東方 あべこべな世界で戦う    作:ダリエ

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16 妖々夢

「これはどういうつもりかしら……妖夢? そこの巫女にでも脅されたの? だったら……」

「いいえ! 違います幽々子さま! これは……誰でもない私の意思です!」

 

 私は思い出した。たびたび夜に見ていた夢。おじい様と幽々子さまがいて私がいる。昔の夢だ。だがそれは私の昔の記憶でもあった。

 その時の私はまだまだ未熟者で従者と言うよりも幽々子さまの妹みたいに扱われていた。それでもおじい様は幼い私に容赦なく剣を仕込んだ。幼い私は時に涙しながらもその指導に付いて行った。

 

 そんな日常が続いてある日。遂に私はおじい様に認められ、魂魄家に代々伝わる短剣、白楼剣を譲られた。私はそれが嬉しくて嬉しくて大喜びしたのを今でも覚えている。憧れの刀の相伝とともに厳しかったおじい様に褒められたことが記憶に焼き付いている。

 

 しかしその時、私はとある約束した。していたのだ。そしてその約束を私は思い出した。あの日に。

 

「その桜! 西行妖を咲かせはしません! その行いはここで止めます! 他の誰でもないこの私が止めます!!」

「……わからない。わからないわ妖夢。あなたが何を言っていて何をするつもりなのか……私には理解できない……」

 

 幽々子さまがここまで当惑したのは初めて見る。

 思えば自分は実に忠実な従者だったこともあり謀反……反逆……下剋上?どれもこの状況とは違う気がする……まあいい。とにかく敵対するような者だと見られていなかったのだろう。私自身、あの日の彼の言葉が無ければ幽々子さまとこの場で闘う覚悟を持てなかった。今も言ってしまったという気持ちが無くもない。

 

「じゃあ私が現実を突き付けてあげる。この半人半霊はね、あなたを戦って倒すつもりなの。私としてはつべこべ言わずに早く戦ってほしいわけよ。勝てば終わり、こいつが負けたら私にお鉢が回ってくるわけだから」

 

 博麗の巫女は全く気にした風も無く、そう言ってのける。

 

「そう……妖夢。本当に私の邪魔をするわけね?」

「はい! 理由が必要ならお答えします!」

「いいえ……結構よ妖夢。私が咲かせたいこの桜を咲かせるのを邪魔するんだもの。理由なんか聞いてあげないわ!」

 

 幽々子さまは力を湧き上がらせる。今までもこれほどの闘気は見たことが無い。きっとこれが幽々子さまの本当の本気!

 

「驚いたわね……結構底を暴いた自身があったのだけど……まだ上があったのね……」

 

 こちらへと傷だらけのメイドが歩いてきた。魔法使いも背負っている。

 

「咲夜!? アンタ傷だらけじゃない! それに魔理沙も! ちょっと魔理沙! しっかりしなさい! 起きないと引っ叩くわよ!」

「……あぁ? ……霊夢? ああそうか。私たちやられちゃったのか……悪い霊夢、敵討ちは任せる……」

「敵討ちはこいつが……妖夢がやるわ。ああもう! アンタはとりあえず治療してあげるから座ってなさい。咲夜もよ」

「私はいいわ。上等な服を着て来たから見た目ほどダメージはないの。愛の力ね。足だけは露出してたから痛いけど、歩けないほどでもないし私は後回しにして魔理沙を看てあげて……」

「そう。頭でも打ったんじゃないのと思ったけど元からだったわね。じゃあ魔理沙! ほら! 寝ないで気張りなさい! 寝たら殺すわよ!」

「酷いぜ霊夢……私は怪我人なんだからもっと労わってくれよ……」 

 

 後ろでは暢気に三人が喋っている。人の気も知らないで本当に暢気な……しかし自分より強い者がいることは純粋に心強い。これで私が負けたとしても最悪の事態は起こらない。博麗の巫女。霊夢が何とかするだろう。

 

 ……いや、きっと元から起こらない様になっている。紫様とアトラクさんがそうしているはずだ。今ならばわかる。彼らの気配を感じる。今もどこかで見ている。幽々子さまとこうして向かい合っていて鳥肌だって止まらないのに、意識は冷たく覚醒し、感覚はこの上なく研ぎ澄まされている。これが悟りの気分なんだろうか。頓悟したおじい様の気持ちが少しだけ味わえているのかもしれない。なんとも世界が広く、狭く、遅くゆっくりと見える。感じる。そしてわかる。

