東方 あべこべな世界で戦う    作:ダリエ

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18 八雲紫の仕事 賢者あるいはダメ女

 幻想郷 第118季 夏

 

 霧の湖近辺に存在する紅魔館より紅い霧が発生。徐々に拡散し幻想郷中に広がる。ある程度広がるものの霧は人里は何故か避けるような動きをみせる。

 その後、異変を察知した今代の博麗の巫女である博麗霊夢。およびその友人の霧雨魔理沙の両名により異変は鎮圧。

 

 これによって首謀者である吸血鬼レミリア・スカーレット。

 その妹フランドール・スカーレット。

 さらに従者であるメイドの人間十六夜咲夜。

 門番を務める何かの妖怪の紅美鈴。

 レミリアの友人兼食客の魔法使いパチュリー・ノーレッジの存在が確認。

 そしてそれぞれ撃破された。

 私が言うのも何だが全員ブッサイクな面で心底安心した。ようこそ幻想郷へ。

 

 主筋である吸血鬼の両名は先の異変で猛威を振るった種族の同族であるので、その力はやはり強力な為に注意が必要と思われる。それ以外の者もそれぞれの分野においてかなりの力量を誇るため要チェックだ。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 異変解決後のしばらくした後。夏の終わり頃から人里でハンモックなるものが流行り出す。寝具に近い物で布団ともベッドとも違うようなので気になるから藍に買いに行かせる。

 

 すると驚くべき状況が。なんと商品が好評のあまり売り切れに!

 

 訂正。店主が妖怪であった。しかもまさかの男である。これは確認済みの森近霖之助ではなく、全く別人の妖怪だそうだ。

 

 先んじて彼と接触を果たしたと思われる天狗の新聞に彼の情報が載っていたのでここに抜粋する。

 

 見出しは『人里に突如現れた期待の新星呉服店!?』

 

『先日の紅霧異変と名付けられた異変の数日後。人里に一軒の新店が開店した。出資者は人里の有力者である稗田阿求その人。店主はなんと妖怪の男性である。名前はアトラク=ナクァ。開店から数日は閑古鳥が鳴く日々であったらしいが数日後には大盛況! 繁盛の理由は店主が阿求氏とその友人に贈った衣服の数日の間に出来栄えが知れ渡ったためと思われる』

 

『彼の店で扱われる衣服の特徴は何と言ってもその出来栄え! 色は白一色の物が多くを占めるがその手触りは絹糸に劣らず凌ぐほど。絹とは違い水に強いので洗濯しても痛みにくい。デザインも外来の物を思わせる変わった物も多いのだが不思議と目を引く逸品だ。店主によると彼が蜘蛛の妖怪らしく、その彼が自らの能力で作った糸で作られているためこの様な出来となるらしい。商品は全て店主の手製。我々女性には堪らず、男性読者諸氏にも安心な代物ではなかろうか?』

 

『ちなみにその繊維は唯一、火には弱いらしいので注意が必要である。服の色は既製品を既存の服屋で染めてもらえるようになっているので、台所で火を扱う方や自分好みの色を求める方はそちらのお店にどうぞとのこと』

 

『さて、女性読者諸氏にとって気になる話である店主の話へと移りたい。彼は妖怪と言っても男性であり稗田阿求氏の信頼もあるので非常に安心安全な存在であると言える。人当たりも良く、人柄も穏やか、実に男性らしい慈愛と優しさに満ちており、筆者が確認したところ見目も麗しいのは間違いなかった』

 

『彼の最も特異な性質は何と言ってもその人当たりだろう。この新聞を購読してくださっている皆様は一度は筆者のことを見たことがあると思われる。我ながら見たら顔をしかめられるような造詣をしている私だが、彼はなんと! 私を見ても嫌な顔ひとつせずに対応、そして笑顔で本誌インタビューに応じてくれたのである! これは私に惚れていると勘違いする者が続出しても仕方ないがちょっと待ってほしい。彼のこの対応は分け隔てないものである。そもそも前述の阿求氏もその友人の某本屋の娘もあまり容姿に優れない。本誌のインタビュー時も霧の湖での休暇中に某紅魔館の門番や近所の妖怪妖精たちに囲まれて平然としていた。そんな彼女らと親しくしている彼にとって容姿とは大した基準にはならないのかもしれない……余談だが筆者も勘違いしそうになったことをここに記す』

