東方 あべこべな世界で戦う    作:ダリエ

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25 永夜の終わり

 

 俺たちが黒幕である蓬莱山一行の屋敷があるだろう場所へと近づくとそこは焦土と化していた。妹紅が言うにはこれくらいの損傷でもここなら数か月以内には完全に元に戻るらしいから竹林の生命力には驚くものだ。

 

「これは中々派手に暴れたなアリスたち。まあいい、輝夜(あいつ)の家なんだしどうなったところで私は困らない。なんならいっそ気分が良い。とても良い。よし、このまま押し入るぞアトラク」

「ああ。しかし建物は全くの無傷。この魔力の感じは霧雨魔理沙のマスタースパークだろうが……それを完全に無効化とは」

 

 やはり永遠亭の住人はかなり、やる。

 

 そう肌で感じながら室内を進んで行くと、兎の耳を生やした少女が二人ほどボロボロの風体で転がっていた。

 

「お、こいつらは輝夜のペットのイナバどもだな。こっちは因幡てゐ。こっちは鈴仙(れいせん)優曇華院(うどんげいん)・イナバだ。私も何度か襲われたことがある」

「この二人は前の世界でも見たことがあるな……しかし鈴仙の方はこんなに弱かったか? 向こうでは見た感じでもその振る舞いにもかなりの強さを感じたんだが」

 

 彼女の傷の具合から見るにおそらくは咲夜と妖夢に切り刻まれているようだ。部屋には弾痕もなし。二対一で反撃すらできずに徹底的な完敗を喫したようにしか見えない。

 因幡てゐはおそらく霊夢と魔理沙の弾幕でやったっぽいが、こちらには多少の抵抗の跡が見受けられる。

 

「未来では修業でもしてたんじゃないか? 鈴仙ちゃんは私から見ても色々未熟だし伸び白はあるだろう」

「うーむ。あちらとの強さの乖離がこうも大きい妖怪は初めてだ。妖夢にでも頼んで何かの特訓に参加させてやるか……それともこいつも異変解決レースにぶちこむか」

 

 育成後の状態を知っているせいでどうしてももったいなく感じる。俺もお節介を焼くか。

 

「とりあえず……この子らは持って行って八意永琳に治療をさせるか。まず間違いなくこの先にいるだろう」

「そして輝夜だな。さぁ……結納の前に決着させようじゃないか……輝夜!」

「また気が早い……と言ってもやっぱりお前は結構ゴールに近いところにいるんだけどな」

 

 不死の炎使い。それだけで俺への相性はかなり良い。糸が消されるだけでもかなり不利だ。ただ相手が蓬莱山輝夜となるとどうなんだろうか。月の連中の強さがいまいち把握できてない俺では判断できない。唯一の判断材料だった月の兎だった鈴仙が今の時点ではあてにならなくなっているからなおのことだ。

 

 俺は二羽の兎を怪我を悪化させない様に抱え、そのまま先を行く妹紅の後を追っていったのだった。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「「くっさぁっっ!?」」

 

 俺と妹紅が最奥の部屋だと思われる襖を開くと、ツーンと酸っぱいような悪臭が鼻へと突き刺さった。クソ!ウサちゃん抱えているせいで両手が塞がってて鼻を摘まめない!助けて!

 いや魔法とかそういうの使おう。俺だって色々習ったんだ。それくらい余裕ですよ!ここは息を止めよう。妖怪に呼吸はあんまりいらない!

 

 一時の解決法を見出した俺は周囲を観察する。すると視界には異変解決へと乗り出したであろう八人の無残な姿があった。全員とは言わないまでも口から女が出すべき物でない物を吐き出している。数名はその上をのた打ち回ったのか、被害が顔だけで済まなくなっていた。

 

「おい! お前ら無事か!? 紫! お前賢者ならしっかりしろ!!」

 

 近づかずに紫に叫ぶ。流石にこれはちょっとお近づきになりたくない状況だ。頼むから起きていてくれ!

