身体に鎧を、心に愛を   作:久木タカムラ

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『つぐもも』読んでて思いついた。

鉄条網を出して操る"個性"とかあったら色々便利そう。


3. 千尋の谷:個性把握テスト

 寝袋が転がっていた。中に誰か入った状態で。

 

「…………」

 

 トイレから戻って来てそれを発見した纏士郎は、黙って周囲に視線を巡らせる。

 清掃が行き届いて鏡のように光る廊下、シミ一つない天井、窓の外に広がる景色、最後に自分の左手にある高さ六メートルほどの出入り口――『1―A』とペイントされたドアを見た。

 うん……間違いなく今年入学した雄英高校の校舎、一年A組の教室の前だ。決してキャンプ場のテントの中とか高山の山小屋とかではない。

 だとするならば何なのだろう、このカブトムシの幼虫じみた怪しい人物は。少なくとも生徒には見えない。自由な校風が雄英の売り文句だとしても――『自由』の意味が違うのではなかろうか。

 カブトムシも纏士郎に気付いたのか、長い前髪の隙間からジロリと目を光らせて、

 

「…………どうした? 突っ立ってないで早く教室に入れ」

「はあ……」

 

 親近感が湧くテンション低めの声でそう言われ、開いていたドアから教室に入る。

 つい十数分前に初めて顔を合わせたばかりのクラスメイト達は、予鈴が鳴った事で大半が自分の席に着いており――立っているのは教卓の近くで楽しそうに談笑するほんわか娘とさっきまで姿がなかった緑色のモサモサ頭、頼んでないのに自己紹介をした飯田天哉と名乗る眼鏡だけだった。

 各自の机は教壇から見て、右端と左端の列が前から五台、中央の二列だけ六台並んでいる。

 纏士郎の席は廊下側から二列目の五番目。前の席には同じ中学だった切島鋭児郎が、さらにその前の席には何気に受かっていたらしい可愛幼子が座っていた――と言うか、机上に小さな座布団を敷いてちょこんと乗っていた。やっぱり座敷童かアイツは。

 ちなみに三奈は前日ワクワクし過ぎて眠れなかったとかで居眠りしている。起きろアホ。

 

「むっ、甲鎧くん! もう予鈴は鳴ったぞ! 先生がいらっしゃる前に早く席に着きたまえ!」

「お前らも立ってるだろうが。それと、もう先生来てるぞ」

「おっ、マジかよ!」

「誰かな? 誰かなぁ!?」

「多分、だけどな。……お前はさっさと起きろ」

「あさごはんっ!?」

 

 自分の席に向かうついでに三奈を叩き起こす纏士郎を余所に、教室がにわかに騒がしくなる。

 あのオールマイトが雄英に赴任すると知って、担任はまさか……と淡い期待を抱いているのかも知れないが――朝食代わりなのか、ゼリー飲料を補給しながらのそりと起き上がる担任(仮定)の全く正反対のイメージに、浮き足立った場の空気が一気に鎮静化した。

 クリスマスプレゼントを開けたら欲しい物じゃなかった時の子どものような鎮まり具合だ。

 

「静かになるまで八秒。普通の学生気分に浸りたきゃ他の学校に行け。ここはヒーロー科だぞ」

 

 静かな一喝に、全員の顔が引き締まる。

 雄英の教師は皆プロのヒーロー、しかも国内最高峰の名に相応しい精鋭揃い。つまり纏士郎達の目の前にいるくたびれた風貌な無精髭も、ヒーローとしての実力以上に、人材を育成する者として学校の御眼鏡に適った大先輩なのだ。格が違う。

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね。早速だが、全員コレ(・・)着てグラウンドに出ろ」

 

 相澤が寝袋から取り出したのは、青色が基調の体操服だった。

 これから入学式やガイダンスが始まると思っていた面々は首を傾げる。

 

「時間は有限。ヒーローの(テッペン)目指すなら尚更な。合理的に、各自の名前や"個性"の紹介も兼ねてちょっとしたレクリエーションをしようじゃないか」

 

