東方 あべこべな世界で戦う    作:ダリエ

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行間詰めました。
小説情報にも書いていますが一話から順に行間詰めてちょいちょい話の進行に障りが無い程度の加筆もしていきます。


28 人里の隣人たち

 さて、季節はもう十一月。ただでさえ季節外れの竹林での肝試しなども俺がコツコツ外に出て活動している間にとうに終わっている時分。

 

 俺はしばらく外界で動いていたために今日は店を閉め、溜まっていた新聞などを読んで幻想郷の出来事を追っていた。服を編むのは俺なら外でも可能なので仕事はそれほど滞ってはいなかったのである。

 

「ふむ……ここは相変わらずだな。夜を駆ける珍品ハンター……これは咲夜か? 何をやっているんだアイツは……こっちは蟲の知らせサービスか……そんなの向こうにあったっけ? これは新しい食品のデリバリーの宣伝かな? バッタとか取り扱っているなら一度くらいは……」

 

 元より文の新聞だ。記事もゴシップに近い物が多く、そもそもが娯楽色の強い大衆紙なので情報も内容もそれなりだ。ただ彼女同様その刊行の早さには見るものがある。個人発行のものとしては明らかに早いのだ。

 

「ふぅ。さてさて、時間ができてしまったな……」

 

 今日は店も開けない。そう決めた。店のやるべき仕事も終わっている。そもそも去年が特殊だっただけで今年は余裕を持って冬服の生産を行い。そして既に終えている。服には耐久性もあるので去年から続けて同じ服を着れる者も多く、もっぱら一年でサイズの変わった子供用の物の生産を行うだけで済んだ。

 

「……たまにはのんびり出かけるか」

 

 久しぶりに人里を回ってみようと決め、財布と鍵だけを手に取り外に出る。

 

 顔を合わせれば老若男女問わず挨拶をされるので返事をするのも少々大変だが、それはここに馴染んだ証でもあるので嬉しさも大きい。当然、女性からの甲高い声掛けが多いのはご愛嬌だ。そもそも数が違うのもあるので仕方ない。低音が恋しい。

 そのままのんびりと歩みを進めるとどこかで金属を叩くような音が耳に入る。そちらに足を進める。

 

「鍛冶屋か……」

「まいどー! あっ! アトラクだー! 元気ー?」

 

 ぼんやりと店を眺めていたら接客を終えたのか、人を送り出した小傘がこちらに気付き声を掛けてきた。ちょっとびっくりした。てっきり鉄火場の方にいるものとばかり思っていた。

 

「驚いたよ。ああ、暇を持て余しているくらいには……そっちは景気良さそうだな」

「うん! やっぱりアトラクを驚かせてもお腹は膨らまないね。お店の方は良い感じだよ。薬缶とかお鍋とかの金物も冬前だから注文があんまり減らないし、鉄をトンチンカンって叩いてるのも楽しいし、それに何より私が接客に出ているとみんな驚く! いらっしゃいませうらめしや~って言うとそれだけでびっくり! 私のお腹もいっぱいでご飯休憩もいらないよ」

「多分、妖怪が真っ当に仕事してるのに驚くんだろうよ。俺も似たようなもんだが先に性別の方の驚きが来るらしいが」

 

 でも休憩は取りなさい。労基が怖いからね。いやここにはないか。というか普通の妖怪なら人前に出て働き、驚かれる方がよほど休憩になるか。ここの店主はもしかしたら妖怪の見識があるのかもしれない。

 

「そっか~。あっ、頼まれていた物はまだかかりそうだよ。良い鉄が用意できなくて……ごめんね? そうそう、アトラクって服屋さんなんだよね? 良かったら代わりに針とハサミでも見て行く?」

「そっちの件はゆっくりで構わない。俺の糸は生半可なのじゃ切れないからな、針も刺さりづらいから俺が自分で作る時は何も使っていないしな」

 

 断ちたい時は妖怪パワーの引きちぎったり、噛み千切ったりだ。待ち針くらいは欲しい時もあるが慣れればなんとかなる範囲だ。

 

「そっか~。代わりに腕によりをかけて打ち直すから期待しててね! ねぇ、もし生半可じゃない針とかを作れば買ってくれる?」

 

 小傘は赤と青のオッドアイをこちらに向けて上目づかいにそう聞いてくる。この角度がなんとも彼女を愛らしく見せる。

 

「ああ。できたらな。そうなればここの衣類の大店(おおたな)も俺の布で好きなように服を作って売れるし、注文も殺到するんじゃないか? 俺も一言くらいは薦めてやるさ」

「おお! あちき頑張るよ! たいしょー!!」

 