 

『最後に。彼の店が出す新製品の情報を本紙の先行独占限定でお届けする。その製品はハンモックなるものでその寝心地は趣味が昼寝と言って憚らない門番の彼女も絶賛する……』

 

 以降はハンモックのレビューが続くので割愛する。

 

 この中の情報で気になる事が多々あった。

 

 まず何より店主の男妖怪だがこれはきっと語れば長くなるので自重する。

 

 一つ目はいつ来たのか。これは少なくとも私が結界越えを感知できなかった。しかし、おそらくだが以前からいたということも無いだろう。そんな性格の良いイケメン妖怪がいたら流石に気づくだろう。そして私が囲う。

 

 そして二番目は彼の行動範囲。

 霧の湖は前述の通り、強力な紅魔館の連中の目と鼻の先。多少力量のある程度の妖怪ではまず間違いなく負けると断言できるほどの戦力だ。そんなところを男一人でうろつくなんて自殺行為であるし、妖精や妖怪にしても話の通じない馬鹿や成功率こそ低いものの人食いをする者が縄張りとしている。

 そこで休暇などが過ごせるということは彼は紅魔館の連中と知り合いという可能性がある。最も気性の大人しいとはいえ門番と一緒にいたことで信憑性が高まる。

 同時に近所の妖精くらいは退ける程度の力も持っているのかもしれない。あいつらは馬鹿だから容姿の良い男とか関係なく襲ってくるだろうし。

 

 ただ、ありえないがもしかしたら……自力で紅魔館の連中に勝てる……なんて可能性もある。なんでも紅魔館に行った霊夢と魔理沙が所々に戦闘の痕跡があり、自分たちの前に何者かが闘ったのかもしれないと言っていたからだ。

 

 彼の唐突な出現時期と紅魔館関連の複数の情報。それに彼の糸で実際に作っているなら現時点で凄まじい量の糸を産出していることになる。今まで隠れていた間にコツコツ貯めていたという考えもできなくないが聞く限りはそんな感じがしない。

 

 私は一度紅魔館への聞き取り調査へと向かうことにした。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 これはどうしたものか……本当に恐ろしい事実が判明した。

 

 まず前提としてレミリア・スカーレットには『運命を操る程度の能力』がある。彼女はそれを駆使して彼の過去を覗いたそうだ。私にそれを語ってくれた。

 

 すると彼……アトラク=ナクァを名乗る(本人曰く本名は無いらしい)男は別の世界の未来の幻想郷から来たらしい。荒唐無稽な話だが、これだけでは終わらない。

 

 彼は……彼の世界はこの世界とは様々な事柄が違い。男女の数がほぼ均等で、美意識の基準も違う。私たちからすると夢のような世界。そんな理想の世界からわざわざどうして来たのかと言うと彼は闘いを求めてきたらしいと。

 なんでもレミリアが見た上では向こうの私に戦闘を禁止され、鬱憤が溜まり、それに耐えかねてこちらに来たそうだ。ありがとう向こうの私。

 

 彼はそのまま向こうの基準で生きており、こちらのブサイクがつまり私(←ここ重要)が彼にとって美人であり、女性への苦手意識もないのでこちらも臆せず話しかけられるらしい。

 

 ただ天狗の新聞に載っていた『人当たりも良く、人柄も穏やか、実に男性らしい慈愛と優しさに満ちている』と言うのは少し誤りで、彼の目的である戦闘が絡むと『吸血鬼以上の怪力で殴りかかる。普通に強いのに蜘蛛なので糸で罠も仕掛ける。動くのも速い。おまけに牙には毒がある。なんか魔法とか使う。総じて人当たりは良いが、戦闘だと苛烈にして冷静。実に戦闘狂らしい強さと凶暴性に満ちてもいる』と評価された。

