俺は彼女達におおまかな自分の事情を語った。
俺の素性、古き時代は闘争の日々に生きたが、強者が減っていくと人に混じって暮らし始め、退屈し、そんな時に幻想郷の噂を聞き移住するも期待とは違い、結局戦いを求めてここに来たという来歴の内容だ。
「それなら貴方はここでひたすら戦い続けるのですか?」
「いや俺もそこまではしない。欲求を満たす程度には闘争に浸っていたいというだけだ。あくまで闘争本能を満たしたいだけで当然戦う力の無い者には手を出さないし、場所も時間も選ぶくらいの配慮もするつもりだ」
「それなら安心ですねー。でも、お兄さんがそこまで譲歩してくれるのなら向こうの幻想郷の人も少しくらいは相手してくれたんじゃないんですか?」
「向こうの主流である弾幕ごっこをできなかったからな。何人かは軽い手合せくらいはしてくれる者もいたが全力を出すのはずっと封じられていた。幻想郷を壊されてはたまらないとさ」
実際、壊せなくもないかもしれないがそんなことは望んでしない。そもそも俺の戦い方はそこまで派手ではないつもりだ。大方、酔っぱらった鬼とかが面白おかしく誇張して俺の事を伝えたんだろう。おかげで賢者様に目をつけられて散々だった。
「それは大変でしたね……確かにこちらでは弾幕ごっこにルール以外の縛りは特にありませんね。参加できる者なら戦いのルールさえ守っていれば問題にはならないでしょう」
「でもお兄さんも変わってるよね。闘いが大好きな男の人なんてそれこそ本の中のキャラクターみたい」
「いや。何を言っているんだ小鈴。闘いとは人間や多くの生物にとっては男がやるものだろう。幻想郷では少女の形をした強者が暴れまわっているから勘違いしても仕方ないかもしれんがな」
「「え?」」
「ん?」
「いえいえ。そりゃあ妖怪は男性も強いのは知っていますけど戦うのは女性でしょう?」
「そうですよ! 動物だって狩りをするのは雌でしょう! ライオンとか!」
「馬鹿を言え。戦いは古来より雄の役割だろう? カブトムシを知らんのか君は」
「男の人の体何て抱くためにあるんですよ! それに虫と人間を一緒にしないでください!」
「このスケベ娘め! 虫だって結構頑張って生きているんだぞ!? 虫に謝れ!!」
「あの……ちょっと落ち着いて、ここ私の書斎だから暴れないで」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一度、落ち着くために皆で団子と茶を楽しみ再び議論を開始した。
「えーと。貴方の認識だと戦いは男がやるもので自分は何も間違ってはいないということでよろしいですね?」
「ああ。その通りだ」
「えー、その、大変言いづらいのですが、こちらでは本当に小鈴の言う通りなのです」
「女が強いと? はっ! そんな馬鹿な話が…………いや、そういえばここは異世界だったな」
世の中の理屈が違えば世界も違うと言えなくはないのか?
幸いこの幻想郷に限って言えばその言葉を理解できなくはない。数人いる賢者も俺の知る限り全て女だった。
「ということはお兄さんのいたところでは本当にそうだったの? 何そこ。おとぎ話の世界でもないよそんなの。どっちかと言うと艶本だね! こっちに来たということはもしかして行く方法あったりする!?」
「ああ。そして残念だがあちらに行く方法は無い……ということにしておこう。どのみち人間では易々と用意できないような宝物をいくつも使ったからな。現実的ではないだろう」
しかし異世界か。
「話を戻すが、つまりはここでは逆と考えると……俺が君たちの尻とか胸を触っても問題にならないが君たちが俺を触れるのはご法度……と言った具合になるのかな?」
「そうですね。最近は里もそこまで治安も悪くないですし男性もしっかり自衛をしていますからそういう事案は起こっていません。妖怪たちはたまに里の男性を狙っているようですけど霊夢さんや魔理沙さんに本気退治されるのも嫌なので大人しくしているようですね。無害な人が驚かせたり遊びに来るくらいのことは皆お目こぼししている状態です」
「? わざわざ人など狙わずとも同族か同じ妖怪とつがえば良いのではないか? 俺の所ではそれなりに男妖怪もいたぞ?」
阿求は語った。この世界では男性が少ないことを、根本的に減ってしまったらしいことを。妖怪などはそれに輪をかけて少ないらしい。
外界も聞いた噂だけが根拠だが似たようなものらしいと。
これは俺もどこかで外に確認に行った方が良いかもしれないと密かに思う。
「ふむ。ここまで差異があるとなると他にもまだありそうだな。……何か心辺りは無いか二人とも?」
「そうは言ってもそちらどんな世界か私たちにはわかりませんし。ああ、それなら気になっていたことが一つあるんですけど……私たちってどう見えますか?」
「ちょっと阿求それ聞いちゃうの!?」
「ふむ。そうだな。失礼だがあまり強くはなさそうだ。俺と戦うことはないだろう。残念だ」
「そういうことじゃなくてですね!」
「髪の毛が紫?」
「そうでもないですなんでちょっと自信ないんですか? 色の認識が不安なんですか? それなら合ってますよ良かったですね。私が聞きたいのは容姿がどう見えるかです」
「仕方ないだろう。気になってしまったのだから。容姿か……ちっちゃくて可愛いとかか?」
「そうです! ちっちゃくてかわ……聞きました小鈴!? 私可愛いらしいですよ!!!」
阿求が歓喜する。前の世界での評判より控えめに言ったつもりだが。
「聞いた! ねえ私も私も!!」
「ああ。可愛い可愛い」
「ウェーーーイ!!!」
大騒ぎだな。この状況を考えるに二人は可愛いと言われたことに喜んでいる。
「つまり容姿の基準が違うということか?」
「イエアッ!」
今のはイエスか?少しパリピが過ぎるのでは?
