しかしそれを補えるほどの文章力があるかと言えば自信がない。
ジレンマである。
それはそれとしてジレンマって東南アジアあたりの料理でありそうな名前ですよねー
追記:いくつかご指摘あったので、冒頭の歌は伏字に変更しました
「あ~る~はれた~ひ~る~さ○り~♪」
「い○ば~へつづ~くみち~♪」
「……歌うなとは言わねぇが、もうちっとマシな選曲しろよ」
両足をブラブラ揺らして歌う三奈と、その膝の上で続きを引き継いだ可愛に、それまで窓の外を眺めていた纏士郎は眉間にシワを寄せながらツッコんだ。
「エンジェルさんはこの歌が嫌いなんですか?」
「好きとか嫌いとかの問題じゃねぇんだよ」
本日のヒーロー基礎学は人命救助訓練。
訓練場が校舎から少し離れた場所にあるため、コスチュームに着替えた纏士郎達はバスに乗って移動している最中なのだが――授業前なのに、一体何が悲しくてアホとチビの無邪気なコーラスで気が滅入る歌を聞かされなければならないのか。
二人が楽しそうに歌っていたのは、よりにもよって『ドナ○ナ』――荷馬車に乗せられた仔牛が食肉として売られるために、つまりは屠殺されるために市場に運ばれていく内容の歌だ。
この哀歌、タイトルを耳にした事はあっても歌詞まで知っている者は意外と少ない。しかし先日学級委員長に就任した飯田や博識な八百万、音の"個性"を持つ耳郎などは流石に知っているらしく引き攣った笑みを浮かべている。
そんな彼らの気持ちなど露知らず、三奈はきょとんとした顔で、
「これって、天気が良いから市場に買い物行こうって歌じゃないの?」
「…………」
別の意味で力が抜けた。
座席からずり落ちそうになるのを必死に耐える。
「…………八百万センセー、この猿二匹に説明よろしく」
「わ、分かりました」
もう幼馴染として恥ずかしいやら情けないやら。ちなみに可愛のコスチュームは全部で十二種も用意されているらしく、今日は本当に猿の着ぐるみ姿だった。
「よろしいですか芦戸さん可愛さん、その歌はですね……」
真面目な八百万が二人に滔々と語るのを横目で見ながら、纏士郎は数日前――戦闘訓練の翌日に起こった騒動について考えを巡らせる。
人の口に戸は立てられないのは世の常か。
オールマイトが雄英に赴任した事は早々にニュースとなって世間を賑わせ、正門にはスクープを求めるマスコミが連日押し寄せた。
教師より口が軽く扱いやすいと判断したのか、登下校する生徒達にマイクやボイスレコーダーを突き付ける――その様子が強盗かハイエナに見えたのは記憶に新しい。
無遠慮なインタビューは纏士郎と三奈にも矛先を向け、そのあまりのしつこさに、朝食代わりに食べていたホットドッグをカメラに叩き込む事態にまで発展した。命とも言えるレンズを肉の油やケチャップで汚されたため、次の日からは報道陣が纏士郎に近寄る事もなくなったが、代償として職員室に呼び出された挙句カメラマンに恨みの目で見られるようになった。
「……ま、ンなもん慣れちゃいるがね」
「お、どした甲鎧、何の話?」
纏士郎の独り言に、近くの席に座っていた上鳴が反応する。
「不法侵入騒ぎがあってからマスコミも静かになったなーっつったんだよ」
「あー、そう言やそうだな。警察まで来たんだし懲りたんじゃね?」
あまり興味の湧かない話題だったのか、上鳴は一言であっさり片付けると、今度は座席から身を乗り出して喚いている爆豪をからかい始めた。
雄英自慢のセキュリティが一気にレベル3まで引き上げられるほどの大騒ぎとなったマスコミの不法侵入事件――纏士郎は課題のノートを丸写しする三奈に付き合って教室に残ったため、屋外へ避難しようとする生徒達の波に飲み込まれるような事はなかったが、運悪く大食堂で巻き込まれた切島や緑谷、混乱を収めるのに一役買った非常口飯田によれば、将棋倒しになって怪我人が出ても不思議ではない状況だったらしい。
リカバリーガールが過労死するような事にならなかったのは不幸中の幸いと言えるが――
(たかがマスコミに破られるようなセキュリティなのか……?)
