東方 あべこべな世界で戦う    作:ダリエ

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29 異聞 竹取物語

 竹林を一人進む。迷いの竹林なんて名前は伊達では無く。あらかじめ糸を仕込んでおかなかったら既に百回くらいは迷っていると思われる状況になっていた。

 

「……やばいかも」

 

 ごめん嘘ついた。迷いました。詰んだ。なんか気が付いたら何もしてないのに糸がついた竹が抜けてて外に戻れなくなった。

 軽い気持ちで永遠亭までこの前の鈴仙のお詫びも兼ねて一人で遊びに行ったらこんなことになるとは……

 

 いざとなれば竹林まるごと吹っ飛ばせば多分助かるがそれは最後の手段に取っておこう。

 ま、まあ腹が減ればその辺にたけのこも生えているし、ウサギもたくさんいる。餓死をしないだけの食料があるならば俺は礼節を保てる。衣食住の内、衣と住は自給できるのだ。食えさえすればいい。

 

 なので俺は周辺にいるウサギを愛玩動物から食料へと分類を変えた。さあ、食事の時間にしよう。お腹が空いてそんな考えに移り変わった時、てゐが鬼気迫る顔で走ってきた。

 

「アトラクぅ! 永遠亭まで来るときは妹紅か鈴仙と一緒に来てってちゃんと言ったの聞いてなかったの!?」

「お! てゐか。いや妹紅見つかんなくてさぁ。ところで今からウサギ食べるんだけどどう?」

「食べるわけないでしょ!? というかウチの子たち食べないでね!? せめて最初はたけのこからにしてよ! なんで先にウサギ行っちゃうのさ! ほら! 姫様がご飯用意してくれるから早く行くよ!」

「ああ。そういえばそうだったな。ウサギはお前の部下だったな。あと体力がある内に獣を狩る方がいいだろ」

「まるで反省していない……だと!?」

 

 この世の摂理は弱肉強食なのだ。可食できる体と強さなのが悪い。諦めて欲しい。

 てゐは史上稀に見る真面目さで迅速に俺を永遠亭まで連れて行ったのだった。ウサギの命が懸かっていたため彼女は本当に頑張ったのだった。

 

「そういえばお前も元はウサギだったよな?」

「ウサーーー!?」

 

 冗談だ。捕食者ジョーク。

 

 そして所変わって永遠亭。

 

「おかわり貰える輝夜?」

「はいアトラク様! いっぱいお肉焼いてあげますからね。ちょっと待ってて。さあ鈴仙! 早く焼くのよ! 風のような速さで! 山の如くたくさん!」

「無茶言わないでくださいよ姫様! こっちは七輪をキャパシティいっぱいに使って焼いてるんですから! 手が空いているなら手伝ってください!」

「嫌よ。私はアトラク様のそばに侍るのに忙しいんだから。それに貴女この前私たちを差し置いてアトラク様と一緒に外食したんでしょ。良い身分じゃない。お酒まで飲んで。その分ここで私の為に働きなさい」

「助けて師匠ー!」

「永琳はまだ仕事だからいないわよ。さあ諦めてただただ肉を焼きなさい!」

 

 俺と輝夜と鈴仙でご飯を食べていた。庭で焼肉だ。なんの肉は知らないが多分ウサギではない。人でもない。おいしい。

 

 ちなみにてゐは子分のウサギを引き連れてどこかに逃げた。空腹の俺の前から去るのは被捕食者としては賢明な判断だ。俺は人は殺さないし食わないが、自分が食べる分のなまぐさを殺して食うのにはなんの躊躇いもないし、戒めもないからな。

 

 食えるならそれが人化ができないだけの妖怪だろうと捕食対象だ。

 

「悪いな鈴仙。でももっと焼け。足りない」

「味方がいない!? もう! わかりましたよ! 焼きますよ! 焼けばいいんでしょう!?」

 

 いや。一日近く彷徨ってたからちょっと空腹がね?

