東方 あべこべな世界で戦う    作:ダリエ

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2 プロローグ 新たな世界

「……むう。どうやら転移は無事成功したようだな」

 

 声を出す。出る。いつもの調子だ。

 体を動かす。相変わらず鈍っているが自身の体のそれだ。

 

 そのまま、各部の調子を確認する。

 …………問題はないようだ。ここで自分がおかしくなっていては流石に居た堪れない。

 

「さて、見たところと……そしてこの空気の感じ。やはりここも幻想郷のようだな。ここの強者たちを諦めきれなかったからちょうど良いが」

 

 季節は太陽と肌に感じる空気の感触から夏。そしておそらく俺がいた時間軸よりも昔だろう。そうなるように願って飛んだつもりだ。

 

「さーて頼むぞ……虎の子の秘宝を目いっぱい使ったんだ。もう世界移動なんて無茶はできないからな……!」

 

 この世界に来るのにはとっておきの願いを叶えるといった効果のある宝物を複数使った。条件を絞るために数を増やしたためだ。一応の予備も持っているがこここそが本命であると言える。

 

「まずはそう……時間軸の把握のために人里に行くか……天狗の新聞でもいいが、まあやっぱ人里だな」

 

 だいたいその辺で出会えるような天狗は適当な記事を書いているような奴だ。ゴシップも娯楽としてみると嫌いではないがここでいきなり飛ばし記事なんて怪しい物で情報を得るなんて真似はしたくない。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 人里にはすぐに着いたどうやら来た場所がそこまで遠くなかったらしい。ここに至るまで誰にも会わなかった。普段なら外でも近場なら里の屈強な男がうろついててもおかしくないが運が悪かったらしい。

 そしてやはり推測の通りだ。ここは時間軸が巻き戻っている。

 

 職業柄で人の顔を覚えるのは得意だったのだ。ここに来て既に見覚えのある顔がちらほらと、いくばか記憶より若い風貌で歩いている。

 

 しかしやたらとこちらをジロジロと見てくる。などと思っていたら大事なことを失念していた。

 

 この世界ではまだ俺が幻想郷に来ていないだろうから俺はそのままの意味でニューフェイスだった。

 それどころか、この世界に来れたと言うことはここにはピンポイントに俺と言う存在がいないかもしれない。人間界にいる時に何かでそんな話を見た気がする。自分との闘いができなそうなことに少し残念な気持ちになった。

 

 まあどのみちな話。俺はここで生きるのだからさっさと顔を覚えてもらえば済む話かと思い至って、適当に前の世界で評判の良かった茶屋に入ってまずは世間話をする振りをしつつ情報を収集することにした。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「ほう。そんなことが」

 

「そうなのよーそれでねー」

「まったくまぬけよねー」

「そんなことより聞いてよお兄さんーうちの子ったらねー」

 

 

 やんややんや

 

 

 茶屋に腰掛けておよそ小一時間。最初はのんびりと茶屋の娘と話をしていた。時間にしてみれば五分もなかった。

 

 それからなぜか、どんどん人がこの茶屋に集まりだしてすぐに席が足りなくなるほどの大盛況となった。人里の人間はこんなにもフレンドリーだっただろうか。

 

 よくわからないが情報を集められる好機と思い色んな人と話そうと粘ったが、女性ばかり集まりこの場で姦しいを体現し、おまけにどいつもこいつもなんとも益の無い話ばかり続いて相槌を打つのも苦痛に感じてきた。収穫らしい収穫といえば、今日が八月なのしかまだわかっていないのだ。キレそう。

 

「あ、この店よ阿求! ここにイケメンがいるって噂! この感じだとまだいるんじゃない?」

「待ってよ小鈴ー。こんなに人で溢れかえってたらどうせ中が見れないでしょ?」

 

 喧騒に混じって特有の高音の声で少女の掛け合いがこちらの耳に入る。この声はもしや外に阿礼乙女が来ているのか?