 小傘はそう言うや否や店の奥に引っ込んだ。店主と相談するのだろう。

 実際、俺の糸は加工が難しい。そのせいでこの里の先住の同業は俺の服の染めだけを任せることとなった。しかし加工が可能なら俺は布だけ渡してもっと楽に稼げるようになる。つまり商機はある。それに俺が食って糸出せば良いだけの蚕状態になるのだから期待しておこう。

 

 それから俺は再びのんびりと歩き出した。すると、屋内にちらりと知り合いが目に入ったのでとある店へと入る。

 

「よう、何か良い本は入っているか小鈴?」

「あっ! アトラクさんいらっしゃーい! うーんアトラクさん好みの本は無いかなー。それより今度また仕事手伝うから外界の本買って来てよ!」

 

 彼女は少しの気おくれもせずに注文する。本屋はあちらの方なんだがな。

 

「全く……俺が興味あるやつは買うからそれを読んだ後にやるよ。今年は冬の間はずっと外に出ているつもりだしな」

「やったー! ついでにお茶飲んでく? 椅子はここの使ってね!」

 

 小鈴は話し込む気満々らしい。まあここも店番は暇なのだろう。わかる。

 

「いいだろう。ただし」

「わかってるってー。おとーさーん! お茶とお水ー! 一つずつねー!」

 

 その後、飲み物を持って来た本居父と小鈴の三人でしばらく本の話をした。二人は外回りの仕事から帰ってきた本居母にサボっていたのを怒られることになったのでお開きになった。

 

「さて、少し腹が空いたな……」

 

 いや。少しどころじゃない。思えば今日は何も食べていない。時刻は気が付いたら夕方。どこかで何か食べるかと思い、一人里を彷徨い歩く。まだ夜店を始めるには若干早いのだ。

 すると、子供たちの喧騒が聞こえてくる。既に寺子屋の授業は終わり、思い思いに遊んでる時刻だろう。心なしかいつもよりも頭数が多い気がする。どこかで集まって遊んでいたのだろうか?

 

「あっー! ナカ先生ー! 何やってるのー?」

 

 童女に捕まった。当然、慧音のところの寺子屋の生徒だ。俺もごくたまに家庭科……というより裁縫の授業を教えている。俺の出席率から考えて教師陣の中でも屈指のレアキャラとなっているが。

 

「お散歩だ。君は?」

「人形劇の帰り! あのお姉ちゃんの劇おもしろいんだー。顔はあんななのにねー」

「顔は関係ないだろ顔は。ちゃんとお礼言ったかー?」

 

 申し訳程度の先生ムーブをしておく。

 

「言ったー。おもしろかったからまた来てねって」

 

 それは催促では?俺は訝しんだ。だが、考えようによっては何よりの礼でもあるかもしれない。判断が難しい。

 

「まあ次からはそれと、ありがとうございます。も言っておきなさい」

「そうするー」

「じゃあそろそろ帰りなさい。もうすぐ暗くなる。里では先生たちがブイブイ言わせてるけど夜は危ない妖怪も出るからね」

「はーい。先生さよーならー」

 

 少女が挨拶をして家路につく。他の子供もこちらに気付き、挨拶を返しながらも家屋の立ち並ぶ方へと駆けて行った。俺は彼らに対して逆走する形で進むと広場にはまだアリスがいた。

 

「ようアリス」

「誰!? ああ……貴方だったのね。急に声を掛けられたから誰かと……しかも男の人の声だし……あーびっくりした」

「残念だが俺は人間だろうとそれ以外だろうと驚かせたところで腹は膨らまないんだ。というわけで腹を膨らませに夕飯でもどこかに食べに行かないか? 奢るぜ?」

「そ、それって……で、で、で、デート!?」

 

 アリスは途端狼狽える。なんか珍しい反応だ。今まではどいつも喜んだり、ありがたがったりだったのに、こんな初心な反応は新鮮だ。

 

「……いや、そういうのは俺に勝ってからだ。なんなら今からやるか?」

「あっ! そ、そうよね……私ったら。あんまりこういう経験無いから早とちりしちゃって……闘いは今日は止めておくわ」

 

 アリスはどうもこういう男慣れしていないところがあるようだ。他は慣れなさゆえの無茶攻めでグイグイ来ることならよくあるが……こっちは珍しい。俺は気になって聞いてみた。

 

「他のやつらもそうお前とそう経験は変わらないはずだが……なにかあったのか? 男が苦手だったり?」

「あー……そのー私の親のような人がちょっと……あんまり聞かないでもらえると助かるわ。苦手と言うわけでもないから。貴方は特に親しみやすいし安心して。これからちゃんと慣れるから」

 

 アリスはちょっとどんよりとした表情でそう言った。アリスの親なぞ向こうで聞いたことがあっただろうか?よく覚えていない。そこまで親しくもなかったし。

 

