「おーい霊夢! 異変に関係ありそうな氷精捕まえたぜー!!」
白黒の魔法使い。霧雨魔理沙が元気よく障子を開き寒気と共に入ってくる。その手には美鈴や妹様とたまに一緒に遊んでいる近所の妖精のチルノが捕まっている。
しかし、この寒さなのに魔理沙が元気が良いのは何故かしら。
「って咲夜!? なんでお前が? 遂に処女をこじらせてレミリアに手でも出して解雇されたのか?」
「馬鹿を言わないで。異変を解決しに来たのよ。お嬢様は寒いの苦手だし、それに異変は私の経験を積むのに最適なのよね」
私に気付いたようだ。ちょうどいい。旅の道連れにしましょう。あとはこの巫女がやる気を出すだけ。
「というわけよ。あんた咲夜と一緒に異変解決してきなさい」
「はぁ!? 馬鹿なこと言ってないでさっさと行くぞ! おい咲夜、そっち持ってくれ!」
「仕方ないわね……」
チルノを外に投げ捨ててから、魔理沙が霊夢の剥き出しの脇を掴む。私も反対側の脇を持つ。
「ちょっ!? 冷たい! 魔理沙アンタ冷たい!」
「当然だろ! この寒い中ほうき飛ばして来てやったんだぜ!? お前も外に行くんだよ!」
「いやぁぁぁーーー!?」
やはり一人で行った方が良かったかもしれない。
それでも、結局ジタバタと抵抗する霊夢をなんとか強制連行して私たちは無事に出発できたのだった。
「それで咲夜。あんた来る途中で何か退治したんですって?」
「ええ。自称黒幕を。氷属性っぽかったから当たりだと思ったのだけど……」
「ふーん。まあ所詮自称だったってわけね。で? どうする? どっちか黒幕のあてはあるの?」
「そんなもん適当に行ってみようぜ。誰かは手がかりを知ってるだろ」
「はぁ。仕方ないわね。じゃあ行きますか」
魔理沙が適当なことを言う。霊夢がそれに乗る。こいつらに私たちは負けたのかと思うと悲しくなるわね。
「わかったわよ。多数決には従うわ。ただ次は私にやらせてね。闘いたいのよ」
「いいわよ。面倒だし。やっちゃって頂戴、咲夜」
「えー私もやりたいのにーずるいぜ!」
「はいはい順番順番。その後はアンタでいいわよ。私はパス。本当の黒幕くらいは相手してあげる」
「ああ!? それもずるいぜ霊夢! 私にもやらせてくれよー」
霊夢と魔理沙の戦い。私がもっと強くなるためには手慣れている彼女たちから盗めるものを盗まなきゃダメね。絶対に見逃せないわ。
私は蜘蛛の刺繍が入った白いマフラーを撫でる。
そしてしばらく吹雪の中を彷徨ったあとで、どこかの家に迷い込む。ネコが出てきてここはマヨヒガだとのたまったが私の番なので浄土の世界へと旅立ってもらうとしよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アトラク。藍からよ。橙がやられたそうよ。ただ倒したのが……十六夜咲夜らしいの」
「なに? 咲夜が……それはおそらく俺の介入のせいだな。すまん」
「いいわ。むしろ好都合でなくて? 異変を最初から三人がかりで解決するならそれぞれの損耗も減るし、何より霊夢の性格だと露払いは二人に任せて幽々子まで温存しておく可能性が高いのよ。魔理沙だけならわからないけど十六夜咲夜も加わるならほぼ確実に霊夢は不戦で幽々子と当たるでしょう」
「そういうもんか」
「ええ。そういうものよ。それに西行妖の封印も大方成功。おそらく春をどれだけ集めてもあれは咲かないわ。私たちの勝利は時間の問題よ」
俺たちは西行妖と白玉楼が見える位置に潜伏していた。そして俺は抜け出したわけでなく、幽々子に言われて白玉楼から離脱していた。
「貴方はあくまでもお客様。春集めを手伝ってもらいはしたけど、戦いに巻き込むのは紫に申し訳ないから一度離れていてもらえる? まあ貴方は闘いが好きだそうだし、どこか見つからない場所からこっそり見ててもいいわよ? 私と妖夢のかっこいいとこ見せてあげるから」
そう言われたのでそのまま計画通りに言葉に従い、観戦に徹することにした。そこで紫と合流したわけだ。
「まあ本当に幽々子が全力を出して
「しかも対策ができていない生者を問答無用で殺す力を持っている。だろ? 予習済みだ。対策も試せないから絶対では無いがいくつかある」
「……本当に荒事となると頼もしいわね。でも、できれば霊夢かその前の誰かに倒してほしいわね。上手く行くかしら……面従腹背の策は」
「天にでも祈れ。それかここだと龍神か」
「あら? 神頼み? そうね龍神様ならと思いたいけど……聞いておくけど貴方龍神様も倒せるでしょ? それともどこかで倒した?」
「馬鹿を言え。俺はそこまで運は無い。強敵と会いまみえるほどの天運があるならここにはいないだろう。色んな意味でな」