 どうやら、時間と効率の無駄を嫌う性格であるらしい。

 ようやく殻から出た二十二匹のヒヨコを、三年間の限られたカリキュラムの中で一端の使い物にしなければならないのだから、むしろ筋が通る教職者の言い分である。

 雰囲気も含めて、波長が合いそうなこの担任に纏士郎は好感を覚えた。

 伝える事だけ伝えて相澤が早々に教室から消え、残されたクラスメイト達も戸惑いと不安の色を浮かべながら更衣室に向かう。飯田が『廊下を走ってはいけない!!』とうるさいので、必然的にぞろぞろと集団で移動する事になる。

 

「よお甲鎧! お前と芦戸も雄英受かったんだな!」

 

 途中、切島が声を掛けてきた。

 中学の頃は髪も染めておらず、性格も内向的だった切島は、何が原因で奮起したのか知らないが暑苦しいほどの漢気に満ちた人間に変貌していた。修学旅行でトラック運転手や漁師でもないのに大漁旗を買っていたのも、今となっては微笑ましい思い出……なのかは微妙なところだ。

 

「お互いにな。まあ、いきなりグラウンド集合には面食らっちゃいるが」

「そうそう、それだよそれ! レクリエーションって何すんだろな!?」

「ハンカチ落としとかじゃねーのは確かだろ」

「甲鎧くん! 切島くん! 私語は慎みたまえ! 他のクラスに迷惑だろう!?」

「いや、フツーに入学式に出てて教室は無人だと思うぞ」

「つか一番声デケェの飯田だし」

 

 一生の不覚、と項垂れる飯田の言う事も間違ってはないが――そもそも担任の独断で学校行事に参加していないA組の方が変なのだ、はっきり言って。

 当然ながら更衣室は男女別であるため、入口の前で二手に分かれる事になる。

 

「じゃーねー、コーちん! 後でねー!」

「恥ずいから止めろ馬鹿」

 

 二人でプールに来てるつもりなのかあのピンク娘は。

 三奈にアダ名で呼ばれて周りから好奇と妬みと羨望――特に小柄なブドウ頭の少年から呪いでも掛けられそうな視線が刺さり、着替えさえまだなのに疲れる纏士郎なのであった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「個性把握――」

「――テストォ!?」

 

 テスト。試験。

 学校に在籍する以上、絶対に立ち向かわなければいけない全ての学生共通の壁だが、一般入試で超大型サイズのロボットまで投入する常識外れの雄英の『テスト』――どう考えても、一筋縄ではいかないのは明白だった。

 テストの内容自体は至極シンプル。

 五十メートル走から始まり、ソフトボール投げ、立ち幅跳びなど、誰もが一度はやった事がある種目を計八種、"個性(・・)"使用可(・・・)の条件で行うのだ。

 ただし、トータル成績最下位の者は除籍処分の嬉しくないオマケ付きで。

 中学とは違って"個性"使い放題だとはしゃいでいたのから一転、事の深刻さを理解した生徒達が理不尽だ無茶苦茶だと口々に抗議するのに対し、相澤は、

 

「元々見込みがない奴を三年間苦しませ続けても意味はない。だったら現実を突き付けてスッパリ諦めさせるのも、俺達教育者の仕事であり優しさだ。そして何より、この程度の理不尽(ピンチ)すらも軽く乗り越えられないようじゃあ、社会に出てヒーロー名乗るなんざ夢のまた夢だ」

 

 常人には不可能な事も己が力で切り抜ける。それがヒーローの絶対条件。

 故に如何なる逆境も覆せるよう、雄英はこれから三年間苦難を与え続ける。

 

「入試でも言われたろ? "Plus Ultra"――雄英生なら全力で乗り越えろ」

 

 そう締め括り、無精髭の担任は不敵な笑みを浮かべた。

 決して広い門ではなかった。だが、一度入ってしまえば楽園だと誰が言った?