レポーターや取材クルーが突破するつもりで"個性"を使ったのなら、まあ可能ではある。
しかし、公共の場でプロヒーロー以外の人間が"個性"を使用するのはご法度――ましてや今回は明らかな軽犯罪であるため、警察にも
いくら特ダネが欲しいからと言って、そこまでの危険を冒すだろうか。
仮にマスコミ以外の第三者の仕業だとして、その目的が分からない。
(示威行為……世間に自分の力を見せ付けたかったからマスコミに紛れた?)
あるいは、緊急時に雄英がどう対応するのか確認するためか。
避難誘導のアナウンス、非常口に殺到する生徒達、警察や消防など外部への連絡――試しに石を放り投げ、水面にどんな変化が起きるか観察するかのように、姿の見えない何者かが蠢いてる。
(真に賢しい
戦闘訓練の時にオールマイトが言った言葉を思い出す。
これが本当に誰かの思惑通りなら、ヒーロー志望であるにも関わらず、他人を押し退けて我先に避難しようとする雄英生達の姿はとても滑稽に見えた事だろう。人数的には普通科やサポート科が大半を占めていたとしても、外部の人間にとっては皆等しく『雄英高校の生徒』なのだから。
「ひぐ……えっぐ……」
「ぐすっ……ずび……」
思考に没頭していた纏士郎を引き戻したのは、そんな子どものような嗚咽だった。
見れば、三奈と可愛がぼろぼろと大粒の涙を流している。
「……歌ったり泣いたり忙しいなお前ら」
「コーぢん、だっでぇ……」
「牛さんがぁ、うじざんがぁ……」
売られた仔牛に同情でもしたのか、びぇぇぇ……と抱き合って大声で泣き始める二人。
それに慌てたのは、三奈達の講師役を任されていた八百万だ。副委員長の彼女は予想外の展開に焦りながら、自前の"個性"で大量のポケットティッシュを創造する。
「あの、お二人共、どうか泣き止んで! 皆さんも! 私はそんなつもりだった訳では……!」
このA組の歩く百科事典は、どれだけ事細かに説明してくれたのやら。
三奈や可愛だけではなく、涙脆い麗日と葉隠は配られたティッシュを山のように消費し、無口で動物好きな口田甲司は前の座席の背もたれに顔を埋めて震え、性格が真っ直ぐな緑谷と切島も指でそっと目元を拭い、ここでもクソ真面目振りを発揮する飯田は「うしぃぃっ!!」と悲痛に叫ぶ。
何なのコレ。ちょっと目を離した間にバスの中が仔牛の葬式会場になってしまった。
「……阿鼻叫喚」
「なぁ、泣いてないオイラ達って心が穢れてんのかな……?」
「峰田ちゃんはそうかも知れないわね。煩悩塗れだもの」
「上鳴もね」
「「ヒデェッ!?」」
「八百万、絵本の読み聞かせのボランティアとか向いてんじゃねぇか?」
「うるっせぇな泣くなやコラァ!! ぶっ殺すぞ!!」
まだバスで移動しているだけなのに、体力を全て使い果たしそうな勢いだ。
「…………もうじき到着する。それぐらいにしとけよ」
「「「ハイッ!!」」」
一番前の席に座る相澤が一喝し、車内の空気が一気に引き締まる。
この人は雄英の教師を辞めても軍隊の教官で食べていけるのではなかろうか。
◆ ◆ ◆
その施設を一言で言い表すなら『巨大なテーマパーク』だ。
もっとも、雄英の本校舎自体がモニュメントじみているので、敷地内の施設全てをひっくるめて大自然溢れる遊園地に見えてしまうのだが――倒壊したビル、燃え盛る住宅街、家屋を飲み込んだ雪崩や土砂、轟々と渦を巻く海面など、この世の終末を凝縮したような『箱庭』の数々がバスから降り立った纏士郎達を出迎えた。
「スッゲェな、USJかよっ!?」
「大変だ! オイラ達は何時の間にか大阪に来ちまったんだ!!」
「コーちん、ミッ○ーいるかな? いるかな!?」
「いたら大問題だろうが」
口々に感想を言う中、宇宙服を思わせるずんぐりむっくりのコスチュームのヒーローが、中央広場の方から階段を上って現れた。
「ようこそ一年A組の皆さん、初めまして。ここは僕があらゆる事故や災害を想定して造り上げた救助訓練用の演習場――その名も
