異変解決から次の日の白玉楼。そこの一室には今回の黒幕たち……紫、俺、幽々子、妖夢が勢ぞろいしていた。
「皆様。この度は私と幽々子さまのせいで苦労をおかけして本当にすみませんでした!」
妖夢が土下座する。横には布団に入っているため身を動かせないでいるが、幽々子も申し訳なさそうにしている。
「本当にごめんなさい。何故かどうしようもなく満開の西行妖が見たくて……」
彼女は妖夢と分けた時点で止まるべきだった。そこで止まらずに闘いを続けようとした……というか続けたので目を覚ました後、紫にしこたま怒られたのだ。それはもうたっぷりと、怪我人なのに。
「それにアトラクもごめんなさい。剣をダメにしちゃったわ。代わりにこの楼観剣を……」
「待ってください! 私も申し訳なく思っていることしきりですが、それは流石にダメです! 私の楼観剣を勝手に譲渡しないでください!」
「まあまあ二人とも。良いよ。あれは貰い物だし、今回大活躍だったから折れたけど浮かばれるだろ」
「ふーん。私の贈り物は折れても良いんだ~」
「お前もめんどくさい女だな……わかったよ。悪かった。ちゃんと埋め合わせはする」
「それは嬉しいわね。でもいいわ。元よりあなたにはたくさん手を貸してもらったし、そのお礼の意味もあるのだから。この結果は貴方の尽力が大きいわ。それと妖夢。がんばったわね。まさか霊夢に回さずに終わらせるなんて」
「おおそうだ。妖夢は本当にがんばった。撫でてやろう。よしよし」
「うう……嬉しいけど恥ずかしいです……」
幽々子が嬉しそうに妖夢を見つめるが紫が一睨みすると目を逸らす。たっぷり反省してくれ。
幽々子はこれでもう西行妖を咲かせようとすることはないだろう。あまりの執念に何かを思ったのか、紫は真相を少しぼかして説明すると幽々子はあっさりと諦めた。まるで憑き物が取れたように。
「もしかしたら呼ばれたのかもね」
紫はそう言った。己の死体に呼ばれたのか。それとも桜の下で死んだ何者か。それはもう誰にもわからない。生きる亡霊はここに残り、死んだ人間は戻らなかった。それが結末だ。
「はぁ……それにしても今回の事が全部貴方たちの手の平の上だったなんて……未来を知っているなんて反則じゃない……」
そして俺たちは今回の件のネタばらしをした。一部始終を二人に全部話した。正直な話、隠していたのが後ろめたかったのだ。それくらいの絆は生まれた。信じてくれるならばこれは隠し立てするようなことでもない。俺たちのような存在からするとたかがほんの少し先を知っているだけに過ぎないからだ。
「あの平蜘蛛だってスキマを通して妖夢に渡したんでしょ?」
「楼観剣を落とすのが見えたからな。妖夢はすぐに理解して受け取ってからお前に駆け出したぞ」
「はい。どこかにお二人がいらっしゃるのはわかってましたから。あの時はまさに悟りの境地の一端を見ている気分でした」
「今はどうなの?」
「紫様。今は落ち着いていつも通りですね。ですが、何となく感覚も残っているようで……前より澄んだ気分です」
「そう。それならいいわ」
「あれは昂っている状態でもある。戦闘時にしか使えないくらいでちょうど良いだろう。慣れればある程度自発的に使えるかもしれん。精進するといい」
「はい! ありがとうございますアトラクさん!」
こうして大体の終わりを迎えてから俺たちは解散した。幽々子は療養。妖夢はいつもの日常へ。そして紫も自分たちの棲家へ。俺も人里へ帰る。その前に最後に俺は白玉楼での居室を整頓してから去る。そして帰りのその道すがら紫と話す。
「待たせたか。妖夢と何か話していたのか?」
「気にしないで、男を待つのは女の特権よ。まあちょっとね。さて……貴方には本当に世話になったわ」
「気にするな。だがこれからどうする。異変は俺の知る限りの全てを教えておくか?」
「また何か、誰かが死ぬような異変に心当たりがあるの?」
「いや。というよりも俺としては今回のだってこれほど危うい案件とは思っていなかった。もしかしたら他にも俺が知らないだけで裏では綱渡りのような事がいくつもあったのかもしれない」
本心だ。俺はこれもただの暢気な異変。しかも緊急性が低い物と思っていた。むしろ前の紅霧異変の方がよほど高いと思っていたくらいだ。両者の順番が逆なら一度これで様子を見たかもしれない。愛着なら人里が勝っていたことも否定はしない。
「そうなの……わかったわ。これからの異変はできるだけ貴方に未来のことを聞かないように心掛けます。あまり頼ってばかりだと未来に追いついた時が事ですものね」
「俺はじっとしているべきだろうか……?」
「いいえ。貴方は自身の判断で首を突っ込みなさい。その本能は溜めこまずに程度に発散すること。貴方は好戦的だけど同時に冷静で、慎重でもある。戦いに入る前にじっくり考えてから動いてくれるならそれで十分よ」
