東方 あべこべな世界で戦う    作:ダリエ

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11 異変予見

「かぁー!! 生き返るぅ!」

 

 先の戦闘から数刻後。

 俺はかなりの疲労でグロッキーだったので紫の勧めで彼女の知る秘湯に来ていた。あれはやはり疲れる。

 

「やっぱスキマタクシーって神だわ。俺も瞬間移動系の能力欲しいな」

「そう言っていただけて嬉しいですわ。ここで疲れを癒したらマヨヒガにある家にでも言って食事にしましょうか」

「肉が食いたいねぇ。あとわかっちゃあいたけど平然と混浴するんだな。やっぱり頭でわかってても変な感じだ」

 

 スキマタクシーで八雲一家と共に秘湯に来た。つまり一緒に来たということは一緒に裸の付き合いもするということだ。

 こちらとしては見られても困らないし減らないので構わない。

 

「申し訳ないアトラク殿。一応止めはしたのだが……」

「あら藍、それなら貴女だけ外で待っててもよかったのよ? ねえ?」

「うっ! 紫さま、それは……」

「あんまり苛めてやるなよ紫。藍もだ。気にするな。俺としては普通に得しているみたいなものだ。win-winの関係というわけだな。それにお互い不作法だがタオルをしているじゃないか。これなら年齢制限は15禁以下のはずだ」

「そう言ってもらえるなら……私からは何も……」

 

 そう言って湯の中に深く沈む。ふむ。

 

「九尾の狐というのだから俺はお前こそがあの妲己だとふんでいたんだが……この初心さ、違ったのか」

「貴方の世界での九尾の狐が何をしていたのか気になるけどこっちだとこの子じゃないわ。でも変化の術が使えるから結構便利よ」

「変化か。そういえば俺はそこまで使えんのだが向こうでは使えるのがちらほらいたな。こちらなら変化を使えば容姿の問題は解決できるんじゃないか?」

「……残念だけどこちらでは変化はかなり難易度の高い術よ。人化はだいぶ簡単だけど容姿は固定されてるし、せいぜい変装か化粧クラスが関の山ね」

 

 ふむ。ここはどうやら容姿の問題が解決しない下地ができているようだな。まあそんなに簡単な問題でもないか。世界に根差したものだ。

 

「俺が教えてやれたら良かったんだが……悪いが俺もそれほど得意じゃなくてな。同種である蜘蛛の姿に化けれるだけだ。学ぶ必要もそれほど感じなかった」

「へえ。危険じゃないなら見せてもらっても?」

「任せろ」

 

 外の岩の上に上がり、小さくて可愛いハエトリグモに変化する。サイズも完璧だ。

 

「随分可愛い姿になったわね。ねえ藍、あなたも来てみなさい」

「はい……確かにこれは中々愛らしいですね」

「そうね。そう言えば橙はまだかしら? あの子もこっちで修業を終えたら来るように言ったのに」

 

 そんな話をしていたら一匹の黒猫が近寄ってきた。

 

 そして黒猫は俺に襲い掛かってきた!

 

「にゃー」

 

 ひょこひょこ

 

「この二人なにやっているのかしら?」

「私にもなんだか? ああ。橙は式が外れかかっているようですね。ちょっとこっちにおいで…………よし! もういいぞ橙」

 

 猫が捕まって助かる。

 そして数秒後変化が解ける頃合いに湯船に飛ぶ。そして無事人の姿に戻る。

 

「ああ。死ぬかと思った……」

「貴方の変化ってどうなっているの?」

「俺の変化は時間制だ。規定時間が経たないと戻らない上に変化した存在そのものの能力になる。だから猫とかにじゃれつかれただけで死ぬ。だから下手なんだよ……」

「……あんまり使わない様にしなさいね……そんなので死なれたら流石に悲しめないから」

「わかっている。滅多なことでは使わん」

 

 その後はのんびり湯に浸かって、ゆったりと時を過ごした。

 

 俺や彼女たちがその間何を眺めていたかなど語るまでもないだろう。二人の豊満な身体は眼福だった。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 湯から上がった俺たちは湯冷めをする前にマヨヒガの家に移動した。

 

「そういえば俺の知識ではお前の棲家は不明だったんだが、このマヨヒガに住んでるのか?」

「いいえ。ここはあくまで歓待用の場所よ。ある程度力があって勘が良ければ辿り着けるわ。私の友人の幽々子とかはたまに遊びに来るわよ。知ってる? 西行寺幽々子」

 

 幽々子。幽々子。…………あっ!

