東方 あべこべな世界で戦う    作:ダリエ

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19 萃夢想 宴の始まり……と無関係な男達

「どーも。蜘蛛のマークの宅急便でーす。商品のお届けに参りましたー。印鑑お願いしまーす」

「あらご苦労様。サインでもいいかしら?」

「うぃっす! ありあとやしたー」

 

 被ってもいない帽子を脱ぐ素振りをする。というか届けるのに使った箱も木箱だ。ダンボールとかいう便利なものは幻想入りするのは難しいだろう。あれは蛇のお気に入りだ。

 

「で、小芝居に付き合ってあげたんだから話に付き合いなさい。ねえ? 気づいてるんでしょ?」

 

 紫は相も変わらずどことなく眠たそうな顔をしていながらも真面目ぶった声音で問う。

 

 …………霧が濃ゆい。なるほど。あの時期か。

 

「ん? ああ。今気づいた。髪切った?」

「……今から切るわね」

「冗談冗談。わかってるよ。伊吹萃香だろ。今気づいたのは本当だけど。まあそっちも気づいてるなら言うけど、あいつは別にほっといても誰かが気づいて勝手に始末つけてくれるよ。宴会するだけだし害も無い」

「わかってるならいいわ。それに私も同感だしね。あの子の害と言ったら霧になって男湯を覗きまわったり、河童や天狗をいびり倒して胃潰瘍にしたり、酔ってそこかしこで暴れまわったりするくらいだし。貴方は鬼と闘いたくないの?」

「鬼の類の妖怪はそういうことをする。いや。やっぱりアイツ問題だろ。地底にでもぶちこんどけ」

 

 気を取り直して……鬼。かつて俺がいた向こうの世界の過去では何度か闘った相手。今となっては良い思い出である。

 当然だが鬼はこの幻想郷においても上の方に位置する実力を誇る。ほとんどの鬼が近接肉弾戦を得意とするのが特徴だ。中には萃香のように変わり種もできる奴もいるが彼女らはやはりシンプルな殴り合いを好む。

 気性は荒めだが人に近い価値観を持つためある種の親しみやすさもある。とりあえずお酒飲んどけば幸せと言う愉快な奴らだ。

 

「しかしいいのか? あいつ俺とやったら異変解決前に満足するかもしれんぞ? だからまた異変を再現する場合は、俺がやるなら最後だ」

「そう。そこまで考えてくれているならやってもらって構わないわ。宴会には出る? 私はまだ誘われてないけど貴方が行くなら行こうかしら」

 

 紫からも酒宴に誘われた。これで累計五組目くらいだろうか。まあ断るのだが。

 

「酒を飲まん俺が行っても仕方ないだろ。慧音とかからも誘われているが俺は基本は留守役をするつもりだ。たまには彼女も息抜きをした方が良いしな。教師とは色々と鬱憤が溜まる仕事だろう?」

「そうなの? まあそれなら私も誘われるまでやめておくわ。フフ。殿方を侍らせてのお酒は最高だと思ったのだけど……」

 

 何とも底意地の悪い笑みを浮かべて笑う賢者様で。

 

「僻みと嫉妬で多方面からぶっ殺されるぞお前。俺は……そうだな。女が軒並みいないのなら前から気になっていた香霖堂でも行ってみるとしようか。この世界の男妖怪とサシで話をしてみたいと前々から思っていたところだったんだ。本当にわざわざ探さなければ会えないほど男が少ないとはなぁ」

 

 本当に男妖怪っていないのだと思わなかった。情報がまるでない。この世から彼らがポッカリ消えていた。雲山の奴とかちゃんといるのかな。雲散霧消なんて……

 

「そうね。今なら魔理沙もいないでしょうし、邪魔もされずにじっくり話せるかもしれないわ。貴方がどれだけ奇特なのか彼を見て学んできなさい。彼も変わり者だけどこの世界の男としてはそこまで逸脱してはいないもの」

 

 彼女はなんともおかしそうに嬉しそうに笑っていた。

 

 俺はそのまま紫たちの服を箱ごと渡し、その足で白玉楼に訪れ、そこで妖夢と幽々子にも服を渡してきた。ついでに二人に弾幕アクションで挑まれたので喜んで返り討ちにした。楽しかった。ちょうどいいので今回の騒動で少し修行するがいい。

 

 紅魔館にも咲夜の服を届けに行ったら、そこでも弾幕アクションのことをどこぞの誰かに聞いたらしいレミリア、咲夜、パチュリー、美鈴に挑まれたので気持ちよく四タテ撃破した。今回の騒動以下略。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 そして後日。