 

「やるべきことを……そして得意な事を……私は貴女を止めます……戦って止めます……!」

 

「来なさい妖夢! 私を! 西行妖を! 止めさせはしない!!!」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「凄いわね……けしかけておいて何だけど妖夢が幽々子と互角に戦えているなんて……」

 

 妖夢は大方の予想を良い意味で裏切り、幽々子に対して完全に渡り合っていた。弾幕を斬り、避け、また斬り、また避ける。そして自身は弾幕を構築する。自身の出した弾すらを斬って、見事な弾幕へと創り上げる。その戦いぶりは遠くから見ても目を引くものがある。

 

 紫の元々の想定は魔理沙と妖夢に霊夢を加えての安全性を高めた策だ。確実に異変を解決するのに敵になるはずの妖夢を味方に引き入れて安全マージンを上げる。幽々子と闘うことは避けられないが妖夢とはそれほど闘う必要がないと俺たちは判断したからだ。彼女の役割は春集めで終わっている。

 

「あれは所謂フロー……ここなら無我の境地の方が似合うだろうか。それに入っている。いくつか入るための条件というのがあるが……今のあの子はそれのほぼ全てを満たしているはずだ」

 

 幽々子を止める、勝つという明確な目標がある。同時に己の自我を抑えて目標への……幽々子の身を考える状況の構築も約束でなされている。

 後顧の憂いはなく、後詰がいるという明確な主観での意識による眼前の戦闘への意識の没頭。

 時間もゆったり見えているだろう。弾幕の躱し方がわかっている躱し方じゃない。ある程度見てから躱している。

 弾幕ごっこは弾幕を避け続ければいい以上、反応するものが限られる。何よりも二人の間に横たわる実力の差をルールという平等が埋めてくれる。 

 

 自分で戦うということを決め、それが自身のやるべきことでやりたいことなのだ。幽々子と共にいたい。失いたくない。だから彼女は勝つ。勝たねばならない。やりたいこととやるべきことが重なる時、世界の声が聞こえる。なんて聞いたことがあるが今の妖夢はまさしくそれだ。彼女には世界が見えている。

 

「貴方も何か仕込んだの?」

「精神論を少し……まあ他人からの受け売りも混ざっているが。だが世界こそ違えど同門の剣士である以上は性にあったのだろう。効き目はばっちりだ」

「貴方……それってもしかして……いえ、きっと貴方に向こうの幻想郷を教えたのは……」

「ああ。魂魄妖忌。その人だ」

 

 あれは俺が会社を経営している時だった。能力によりやはり勝手に忙しくもなるが上手くいっていた小さな会社。

 そこの女性従業員が紹介してくれた老人こそ、白玉楼から去ったはずの魂魄妖忌であった。

 

 彼ははっきり言って俺からしたら半分も人間である以上容姿が老人でも若輩この上ないが、彼はそれを思わせないくらいに聡明で、正しく悟りを開いた男だった。

 

 俺たちは短い期間だが存分に語らい。酒……俺はノンアルコールだが……を酌み交わした。

 あの時は闘い以外で充実した時であった。

 

 その後、俺は世界の放浪へと出た彼と別れ、数年ほど引き継ぎや各種工作に時間を使い、幻想郷へと発ったというオチである。

 

「幻想郷のことなど早々露見しないだろう? 案内人はやはりいたのさ」

 

 そうだ。そういえば妖忌を連れてきた彼女……確かウサミという彼女はもしかしたら知っていたのかもしれない。不思議な経歴の持ち主だったのは今でも覚えている。おもしろい名前のサークルが履歴書に書いてあった。思えば優秀な彼女にトップを渡すために数年使ったのだ。私の想像くらいは超えていてほしい。

 

「ああ……少し懐かしい気分に浸ってしまったな。今は置いておこう。まあそれはさておき。俺はあの子の前で魂魄妖忌を連想させる行動を少しずつ取った。お前から貰った『夢と過去の境界を曖昧にする』力が込められた布で作った寝具もその分効きが良かったみたいだな。どちらの策もなった」

「私自身も魂魄妖忌から妖夢に幽々子を止めるように言っておいたとは聞いていたけど……やっぱり忘れていたわね。おかしいとは思ったのよ。この異変は約束が生きているなら起こらない物だし、それがなんで向こうでもこっちでも起きたのかしら。歴史とはそういうものなのかしら」