 

「どうしたのかしら? 幽々子がどうかしたの?」

「いや実は……これ言ってもいいのかな」

 

 少し考える。どうするべきか。

 

「とりあえず言ってみなさい。後から聞かなかったことにもできるから。藍! 貴女は橙と一緒に食事の支度を! 少し外で話をしてくるわ」

「かしこまりました。いくぞ橙!」

「はい藍さま! それでは失礼します紫さま! アトラクさま!」

 

 俺たちは厨房に向かって行く二人を手を振って送り出し、少し家から出たところで話を始める。

 

「それで何かしら。幽々子が何か?」

「ああ。実は次の春の話なんだが、西行寺幽々子が異変を起こして博麗の巫女と魔女っ子に退治されるんだよ」

「あなたのいた未来の話ね。そんなことが。……まあそれくらいならいいかしら? で、幽々子は何をするの?」

「何でも春を、春気……いや春度だったか? とにかく奴らが春を奪って回ったんだ。おかげで梅雨時まで雪が降ったそうだ。俺はその時はまだ幻想郷にいなかったから詳細は実の所よくわかってないんだが……」

 

 紫がなにか考え出す。俺はそれを黙って待つ。しばらくして紫は俺に質問をしてきた。

 

「何故そんなことをしたのかはわかるかしら?」

「ああ。何でも冥界で花見をしようとしたとか、宴会をしようとしたとか、何とか桜を咲かせようとしたとか色々言われてたな」

「それってもしかして西行妖!?」

 

 紫が声を荒げて聞いてきた。

 

「あ、ああ。確かそんな名前だったか? 咲かない妖怪桜を咲かせようとしたのは間違いない。結局その後も咲いてないと聞いている。何だ。何かまずいのか?」

「ええ。あれはね……」

 

 彼女は語り出した。西行寺幽々子の話を。

 友人だったこと。彼女が死んだこと。彼女が亡霊となって再び友達になったこと。そして桜の下の彼女の遺体が桜が咲くことで蘇り、そして千年という時間に殺されるだろうということを。

 

「貴方のいた時間では幽々子は生きているのよね?」

「亡霊だから死んでるよ。でも白玉楼の家計にダメージ与え続けてる」

「それは良かったわ」

 

 いやよくねーよ。

 妖夢ちゃんが料理作りばっかさせられて剣の修行と庭師の仕事がおろそかになるって愚痴ってたよ。かわいそうだろ。

 

「どうしましょうか……霊夢と魔理沙が止めてくれるならあの子たちの成長のために任せたいけど……」

「やはり友人のこととなると不安か?」

「わかるかしら? はぁ……とりあえず春までは時間の猶予があるのよね?」

「ああ。四月だか五月だか。性質上、暦の上で春にならないと異変にすら気付けないからな」

 

 名付けて春雪異変。春に雪が降る異変。そのままだな。わかりやすくていい。

 

「なるほど……とりあえずは年が明けるまでは考えましょう。あなたは冬の間どうするの?」

 

 冬眠?などと紫はふざける。ちょっと心配して損したよ。

 

「本当なら戦闘衝動が治まっている今のうちにちょっと外で活動しようと思っていたんだが、いいよ。付き合ってやろう。未来を知ってる俺がいた方が色々捗るだろうし」

「ありがとう。恩に着るわ……うふふ。さっそく貴方がいてくれて良かったと思えたわ。アトラク」

「? よくわからんがとりえず話がまとまったところで飯にしよう。そして寝て起きて考えるとしようか!」

 

 俺はさっさと家の中に戻る。実の所ここまでいい匂いが漂ってきていた。もう我慢ならん。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 その日から俺はここで八雲一家と生活を始めた。今冬はさすがの紫も冬眠はキャンセルするようだ。

 

 八雲家はそれぞれ自分たちの日課をこなしている。

 例えるなら藍は家人の身の周りの雑事、家事。橙は修行と藍のお手伝い。

 

 そして家主の八雲紫はと言うと……

 

「すーすー」

「こいついつも寝てるのか?」

「普段なら冬眠なされている時期ですので。まあいつもよく寝ていらっしゃる方というのは否定できないところですが」

 

 式に全部放り投げて寝ていた。

 

 思えばレミリアもこいつも八坂神奈子も主と言うのは何もせずにどっしり構えていたなあと思い出す。

 白蓮住職や豊聡耳神子は結構率先してリーダーシップを取っていたのだなと感じる。

 

 俺の会った事のない勢力の主はどちらだろうか。今回の西行寺幽々子は紫タイプっぽいなあと空想する。

 