 挑んだのが地獄の門ならば、その向こう側も地獄なのは当然の事だ。

 

「まずは五十メートル走。出席番号順に二名ずつだ。青山、芦戸、早くしろ」

「Oui☆」

「はーいっ!」

 

 相澤に急かされ、三奈と、青山と呼ばれた男子が何故か後ろ向きでスタートラインに並ぶ。

 "個性"発動に必要なのか、青山は体操服の上にゴテゴテとしたベルトを巻いていて、スタートの合図と同時に腹から青色に煌めくレーザーを照射した。普通に走る三奈に対し、レーザーの反動で一気にコースの半ばまで飛んだのは見事だったが――

 

「おい、思いっきり着地失敗してんぞアイツ」

「そりゃ、前見えてない上にあんな足伸ばした体勢じゃなぁ」

 

 もう一度レーザーを撃つ間に追い抜いてゴールした三奈も、何とも微妙な顔をしていた。

 二十二名、二十二通りの"個性"がある以上、走りに適した者と適さない者がいる。

 ふくらはぎから排気マフラーを生やした飯田などは三秒台を叩き出し、それでもまだまだ余力を残しているようだった。他にも爆風で飛んだり尻尾で跳ねたり氷で滑ったり――もう競『走』ではないよなコレ、とツッコミを入れたくなる"個性"の披露会が続いていく。

 纏士郎や切島などは普通に走るしかなかったのだが、意外だったのは可愛の足の速さだ。

 その小ささ故に身軽だからなのか、単に得意種目だからなのか――飯田ほどではないが、相手に大差をつけてのゴールに周囲が感嘆の声を上げて拍手を送る。

 

「ねずみ花火みたいな奴だな。身体に導火線でも付いてんじゃねぇか?」

「ふふふふふ、女は見かけによらないので~すよ」

 

 走り終えた可愛は纏士郎の身体をよじ登り、入試の時と同じく肩車の体勢に収まる。

 どうやら、すっかり定位置と認識されてしまったらしく、注目が集まって居心地が悪い。

 

「二人とも知り合いなの?」

「そうですよ~? 実技試験でとっても仲良しさんになっちゃいま~した。私とエンジェルさんの見事なコンビネーションで、迫り来る仮想(ヴィラン)をばっさばっさとなぎ倒したのです」

「ふ~ん…………そうなんだ」

 

 三奈の目がじっとりと嫌な湿り気を帯びたように見えるのは――気のせいだと思いたい。

 纏士郎の受難は第二種目、屋内での握力測定でも続いた。

 

「ねぇねぇ、ちょっと良いかな?」

「ん?」

 

 早々に測定を終え、壁を預けてぼーっとしていると、頭部と両腕がない女子に声を掛けられた。

 体操服しか見えないけれど見覚えがある。

 

「ああ、入試ん時の……」

「そっ! 葉隠透だよ、よろしくね! お礼が言いたかったんだけど、甲鎧くんってばあの後すぐ何処か行っちゃったから……。改めて、助けてくれてありがとうございました!」

 

 ぺこりとお辞儀をする体操服。

 

「……いや、まあ、どういたしまして?」

 

 纏士郎はあまり礼を言われるのが好きではない。

 他人からの好意を素直に受け取れないひねくれ者――と言われてしまえばその通りで、纏士郎も自覚してはいるのだが、自分のやりたい事をやって結果的に助かっただけなのに『ありがとう』と頭を下げられても、ヒーロー願望が希薄なためどう対応したら良いのかが分からない。

 極端な話、運が良かったと自己完結してくれた方が気が楽だ。

 

「そ、それでね……甲鎧くんが助けてくれた時にその、私の胸が、胸を、ですね……?」

「…………あー……」

 

 ほーら、頭と右手がふにふにでフカフカな余計な記憶まで思い出してしまった。

 葉隠のためにも忘れようとしていたのに。

 