 

 まあ私としてはなにそれギャップ萌え?その情報だけでご飯三杯頂けますわって感じだ。言葉遣いも実は結構ワイルドと聞いてさらにテンションアップ。

 

 しかも、彼は闘いをタダで吹っかけるのではなくこちらにもやる気を出してもらう為に自身との結婚を商品としているらしい。大盤振る舞いにもほどがある。やる気が満ち溢れる。

 

 こんなこちらだけに美味しい話は疑わしくあるが、前述の通り私たちは強い。闘いを求めるなら申し分ない。しかし醜いので結婚したいと思う男は皆無だ。だが彼にとっては気にならない。むしろ美しい。お互いに最高の共存関係となる存在だ。天の神様からの贈り物だ。

 

 あれほど強いんだから夜もきっと長持ちするわねなんて言ったレミリアのせいで想像して濡れた。

 

 私はもう我慢ならんとスキマを開き一回着替えてから阿礼乙女の下へ直行。彼女に仲人……ではなく紹介役を担ってもらった。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「来たか……悪いが阿求は帰ってくれ…………ああ。失敗したな。いずれは俺がいることもばれるとは覚悟していたがこうも早いとは……はしゃぎ過ぎたか。だがこうなった以上逃げも隠れもせん。初めまして八雲紫」

 

 それなりの準備と心構えをして向かった彼は私の来訪をどうやってかある程度見抜いていたらしかった。阿礼乙女を退出させ、その後の第一声で微妙に嫌悪感が滲んでいたので高待遇を期待していた私は泣きそうになったが賢者の意地で耐えた。

 

 しかし考えればこれも仕方ない。私は向こうの世界で彼の願いを阻んだ敵だ。最も嫌な事をした奴。いくら違う世界とは言え、同一人物である以上は警戒されても仕方がない。

 

 涙腺が危うかったので彼とは後日話すことを約束してこの日は別れた。そして帰ってから泣いた。チクショウ別世界の私チクショウ。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 人里に冬が訪れてから数日。彼はこのスキマの空間に自力でやってきた。

 

 そしていくつか話をして彼を正式にここ幻想郷の住人となることを認めた。喜んでもらえて良かった、次は私を悦ばせてほしいと私は弾幕ごっこでの勝負を挑んだ。

 

 途中までは情報を仕入れておいたこちらが有利だった。徐々に互角まで持ち込まれたが彼の最後の大技のタネもわかっているので後は私の気合が足りれば勝ちの目はあった。

 

 しかし彼はおそらく幻想郷すらも滅ぼすほどの力を解放。存分に見せつけた。それは彼が途中から晒したレミリアを恐怖させた借り物(アトラク=ナクァ)の力では無く、正真正銘彼自身のみの力。

 

 龍神様すらも殺しうるようなただただ大きな力。意思は無く。正義も邪悪も感じない本能だけの暴力。

 

 こんなものを見せられるとは思わなかったがこんなことで私は諦めない。なにせやっと来た婚期!彼を逃すともれなく一人さびしく死ぬだろう。子供だってできるなら生みたい。処女で死にたくない。他の喪女どもを煽りたい! 

 

 藍が彼を怪訝な目で見始めたがそうはさせないと私は言いくるめた。よくやった私!偉いぞゆかりん!

 

 その後、私たちは温泉に入り、マヨヒガで団欒。温泉では本当に彼は無防備で上半身にタオルを巻かずポッチを晒してくれた。最高だった。彼も私たちの身体を見ていたがこんなものならいくらでもお見せしましょう。なあにそっちと比べたら安い物ですわ。

 

 ああ…でも幽々子のことは真面目に考えないといけない。これは賢者として冥界の管理者がいなくなるのが困ることもあるし、なにより友人が死ぬことを拒む一人の妖怪として。

 

 八雲紫の仕事は終わらない。

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