「仕方ない奴だな全く。よしできた。とりあえずいくつか解れを繕っておいた。これでまだ使えるはずだ。それと橙用の服な。そこそこ伸びるから成長しても窮屈じゃないぞ」

「おお! 助かりますアトラク殿! すみませんご客人にこのようなことを……」

「いい。俺も技術を持つ以上はこれで飯を食うさ。それに俺は大食漢だしな。くくく。働かないとご飯のおかわりが心苦しくていけない」

「それは。ふふ。また何とも。ふふふ、それではこちらも遠慮なくお願いをせねばなりますまいな」

「ああ。そうだな。針仕事が無いなら俺ができるのなんて肉体労働くらいだ。どれ。橙の相手でもしてやろうかな?」

「橙は修行中……いえ、お願いします。あの子もいずれは幻想郷のために闘う時も来るでしょう。それに確か地底には土蜘蛛もいますし内憂に対する対策になるでしょう」

 

 地底の妖怪。嫌われ者の集まりか。

 この先もしかしたら俺も関わるかもしれない。

 向こうでは積極的に関わらなかった場所だ。星熊勇儀がいるそうなんで顔を出したかった思いもあるが叶わなかった。彼女なら相手をしてくれたかもしれないな。まあ今更だ。

 

「なら少し教えてやるか。お前の式を少し借りる」

「どうぞ。しっかり鍛えてやってください」 

 

 それから、家を出て少し外を散策すると振動を感じたのでそっちに行くと橙が修行していた。俺は声を掛ける。

 

「おう橙! やってるか?」

「あ! アトラクさまこんにちは! はい頑張ってます!」

「そいつはご機嫌だ。藍と話してな、お前に蜘蛛の糸について教えてやろう」

「蜘蛛の糸ですか?」

「ああ」

 

 蜘蛛の糸。それは蜘蛛の系統の妖怪は絶対に使う技術。要対策だ。

 

「まずお前はもう俺の正体を知ってるな?」

「はい! 紫さまがアシダカグモだっておっしゃっていました!」

 

 アシダカグモ。いわゆるアシダカ軍曹。マーズランキング上位も狙える素敵な蜘蛛だ。

 

 特徴として蜘蛛としてはかなりの大型で見た目のあまり不快害虫と見なされる。しかしその実態はゴキブリとかを狩る益虫でもある。

 俺もゴキブリは流石に食べんが虫はたまに無性に食べたくなるので長野とか行く。行きたい。バッタとかイナゴとか食べたい。

 

「その通り。俺はアシダカグモを基本とした存在だ。ただ糸をたっぷり出せるからあくまでベースでしかないが」

「アシダカグモって糸出せないんですか? 蜘蛛って糸を出すのが特徴ですよね」

 

 アシダカグモは徘徊性の蜘蛛だ。巣を作らずに狩場を彷徨い歩き、獲物を探す孤高のハンター。家の虫では最強だ。でも殺虫剤は勘弁な!

 

「正確に言うと巣を作らない。使うのは天井から降りる時に使う命綱くらいなもんだ」

 

 通称しおり糸。特に丈夫な糸。大体の蜘蛛はこれが使える。俺も使える。

 

「これがあるので蜘蛛は離脱が得意だし、地面に叩き落としても勢いを殺せるから痛打にならない。元々蜘蛛の糸は逃走経路なんだ。だからやるなら一撃だ」

 

 俺は手をパンッ!と合わせてジェスチャーする。流石に素手で殺すのはお勧めしないが。やるなら蚊くらいにしておきなさい。

 

「ほへぇーそうなんですね!」

「そして巣を張るタイプ。大方、力ある蜘蛛の化け物類はまず間違いなく巣を張る。俺も習得した」

 

 蜘蛛の巣。それは狩場兼住居であり、相手の墓場でもある。

 

「実際の蜘蛛の巣は人間サイズが触ると全部がべたべたしているように思うが、それは間違いだ」

 

 実際はその中でも多くを占める横糸の仕業だ。

 蜘蛛の巣の内、円を描くように張られている糸。これが捕獲用のねばねばの正体である。

 

「なるほど! それならそこを避ければ大丈夫ってことですね!」

「肯定したいが蜘蛛の巣はそもそもこっちのテリトリーだ。近づくこと自体が失策だな。妖怪のは特に」

「うーん……それならどうすればいいんですかぁ~」

「そんな橙に良い事を教えてあげよう。実は蜘蛛の糸ってのは物理、力でどうこうってのには強いが水とか火とかには弱かったりする。俺のも結局どうにも耐火性は獲得できなかったしな」

 

 そう。蜘蛛の糸はとかく非物理の影響に弱い。特に極端な温度に対して。

 なので力で無理そうならばなんか火とか使うのがてっとり早い。

 

「だからしっかり修行をするんだぞ。火は妖獣ならすぐにでも良いのが使えるようになるだろう。藍なら狐火も使えるだろうし聞いてみるのも良い」

「わかりました! では早速修行に戻りますね! 失礼しますアトラクさま!」

 

 橙はそう言って一礼。そして軽やかに去って行った。

 

「……結局俺も蜘蛛の話しかしなかったな……まあいいか。紫じゃないけど帰って飯時まで寝よう」

 

 

 

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