本当にUSJだった。この分だと食害事故の一環としてジョーズも放し飼いされていそうだ。
「スペースヒーロー『13号』だ! 災害救助のスペシャリストだよ!!」
「うわー! 私ファンなんよ13号!」
新たな教師の登場に、ヒーローオタクの緑谷や麗日が目を輝かせるが、
「USJ……
「「「「――うしぃぃぃぃっ!!!」」」」
可愛がぼそりと呟いた余計な一言で、またもや『ドナドナされた牛さんを弔う会』のメンバーが悲しみに打ち震えて慟哭し、A組のノリにまだ慣れておらず面食らう13号。
それでもオールマイトよりは教師歴が長いらしく――さほど動揺した様子もなく13号は丸みを帯びたヘルメットを傾けて相澤に問う。
「先輩、A組は午前中畜産系の授業でもしたんですか?」
「……なワケないだろ。お前らも大概にしろ」
除籍されたいか、と地獄の底から湧き上がるような低い声音で相澤に言われ、生徒達は今度こそビシリと直立不動の体勢で整列を完了させた。
コホンと咳払いして13号は言う。
「まあ事情はどうあれ、命の大切さを理解してくれたのならそれはとても喜ばしい事です」
穏やかに、けれど、おふざけを許さない口調。
「皆さんご存じとは思いますが、僕の"個性"は『ブラックホール』――どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます。災害救助においては便利なこの力ですが、しかし簡単に人を殺せる力でもある事を忘れてはいけません」
皆さんの"個性"も同じです、と続くその話を、纏士郎達は神妙な面持ちで聞いていた。
世界総人口の九割が異能を有するこの超人社会は、各々の"個性"の使用を車の免許と同じように資格制にして厳しく規制する事で、どうにか薄氷の如き平穏を保っている。
そうでなければ今頃は、それこそ超常黎明期に語られる大混乱が消えぬまま、能力と自制の枷を外された人類によって秩序のない混沌とした世界が広がっていただろう。
「"個性"使用が制限されてるからと言って――むしろヒーローを目指す皆さんだからこそ、社会が完璧に成り立っていると過信してはいけません。一歩間違えただけで人を殺傷たらしめる。それが僕や皆さんが持つ"個性"だと心に刻み込んでください」
鉛よりも重い、現場を知るプロヒーローの言葉。
車然り、刃物然り、便利なものほど往々にして危険を孕んでいる。
それは"個性"も例外ではない。
「自分に秘められた可能性を知り、それを人に向ける怖さを知り、そしてこの授業では尊い人命を救うために"個性"を活かす術をを知りましょう。君達の力は誰かを救うためにあるのだと少しでも心得てくれたなら、僕も教師としてこれ以上嬉しい事はありません。長々と喋ってしまいましたが皆さん、ご静聴ありがとうございました」
恭しく一礼した13号に、生徒達は万雷の拍手で応える。
纏士郎もまばらに拍手を送りながら――ふと、噴水がある中央広場に目をやった。何故そちらを見たのかと問われれば、ただ何となく嫌な予感がしたから……としか答えられないのだが、危険を察知する野生動物的な直感とも言えた。
空間に突如開いた黒い穴。
纏士郎と、一歩遅れて気付いた相澤の視線の先で、穴はみるみる大きくなり、内側からこちらを覗く何者かと――
「……っ!? アイツ……!!」
「全員一つに固まって動くな!!
全身の毛が逆立つ。誰かは知らないが、アレはヤバい。
クラスメイト達が戸惑う間も黒の異空間は霧状に広がり、それを突き破るようにして、明らかに一般市民ではない連中がぞろぞろとUSJ内に乗り込んで来る。返り血に染まる武器まで携行した凶悪面が、ざっと数えて三十人弱――見学目的の団体客であるはずがなかった。
「
「13号先生、侵入者用のセンサーは!?」
「当然設置してますが……」
八百万の問いに、13号がドームの高い天井を見上げた。
あれだけの人数の侵攻を許してしまったと言うのに、先の騒動の時のような警報やアナウンスが流れる気配はなく、不気味な沈黙を貫いたままだ。