「歴史の流れへの考察はともかく、そりゃあ半人半霊と言っても子供が小さい時の約束なんて忘れるのは当然だろ?」

「そうかしら? おじい様との約束よ?」

「関係あるのか? 俺は人外だからアレだけど。大体の人間の子供は爺さんに限らず婆さんなり両親なり、幼馴染との結婚の約束なりを忘れるもんだろ?」

「ああ……わかったわ。今のでわかった。ありがとうアトラク」

「お! それなら説明してくれよ」

「いいわよ。まず今言った事はあなたの世界の都合よ。幼馴染との結婚の約束なんてこっちだと確実に反故にさせないわ。どちらがは言わずもがな。男性が珍しいのに幼馴染の男なんてね」

「あー。なるほど。ということは爺さんとの約束ってのは結構レアイベントか」

「ええ。父親がいることはこの世界でも珍しくないわ。外ならともかくここは狭いから、人間ならだいたい父親とは会ったことがある。でも祖父はそこまででもないの。ここの殿方はおそらく貴方の世界よりも弱い。それなのにおそらく多くの……その……疲れることをするの、だから寿命もそう長くないから早逝し、孫を見れない者は多いわ……疲れることが何かは私の口からはちょっと……」

「おぼこちゃん?」

「うるさい! 続けるわよ!? でね! いないことの方が多い祖父、しかも妖夢の場合は肉親が妖忌だけだからなおさら大事な約束は覚えているはずなの。だから私としては疑問だった」

「完全に理解した。向こうだと説明がつく。祖父だろうが祖母だろうがそう特別でも何でもない。いないこともだいたいは特に気にしないだろう。特別じゃないから忘れた。それだけだ」

「ええ。そうなんでしょうね。そしてこちらでも運悪く忘れていた。そんなものでしょう」

 

 妖夢が冷静に幽々子の本気を捌く。流石に元の実力差もあってか徐々に劣勢になりつつある。しかし幽々子も似たようなくらいのダメージは負っている。勝負はそう長引かずに決着の時を迎える。

 

「だが、今は思い出した。そしてこれは彼女にとっての宿命の闘い。闘うべくして彼女は闘っている。勝とうが負けようがこの闘いを経験した以上、彼女は向こうの彼女よりも強くなるだろう」

「どういうこと?」

「これは俺の持論だが……人、妖怪、妖精、神……全ての命、意思には闘うべき相手というものが必ず存在すると思っている。俺の様にいつまでもそういう闘いと巡り会えないような者もいるが、そういう相手との闘いと幸運にも巡り会えた者は須らく己を次の段階へと進ませる。そういう者を指を咥えて見続けてきたからな。だからこれは妖夢にとっての宿命の闘いだろうとわかる」

「ということは幽々子も強くなるの?」

「どうだろうか。成長はするだろうが……片方にとっては宿命の闘いでももう片方にとってはそうではないことの方が多い。幸運は全てを幸せにすることは少ない。彼女にとってはむしろ辛い闘いかもしれない。だからこそ宿命の闘いを経験できるものは少ないのだ」

 

 望む者もいれば望まない者もいる。それが当事者だけでなく第三者の場合も多い。とかく運命はままならない。

 

「そう……その宿命も……」

「ああ。そろそろ決着か……」

 

 彼女たちはお互いに。自身の最後のスペルカードを切った。俺はそしてその闘いの結果を見た。

 

 最後の時だ。

 俺は腰に佩いた()()()()()を撫でた。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「桜符『完全なる墨染の桜 ‐開花‐』! 」

「獄神剣『業風神閃斬』」

 

 妖夢がスペルカードを撃ってくる。いつも最後に使うものじゃなくあの子が最も自信を持つスペル。こちらを確実に仕留めに来ている。戦闘中、嫌となるほど感じていた物は終始続いた。

 いつものあの子では無い。それはけして悪い意味では無く、良い意味で。彼女が歩む道の先にあるであろう極み。それを彼女は今ここで体現しつつあった。

 

「これが私に対してじゃなければ良かったんだけど……」

 

 いかんせん。いかんせんこちらのやりたい事を邪魔するのにそれを使うのは度し難い。それは私が危ない目に遭った時に使うべきものだろう。時と場合を考えろ。どこに剣を向けているのか。