 慧音が宴会に行ったその時を見計らってから俺は一人魔法の森まで赴いた。まだ早い時間なので急げば夜前に戻れるだろう。妖怪は博麗神社に行っているし、夜以外で人里を襲うような奴もそうはいない。

 

 魔法の森の入口と呼ぶべき場所に辿り着く。そこにはただ一つ建物がポツンと建っていた。店の表にはなんとも雑多に多種多様な物……控えめに言ってガラクタが積まれていてだらしない。それに物が多岐に渡り過ぎてちょっとした異文化っぽくなっている。店は記憶より少し大きく感じる。商売がうまく行かずに物と家が融合合体でもし始めたのだろうか。

 

「全く断捨離とかできないのか……いや無理だろうな。少しは整頓とかしてほしいものだが、失礼するぞ。店主はいるか?」

 

 俺が店に入るとガタガタと物音が奥から聞こえた。

 そちらに目を向けると店主の森近霖之助がこちらに向けて剣を突き付けてきた。ここはモンスターハウスかなにかか?

 

「魔理沙がいない隙を狙ってきたなこの醜悪な妖怪どもめ! 昼っぱらからふざけやがって! 僕は負けないぞ!」

「落ち着きたまえ森近霖之助。俺だ……と言っても初対面だしわからんか。男だよ。お前を襲ったところで俺には得は無い。わかるだろう? さあ、闘う気がないならそれを下げるといい。俺には男と睦み合う文化も趣向も無い」

 

 堂々と自分は無害だと諭す。

 しかしいきなりこんなものを見せられるとは……男は本当に襲撃される側ということらしい。俺としてはそういうのも嫌いではないけれど。

 

 何度も確かめるようにこちらの容姿を確認した森近霖之助はホッと一息ついてから手に持つ剣を下ろし、鞘へと丁寧に納刀し、大事そうに腰に戻した。

 

「あ……ああ。これは失礼した。君はもしかして魔理沙が言っていた人里の……これは本当に失礼した。魔理沙が用があっていない時はどこから嗅ぎつけたのかよく妖怪がここに来るからね。霊夢に結界も張ってもらってはいるがこればかりはなんとも……」

「ふむ……まあその。やはり大分俺の認識との乖離が大きいな。今までもそういうことが?」

 

 わざわざ襲いに来るなんぞ、妖怪どもはよほど暇なのか……と思うほどの新参でもなくなっている。しかし、やはり変な感じがどうしても抜けない。

 

「当然さ。人里にいる時はあいつらも下手なことができないから無事だったが、ここに店を構えてからね……まあ僕も闘いは嫌いだけど多少は応戦できるし、何より博麗の巫女が気にしてくれるから今日までやってこれたよ。君だって妖怪によく襲われているんじゃないのかい? お互い苦労するよね。良ければお茶……ああ。君は蜘蛛だそうだから魔理沙用のジュースか水の方がいいかい?」

 

 俺の場合はどっちかというと襲っている感が否めない。

 

「気遣い痛み入る。では水をお願いしよう。そうか。だが霧雨魔理沙が君に近づくのはいいのか?」

 

 俺は落ち着いた店主が飲み水を器に用意している間も問いかける。座る場所はあんまりないから立ったままだ。中も結構物で溢れている。

 

 霧雨魔理沙。魔法使い……今はまだ魔法が使える程度の人間。彼女も俺の主観で中々可愛い少女だ。それはすなわちこの世界では忌み嫌われることを表す。そんな彼女が近くにいることを彼はどう思っているのか。俺は気になった。

 

「彼女は僕にとって妹みたいな存在だからね。今更外見もそこまで気にしていないし気にならない。三日以上一緒にいるのだから慣れて当然さ。霊夢なんかも大丈夫だ。魔理沙の友達だしね。特に魔理沙と霊夢は人間ということもやはり大きいかな?」

「やはり人間はそこまでではないか?」

「ああ。君もそうだろう。単純にこちらでも勝てる……いやあの二人は例外だけど、狼が怖いからと子犬を怖がる者は少ない。無いとも言えないけどね。少なくとも僕はこちらに危害を加えず、真っ当に客として立つならどんな相手も接したいと思っている……つもりだったんだけど難しいところでね。戦々恐々としているよ。聞くところによると君は僕と違うらしいね。君は本当にどうして全員に対等に接することができるんだい?」

 

 俺は店主の質問に応える。

 

 俺の答えを聞いたところで、それは彼に真似ができるような精神性の考えではないだろう。それでもこういう考えが存在することは彼に示しておこう。

 

「決まっている。誰が来て、こちらに何をしようと、俺は勝つ自信があるからだ。強ければ自分の身も守れる。女どもの容姿だって俺はお前たちほどは気にしてない。まあそっちは別の事情もあるのだが……ただそれゆえに俺は誰に対しても対等だ。なんなら常に俺が上だ! ハハハ!」