 

「じゃあ食べ終わったら食後の運動代わりに二人とも鍛えてやるよ」

「やったわね鈴仙! 楽しみね!」

「それ私にとっては別にご褒美でもなんでもないんですけど!? むしろ命が危ない!」

 

 輝夜は喜ぶが鈴仙は辛いらしい。俺の知る限りなら俺たちに混ざってもそこまで差があるわけでもないんだが。むこうの異変ではまがりなりにもあの仙霊と女神にインチキ薬なしの弾幕戦で勝っているらしいし。

 

「永琳からどうしても苦痛に耐えられない時にはのむがいいって薬渡されてるだろ?」

「あれ蓬莱の薬じゃないですかー! もし飲んじゃったら未来永劫姫様と師匠にこき使われるから嫌です! のむならせめて二人を倒せるようになってからです!」

 

 あ、馬鹿。当事者の目の前でそんなことを言うんじゃあない!

 

「じゃあ私を倒せるようにたくさん修行しましょうか鈴仙?」

「あっ……」

 

 言わんこっちゃない。輝夜がとてもいい笑顔で鈴仙のウサ耳をむんずと掴んだ。鈴仙の目から光が消えた。これからの己に降りかかるであろう過酷を想像してしまったのだろう。

 

「……じゃあやるか。危ない時は止めてやるから頑張ってくれ」

 

 このあとめっちゃ修行した。鈴仙のレベルがあがった!…………多分。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 永遠亭の医務室に気絶した鈴仙が運び込まれた。というか私が運び込んだ。まあこれくらいはね。そもそもペット兼手下の分際であの子が生意気なこと言うのが悪いんだけど。

 

 しかしこれで私はアトラク様と二人きりだ。てゐは今日はもう念のためここには帰らないだろうし、永琳はまだ仕事。鈴仙はきっとしばらく目を覚まさない。妹紅も慧音もいない。初めての二人っきりの蜜月だ。ああ。何を話そうか。彼のことを知るか。私のことを知ってもらうか。それを思うだけで楽しいけど、現実で横に彼がいるのだから直接話すのが良いに決まっている。

 

「ねぇアトラク様。これからどうする? しばらくは私たち二人だけよ?」

 

 二人だけだと言うことを相手にも認識してもらう。あわよくば……なんてことはない。私はまだこの人には勝てないと十分理解している。押し倒してそのまま……なんてことは不可能だ。ゆえに今はまだ雌伏の時だ。まあ彼がいるだけで至福の時でもあるんだけど。その先がある可能性を知ってしまった以上は我慢も難しくなる。

 

 永琳は彼が私を襲うかもなんて冗談を言っていたがそんなことはあるはずがない。とうとう耄碌したのだろうか。それはせめて私たちが彼に勝った後にしてほしい。私が強くなれば永琳も自身の力を取り戻すのだから。彼女は私よりも弱い力しか出ない様に自分を戒めている。おかげで抜け駆けの心配はないけどチームとしての勝ちも遠のいていた。だから私が一番頑張るしかない。

 

「うーん。そうだな……」

 

 彼の思案顔を眺めているだけで幸せだ。実のところ彼がかっこいいのかそうでないのかなんて私には判断できない。あの薬が効いていた時くらいにしか男の顔なんてまともに見たことなかったし、なにより諦めていたから。私には男性の容姿の明確な基準どころか曖昧なそれすらわからない。

 

 ただ彼には心地よさを感じる。拒絶の感情の無い振る舞いの心地の良さ。私の顔を見たうえで私に微笑んでくれる、その瞳に自分が映っているという事実だけで私はこの上ない幸福を覚えることができた。こんなのは翁と媼と一緒にいた時以来だ。永琳や鈴仙、てゐだって私という人格の否定はしないが容姿にはそんなことはない。なにより私自身が批判の筆頭でもある。それを思うと二人の優しさを思いだしてつい笑みがこぼれる。

 

「ん? どうしたんだ急に」

「あ、ごめんなさいアトラク様。ちょっと翁と媼。今だとおじいちゃんとおばあちゃんっていうのかしら。二人を思い出して」

「それは竹取の翁か。そうだな。そういえばむこうの輝夜とは合わなかったからな。実際の人物からおとぎ話を聞いてみたい。もし良ければ教えてくれないか?」

 