 

 私は席から立ち上がって確認する。周りは女性ばかりなので幻想郷においては男でも高めな身長をもってすれば十分に人垣越しで視認可能だ。

 

 …………見つけた。あれは貸本屋の娘。確か本居小鈴も一緒にいる。そして俺はそのまま彼女達に近づく。

 

「突然失礼。そちらのお嬢さん。もしや貴方は稗田家の阿礼乙女かな?」

「はっ、はい! 稗田阿求は私ですけど!?」

「お兄さん阿求に何か用なの? それなら立ち話もなんだし良かったら座ってお茶でもどう?」

「ちょっと小鈴!?」

 

 いかにも軟派な感じで本居小鈴が俺を誘う。よくやった!この流れなら無駄な世間話から解放される!

 俺は歓喜した。

 

 それに阿礼乙女ならばこの世界の強者を記した書物をこちらでも持っているはず。定期的に編纂されているそれを見れば誰が今こちらにいるのかの確認と共に、記載されている人物や出来事を見ればおおよそだが時間軸もわかるだろう。異変と共に新顔が増えるのがここの定説となっているらしいからな。

 俺は異変を起こしては無いが鳴り物入りでやってきた変わり種だ。

 

「それはありがたい。実は少し調べものがあってね。可能ならばで構わないが幻想郷縁起を見せてもらいたいのだ。無理ならば話を聞かせてもらうだけでも構わないのだが……どうかな? 当然お礼はしよう」 

「嘘!? 成功した! 阿求断っちゃダメよ!!」

「小鈴はちょっと黙ってて! えーとその、閲覧自体は大丈夫ですけど……あのうそのう縁起は手元に無くてですね、屋敷までお越しになられないとお見せできませんがよろしいのですか……?」

「ああ。見せてもらえるのならば問題ない。だがそちらにお邪魔する以上は手土産が無いと申し訳ない。支払がてらにいくつか包んでもらってくるから少し待っていてくれ」

「「「えーお兄さん行っちゃうのー」」」

「えーっと……失礼させてもらいますご婦人がた」

 

 俺はそう言ってそそくさとこの店からの離脱行動に移る。そのため喧騒に遮られ二人の会話が聞こえなかった。

 

「ちょっと阿求! いきなり連れ込みとかあんたそんなに肉食系だったの!? お願いだからおこぼれわけて!」

「何言ってるのよ小鈴!? これはあくまで、そう! あくまで縁起の閲覧のためであって何の下心もないの! ま、まあ遅くなりそうだったら屋敷に泊まっていってもらおうかなーくらいには思ってるけど」

「混ぜてくださいお願いします!」

 

 なお、ここの代金は「お兄さんのおかげで繁盛してるから」とタダにしてもらったうえ、気前よく土産分もくれた。

 金には困っていないが得した気分になった。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 それから俺は二人と連れ添って稗田の屋敷まで向かった。前の世界と変わらない立派な門構えである。門の守衛が女なのに気付いたが、まあそういう日もあるのだろう。

 そのまま奥に通され、二人の立会いの下で幻想郷縁起の閲覧を開始した。

 

 俺は縁起を無言でめくっていく。

 八雲紫や妖怪の山の天狗、河童。霧の湖の妖精たち。竹林のいたずら兎。花畑の風見幽香。

 

 古参、と言える類の妖怪は情報の精度に差はあれど大なり小なり何らかの記載はある。しかし人間に友好的なはずの守矢の神々、命蓮寺の面々がそこにいない。病院的役割を担っている永遠亭とやらの存在も見当たらない。

 そして紅魔館についても住人の記述がない。紅い館の存在だけは見受けられるので存在はするのだろう。

 

 不自然じゃない様に気を付けて聞いてみると、現在の時間軸はちょうど紅霧異変の発生直前だろうということがわかった。

 

 この異変が確かスペルカードルールが実装されてから史上初の異変だったはずだ。見に行くにも混ざるにもタイミングとしてはベストだろう。良い時に来れた。

 この手で異変解決の体裁を取って館に乗り込むのも実に楽しそうだ。

 

 さて、これでだいたいの疑問が解消された形になるためここでの用は終わった事になるのだが、どうにも少女二人が落ち着かない様子。さっきからこちらを熱心に見つめている。二人の本好きの性分ゆえに俺の縁起の扱いが気になるのかと思ったが手元でなくこちらの顔や体に視線を注いでいる。