「いきなり揉まれてちょっとびっくりしたけど、でも大丈夫! 透明で顔が見えないから女だって分からなかったんだもんね!? ほら、女同士でもふざけて揉んだりする事あるし、それと一緒で私全然気にしてないから! 気にしてないからー!!」

 

 自分で収拾がつかなくなったのか、葉隠は一方的にまくし立てると、見えない頭頂部から湯気を出しながら女子のグループのところへ逃げ戻る。

 男子連中は握力を競うのに夢中になっていて、纏士郎と葉隠の密談に気付いて騒ぎ立てるような面倒事にはならなかったが――やはりと言うか何と言うか、三奈は般若のような形相でしっかりとこちらを睨み、その感情を全力で握力計にぶつけていた。

 第三種目の立ち幅跳び、第四種目の反復横跳びとテストは進み、いよいよ上位者とそれ以外との明暗が浮き彫りになってくる中、第五種目のボール投げが始まった。

 

「ていやっ!」

 

 ここで最も注目を浴びたのが、ほんわかした雰囲気の麗日お茶子だった。

 とてもパワータイプには見えない麗日だが、放り投げたボールは何処までも直線の軌道を描いて青空の彼方へ消えて行き、測定不能(むげん)の特大記録を叩き出す。

 

「よし、今日からあのボールを『お茶子星』と名付けましょう!」

「恥ずかしいから止めてくれへん!? 何かドジっ子っぽい名前やし!」

 

 可愛にからかわれながらも、喝采を浴びて照れ臭そうにはにかむ麗日。

 各自が"個性"を活かして規格外の記録を樹立、あるいは纏士郎や切島のように純粋な身体能力でバランス良く好成績を稼いでいるのに対し――例のモサモサ頭の男子だけが、未だに五種目全てで一般高校生の平均程度の記録しか出せていない。

 

「飯田や麗日はアイツの"個性"を見た事あるのか?」

 

 纏士郎は二人に尋ねてみた。

 

「ああ、俺と彼女も試験の会場が一緒だったからな。クセのある増強型なのか、緑谷くんの場合は殴った腕が折れて酷い事になっていた。リカバリーガールが来て治療が間に合ったが……」

「でもでも、おかげで私も助かったんだよ!」

「リスクがあるせいで今まで使えなかったってか。つかまだ現役なのかあのバーさん」

 

 ボールを持って円の中心に立つ緑谷は、とてもじゃないが"個性"を使用するだけの精神的余裕を残しているようには見えない。ノーリスクで腕力や脚力を強化できるなら五十メートル走の時点で使っていただろうし、あそこまで追い詰められた顔にはならないはずだ。

 

「……自分で自分の力をコントロールできねーのか」

「俺もたまに寝ぼけて硬化して、布団に穴開けちまうけどな」

「私も朝起きるとベッドごと浮いちゃってたり……」

「寝ぼけてんのと使って暴発すんのとじゃ問題のレベル違うだろ」

 

 走れば足が砕けて、投げれば肩が弾け飛ぶ。

 言ってしまえばミサイルと同じ、一度限りの爆発的膂力。

 ボール投げ以外で残った種目は、持久走、上体起こし、長座体前屈――いよいよ後がない緑谷は自滅覚悟で"個性"を使う素振りを見せたが、相澤がそれさえも許さなかった。

 

「そんな……今確かに、使おうと……」

 

 唐突に"個性"を掻き消され、五十メートルにも届かない記録に絶望する緑谷。

 

「つくづく……あの入試は合理性に欠く。お前のような奴でも入学できてしまうからな」

 

 髪を逆立てた相澤は緑谷を凝視し、地を這うような静かな怒気を露にする。

 

「あのゴーグル……そうか、抹消ヒーロー『イレイザー・ヘッド』!!」

 

 聞き慣れないヒーロー名に数人がざわつくが、重要なのはそこではない。

 "個性"の使用を許可すると言った張本人が、自分の"個性"を発動させてまで阻止した――それはつまり、百戦錬磨のプロヒーローですら緑谷が持つ"個性"に薄氷のような危うさを感じている事に他ならない。

