この世界はどうにもつまらなくなってしまった。
昔は良かった。どこに行っても至る所に強者がいて、どこに行っても血沸き肉躍る闘争が溢れていたように回顧される。
しかし、あの強力な人外たちはみないつのまにか過去の伝承の中だけに生きるあやふやな存在と成り果ててしまった。
好き放題人外との力比べができぬならと戯れに最大勢力を誇る人に入り混じり、人間としての
そして気が付くと稀に生まれいづることがあった人の世界の英雄すらも現れなくなって久しくなった。
そんな退屈な日常を過ごしている時だ。その幻想郷という物の噂を耳にした。
今は姿を消した人外たちと人の住む国という、ただ日々を生きるだけになった私にはそれは暗闇に差し込んだ一条の光にすら感じた。
嬉しかった。きっとそこにこそ忘れられた強敵達が隠遁したのだろうと直感したからだ。
そして話を知ってからはほんの少しだけ時間を使って、念入りに人間としての私を死なせることにした。いつか使えるようにと長いこと貯めておいた財宝を回収し。築き上げた地位や立場は見どころある人間たちに継承した。
これを終えると私は正真正銘、存在しない人間と化した。もう人の中には戻れない。未練は全くなかった。人ならざる俺にとっての本願は闘いなのだから。
そうして幻想郷に向かったのだが……そこは結論から言って期待外れであった。
懐かしい顔ぶれの強者たちは確かにそこに存在した。見たことのない強者や、人界の英雄と呼べるであろう若い才気あふれる人間もいた。俺が求めていた者たちは大勢いたのだ。それぞれがそこで思い思いに自由に過ごしていた。
しかしそこに闘争は無かった。
そもそも幻想郷においても戦いは賢者によって戒められていた。俺の望みは叶わなかったのだ。
唯一と言っていい合法な戦闘方法に弾幕ごっこという物があったのだが、これは少女たちの戦でありこれに少女以外が参加するのはナンセンスだという風潮があり参入することは叶わなかった。
結局、俺はこの幻想郷においても良き闘争には巡り会えなかった。いや、実際に目にした弾幕ごっこはそれなりに心躍ったが己が戦えないのなら、どれほどの価値があろうとも物足りない。
そんなことを無視して大暴れ……ということができるほど精神が幼くなかったのも一因だ。人の中で生き過ぎて人外としては珍しく自制ができてしまっていた。
結局、幻想郷においても俺は自身の店を持って商売を始めた。資本金は潤沢であったし、そもそも俺の私財はこの幻想郷に流通している貨幣総量の価値をゆうに超えていたため何も困らなかった。だがそれは決して幸運なことではなかった。
しかし、外界と比べ人が少ないこの幻想郷では企業競争の規模が極小。結果、季節が巡りきる前に経済を牛耳った。
そして今日に至る。
「もううんざりだ……この世界には私が求める闘争などもはや求められるはずもない」
もう我慢の限界だった。こちらの勝手にとはいえ、大きな期待を持たされてしまった以上、すでに戦いを求める本能は抑えきれない段階まで来つつあったのだ。
今度はもう身支度などしなかった。取るものを取って、書置きだけ残して出ていくことにした。
「ならば! 闘争のある……俺が何の気兼ねも無く戦える世界へ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
闘争を求めた男は……自身の求めるモノを探して世界から去った。
彼の求めたのはささやかなことだった。
一つ。自身と闘えるくらい強い者が多くいる世界。
二つ。戦いの方法は多様な方が良いが、最悪格闘を基本とした近接戦と弾幕ごっこだけでも構わない。
三つ。移動できる中でより多く戦える時間軸へ。
以上を踏まえてこの世界になるべく近い世界。
彼は望み通りの世界へと飛び。そして彼を求める世界へと飛んだ。そしてある存在がそれを誰にも悟られることなく見送った。
後日、男の顔が見えないのを心配した人間が集まって男の店に行くと書置きがあった。それを見た者たちは男が幻想郷から去ったのを理解した。