 

 はて、前の世界で会った時はもう少し落ち着きのある感じだったしそれほど男に興味があるようにも思えなかったのだが。

 ただもしかしたら俺の知らないだけでこの時間軸で男関係で酷い目にあって未来に当たる向こうではそうなった可能性もあるので一概に結論は出せない。

 

 なにせ同じ幻想郷とはいえ異世界だ。何か大きな違いが潜んでいないことも限らない。

 ここには根本的に会話が成り立たなかったり噛み合わなかったりするような頭のおかしい存在がちらほらいるので、博識でまともな類の彼女らともう少し交流してみたくも思う。つまり交流続行だ。

 

「だいたい知りたい事はわかった。どうもありがとう助かったよ」

「あ……そうですか。助けになって何よりです……」

 

 ここで「ではこれにてさようなら」とするのは簡単だが、やはり多少の縁を繋いでおいた方が良いだろう。

 思えば俺はこちらの世界では真の意味で天涯孤独の存在となるだろうし身元を保証してくれそうな権力者との接点は純粋に美味しい。

 さて、ではどうやって仲を深めようかと思案していると阿求から声を掛けてきた。

 

「あ……あのー用事が終わったのなら少しよろしいでしょうか?」

「ん? ああ、構わないよ阿求さん。時間もまだありそうだからね」

 

 この時間とは霧が人里に到達するまでだ。これが切れるとおそらく巫女が出動して祭りが終わってしまう。時間にして数日の猶予だ。

 

「ではいくつか質問があるのですが……失礼ですけれど私たちは今日まで貴方をお見かけしたことがないです。私のことはご存じだったようですけど……貴方は何者なのですか?」

 

 隣で小鈴がそういえば!みたいな驚きの表情をしている。礼節を尽くしたつもりだが、とはいえよく見知らぬ男を茶に誘えたものだといっそ感心したが、どうやら何も考えてなかったらしい。

 

「ふむ。確かに私がこの人里に来たのはついさっきの事だ。もっと言えばこの幻想郷に来たのも半日と経たないくらい前の事とも言える」 

「!? と言う事は外来人なのお兄さん!? でもそれにしては何というかやけに馴染んでるっていうか……服とか完全に里の人間のだよね」

 

 さーて。どう答えるか。馴染んでいる理由はそのまま向こうの幻想郷に住んでた以上は浮かない服装を心がけていたからだし。

 そもそも完全にこっちに来たらどういう振る舞いをするとかそういうのは一切考えなかった。

 

 余談だが前の世界では強引に結界を引き裂いてこっちに入ってきたので、賢者やら巫女やら魔法使いやら式やらが盛大に歓迎してくれたのだが、両者共通の知人が集まってきて説得。和解させられた。せめてあそこで暴れられたらもう少し向こうでおとなしくできただろうに。

 

 まあ基本的に後先考えなければ俺自体の強さで。少しの自重さえすれば能力がまた勝手に発動して生きることに不都合は発生しないのだ。その辺は気楽である。

 

 ここはもうそのまま答えてしまおう。幻想郷は全てを受け入れるとかあのスキマ妖怪も言っていたし。

 

「……信じられないかもしれないが、俺は異世界の幻想郷から来た。人間ではないが単純に妖怪……というだけでもない。まあ人に紛れて短くない時間を過ごした人外だ。安心するといい、人外と言っても人食いや殺しなどはやらんタイプだ。君たちの言い方だと人間友好度:高は最低でも保障する」

 

 俺はありのままに自らのことを話始めた。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 私は稗田阿求。阿礼乙女にして九代目のサヴァン。幻想郷縁起の編纂を生業としている。

 今日もいつものように編纂作業に取り掛かっていると今生での私の友人である小鈴が家に押し入って来るやいなや言った。

 

「阿求ー! ウチの店に来たお客さんから聞いたんだけど今茶屋にすっごいイケメンがいるらしいよ! ねえ行こう!!」

 