俺はそう自嘲する。
「ああでも……龍殺しはないが、関連エピソードなら」
「なに? 武勇伝を聞いてあげるわ」
「やったぜ! そうだな、あれは昔……ちょうど千年くらい前に今の日本で龍神の一族を苛め倒したとか言ってイキってた大ムカデがいてな。そいつを前に見せたあの姿で殺して食ったことがある。あれは食い応えがあって良かった。確かデカい湖の近くだ。もし奴の言葉が本当なら俺は龍神殺しスレイヤーだな!」
「大きい湖それって琵琶湖よね……もしかしてオオムカデ伝説……?」
「ああ。確かそんな話になってたんだか。こっちにもあるのか? 向こうでは俺のいたとこのお釈迦さまへ、そのムカデを倒したことになってる侍に加護を与えた仏さんからのSOSが来たんで俺が出たんだ。今ではトンチ話になってるんだったか? まあいい。あそこにいる時は楽しかった。糸で地獄に落ちた盗人を救うよう言われたかと思ったら、やっぱキャンセルとか言われて糸を切って落としたり。修行時代並だ。あっ……そう言えば龍神じゃないが龍なら大陸で……」
「やめて!!! 聞きたくない!!! それ以上は情報が処理できないから!!! 幽々子どころの話じゃなくなるから!!! 無かったことにするわよ!!! いいわね!!!」
「ごめんなさい」
俺は紫のご機嫌を取りながら機を待つことになった。武勇伝聞いてくれるって言ったのに……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……来たのね。まさか妖夢があっさりやられ……てないわね。貴女たちだけで先に来たの? 博麗の巫女は?」
「ああ。霊夢が殊勝にもここは任せて先に行けって言ってな。あいつ楽する気満々だぜ」
「普通ならそれを言った人は確実に後から来ないものだけど……あれなら話は別ね。絶対にここまで来るわよ。ご愁傷様。同情するわ」
「それはそれは。ゾッとする話ね。真冬の空気みたい。ここはこんなに温かいのに」
「おっと忘れてたぜ……おい! 黒幕! さっさと奪った春を返してもらおうか! さもないと私たちにやられた後に返すことになるぜ? なあ咲夜!」
「ええ。お嬢様からも言われているし私自身春が好きなの。早く返してくれないかしら? それに早く幻想郷が春になってくれないと帰ってきてくれない人がいるの。私の春を返してもらうわ!」
「なーんかちょっと意味合いがおかしくないか? まあやる気なのは歓迎だ! 誰だか知らないが黒幕の亡霊! 弾幕で勝負を決めさせてもらう! いくぜ!」
「そう。でもまだ春が全然足りないのだから貴方たちが集めた春ももらうわよ! 黒い魔! 悪魔の犬!」
上での会話が終わり、激しい戦闘音が鳴り響く。どうやら幽々子さまが戦闘を始められたようだ。
「始めたみたいね。ところでここってもしかしなくてもあの世?」
「ええ。だけどあなたはお呼びでない……と言いたいところだけどちょっと事情が変わったの」
「はぁ? 何だかわかんないけどやる気が無いなら先に行くわよ? あいつら私よりも下手なんだから勝てるかわかんないのよ」
「それがわかってて先に行かせるとは……惨い」
「二人ともうずうずしてたしねぇ。行かせてあげるのも優しさよ」
いけしゃあしゃあと博麗の巫女は言う。どうしてこんなのが私よりも強いのか。世界は理不尽だ。
「あなたに質問があるわ。先に行くのはそれが終わってからよ」
「……まあ戦わないで済むならそっちのが楽そうね。多分アイツは強いんでしょうし。手の内は隠しておきましょうか。さて何でもは答えないけど質問どうぞ。手短にね」
若干いぶかしげだったがこちらの敵意の無さを彼女は汲んでくれたようだ。ありがたく質問を始める。
「まず最初に二つ。これだけは聞いておきます。あなたは幽々子さまに勝てますか? そしてあちらの桜はあなたにはどう見えますか。勘や直感でも構わないので答えてください」
私はそう言って西行妖に向けて指をさす。今も春がどんどん集まっているのに一向に咲かない桜を。
「今回の黒幕のこと? よくわからないけど勝つわ。その為にわざわざ来たんだから。あとその桜ってあれ? さあ。これもわかんないけど木として死んでるんじゃないの? ちょっと嫌な感じね」
「それはつまり桜は咲かせない方が良いというわけね」
「? まあそうね。あれのせいで迷惑してるわけだし。何、今更改心したわけ? 大方、アンタが春集めの下手人でしょ? 手下も大変ね」
「ええ。
「やるわけないでしょ。そんなこと。馬鹿なの?」
「辛辣ね霊夢。でもいいわ。あなたには最後の一押しを貰ったもの」
「あげたっけ?」
「貰ったのよ。さあ行きましょうか。幽々子さまのところへ」