「なんと……変わっているとは聞いたけど……君は本当に男妖怪かい? まるで過激な妖怪どもみたいだ。当然女のね。でも、一人で生きていくならやっぱり君くらいの突飛な考えじゃないとダメなのかもしれないね。僕もここに店を構えるまで世界はもっと優しいと思っていたんだが、そうでもない事を今までで思い知らされた。霧雨の親父さんの助言も無視して…………」

 

 森近霖之助が勝手にしょぼくれて来た、時間も経ったのでそろそろ帰る頃合いか。

 しかしこちらの男は少々以上にメンタルが弱い気がする。マタニティブルーの妊婦の方がよほどハートが強いんじゃないか?

 

「そうか。まあ自分が奇特な人物というのは理解したよ。ありがとう。こいつは礼だ。お前なら何かわかるか?」

「これは……ほう……君は。いや、貴方はつまり妖怪でありながら……なるほど。それほどの強さはだからか……」

「道具の名前と用途が判る程度の能力だな。正体は名前の方でばれたか? 自ら明かしたに等しい上を承知しているが、悪いけど黙っていてほしい。これは多分レミリアにも紫にもまだ誰にもばれていないはずだ。この肩書はちょっと人に頼られ過ぎてあえて隠している。もしかしたらどこかでテンションあがって漏らしたかもしれないけども」

 

 多分明言はしていないはずだ。人里では間違いなく割れていないと思う。時間の問題ではあるのだが、同時に時間が経てばその向けられるであろう感情の引き取り先も出てきてくれる。

 

「わかりました。これは僕が好きに使ってもよろしいので?」

「ああ。白は量が多いから好きに使ってくれ。でも黒と赤は他と比べて多めにしたがそこまででもないから優先して使うべき者に使ってやると良い。基本はただの糸だからヒヒイロカネをどうこうできる奴なら苦労せずに扱えるだろう?」

「はい。助かります。これで二人に多少は楽をさせてあげられる……」

「満足してくれたようで何より。では俺は行くよ。酒は付き合えんが薀蓄くらいなら付き合ってやろう。貴重な男友達だからな。それと今後敬語はいらん。それで正体を見抜かれたらギャグが過ぎる」

「……わかったよ。こちらとしても友人として付き合う分には申し分ない。今後よろしくお願いする」

 

 俺たちはお互いに別れを告げて、店を離れる。

 あの店はなかなか侮れない。俺も驚くものが結構あった。

 

 流石にいきなり草薙の剣を突き付けられたのは焦った。幸い正式な持ち主になるには至っていないみたいだが、もし成っていたら魔法の森はあの時点で爆発四散していただろう。

 彼自身の能力、技術もかなりの物だ。ただあの能力は俺のように経験をひたすら詰まないと少し使い勝手が悪いかもしれない。知識だけで全てをどうこうというのはやはり難しい。

 

「趣味は合わないが、相性はいいのかもしれん……」

 

 かたや好戦的。かたや厭戦的。

 かたやミニマリスト。かたや蒐集家。

 かたや商売繁盛。かたや閑古鳥。

 かたやアウトドア。かたやインドア。

 かたや裸眼。かたやメガネ。

 

 まあ色々とあるが結構俺たちはあべこべな属性と言えるだろう。

 

「変わっているのは俺の方だな……そいつは認めよう」

 

 しかし……こうも思う。

 こんな世界でも変わらず人と妖怪に対して商売をしようと言う心意気。俺とは異なりこの世界の価値観で生きている彼がそこに至ったのはかなり特殊だとも思う。ゆえに。

 

「だがお前も変わり者だ。せいぜい変わり者同士で仲良くやろうじゃないか……」

 

 そして香霖堂には店主を除いて誰もいなくなった。

 

 

 後日の巫女と魔女曰く、彼の店には店主を狙ってくる妖怪変化の類が激減したらしいが理由は不明である。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 後日 香霖堂

 

「やあ! 二人ともよく来てくれた! ふふふ! やっと完成したんだよ!」

「なにかと思えばいつもの服じゃんかよ香霖。期待して損したぜ。帰って神社で茶でも飲もうぜ霊夢」

「まあ私としてはタダなら良いわ。ありがたくもらっていくわね霖之助さん」

「ああ! 待ってくれ二人とも! これは非常に珍しい糸で作った服でね! なんと世にも珍しい妖怪の仙……ってちょっと待ってくれ! せめて話だけでも!」

 

 彼の正体が知れ渡る日は予想よりも早いかもしれない。

 

 

 

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