 

「くぅっ!?」

「うぅ!?」

 

 それぞれの弾幕が互いに直撃する。飛翔を保てず私は落下する。堕ちながらも視界の端に同じく墜落する妖夢を見つける。

 

「きゃあっ!」

 

 冥界の大地に叩き付けられる。痛い。周囲は弾幕の流れ弾で砂煙が立ち上っているため私も汚れる。

 

「でも……」

 

 まだだ。まだ。西行妖は咲いてない。それに巫女も残っている。立たなければ……いけない。

 

「これは……」

 

 私は視界が悪い中、周囲を見まわす。妖夢は確認できない。だが代わりに近くに見慣れた物を見つける。それは抜身の楼観剣。おそらく落下の衝撃でここまで来たのだろう。それは私には幸運だった。白楼剣は私では使えない。魂魄家の人間ではないから。しかし楼観剣なら私でも使える。

 

「久しぶりだけど……二人の稽古を眺めてた甲斐があったというものね」

 

 私とて剣は使える。修行がどうにも嫌いで妖忌がいなくなってからはとんと持ちすらしなかったが、感覚は消えていない。

 

「私はまだ闘える。よし……待っていなさい……博麗の巫女!」

 

 私は楼観剣をその手に携え、博麗の巫女がいる方へ歩き出そうとした。

 しかしそれはまたしても阻まれた。

 

「幽々子さまーーー!!」

「妖夢!? あなたまだ……でも!」

 

 妖夢は私に対して対抗できない。剣が白楼剣しかないからだ。あれでは私を斬ればそのまま殺すことになる。流石の今のあの子でも私への殺意はないだろう。だから捨て置こうと思った……

 

「お覚悟を!」

「な!? それは!」

 

 彼女は剣を持って斬りかかってきた。まさか白楼剣!?そんなまさか!?

 私はそう思った。しかしそれは白楼剣よりも長い。それは当然楼観剣でもない。それはここにあるはずのない剣。

 

「彼の平蜘蛛!? どうしてここに!!」

 

 私は疑問を口に出しつつも妖夢の斬撃を楼観剣で受ける。強い。彼女は強くなっている。たった一太刀で理解できるほどに。分が悪いのはこちらか。

 

「幽々子さま! もう終わりです! 弾幕ごっこで負けたでしょう! 負けた以上は引いてください!」

「負けてないわ! あれは引き分けよ! まだ私は闘える!」

「ならば……倒す! 倒します!」

 

 剣戟を繰り返す。

 お互いに万全なら勝負は向こうが十戦して十勝しただろう。でも違う。両者満身創痍。それでいて妖夢は自身の得物ではなく借り物の剣。お互いに借り物の剣だがこちらの方が優れた剣だ。

 

「アトラクには悪いけど!」

 

 私は何度も唐竹を同じ場所へと叩き込み、剣の破壊を目論む。速攻で剣に慣れる前に決める。彼女はやはり白楼剣を使ってない。防御にすら使う気はないようだ。

 

「くっ……! はぁっ!!」

 

 妖夢は私の楼観剣を何とか押し返し、後ろを取る。しかしもう遅い。

 平蜘蛛はその名の由来と同じくその銀に輝く欠片を散らし、根元近くから二つに爆ぜた。刀が折れては闘えまい。

 

「まだぁぁぁ!!」

 

 しかし妖夢は背後から斬りかかってくる。

 

「往生際の悪い子……!」

「どちらがですか!!」

 

 私は咄嗟に反撃に出るが妖夢は折れた平蜘蛛でそれを受ける。そしてそのまま刃を滑らせ、遂に私の手へと到達する。

 

「……!? しまった!!」

 

 私は手を斬られた痛みで剣を手から離してしまう。

 

「幽々子さま!!! お覚悟を!!!」

 

 妖夢はそのまま私の方へ力強く踏み込み、折れた刀で私を切り裂いた。

 

(ああ…………)

 

 意識が遠くなる。足に力が入らない。私はゆっくりと倒れる。

 

 土煙はとうに晴れ渡り。明るくなった景色の中に、私に勝った妖夢の背中の先……そこにそびえる西行妖はやはり未だ咲かず……しかしその根元には遠い昔に見た誰かがいたような気がした。




なんで主人公でもないのにガチバトルを書いてしまったのか、コレガワカラナイ。
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