 

「"個性"を消す"個性"! 相澤先生がそんな凄い方だったとは……!」

「有名なヒーローだけが強い訳じゃねぇって事だな」

 

 相澤に指導を受けた緑谷が二投目の準備に入る。

 このまま、馬鹿の一つ覚えのように限界を超えて何百メートル飛ばしたところで、右腕が反動で使い物にならなくなった挙句『見込みなし』と相澤に判断される。かと言って、"個性"を使わずにただ投げるだけでは、目立った記録もなく最下位は確実。

 

「どうすんのかねぇ……」

 

 ブツブツと呟きながら、大きく右腕を振り被る緑谷。

 その瞳が諦めではなく輝きを取り戻していた事に、一体何人が気付いただろうか。

 肩でもなく腕でもなく――纏士郎には人差し指だけで弾き飛ばしたように見えたボールは、先のデモンストレーションで投げた爆豪とやらの球威にも引けを取らないものだった。

 記録、七百メートルオーバー。

 

「先生…………まだ、動けます!!」

 

 確かに、痛めたのが指一本だけなら残りの種目も受けられるだろう。

 ようやくのヒーローらしい記録に、麗日などは諸手を挙げて喜び、飯田は真っ赤に腫れ上がった緑谷の指と奇妙で不安定な"個性"の心配をする。

 素直に称賛する者がいる一方で、一種目だけだが自身の記録に並ばれた爆豪が、爆発を手の平に起こしながら『こらデクテメェ!!』と緑谷に詰め寄ろうとして相澤に捕縛されていた。

 

「あの爆発さん太郎も何がしたいんだか。カルシウム不足か?」

「それはいけないな! 雄英生たる者、栄養はきちんと摂るべきだ!」

「そこツッコむトコちゃうと思うけど……」

 

 多少のいざこざはあったものの、相澤に促されてテストは着々と進んでいく。

 指の痛みに苦しむ緑谷は持久走でペースを落とし、上体起こしと長座体前屈では"個性"の応用が思いつかなかったのか、記録らしい記録はボール投げだけに留まっていた。

 

「んじゃ、パパッと結果発表。口頭で説明すんのは面倒なので一括開示する」

 

 全種目が終了し、相澤が端末を操作して結果を空中に映し出す。

 種目と"個性"の相性が悪く使う機会がさほどなかった纏士郎や三奈、切島は可もなく不可もない順位で名前が連なり、足の速さはともかく腕力で劣る可愛は下から数えた方が早く――除籍処分を受けて雄英を去らなければならない最下位は、緑谷だった。

 

「ちなみに除籍は嘘な。諸君らの全力を見るための合理的虚偽って奴だ」

「「「………………はああああああぁっ!?」」」

 

 まるで明日の朝食の献立を告げるような口調であっさりと言われ、緑谷、飯田、麗日が一瞬だけ目を点にした後、喉よ裂けよとばかりに絶叫する。

 多様な道具を創造して一位を取った八百万百などは信じる方が馬鹿だと呆れ顔だが、他の連中の表情を窺い見た限りでは、緑谷達以外にも何人かは除籍の脅しを本気で信じ込んでいたらしい。

 

「エンジェルさん! エンジェルさんも嘘だって気付いてたんですか!?」

 

 順位表が見えないからと纏士郎の頭に陣取っていた可愛も、ぺしぺしと叩きながら問うてくる。

 

「薄々だけどな。相澤先生のさじ加減一つで俺らを除籍にできるなら、そもそもこのテスト自体がする必要のない非合理的なもんだろうが。生徒一人一人の"個性"まで把握してんだし」

 

 だが……億劫そうに連絡事項を伝えて校舎に戻る相澤の背中を見ていると、実は本気で除籍するつもりだったのではないか、とも考えてしまう。

 そんな合理性がモットーな担任を少しでも心変わりさせたのは何か。

 