ちょうどその時、凄まじい爆発音と誰かの悲鳴が聞こえた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺たちはその光景を目の当たりにした。
「おいおいおい。やばくないか紫様よ。幽々子のやつマジで殺す気じゃないのか?」
「それはないと思いたいけど……でもあれは当たりどころが悪ければまずいわね」
幽々子が放った弾幕は二人ごと地面を爆ぜた。あれでは再起不能だろうというのは想像に難くない。
「咲夜……」
俺は彼女と縁がある。できれば死んでほしくはない。
当然、霧雨魔理沙もそうだ、死んでほしいわけではない。ただ……こればかりはもう祈るしかない。
「! 見なさいアトラク!」
紫がそう言って爆心地から少し離れたところを指差す。
「おお!」
そこにはぐったりとした魔理沙を抱えた咲夜が立っていた。良かった。時間停止が間に合ったようだ。しかし覇気が無い。爆風と破片のダメージを受けているようだ。
二人とも幻想郷において、かなり普通の人間寄りなので直撃を免れてもあれではやはり戦闘続行は不可能だろう。
「…………」
「一応言っておくけど飛び出さないでね。貴方が暴れ出したら私はもう諦めて神頼みを始めるから……」
「そう弱気になるな。かかって来いよ。俺は問題ない、落ち着いている。幽々子は死体蹴りするような奴じゃないだろうから出らんよ。もし攻撃するようなら別だが」
「もししたら……?」
紫がおそるおそる聞く。本当なら聞きたくないのだろうが聞かざるを得ない立場だから仕方ないという葛藤がよくわかる。
なので簡潔かつ抽象的に教える。
「世にも恐ろしいものをお前は見るだろう」
「やめてね? お願いよ? 良い歳した女が全力で泣くわよ? 体中から色んな汁を出して泣くわよ? そこに恥も外聞も無いわよ?」
「それは向こうで言う良い歳した男が泣くと言う意味か……どれほどの覚悟で言っているのかいまいちわからんが、女の涙でも俺は止まらん。むしろ女を泣かせるくらいの男の方が受けがいいかもな」
「鬼! 悪魔! 蜘蛛!」
「最後は事実だな? 悪口のつもりか。蜘蛛の悪口は許さんよ?」
紫は喚いているが、俺は幽々子の方をしっかり監視し続ける。幽々子は動かない。巫女を待っているのだろう。彼女こそが鬼門だ。
「……来たか。おいしっかりしろ紫。面従腹背の策は成功した。繰り返す面従腹背の策は成功した」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時間は巻き戻り、マヨヒガで今回の異変の対策を話し合っていた時のことだ。
「いいかしら? まず貴方には剣の教えを乞うという理由で白玉楼に住んでもらうわ。そうすれば私たちも自然に足を運ぶことができるわ。封印の仕込みができる機会が増える」
「お前が起きていたら警戒されるのでは? 向こうだと寝てたんだろうし」
「そっちはこうなったら仕方ないわ。なんとかやる気に仕向けましょう。一度失敗すれば再犯もしないでしょうし、何より巫女が出ることで幻想郷中で警戒されることになる。再犯自体が難しくなるわ」
「ふむ。で、俺は何をすれば?」
「そうね。貴方は異変までは客人として白玉楼の人間として徹しなさい。無理に動いたりする必要はないわ。変なことがあって警戒されるなら貴方でしょうし。幽々子は男だからと見逃すほど甘くないわ」
「了解。まあ普通に剣を習っとくよ。興味もあるし」
「ええ。せいぜい精進なさい。ああ、もし春集めを頼まれたらあくまで頑張り過ぎないで、妖夢の手伝いくらいに留めてね。封印が上手くいくとは限らないから」
「おう。心得た。駄弁りながらでもやるよ」
「それと異変が起きたら貴方は一応身を隠す準備を、霊夢たちが退治しに来るかもしれないから。これ以上流れが変わるとまずいわ。貴方と霊夢が幽々子と闘う前に出会った場合どう転んでも良くないから」
「わかった。負けるつもりはないが、勝つのも負けるのもまずいしな」
「ええ。最初に勝つのは私よ」
「楽しみにしておくがどうかな? お前は強いが有力候補とは言えないからな。お前のスキマは俺の居場所にもなる」
「私の心のスキマにでも入っておいて欲しいものね。まあ見てなさい。愛を知った女は強いわよ」
「それは良いんだがそれだと何が面従腹背なんだ? 俺では無いのだろう?」
「そして私でも無いわ。面従腹背……幽々子を裏切るのは正真正銘の従者である……魂魄妖夢よ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
作戦の成功。つまり…………魂魄妖夢が西行寺幽々子に相対した。