東方 あべこべな世界で戦う    作:ダリエ

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こそっと復活じゃ


30 花映塚 花舞う戦場

 人里の外れ  

 

 

「それではこちらの土地の権利は、今日から貴方様の物ということになります。何か問題が起こった時はお知らせください」

「ああ。建物を建てる時には里の方に届出を出せばいいのだろう?」

「はい。税を納めてもらえている限りこちらからは特に言うことはありません。元からここは里の人間から見ても特に価値も無い場所なので。……本当にこの場所でよろしいのですか? 正直に言いますと貴方にならば同じ値段でももっと良い場所を提供しても里は構いませんが?」

「ああ。問題ない。感謝する。阿求や他の方によろしく」

「はい。では我々はこれで。失礼します」

 

 里の土地の管理を担っている者たちはそう言って帰って行った。

 

 幻想郷にも温かさが帰ってきたので外での長めの冬休みから人里へと戻ってきた俺は、里の近くのある土地一帯を買った。別に工場を建てようとかなんて野心ではない。強いて言うならほんの親切心だ。あるいは投資。

 

「しばらくはただの空地にしておくか。下手に動いて勘付く奴が出ても困る」

 

 この土地の購入はブラフも交えてやっているし、派手に動かない限りは察知するのは難しいだろう。女の勘などと言う極めて理不尽なスキルさえなければ大丈夫のはずだ。

 

 俺は空き地から歩き出した。冬の終わりも目前とは言っても、未だに寒空と言える景色には、他人の目から見るとただただ何も無い更地にしか映らないだろう。しかし、俺にとってはここはちょっとした土地である。だが、今はまだ静かに眠っていてもらうとする。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 これで前もって済ませていた妖怪の山の土地の購入と合わせてひとまずやることはやったと言えるだろう。

 あちらでは少し手間取って要らぬ諍いが起きてしまったがそれも無事に治まり、良好な関係を構築できた。雨降って地固まるとはこういうことだ。うん。

 

「こういうことだ。じゃないですよアトラクさん! あの後、私たちは大変だったんですからね!? 天狗はほぼ全滅させられましたし、河童は兵器のほとんどを損壊、情報統制の為に動く頭数が足りなくて私も徹夜だったんですよ!!」

 

 所変わって俺の店。

 

 そこには文が新聞を持ってやって来ていた。彼女の顔は疲労が色濃く見えている。

 

「仕方ない。俺はちゃんと手心を加えたのにお前のお仲間は続々とやられに来るし、一緒に来てた萃香は影響されて暴れだしたし。それを止めるのは手伝ったろう?」

「天狗に関しては私たちの非もありますけど、萃香さま連れてきたのは貴方じゃないですかー!!」

「いいじゃないか。結局、全員ブッ倒して黙らせてからそちらの大将にも力を見せたんだ。あいつも俺の要求を受け入れたろ? あとお土産いろいろ買って来たんだけどいる? ほら鳥の書かれた奴だぞ。コンドルとハチドリどっちが良い?」

「あれは降伏となにが違うんですかね……コンドルをいただきます」

 

 俺としては場所さえ用意できればなんだって構わない。ちょっと過激なファーストコンタクトだったがちゃあんとこちらの言うことを聞いてくれるくらいにはなったので良しとする。

 

「それで今日はどうした? 集金か?」

「仕事ですよ仕事! 個人ではなく天狗としての! 貴方と萃香さまが派手に壊してくれた河童の発明品の修理代の弁済とか負傷者の治療費とか稼がなくちゃならないんですよ! こっちが呼んだことになってるんですから!」

「多分俺のとこにも萃香のとこにもそんな請求は来てないぞ?」

「そりゃあ怖くてできませんよ。『金が欲しいって? なら金がいらない世界へ送ってあげよう』とか言われると貴方たちのことをよく知らない層は本気で思って震えているんですから」

 

 流石に悪いイメージ付きすぎでは?萃香は言うと思うけど。

 それにケンカ売ってきたのは向こうなので今回に限っては素知らぬ振りをしてもいい。しかし知り合いにまで苦労を掛けるのは少しだけ気が引ける。

 

「そうか……それなら多少はカンパしてやっても良いと普段なら言うところだが、今回は知っての通りにお前のとこの土地を買うのに使ったので振る袖がない」

 

 つまるところ金が無い。どれだけあっても使ったら無くなる。すぐに貯まるとは思うが。そういう星の下に生まれたんだ。

 

「ええ。わかっていますとも……なので今回はせめて恨み言を言いに来ただけです。ついでに美男子でも見て癒されたかったんです。またこれから天狗総出で金策ですよ~」

 

 そう言って力なく出て行こうとする文を引き留める。

 