隣に来た轟に纏士郎は尋ねる。
「学校全体なのかここだけなのか……。轟、どう見る?」
「何にせよセンサーが対策されてるってんなら、それができる"
「マスコミ連中が侵入したのも奴らの仕業で、この日のために雄英の防犯システムを把握するのが目的だったとしたら……俺らの授業の時間に現れたのも偶然な訳がねぇよな」
「そこまで周到に計画を立てて頭数を揃えた上で、俺達しかいない状況を狙ったんだろ。バカだがアホじゃねぇぞアイツら」
さて、どうしたものか。
お巡りさんに通報したところで、大人しく帰ってくれるような輩ではない。
逃げて応援を呼ぶか、それともプロ二名と有精卵二十二名で徹底抗戦するか――どちらにしても訓練とは比較にならない初めての対
相澤の鋭い指示が飛ぶ。
「13号、生徒を守って避難開始しろ! それと学校に連絡! 上鳴、電波系の"個性"での妨害も考えられる、お前も"個性"使って連絡試せ!」
「ッス!」
「先生はどうするんですか!? まさか一人で!?」
緑谷の声には不安がありありと浮かんでいる。
相澤――イレイザーヘッドの戦闘スタイルは相手の"個性"を消してからの捕縛。一対一の戦闘でその強みが活かされるため、多人数を同時に迎え撃つには不向きだと緑谷は言いたいのだろう。
しかし相澤は冷静に、
「一芸だけではヒーローは務まらん」
そう言ってゴーグルを装着して、首に巻いていた特殊合金繊維の捕縛武器を解放する。そのまま階段を飛び降りるように、抹消ヒーロー・イレイザーヘッドは
後輩である13号に「後は任せた」と小さく言い残して。
「コーちん、相澤先生大丈夫かな……?」
「……さぁな」
大階段の下で獅子奮迅の戦闘を繰り広げる相澤。
射撃系の能力を持っているらしい最前列の
決してオールマイトのような超重量級ではない体格でありながら、
プロヒーローと呼ばれるに十二分に値する戦闘能力は、メビウスの輪のようにひねくれた性格の纏士郎でも素直に『カッコイイ』と思えるものだった。
「すごい……多対一こそ相澤先生の得意分野だったんだ!」
「分析してる場合か! 急いで避難を!!」
ここでもオタク根性が抜けない緑谷に、飯田が叫ぶ。
入った時は感じなかったが、その規模故にUSJの外へと続く通路は思った以上に長い。走れば十秒足らずの距離が、緊迫したこの状況も相まって何倍にも引き伸ばされてしまう。
13号を先頭に出口へ駆けるA組一行。
「――逃しませんよ」
その行く手を阻むように黒い靄が眼前に広がり、あやふやながらも人の姿を形作る。
「うわあああああっ!! こっちにも来たアアアアッ!?」
「黙ってろクソブドウ!!」
「初めまして、我々は
13号のような紳士的態度を取り繕いながら、その口調から滲み出る態度は慇懃無礼そのもの。
背後から追い越したのではなく、いきなり真正面に――十中八九、
だとしたら非常に不味い。
数十人を一度に移動できる、すなわちA組全員を同時に拉致できると言う事だ。
「僭越ながら、この度ヒーローの巣窟たる雄英高校に入らせて頂いたのは――」
「――オールマイトの首を狙って、だろ?」
予期せぬ纏士郎の言葉に、靄に紛れた
「オールマイトが狙いって……どう言う事だよ甲鎧!」
「『雄英を襲う』って目的だけなら、この前マスコミが入った時もできたはず。ヒーローとしての訓練も積んでない、先生達も数を把握し切れない人質候補が校内に何人もいたんだからな。なのに様子見だけで済ませたのは、その時狙うべき本命が学校にいなかったからだ」
「13号先生、あの日オールマイトは学校に?」
「……いえ、非番だったのでいませんでした」
「そして今日の救助訓練。USJを使うのは入学したばかりの俺達A組だけで、障害となる教師もオールマイトを数に入れて三人しかいない。こっちのカリキュラムを知っていて、セキュリティが強化される前に殺るつもりだったから、今日のこの時間を決行日に選んだんだろ? 通信手段さえ潰せば隔離空間で助けも簡単には呼べないしな」
以上、何か訂正は?