「何にせよ、良かったな緑谷くん!」

「ホントだよー! クラスメイトがいなくなったら寂しいもん!」

「う、うん……!」

「…………」

 

 緑谷出久。

 最下位ながら、前言を撤回させるだけの可能性を見せた変な奴。

 

「どうしたんですかエンジェルさん。お茶子さん達をじっと見て……まさか一目惚れですか!?」

「断じて違う」

 

 何時までも頭にへばりつくマスコットキャラを引っぺがし、後ろにいた切島に放り投げる。

 まあ、真面目なばかりでつまらない奴らと三年間一緒にされるより、どんな騒ぎを巻き起こすか分からない連中の方がよっぽど面白いか。

 こんな高校生活なら悪くない、と少しだけそう思った纏士郎だが――それよりも今は、葉隠との一件からずっと不機嫌なままの三奈をどう宥めようか悩む事を優先する事にした。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「何時までヘソ曲げてんだお前は……」

「……むー……」

 

 波乱に満ちた個性把握テストを終えた、その日の放課後。

 最寄り駅で電車を降り、夕方の活気で賑わう商店街を纏士郎と二人で歩く間も、三奈の心は全然晴れる事はなかった。

 一緒に登校して、勉強して、放課後もこうして並んで帰っているのにちっとも楽しくない。

 原因は分かり切っていた。

 

「……良かったね! 可愛い子がいっぱいいるクラスで!」

「まあ、(ヤロー)しかいないクラスよりかは……嬉しいかね、むさくるしくなくて」

「むー!」

 

 入学初日なのに、纏士郎は女子と親しそうに話していた。それも三人も。

 中学時代から、纏士郎は密かに女子に人気だった。

 同年代の男子と比較しても大人びいていて落ち着いており、運動神経は野生の獣並み、赤点など取ろうものなら保護者(マザー)から愛ある拳骨をプレゼントされるからなのか、やる気のなさに反比例して中間や期末の成績も常に上位を維持していた。

 普段から三奈とコンビで動いていたので恋人を通り越して夫婦扱いされ、そのおかげもあってかラブレターや体育館裏での告白こそ縁遠かったが――今のA組で三奈と纏士郎の恋人未満な微妙な関係を知っているのは切島くらいだし、その切島も中学では別のクラスだったので、前の学校での暗黙の了解など何の役にも立たないのだった。

 そんな事、分かっていたはずなのになぁ。

 

「ん……」

「あぁ?」

 

 頬を膨らませたまま、クレープ屋のワゴンを指差す。

 

「クレープぅ……」

「……何味がご所望で?」

「納豆オクラクリーム」

「…………うわ、マジでメニューにあるし」

 

 何考えて作ったんだか……とぼやきつつ買いに行く纏士郎。

 子どものように駄々をこねる自分が情けなくなる反面、これほどの重要な問題をクレープ一つで許してあげちゃうのだから、女としてとても寛大なんじゃないかと自画自賛。

 きっとこの先も纏士郎は面倒臭そうに、自分勝手に、ヒーローなど興味ないのに、その長い腕で掴み寄せるように周りの人間を惹き付けるのだろう――だって、本当は誰よりも優しい心を秘めた生き方が、ヒーローを目指す者にはとても輝いて見えてしまうから。

 

「お待たせしやした、お嬢様」

「うむ、苦しゅうない。にひひ♪」

 

 だったらせめて、この時間だけでも独り占めしたい。

 纏士郎が差し出すクレープを雛鳥のように食べながら、小さな幸せを願う三奈なのであった。




名:可愛幼子

 

 身長約四十センチ(某干物妹と同サイズ)。

 戦闘能力は皆無だが、小柄故に回避と足の速さは定評あり。

 声イメージ『鬼灯の冷徹』の芥子

 

個性:マスコット

 

 小さいは正義。可愛いは正義。よって小さくて可愛いは超ジャスティス(本人談)。
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