 私は別の世界の自分が彼に会っていないことを知って喜びを覚える。彼にとっての(輝夜)はこの私だけだ。幸せの中で生きてきただろう輝夜ではなく、私。それが堪らなく嬉しい。妹紅も前に一度、前の自分と比べられている気がして嫌だなんて言っていたがその気持ちはわかる。他人に負けるのは諦めがついても自分には負けたくない。私よりも幸せな自分にだけは。

 考えが逸れた。ええと、どうやら彼は私が地上に来てすぐの逸話。竹取物語について知りたいらしい。人間界に長くいた彼なら確かに興味を持ってもおかしくない。文自体は出来が良いのだ。あれは。

 私は基本引きこもっているので大しておもしろい話題もないしちょうどいいかな。

 

「それなら……」

 

 私は語る。私の物語を。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 むかしむかし。

 お月様にある都の貴人の下に一人の女の子が生まれました。

 

 しかし生まれた女の子はその時からきっと不美人になるだろうと誰もが噂する容姿をしていました。

 その予想通りに彼女はこの世で一番と言えるほどの不美人に育ち、その容姿を一目見ただけで誰もが体調を崩すほどの化け物に育ちました。彼女は当然のように建物の中に封印され外には一切出しては貰えませんでした。

 

 ただ彼女は貴人の生まれであったので親から退屈しない程度のやることを与えられました。

 

 その一つが先生との出会いでした。

 彼女もまた不美人でありました。輝夜ほどではないにしろそういう話題だと絶対に名前が上がる程度の人物です。しかし彼女は月の都の立役者であり、月でも賢者と呼ばれる天才。さらには人格者と容姿以外の全てを持っていたのでそれを補って余りある人物でもありました。

 

 そしてその女の子も先生と同じくらいには優秀でした。年若いにも関わらずとても希少で強力な力を持っていました。彼女は先生からたくさんのことを学び、先生と親睦を深め、お互いがお互いを一番大事な存在と思えるほどになりました。

 

 そんな時に女の子はあることを考えました。

 それは月からの逃避でした。

 

 月の住人はみな容姿のことで二人を悪く言います。自分はともかく先生を馬鹿にするのは許せない。月の歴史も学んだ女の子はお前たちの今の暮らしがあるのは誰のおかげかと激昂しました。なによりも自分たちが地上の人間よりも上等な存在だと常々言っている癖にそういう精神からはいつまでたっても脱却できていない未熟さと愚かさが嫌になったのです。

 それならば故郷を捨ててその地上に行ってしまえば良いと考えました。

 

 穢れはあるがきっとここよりは過ごしやすいと思ったのです。計画には先生も協力してくれました。

 

 作戦を立てたら、早速二人は行動をします。

 まずは女の子の力と先生の技術を使って二人は薬を作りました。それが月で禁止されている不老不死の薬。蓬莱の薬でした。法を破った者は地上への追放刑が処されるからです。それを女の子が服薬します。不老不死への恐怖はありませんでした。むしろ地上の穢れを気にしないで良くなり好都合だったのです。先生の方は使いませんでした。彼女は都の重要人物だったのでたとえそれを飲んでも幽閉される可能性が高かったからです。

 

 女の子は作戦通りに地上に堕とされました。その時にいくつかの薬を摂取させられましたが、同時にある薬を先生に渡されました。

 

 もし地上でも容姿への罵詈雑言で苦しむことがあればこれを飲みなさい。と先生は言いました。彼女はそれを了承してから地上へと流されました。

 

 地上に着いた彼女はすぐに現地の人間に見つかりました。

 

 その者はさぬきのみやつこと言う老人でした。彼は竹の中にいた女の子を取り出し、家へと連れて帰ったのです。

 

 女の子は始めはとても小さかったのですがすぐに少女の大きさへとなりました。そこで女の子はかぐや姫と名を付けられました。

 かぐや姫は子に恵まれなかった翁と媼の二人の下で愛情を一身に受け、やはり地上は優しい世界だったと感じ、束の間の時間でしたが幸せに暮らしました。

 

 しかしある時、庭にいる時に外からの聞いてしまいました。

 それはあの口さがない月の住人と同じようにかぐや姫を馬鹿にする話を。少し悲しかったですが、二人のような人がいると知っていたかぐや姫は聞き流そうとしました。ただそれだけならまだしも、その悪口はさらには翁と媼まで対象となっていました。二人はかぐや姫を本当の我が子の様に愛していたので彼女を庇ったために罵倒の対象となったのです。