 なんて言ってきたので休憩がてらに私たちはその茶屋まで向かった。あくまでその茶屋の評判が良かったのであってイケメンには期待していなかった。していなかったらしていなかった。

 

 どうせイケメンが居たところで私たちには関係のないことだし。私たちより綺麗な人と仲良くしてどこぞへ去って行くのを見ることになるのが関の山だ。それならむしろいない方が精神衛生的には良い。

 なんてわかってはいるのだが悲しい事に好奇心には勝てず私たちは確実に速足で街並みを駆け抜けた。

 

 しかし実際に辿り着くとそこには人だかり。いるのは女ばかり。

 

 流石にこれはここいるのは間違いないと確信したら、なんと件の男から声を掛けてきたのだ。噂に違わぬイケメンであった。 

 彼が縁起の閲覧を求めてきたためほんの少し悩んだが、屋敷まで足を運んでも良いと言ったので即了承。小鈴とともに私の部屋まで連れて行った。

 この時ばかりは自分が阿礼乙女だったことを感謝した。神や仏の知り合いはいないので映姫さまあたりに。

 

 家に着き、彼が黙々と調べものをしているのを二人で視姦する。 

 

 人里どころか幻想郷中探してもいないような偉丈夫だ。背丈は六尺は超えていて、さらに追加で五寸ほどもあるかという長身。体も見事な筋肉に覆われているのが大きく前が開いた通気性の良さそうな着流しから窺える。実に堪らないスケベ和服だ。この男スケベすぎる。小鈴なんてもう胸しか見えてない。

 

 この幻想郷に多い黒髪に顔もまたキリリとした若く見えるも貫禄のあるイケメンだ。こんな近くで始めて見る親類以外の男がこれほどの美丈夫なのは幸運だ。

 

 しかし、同時に私の能力。一度見た物を忘れない程度の能力で気づいてしまった。こんな特徴的な雰囲気の男は今までに見覚えがないのだ。

 つまりこの人はこの人里にいきなり現れたことになる。今までいなかったにしても隠棲していたとしても、少なくともただの人間ではないだろう。

 

 だが、妖怪だとしてもこれほどの人物が噂にならないはずはない。ネタに飢えた文さん辺りがストーキングしないはずがないからだ。

 

 となると本当にこの人物は謎である。

 

 外来人である可能性……に賭けてみたいところだが、外の世界から男が来て里にたどり着く間に無事でいられる確率まで入れて計算するとそれはゼロみたいな物だ。しかもこんな上物をだ。ありえない。

 それにただの人間にしては実に居住まいが堂々としており、私たちも含めて全く女を怖がっていないようにも見えるし、この人里もまるで歩き慣れた道でも通っているかのような気楽さを感じさせる足取りの軽さだった。

 

 となると……やはり妖怪だろうか。

 髪色こそこちらでも一般的だがその魔性を感じる赤目との組み合わせは文さんを思わせる。それなら私たちは結構危ない状態だ。食品的な意味で食べられてしまうかもしれない。彼になら食べられても……なんて思わなくもないがせめて後二十年とは言わないでも十年は生きたい。ただでさえ短い天寿なのだから全うしたい。

 

 私は意を決して彼に何者かを聞いてみた。

 もし最悪の答えが返ってきたら、死に物狂いで色々揉んでやろうと決意した。

 

 すると驚きの答えが返ってきた。彼は何と自称・異世界の幻想郷から来た人外だという。

 いまいち信じがたい話であるが、確かにそれなら実際いきなり現れていることの説明も通るし、強いため堂々としていて、こことは別の幻想郷とて幻想郷ではあるので見知った街並みだろう。

 

 しかしなんでこの男はここまで女を恐れたり忌避しないのか。それの説明がつかない。妖怪と言えども男はあまり女性に近づかないはずなのに。あまつさえ人間に友好的だとまで言いきった。実際に彼からは悪意も脅威もこちらに対する忌避感も感じないでいる。

 それどころか私たちに対して近所の子供でも見ているような優しげな目をしている。

 

 私は不思議だなあと思いつつ、彼のいた異世界の幻想郷とはどんな所だったのだろうと夢想しながらも彼から目を離せずにいた。

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