「信頼して貰えたか。今回の報酬としては十二分だな」
「ええ。三度改めて……ようこそ幻想郷へ、歓迎するわ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺たちはそうしてそれぞれ途中で別れ、帰路に着いた。
しかし俺はちょっと寄り道をする。そのためスキマは使わなかった。
「よーし着いた。相も変わらずまっかっかだなぁ……」
「おや? お久しぶりですアトラクさん。今日はどうしたのですか?」
「やあ美鈴。久しぶり。この寒いのに大変だな。今日は咲夜に会いに来た。今は大丈夫か?」
俺は紅魔館へとやってきた。図らずも今回、咲夜を異変に引き込んでしまったので見舞いにきたのである。
「咲夜さんですか……なるほど。それならどうぞ中へ。いえ、寒いので対応がてら私も一緒に行きますね。ちょっと待っててください。たき火を消しますので」
「あいよ。気をつけろよ。お前も着けているその服は火に弱いというかいっそよく燃えるから、火の前で寝たら気が付いたら火の粉から火だるまになるぞ」
「あはは。流石に寝ませんよ……たぶん」
ちょっと不安だが、まあ燃えたところで妖怪なら死にはしないだろうしいいか。自己責任とは企業にとって便利な言葉だ。
火が消えたことを確認してから紅魔館へと足を踏み入れる。
そうして美鈴に案内されるがままに地下へと向かうと図書館へと辿り着いた。
「ここにいるのか?」
「はい。今の時間はお嬢様方も寝ていらっしゃいますし、パチュリー様の魔法で治癒を早めてもらっているんじゃないかと思いますよ。あ、ほらあそこです」
美鈴が図書館の扉を開けると確かに奥には二人が座っていた。
「こんな早くから悪いなパチュリー、小悪魔。大丈夫だったか咲夜」
「あら、いらっしゃいアトラク」
「これは旦那様! どうしてこちらに?」
「もういいよ……お前が幽々子にぶっ飛ばされたの見てたからな。お見舞いだ」
「心配させてしまって申し訳ありませんわ! 大丈夫です。貴方様の咲夜は不滅です。それにメイド服も旦那様が作られた物を身につけていましたので、私はそれによって愛の力で守られましたわ」
「そうか……でもボロボロになっただろう? これから里に戻るから貸せ。春の開店前の間に直しておく。それとこれからも異変に首を突っ込むつもりなら冬以外の季節に着る物も渡せ。デザインとサイズを参考にしてアレと同じ素材でいくつか作ってやる」
咲夜の発言にパチュリーと美鈴はこいつまたか、みたいな顔をしている。多分俺もしている。手早く要件だけ伝えて帰るか。
「わかりました! すぐに取ってまいります!」
「急がんで良いぞ。デザインもあって足は防げてなかっただろう。ゆっくり待っているから」
「お気遣い痛み入ります。では少々お待ちください」
「じゃあ私はお茶でもご用意しますね。行ってきますパチュリー様」
「ああ小悪魔。俺は水で」
咲夜はそう言って歩いて行った。そこまで酷くもなさそうだ。小悪魔もわかりましたと元気よく出ていく。
「本当……咲夜も変わったわね。貴方、前はあんなのじゃなかったって知っているかしら?」
「ああ。レミリアから聞いただろ? 俺の世界にも咲夜はいた。向こうの性格が大体お前らの言う前の咲夜だ」
「やっぱり咲夜さんも人間ですから焦っているんですかね……私たちはそれこそ百年後でも勝てるなら十分ですけど、咲夜さんは結婚後の事を考えるならどうあがいても十年以内には勝たなきゃいけませんし」
「人間って不便よね。あの子もレミィに吸血鬼に……いや、それはダメね。咲夜はあの子の日傘を持たなくちゃいけないから。魔法使いの成り方でも教えてあげようかしら?」
「どうだかな。それなら先に強くなるよりも寿命を解決することを優先するだろうし。案外、人間のまま勝ちに来るかもしれない」
十六夜咲夜。現状唯一の普通の人間の身で俺に挑む彼女は……どうするのだろう。それを含めても気になる子だ。できれば俺を倒してほしいが……こればかりはわからない。俺が手加減をしないことだけが事実だ。
「お待たせしました。あら? 皆様どうかしましたか?」
そんな話を続けていると袋を持った咲夜が戻ってくる。
紅魔館の住人としても咲夜のことが気になるのだろう。幼さで言えば主の二人のイメージが強いが、咲夜が当然最年少である。そのためどうしてもみんなが意識する。きっと今は眠っているあの二人も同じだろう。
「こちら私のメイド服になっております。特にお気に入りを選んでおきましたのでデザインはそのまま真似ていただければ間違いありません。勿論、旦那様のお好みの改造ならこの咲夜は喜んで受け入れます」
「そうか……まあやっても刺繍くらいだ。面倒だからな。それに俺はそこまでクリエイティブじゃない」
俺は軽く中を覗く……ん?