 

「ああ……この声はアトラクね……来てくれたのね……? 私たちはもうダメよ……私の最後の力でみんなを回収するから後は……お願い……」

 

 口を押えてなんとかそれ以上の嘔吐を耐えていた紫は巨大なスキマを足元の全員が納まる位置に開いて付近の吐瀉物ごと彼女たちを回収して去って行った。あれ、スキマの中で大変なことになるのではないだろうか。いやもう遅いか。今度会う時までにはお風呂に入っておいてほしい。アトラクさんとの約束だ。

 

「ふふふ……新手ね? でもこの私が顔を出している以上は誰が相手でも……」

「私が相手だ。輝夜!」

 

 妹紅が前へと進み出る。完全にやる気のようだ。体はさっき燃えていたから温まっていることだろう。

 

「へぇ……来たんだ妹紅……いいわ。あんたなら私とだってまともに相手になる。そっちの連れはウチの子を回収してくれたの? 気が利くじゃない。それに免じて命だけは……」

 

 蓬莱山輝夜はやっと俺に気付いたらしい。眼が点になって棒立ちしている。重くもないが俺が抱えていたところで意味のない二人を手早く引き渡そうか。

 

「とりあえず兎ちゃんたちは返すよ。あんたならすぐにでも治せるだろ? 八意永琳」

「ええ……ありがとう? 貴方……男? いいえ! それよりも輝夜を見て何ともないの!? 吐き気や頭痛や蕁麻疹は出てない!?」

「平気だ。噂に違わぬとしか。これならもう闘わなくてもなんて半分くらい考えてる」

 

 流石のこれには俺も心を動かされる。美しく輝くような、いや、正しく輝いている夜の闇のような黒髪。その美の神が作ったかのように整った顔。服の中に隠れている肢体の方もさぞや素晴らしいのだろう。そして何より老いず、死なず、かつ強いというのが最高だ。八意永琳もまた素晴らしい。美しくも一切の劣化をせず、何よりも賢い。当然強くもある。あと輝夜と妹紅より胸が大きい。妹紅も含め、蓬莱人とは俺にはとても嬉しい存在だ。

 

「そこまでだ。私のやる気に火を点けるのはそのくらいで良い。これ以上は嫉妬でお前ごと燃やしかねないからな……!」

「おぉ。こわいこわい」

 

 俺はそう言って燃え上がる妹紅の位置よりも後ろに下がって完全に高みの見物に移る。

 

 そのタイミングで蓬莱山輝夜は再起動してきた。

 

「ちょ、ちょちょ、ちょちょちょ! 何なのよ妹紅その男は?!」

「私の旦那だ。将来のだがな」

 

 妹紅が自慢げに口元をゆがめて笑う。ここまで彼女が嗜虐的な笑みをしていたのを見たことがないくらいの笑顔だ。嫌いな相手を煽るのはさぞ楽しかろう。

 

「はぁーーー!? あんたなんかが結婚できるわけないでしょ!! 現実と鏡を見ることをお勧めするわ!!!」

「フッ、お前にだけは言われたくないな」

「それに何でその人此処にいて平気そうなのよ!? あんたみたいな白ブサイクとゲロまみれのブサイクと私の顔を続けざまに見て、こんな涼しげな反応で済むわけないでしょ!? 私だって鏡を見るたびについ砕いちゃうのよ!? 自分の顔が嫌でね!!」

「それは特段自慢することでもないし鏡もタダというわけじゃないんだから止めてちょうだい……さて気が付いたかしら優曇華、てゐ。もう大丈夫よ」

 

 そんな二人のやり取りの間に八意永琳の手で回復された兎が覚醒する。

 

「ううぅ……酷い目にあった……って姫様ぁ!! うっ!! 袋を……」

「バーリアー!! これで姫様の悪逆フェイスは私には見えませーん! 甘いよ鈴仙! ってここ臭いっ!」

 

 鈴仙は起き抜けに輝夜の顔を見て即青い顔を、てゐは状況を察して何とか直視を免れるも視覚を絶ったせいで嗅覚が一層働き、薄まったとはいえこの悪臭に気付いてしまったらしい。

 

 自分の顔にいちゃもんつけられた形になる蓬莱山輝夜はそちらには怒らずにむしろ自分に慣れない二人に呆れている。

 

「あんたたちね……いい加減に慣れなさいよ」

「うわぁ……こっちの永遠亭はいつもこんななのかな。八意永琳さん?」

「大変見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ないわ……ところで貴方は本当になんなの? 姫の顔を含めて私たち全員平気みたいだけど?」

「俺は異変を解決しに来た者。妹紅の後詰だよ。妹紅がダメなら俺がアンタらを倒す……と言ってもその必要がないことは知ってるんだ。そちらは今回の満月が終わりさえすればいいんだろう?」

