身体をよじ登ると、最初から定位置だったかのように肩車の体勢に収まった。

 戦ってる間に振り落ちてしまいそうだが、そんな心配は杞憂に終わる。

 カウントダウンもなく、プレゼント・マイクによって唐突に開始を告げられた直後――持ち前の反射神経で一団から一足早く戦場に躍り出た纏士郎。

 数が多く、強度もそれほどではない仮想(ヴィラン)の首やら腕やらを圧し折りながら着々とポイントを稼いでいく中、可愛は見事な観察眼で纏士郎の死角をカバーしていた。

 

「次、三時の方向! ビルの陰から二体!」

「あいよ」

 

 隙を突くように現れた一体の胸部を拳で撃ち貫き、もう一体には足払いを食らわせてバランスを崩した後で、協定通りパートナーに攻撃権を譲る。比較的脆い首の部分ならば、その辺に散乱する瓦礫か鉄パイプを使えば非力な可愛でも十分に破壊は可能だった。

 派手に動き回れば動き回るほど、誘蛾灯に引き付けられる虫のように仮想(ヴィラン)が集まって来る。

 纏士郎の周りには事切れた雑魚ロボットの残骸が積み重なり、その哀れな骸すらも砲弾代わりに蹴り飛ばされて遠距離にいる同胞を狩る。

 演習場D――市街地丸ごと一つが纏士郎の独壇場と化していた。

 

「ふはははは! 強い、強いぞ私のエンジェル号!」

「そのアダ名、今すぐ止めねぇとクレーンゲームの景品にすんぞテメェ……」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 快進撃を続ける凸凹コンビを、各所に設けられたカメラによって注視する者達がいた。

 

「”個性”の熟練度か戦闘センスの差か、各会場でちらほらと目立つ子が出て来てますけど……あの爆破の少年と坊主頭の少年は他より頭一つ抜きん出ていますね」

「爆破の”個性”持ってる方はあれだろ? 一年前にヘドロの(ヴィラン)の人質になってた子だろ?」

「事件の後、色んな事務所からツバ付けられてたもんなぁ」

「背の高い方は……願書の住所が『卵の家』になってますね」

 

 その言葉に、モニタールームがざわめき始める。

 

「『グレイト・マザー』ノトコロカラ来タノカ。将来有望ト取ルカ問題児ト取ルカ微妙ダナ」

「あら? 見かけによらずマトモですよ、あの子は。面倒見も良いですし、実力はご覧の通り」

「…………そうか、ミッドナイトくんも何度かマザーの施設を訪れた事があるんだったね」

「期待の爆発ボーイにミッドナイトのお墨付き、推薦組じゃあのエンデヴァーの息子も来てるって話だろ? 今年のヒヨッ子はお買い得じゃねーか。ヘイヘイ、イレイザー。去年みたいに全員除籍処分なんてすんなよ勿体ねぇ」

「……そうなるかどうかはアイツら次第だろ。俺は見極めるだけだ」

「何にせよ、ヒーローとしての真価が問われるのはこれからさ!」

 

 大人達が見守る中、戦況はさらなる混迷を迎えようとしていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「「……デカ過ぎだろ」」

 

 試験終了まであと三分弱。

 轟音と共に現れたのは、七階建てのビルとほぼ同じ背丈の仮想(ヴィラン)

 予想はしていたし三奈にも忠告はしたものの、まさか本当に、怪獣じみた図体の巨大ロボットが出て来るとは思わなかった。

 特定の誰かを狙うのではなく、手当たり次第に建物をぶち壊し、他の仮想(ヴィラン)を踏み潰しながら歩みを進めて悲鳴と混乱を拡大させていく。

 

「ポイントも十分稼いだし、こりゃ逃げるが勝ちだな」

「賛成賛成、大賛成。すたこらさっさのあらほらさっさ~」

 

 落ちて来た――そう表現したくなる巨大な足を躱し、その歩みとは反対方向に走る纏士郎。

 どうやらこのデカブツは文字通り機械的に、人が多く集まり、騒ぎがより大きくなっている方に引き寄せられているらしい。ならば、向こうでギャーギャーワーワー慌てふためいている連中には悪いが、このまま距離を取って高みの見物でも――

 

「エンジェルさん、あれ!」

「もうツッコまねぇけど、どうした!?」

「足元、あのゴジラの足元! 誰かいます!!」

「ああっ!?」

 

 可愛の言葉に足を踏ん張り、地を滑るように急制動。

 たったの一歩で人間の何十倍もの距離を進む機械の巨人――その進行方向。

 瓦礫に足でも挟まっているのか、必死に抜け出そうとする小さな背中が見えた。

 次の一歩を踏むために持ち上がる、鉄槌じみた巨人の足。

 振り下ろされるであろう地点に――すり潰すように破砕されるであろう範囲に間違いなく、あの誰かは一部どころか全身が収まってしまっている。

 

「――ク……ソッたれがあああっ!!!」

 

 しっかり捕まっていろ、と既に振り落とされてしまった可愛に伝える暇もなく。

 この試験考えた奴会ったらぶん殴る、と顔も知らない誰かに怒りを覚えながら。

 纏士郎は長い両腕を広げて巨体へと走り出す。

 進路上には、破壊して山と積み上げた仮想(ヴィラン)の残骸がいくつもある。纏士郎にとってそれらは邪魔な障害物ではあったが――同時に”個性”を使うのに格好の材料となる。

 

「お前みてぇな木偶の坊は――両腕だけで十分だ!!」

 

 突き出した両の拳で残骸の山を殴りつける。

 素肌で触れる――それこそが纏士郎の”個性”の発動条件。

 拳を起点として、割れた装甲や配線、回路や螺子の一本までが、意志を持つ一個の群れのように纏士郎の両腕を肩まで包み込んでいく。

 新たに形作られる、身の丈よりも大きな三本指の籠手――巨人狩りに相応しい殴殺武器。

 ガリガリと地面を削りながら猛進し、跳躍。

 

「オォオラァッ!!」

 

 ビル並みの大きな図体を支える足、その付け根に、身体を一回転させて左の拳を叩き込む。

 衝撃と反動で籠手は砕け散るが、仮想(ヴィラン)も脚部を破壊されて真横へ大きくバランスを崩す。

 

「生物だろうとロボットだろうと、デカいほど自重で受けるダメージは増すんだよ!!」

 

 そして纏士郎にはまだ右が残っている。

 

「覚えとけ。足元注意だ、ポンコツ人形!!」

 

 倒れ込む勢いに合わせる形で、必殺を込めた巨拳が側頭部を殴り砕いた。

 首は圧し折れ、爆発を繰り返し、今の今まで暴れまわっていた恐ろしい姿など見る影もないほど破壊された巨大ロボ――たった一人の、十五歳の少年が起こした悪夢のような奇跡。

 その光景の一部始終を見せつけられた者達が覚えたのは感嘆か、それとも恐怖か。

 巨人の屍の上に君臨する纏士郎を称えるように、試験終了のブザーが高らかに鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 甲鎧纏士郎――”個性”『装纏(そうてん)

 

 

 

 

 

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