「なんか他にも入ってないか?」
「ああ。それは下着です。私の勝負下着」
こいつ。それをあげるのでがんばって!とか私だと思って使ってください!とか抜かすようなら痛い目を見せる必要があるが。
「申し訳ないし恥ずかしさもあるのですが……やはり最後に身にまとう下着もある程度丈夫であってほしいので……大変恐縮ですが可能な限りで構いません。デザインも面倒ならシンプルなものなり旦那様が制作意欲が湧くような好みの物で構わないので、服の方と同じ仕立てで用意してはもらえないでしょうか」
咲夜はそう言って頭を下げた。
俺は自分が情けない。彼女は戦士として確かな心得を持っていた。最後の一枚までも闘う。その心意気を汲み取ってやることできなかった。ああ……俺は本当に鈍っているらしい。それを気づかせてくれた彼女の為に最高の品物を作ることを決意する。
「ああ! 任せろ! 火以外はものともしない逸品を作ってやる」
「ありがとうございます。それにやはり旦那様のお作りになった衣服に身を包んでいるとやる気が違いますもの。これで私はより高みへと至れますわ」
「……まあその気持ちをわかってやれないほど俺は狭量ではない……お前が強くなるというなら構わない」
「はい! これであの亡霊と次に闘う時は倒してみせますわ! そしていつかは貴方にも勝ちます!」
威勢の良い。だがそれこそ俺の望み。たった一つの願いだ。楽しい闘いをどうか俺に用意してくれ。
「じゃあ行くか。期せずして仕事が増えてしまった。早速仕事に取り掛かるとしよう」
俺は彼女らに見送られ、俺は懐かしの人里へと帰った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから店に籠り、確実に春へと近づくのを感じながら春物を少しと夏物を多めに作りつつも、咲夜の服を丹念に作り続ける俺の元に八雲藍が訪れた。
「紫様がお呼びです。白玉楼までお越しください」
俺はそのまま白玉楼へと向かった。そこにはあの日の黒幕。西行寺幽々子に八雲紫、魂魄妖夢が揃っていた。
「待っていたわよアトラク。さあ妖夢」
「はい。ありがとうございます紫様。アトラクさん! 私とあなたの結婚を賭けて……勝負です!」
「ほう。何の用かと思ったら……こいつは嬉しいお誘いだ。いいぜ。何でやる? 弾幕か? 近接戦か? おっと剣は勘弁してくれ。刀が折れちまったからな」
「違います。弾幕では勝てません。近接も分が悪い事は承知してます。そして教え子に剣で挑むほど面の皮は厚くありません! ……私が挑むのは新たな闘い……紫様! お願いします!」
「任せなさい。さあアトラク。これを見なさい」
紫は俺に向かって巻物を投げる。なになに『幻想郷新闘技之掟(仮)』?
中を見るとそこには見覚えのあるルールが書いてあった。
「なるほど……弾幕アクションか」
俗称弾幕アクション。遠距離で弾幕を撃ちあい、近距離で殴り合う。俺が言うガチバトルにルールを設けたような幻想郷の比較的メジャーな闘い方。これは今くらいの時期にできたのか。
「あら知っていたの? ちょうどいいわ。貴方の言う弾幕アクションと正式に名付けましょう。これで妖夢と闘いなさい。今回の判定は私がしてあげる」
「これならば剣も使えます! 私に最も勝機がある闘いをさせていただきます!」
「がんばってね~妖夢~」
「いいだろう。俺と言う男の闘いをお前にまだ見せてなかったことだ。容赦なく俺を知らしめてやろう……」
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「はいそこまで。勝者アトラク=ナクァ」
「結構楽しかったぜ。こいつは良い闘いだ。流行んねえかな」
「うぅぅ……ボコボコにされたぁ……しっかり前の時の状態に入れていたのに……というか斬れない糸ばかり使うのずるいですよぉ……」
「剣士相手には当然だ。それに俺はゾーンに入れる奴とは何度も闘う機会があった。そう珍しくもない。そもそも俺はお前より強い。入ったところで差は大きいのさ。でも中々だ。今後に期待が持てる。お前も強くなりたいなら咲夜みたいに異変の解決でもしたらどうだ? 丈夫な服は作っといてやるよ。幽々子も紫もどうだ。安くしとくぜ?」
この後にあるであろう異変には彼女らもきっと参戦する。この際だ。知り合いの面倒くらいはまとめて見ておいてやろう。
「……そうね。貴方が言うならお願いするわ。後でまとめて持っていくからよろしくね」
「毎度あり! と言っても金は取らんが……」
俺もまたやるべきこととやりたいことが一致しているから……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冥界から春が始まる。短いながらも……盛大な春が。
春告精は今日も暖かくなってきた幻想郷の空を飛び回り、元気に春の訪れを触れ回っている。
『春ですよー! 春ですよー! 春ですよー!』
「我が世の春が来た……か」
できることなら俺の春は末永く盛大にあってほしいものである。