「貴方……一体、それをどこで? まさか月の……」

「違う違う。ちょっと未来でな。俺は価値観の違う世界から来た。聡明なアンタならある程度察することができると思う」

「……なるほど。言ってることは荒唐無稽でもこの場の事実を見れば嘘とも言えないわね。ここにはそんな者までいるなんてね。しかし見る側の価値観……そういうアプローチもありかしら……」

 

 何か思索に耽っているようだが……多少の納得を引き出せたということにしてそこそこのところで本題に入る。

 

「さて、今は幻想郷代表として言わせてもらう。永遠亭の諸君は即刻この密室を解除せよ。幻想郷は博麗大結界によって守られている以上、外部からの接触は元より不可能だ。これは賢者と巫女が存命な限り大丈夫だろう。密室を解除してもらえばこちらも夜を終わらせると八雲紫に代わって約束しよう」

「……良いでしょう。信じます。いいわね輝夜?」

「嘘だったらあなたには永遠亭の×××になってもらうわよ」

 

 こいつ……平気な顔して恐ろしい単語を吐きやがった。

 

「そいつは勘弁。じゃあ訂正。お前の弟子の綿月なんとかという姉妹はなんでか来れるらしいけど、その二人は元からお前たちというか八意永琳に敵対する意思はないらしいから実質敵はいない。これは未来の情報だけど一応そっちの持つ知識や認識と合わせて考えてくれ」

 

 俺は八意永琳に対して告げる。彼女ならばそれだけの思考材料が揃えば脳内で答えを出してくれるだろう。

 

「あの二人ならそうかもね……いいでしょう。こちらとしてもこれ以上事を荒立てるつもりもないわ。密室を解除します!」

 

 八意永琳は術を解除した。見ることはできないが外の月も戻っただろう。後はそれに気づいた紫が夜の境界を戻して異変解決は時間の問題だ。第三部完!

 

「感謝する。これで異変は終わったわけだが……ウチの妹紅ちゃんがそちらのお宅の輝夜さんとの因縁を清算したいらしいんで付き合ってやってくれないか?」

「助けてもらってなんですけど、それ私たちにメリットあるんですか……?」

 

 復活してきた鈴仙が問いかける。それは最もな言だ。ではいつも通りに手早く彼女らにもやる気を出してもらおうか。

 

「そうだな……妹紅に勝てたら早速ではあるが俺が闘ってやるよ。かくかくしかじか……って感じで俺に勝てればそちらのお姫様だってお嫁にもらっていくさ」

「「「「!!!!」」」」

 

 その発言に永遠亭の住人全員が目を剥く。 

 

「輝夜ぁ!! 闘いなさい!! そして勝つのよ!!! 貴女に残されたチャンスはもうこの場にしか無いわ!!!」

「姫様ぁ!!! 頑張れぇ!!!」「姫様ぁ!!! お願いしますぅ!!!」

「わかってる!!! 来なさい妹紅!!! あんたを倒して私は!! 幸せを掴んで見せる!!!」

 

 凄まじい気迫で輝夜は妹紅の前へ立ちはだかる。ここまで彼女らは切迫していたのか。これは無駄に本気を出させてちょっと妹紅に悪かったかな、なんて思わなくもない。

 

「はっ!! 今更お前が幸せになるなんて虫のいい話があってたまるか。幸せを掴むのは私だ。お前は一生ここに引きこもってろ」

「俺は蜘蛛だから昆虫ではないけど虫なんで『虫のいい話』というのは間違ってないぞ」

「黙ってろアトラク!!」

「貴方様はアトラク様と言うんですね!!! 少々お待ちください!! 私が貴方を迎えに行きます!!!」

「あーまあどっちも頑張ってね」

「全くどっちの味方なんだか……さあ、前口上はいらないな。殺してやる!!! 輝夜ぁ!!!」

「来いやぁぁぁ!!! 妹紅ぉぉぉ!!!」

 

 不死の人間たちの殺し合いが始まった。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 それからしばらく……

 

「ねえ……思ったのだけれど、これって決着が着かないのではないかしら……二人とも早々に弾幕やめちゃったから死なない二人には終わらせようがないわよね?」

「ああ……言われてみればそうですね師匠……姫様も妹紅も蓬莱人だし」

「まあ気が付いた方がまた弾幕ごっこに変えるでしょ……」

「いやわからんぞ? あいつらはもう何も考えずにただただ二人でどつきあってるだけだし」

 