 

 かぐや姫はこれには怒りました。そして手を付けていなかった先生からもらった薬をそのまま己に流し込みました。

 

 するとどうでしょう。次の日には今まで彼女を馬鹿にしてきた男が手のひらを返し、こぞって彼女の姿を垣間見に来て、挙句の果てには求婚にまで来ました。

 

 しかしかぐや姫の怒りは収まりませんでした。そのまま全員をあっけなく袖にし、特に翁と媼を悪く言った覚えのある人物は手ひどい目に合わせました。

 

 ただ薬の効果はかぐや姫と先生の思いの外、人間には効き目が強かったのです。それはどんどんと国に広まり、貴族まで届き、ついには時の帝まで届いてしまいました。これには流石に予想外でした。

 

 それと同時に月からのお迎えが来る時期が迫っていました。なんとか帝に合わない様に努力し、先生が来るのを待ちました。

 

 作戦の最後は月の使者として地上に降りた先生と共に他の使者を皆殺しにして、地上で暮らすと言う物でした。かぐや姫は翁と媼と先生の四人で暮らすつもりでした。しかしかぐや姫の存在は薬の力でう広まり過ぎていました。

 

 かぐや姫は翁と媼に自分のことを話したりするものの、やはりどうしようも無いまま運命の日を迎えました。

 

 こっそりと迎えに来た使者の中の先生と相談するも薬の効力は彼女にも予想外だったらしく。

 結局二人は月の使者を全て殺した後は翁と媼の二人に別れの言葉と蓬莱の薬を渡して、月に帰る振りをして地上に残り隠れて生きることになった。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「地上はあの優しい二人のような人間もいたけれど、やはり多くの者が月の住人と変わらなかった。計画は失敗に終わったわ。そうして彷徨い歩いて気が付いたら」

「幻想郷に流れ着いたわけか」

「ええ。でも私は人目につくわけにはいかないからこの竹林にずっと隠れてたの。それからてゐと会って今より少し前に鈴仙が来たわ」

「妹紅とは?」

「かなり長いわね。てゐよりはちょっと短いけど。よく殺し合ったわ。まあ私の方が勝ってるけど」

 

 輝夜はふんすと自慢げに胸を張っている。可愛い。こんな話のあとでなんだが俺からしたら輝夜は何しても可愛い。幻想郷の妖怪たちは大体可愛いけど。

 

「……実のところ妹紅には悪いと思う気持ちがないわけでもないのよアトラク様。正直妹紅の父親も人として良い部類ではないけど幼子から親を奪ってしまったのは事実なのだから。蓬莱の薬については自業自得と思ってるけど。でも、それを素直に認めちゃうとあの子はきっと私の所まで来なくなる気がしたから謝れなくて」

「流石に家庭内で嫁同士の殺し合いが頻発されたら俺も困るんだが。家が壊れるし……妹紅の方もそれなりに折り合いをつけようとしているし後は案外お前次第かもな」

 

 妹紅はあれで気持ちの上では大体の過去に決着をつけられたはずだ。未だに輝夜にはあたりがキツイとはいえ、ただ怒りに任せて殺すようなことはしていないらしい。派手な闘いは繰り広げているが今の話を聞いた上で思うと、俺としてはじゃれあいと言えなくもない範疇だ。なのできっと二人は大丈夫だろう。

 

「そうね。それなら貴方に約束するわ。妹紅やみんなと一緒にアトラク様に勝ったらちゃんと悪いと思っていることは謝るわ」 

「ああ。その約束確かに覚えた」

 

 俺は鷹揚に頷く。きっと約束は違えないだろう。いや違えさせないよう俺が心を砕くべきか。家庭内不和を防ぐために。

 

「だ・か・ら。手加減してね? アトラク様! ウフフ」

 

 輝夜は立ち上がってから部屋を出ようとしてから振り返りざまにそう言って出て行った。

 俺は一人返す。きっと彼女もこの返答はわかっていることだろう。

 

「断る。約束を守りたいなら全力の俺に勝てるくらい強くなってみせろ。輝夜」 

 

 待っているぞ。

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