「オホンッ! 小鈴はちょっと言語を失っているみたいですね。放っておきましょう。そうです! そちらではどうだか知りませんが、私たちはこちらだとあんまりお近づきになりたくない系な女子です。一応確認しておきたいのですが貴方の基準ではどうでしょうか?」
「普通に可愛いが? そうなると男の基準はどうなんだ? 俺は向こうではそれなりに定評があったんだがどう見える?」
「かっこいいで「カッコイイイエエエアアアアア!!!」……フンッ!」
あ。阿求が小鈴をハードカバーで殴った。そして押入れから布団を出して……簀巻きにし始めた。
まああちらは置いておいて勝手にまとめに入ろう。
つまりこの世界では女と男の立場が逆転。そして男は数を減らし、女は美しさの基準が変わったということか。
他にもまだ何かありそうな感じもするが、以上を踏まえて考えると弾幕ごっこの男が参加してはいけない風潮はそもそも男が少なすぎて成立していないと見るべきだな。
なんかそういうジャンルの話が幻想郷の元となった日本で流行ったことが前の世界でもあったな。現状もだいたいのテンプレートから外れていない感じだ。言って見れば美醜逆転貞操逆転世界と言ったところだ。そういうタイトルの話どっかで見たことありそうだな……。
しかしこれは少々困るかもしれん。今まではこちらが女を殴ることに若干躊躇していなくもなかったが今度はあちらが男を殴ることに躊躇するわけだ。全力で戦ってくれるか不安だ。
俺はその躊躇を吹き飛ばすくらいの戦いのメリットを用意しないといけないのか。いくつか女ウケの良さそうな財宝もあるが美しさの基準が違うこの世界ではブサイクになる呪いのアイテムになりかねないし本当に困った。やはりシンプルに金を稼ぐか?
俺がうんうん唸っていると阿求が帰ってきた。
「フフフ、お困りのようですね……!」
「あ、戻ったかおかえり阿求。小鈴は?」
「ただいまです。小鈴は煩いので静かになってもらいました。起きても静かでしょう。ふふ、いいですねこのやりとり。まるで夫婦みたいです。そして貴方の求める答えがこれです」
「あいさつ?」
「ちょっと違います。答えは夫婦! この幻想郷では妖怪といえばどいつもこいつも男に飢えています! 貴方自身を勝者への景品としたら千客万来間違いなしですよ!! 私も修行します!」
「なるほど。でも君は弱すぎてちょっと……来世でがんばってくれ」
「酷い!!」
なるほど。こちらの女子が言うならそれは十二分に考慮に値する意見だ。
「しかしそれでは万が一、一度でも負けてしまえば俺は結婚して商品は無くなるのでは?」
「心配はいりません! 推測ですがおそらくそちらでは基本が伝説の一夫一妻制なのでしょうが、こちらでは一夫多妻ですから! 貴方には酷かもしれませんが頑張って奥さんを満足させてあげてください! 最悪初夜にこっそり殺して埋めてしまえばいいんですよ!」
「伝説なのか……それなら特に困らんな。俺はそう負けん。そして君おとなしい顔してろくでもない事言うね。むこうの評判と大差なくて安心したよ」
まあ実際に負けたらそれくらいしても構わない。
戦いを止められさえしなければこちらに求めるものはない…………かなー。やっぱり容姿くらいは求めるか?この世界基準だとブサイクらしいが幻想郷の強者はだいたい美少女だったし、だが未知の強者とも戦いたい。未知の強者はブサイクかもしれない。しかし俺基準でのブサイクとは結婚したくない。ぐぬぬ。
仕方ないからその時は条件を変えて俺を殺せたら結婚とかにしようそうしよう。
「よし! では大体の方針も決まったことだし俺は早速行くとするよ。邪魔をした」
「え!? 行っちゃうんですか? もう夜ですし泊まって行ってくださいよー。来たばかりなら家も無いんでしょう? ウチならいくらでも泊まってくれていいですよ! それはもう事実婚が成立するくらい!」
「君も中々にはっちゃけだしたな。君たちと話すのはかなり楽しいので悪くはないが、今は直近のお楽しみを奪われかねないのでね。それが終わって気が向いたら遊びに来るさ。俺は一夜の宿くらいは簡単に用意できる類の人外だし心配いらんよ」
「そうですか。わかりました。でも約束ですよ! 絶対また来てくださいね!」
「ああ。おっと、それと一つ頼みがある。俺の存在はしばらく他の人には内緒にしておいてくれ。これは小鈴にも伝えておいてほしい。しばらくすれば広まりだすだろうからその時は縁起に色々書いても構わないが異世界移動のことだけは墓場まで持って行ってくれ」
「そうですね。世を儚んで異世界転生とかされても貴方の地元に迷惑ですし」
彼女の冗談に二人で笑いあう。
ひとしきり笑い終えると俺の記念すべき最初の戦いの場。紅魔館へと向かおうと暗がりの空を飛んだ。