 部外者である四人は部屋の端っこで固まって観戦している。この間にちょっと仲良くなった。既に二人が何時間闘っているのかわからないのだから親睦を深めるのに十分な時間でもあるが。

 

 既にお互いに死亡回数が二桁を超えて久しい。それでもただただひたすらに殺し合っているほどだ。殴る。蹴る。撃つ。燃やす。潰す。消す。千切る。貫く。絞める。etc

 

 お互いに徒手とはいえ様々な手段でお互いの命を減らしあっているのにも関わらず終わりは見えない。当然である。二人は輝夜の永遠を操る力を使い作られた蓬莱の薬を飲んだ不老不死の蓬莱人。その命に終わりは無く。魂は不滅。決着が訪れることも無い。

 

 あるとすればその心に変化が起きた時だろう。

 

「はぁはぁ……ねえ妹紅? 提案があるんだけど」

「ふぅ……なんだ? 息抜き代わりだ。一応聞いてやる」

「もしかして貴方も私と同じ条件の話を受けてたりするの?」

「ああ。お前と全く同じ条件だ。あいつはこの幻想郷の強い女連中にはかたっぱしから声を掛けてるよ。お前に限った事じゃない」

「そうなの……じゃあいいわ。妹紅、協力しなさい。私とあんたと永琳に優曇華とてゐ。五人で共闘するわよ。蓬莱人が三人もいればどんな相手にも勝てるでしょうからね。癪だけどね」

 

 妹紅は少し考える素振りを見せるがやはり即答する。

 

「話としては悪くない……だがダメだ」

「何でよ? 私は永遠亭のみんなで幸せを掴みたい。そこにあんたも入れてやるってのよ? 不死同士仲良くしましょう。それとも外に私にとってのみんなでもいるわけ?」

「そうだ。私は慧音と一緒に勝つと決めている」

「それならそいつも一緒にやりましょう。私はここで機会を逃すわけにはいかないの……! これは私に巡ってきた唯一の幸せになれる運命なのだから!」

「……お前何か勘違いしてないか?」

 

 妹紅が逆に輝夜に問いかける。

 

「勘違いってなによ? あんたを倒した後に彼を倒せばいいんでしょ? 簡単なことよ。間違えようがないわ。単純でいいじゃない。好きよこういうわかりやすいの」

「なら訂正する。お前は知らないんだよ輝夜。あいつは一回負けても再挑戦させてくれるし、別に機会が今日の一回だけというわけでもない。ここの外の連中の大体は頻繁に挑んで返り討ちにあってるよ。私も実際に見たわけじゃないから張本人に聞いてみたらどうだ? それくらいは待ってやる」

「そうなの!?」

 

 妹紅の言葉に従い、輝夜は疑問をこちらに投げかけてきた。

 

「アトラク様ー!! 妹紅の話って本当ですかー?」

「ああ。最多で紅魔館の連中が平均で二十敗くらいしてるぞ」

 

 俺は簡潔に答える。待ってる間にちょっと眠くなってきたのだ。ちょっとやる気がない。

 

「という訳だ。だから輝夜……こちらから提案だ。お前の話には乗ってやるからここで私の気が済むまで殴らせろ。お前にはいい加減鬱憤が溜まってるんだよ。それをここで解消してやる。それが済んだら今までのことを水に流しても協力しても良い。お前一人に時間を使うよりも有意義だからな」

「はっ! そんなの聞ける訳……」

「良いのか? 私を仲間に引き入れた方が絶対に得だぞ。なぁアトラク!」

「そうだな。今のところ妹紅が一番俺に勝ちやすい能力を持っている。他が出てきてもやはりそれほど優位は動かないだろう」

 

 旧地獄のカラスが核熱の力を手に入れるはずだがちょっとおつむが弱いらしいからどうなんだろうな。

 

 輝夜は頭を抱え逡巡する。妹紅に殴られるのは精神的に癪だ。しかしどうにも妹紅がいた方が得らしい。ここは多少の恥や屈辱に目を瞑ってでも妹紅を抱き込むべきかを考える。

 

 そして考えた末に俺から見て、その艶やかな美しくも愛らしい唇から答えを絞り出す。引きつった笑顔で応じる。そんな顔もまた美しい。

 

「…………手加減してね?」

「手短には済ませてやるさ…………!」

 

 こうして、妹紅が気の済むまで輝夜を殴ることで不毛なる争いは終結し、彼女らの千年に及ぶ因縁に一応の決着はついたのであった。

 

 

 

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