「まあそれならいいさ。じゃあ早速慣れるためにどこか行くか。良い店知ってる?」

「ごめんなさい。私もお茶くらいしかしなくて……」

「慧音でも探すか……あいつなら知ってるだろうし……お、あそこにいるのは、おーいうどんちゃーん!」 

 

 頭には被り笠。紫色の行者風の和服。背中に小さな身体と比べると大きなつづらを背負った人影がいた。服は俺が仕立てた品なので流石に誰かわかる。

 彼女は名前を呼ばれてすぐにこちらに気付き寄ってきた。

 

「これは……アトラクさんにアリスじゃないですか。お二人はこんな時間にどうしましたか?」

「実は今から飯食いに行こうと思ったんだが、良い店知らないか?」

 

 この三人の中なら最も多くの人里に店舗を知っているだろう鈴仙に聞いてみる。俺もまだ一年だからこちらの人里は把握しきれていないところがあるのだ。里の外にいる時間も結構長いし。 

 

「そうですね。この時間なら里の外になりますが夜雀が屋台を引いている時間かと。珍しいヤツメウナギを焼いているみたいですよ? 帰りに何度か見かけて気になってたんですよね」

「そうか。じゃあお前も来いよ。奢ってやるから」

「良いんですか? ああっ……でも道草なんてしてたら怒られてしまいます……」

「じゃあ帰りは付いて行ってやるよ。ほら! 案内頼む。アリスも行くぞー」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「はーい注文の熱燗二本に白湯ねー。ヤツメはじゃんじゃん焼いていくわねー」

「ありがとう女将。では乾杯」

「乾杯」「乾杯です!」

 

 俺たちはミスティア・ローレライのやっている屋台に問題なく到着し、食事を始めた。

 

「ふう……やはり夜はこの時期でも随分寒くなるな。俺の店が儲かるわけだ」

「お客さんってやっぱりあの噂の蜘蛛男妖怪さん? 初めて見たわね~やっぱり実在したんだ~」

 

 ミスティアは串刺しにしたヤツメウナギを手元で焼きつつもこちらに話しかける。ここは客と店主の距離が近いタイプの店らしい。

 

「ああ。どんな噂が届いてるんだ?」

「そうね~。大体は天狗の新聞の物かしら? 私はお客さんたちとよくお話するからちゃんと本当っぽいものからわりとガセっぽいのまで聞くわよ。それと藤原妹紅って人間もたまに来るし、貴方の知り合いでしょう? よく貴方のだろう愚痴を一人で酔って漏らしてたわ」

「あいつここに来てるのか」

「たまによ、たまに。でもほとんどは噂でしか知らないわね。はい! とりあえず焼けた分どうぞ。人里の中にまで入るような子は多くないし、貴方の店そんなに開けないんでしょ? ちょっと興味があるくらいじゃ正しい情報もなかなか手に入れられないんでしょうね」

「そうか……」

 

 もしゃもしゃ……意外と上手いなヤツメウナギ。これは素材が良いのか、作る側の腕が良いのか。

 

「私は人里のお客さんと話すとたまにアトラクさんの話を耳にしますね。そちらではさぼりがちだけど腕の良い職人という評価で固まってます。人格もやはり他の男性とは違って女勝りですが人柄も良く、寛大であり、知識もあると高評価です。それこそ慧音さんに近いですね」

 

 ちょいちょい聞きなれない単語が混じるのはもうしょうがないのだろうか。評価が高いのは良いのだが。

 

「慧音にまで近いのは凄いわね。あの里のほとんどの住人が慧音には信頼を置いているのに……やっぱり時間も顔に勝てないのかしら?」

「ブサイクな方にはある程度は慣れるんだけどね。あっ、アトラクさんお酒おかわりしても良いですか?」

 

 このウサちゃんは本当に物怖じしないな。家に恐ろしいのがいるからだろうか。でも俺はそういう物怖じの無さは好きだ。気を使わなくて済むのだ。

 

「好きに頼みなさい。俺も串もっと頼むから。アリスも遠慮するなよ? なんか一緒に頼んでおけ」

「じゃあこのお野菜の串をもらおうかしら……」

「まいどー! 今日は貴方たちだけでいい稼ぎになりそうで嬉しいわ~。一曲歌っとく?」

 

 結局、その晩はミスティアも含めた全員がテンション上がって好きにどんちゃん騒ぎをした。全ての支払いが俺持ちだったので財布へそれなりの被害が出ることとなったがセーフ。でもそろそろ少し節制をした方がいいかもしれない。

 

 あと後日聞いた話では鈴仙は一人で帰ったので普通に怒られたらしい。忘れてたわ。ごめん。

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