そう締め括り、わざと相手を挑発するような笑みを浮かべた纏士郎に、後ろのクラスメイト達も呆然と立ち尽くしてしまう。時間を稼いでいるのだから、できればさっさと逃げてほしいのだが。
靄の男は少しばかり考える素振りを見せて、黒い気体に隠れた口を開く。
「……お見事、と申し上げておきましょう。中々のご慧眼をお持ちのようですね。しかし、それが看破されたところで私の役目は変わりません」
「ああ、そうか、よっ!!」
言い終わるより先に、纏士郎はその場から飛び退いた。
すぐ背後には"個性"のブラックホールを発動するため、指先のカバーを開いた13号がいる。
その場しのぎの推理を披露して
相手の"個性"は霧状の異空間を使った移動能力――気体なら物理攻撃は無意味だが、その霧ごと吸い込んでしまえば問題はない。捕らえるまではいかなくとも、一人でも脱出して助けを呼ぶ事ができればそれで良い。
だが――
「死ねやコラァッ!!」
「一人くらい俺らだけで!!」
「――っ!? バッカ!!」
先走って
「駄目だ! 二人共どきなさい!」
慌てて13号が二人に叫ぶも時すでに遅く。
「散らして、嬲り、殺す」
臨戦態勢に入った靄の男は漆黒の能力を半球形に広げ、切島を、爆豪を、他のクラスメイト達を奔流が次々に飲み込んでいく。
当然、その中には三奈の姿もあった。
「コーちん!!」
「エンジェルさん!!」
「くっ……!!」
咄嗟に三奈と近くにいた可愛の腕を掴み、
「しょぉぉぉうじっ!!」
かろうじて範囲外に逃れていた障子に向かって、振り向き様に放り投げる。
その大きな背中で瀬呂を庇う六本腕の級友が、少女二人をしっかりと受け取ったのを見届けて。
纏士郎の視界は黒一色に染まり果てた。
◆ ◆ ◆
瞬間移動――ワープなど夢物語だと思っていたが、エレベーターが下がる瞬間のような浮遊感はどうにも好きになれない。
一秒にも満たない悪夢を体験した纏士郎は、すぐに異空間から吐き出された。
「――でっ!?」
金属の質感を持つ何かの上に背中から落ち、クラクションがけたたましく鳴り響く。
明滅するハザードランプの光に照らされたのは、運転手のいない無数の車の群れと亀裂が入ったコンクリート造りの天井。見た限りではトンネルの内部――どうやら崩落か、玉突き事故の現場を再現したゾーンのようだ。
それはどうでも良いとして――
「………………ぁあああああああああああああああっ!! クソッタレがぁっ!!!」
行き場のない怒りを込めて、ドアに足型を叩き込む。
襲撃した
「ぎゃっははははぁ!! さっそく獲物ちゃんが一匹やって来たぜぇ!!」
腕の代わりにコウモリの羽を生やした細身の男が、下卑た笑い声を上げながら現れる。
あの靄の男が転移先を落下死するだけの高所に設定しなかったのは、それぞれの災害ゾーンにも手下を配置して始末させるつもりだったからか。実力、経験が共に不足していても未知の"個性"を持った生徒が二十二人――プロヒーローの13号を相手にする際に余計な邪魔が入らないよう数を減らす目的もあったのだろう。
「俺の位置が分からなくて恐ろしいかぁ?! ヒーローにゃあ恨みがあっからなぁ、楽には殺してやらねぇよぉ!? じわじわと血を抜き取ってカラッカラのミイラにしてやらぁ!!」
照明になるのは点滅するオレンジ色の光のみ。
攻撃の機会を窺うように闇に紛れて旋回を繰り返すコウモリ
「じゃあ、まずは一番搾りいただきまぁぁぁがぺぇっ!?」
生え揃った牙で背後から襲おうとしたコウモリ
ミシッ、ミシッ、と翼手目野郎の頭蓋骨が軋む愉悦を右手で感じながら、あれほど昂ぶっていた自分の精神が冷え切っていくのを自覚する。
誰かを救う
「ど、どうじで俺の位置が……!?」
「奇襲ならもっとスマートにするんだったな。そのイラつく声で丸分かりなんだよ」
「あがががががっ!?」
さらに力を加えると、コウモリ
どうやら
先ほどのコウモリ野郎も含めて、このトンネル事故ゾーンには暗視や超音波、他にも夜目が利く獣系の"個性"を持つ馬鹿が多いようだ。事実、車の陰から続々と現れたチンピラのほどんどの目が猫科動物のように輝いている。
「ガキにしてはやるじゃねぇか。だったら俺らも本気でいかせてもらうぜ?」
「あっそ。ならこっちも言わせてもらうが……手加減は期待するなよ。俺は今、機嫌が悪いんだ」
言って、真っ赤なスポーツカーに右手で触れる。
「
「何だ……ありゃ」
「車が変形して……」
「畜生相手には火を振り回すのが定番だろ?」
纏士郎の感情に呼応して強引に形状を作り変えられたそれは、タンク内に残っていたガソリンにバッテリーの火花が引火して煌々と燃え上がる。
右腕全体を覆う紅蓮の
姿勢を低く、伸ばした左手は道路に、右の腕を大きく広げ、半端な
「さあ、
ヒロアカ小説版3巻、怪談に怖がる三奈ちゃんカワイイ。