「まあ待て。流石に無い物はやれんがお前の仕事くらい手伝ってやろう。なにか暴れられるやつはあるか?」

「逆に聞きますけどまだ暴れ足りないんですか? しかし、そういうことならお一つお願いしましょうかね……アトラクさん。貴方は今、幻想郷に花が溢れているということはご存知ですか?」

「ああ。だが、今は春だから普通じゃないか?」

「いえ。それが春の花以外の物も咲き誇っているのです。なのでそれの調査の手伝いを頼みたいのです」

「ふむ。そういうことか……わかった。なら俺は照明とレフ板どっちをやればいい?」

「貴方との撮影デートは望むところですが、今そんなことやってたら私が山で村八分にされちゃうんでやめときます。アトラクさんは私と別行動で異変の調査をお願いします! あわよくば元凶倒しちゃって構いませんよ」

「心得た。ついでにお花畑の写真でも撮ってきてやるよ。新聞映えするやつをな」

 

 こうして俺の金策小旅行が始まった。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「と……言っても今回の異変のタネはわかってるんだよなぁ~」

 

 幻想郷の空で一人静かにそう白状する。白状と言っても周りには誰もいないが。だからこれは独白だ。

 

 今回の季節を問わずに様々な花が咲き誇るこの事態は原因が外界由来の物でもある。おおよそ60年に一度の周期で発生する幽霊の増加現象らしい。あるべき場所にいない霊たちは仮の棲家として花に宿る。そして霊の宿った花は咲く。こればかりは俺にはどうしようもないのだ。あの博麗の巫女にも無理だろう。解決するにはもう花を焼き尽くすしかない。花が無ければ咲かないのだ。簡単でしょう?

 

 物騒極まりないことを言ったが正直この花の異変に一切の害はないのでそれを知っている者たちはみな動かない。動くのは主に若い奴らか新顔か、はたまた困った忘れん坊だ。

 

「文には悪いけど素直に写真だけ納めてお茶を濁すかね……」

 

 カメラは便利なので一応自前の物を持っている。安心と信頼のメイドインジャパン。外界の物だがまあいいだろう。スマートフォン辺りが出てくれればツールとして便利でとても楽なのだが。幻想郷は果たして電波が届くのだろうか?

 

「素で電波発してそうなのが結構いるからどうかなぁ……無理だろうなぁ」

 

 そんなことを考えながらも空撮したり、目高で撮ったり、引いたり寄せたり、効果があるのか不明だが褒めて伸ばしたり、至って真面目に撮影を各地でこなしていった。

 たまにちょっかい掛けてくる妖怪や妖精や人間で闘い(戯れ)、リフレッシュしつつもフィルムたちは季節を無視した花の姿で埋まっていった。

 

「後は……ここだけか……」

 

 太陽の畑。妖怪の山からかなり離れているので文もここは来ないかもしれない。咲いている花もほとんどが夏の花であるヒマワリなのでそのまま夏にでも撮ればいいのでさしたる珍しさもない。ただ幸いなことに今は普段たむろしている妖精の姿も見えないのでシャッターチャンスではある。

 

 俺はそれまでの場所でやってきたように撮影をしていく。既にその作業は慣れてきたためか、我ながらある種の美しさすらあるように見える。今度カメラマンでもやってみるか。弾幕を撮るというのもあるらしいので。

 

「だいたいこれで終わりだな。異変は誰かが解決……できないから果報は寝て待つか」

 

 そうして帰ろうとした時、俺の傍まで何者かが近づいていた。

 

「あら? もう帰るのかしら? せっかくだからもう少し見ていったらどうかしら? 仕事とは関係なくのんびりとね。お茶とお茶請けと晩御飯と朝食くらいなら出してあげるわよ」

 

 それはもはやくらいではなく、一泊二日の至れり尽くせりなおもてなしじゃないか。

 

 そう言ったのは当然女だ。白いブラウスに赤いチェックのベストとロングスカートを身につけた女。顔は日傘で巧妙に隠されていてわからない……しかし俺には誰かはわかっている。

 

「それは結構なお誘いだが俺は茶は飲まない主義だ。それに顔を隠すなんてらしくない。知ってるぞ、風見幽香だろう。用があるなら顔くらいは見せたらどうだ」

「人が親切で顔を隠しておいたのに無粋な人ね。この花たちと貴方と一緒にいるには私は美しくないからわざわざ隠してたのに……」

 

 そう言って傘の位置をずらすと緑色のショートヘアに赤い目をした美人が現れる。聞いていたほど嗜虐的な表情をしてはおらず、むしろかすかに憂いを浮かべたそれだった。

 

「言っておくが俺は花は荒らしていないぞ? そこまで無粋じゃあない。喧嘩なら買うがいちゃもんを付けられるのはお断りだ。それに俺はお前たちとは美意識が違うのでその気遣いも無用だ」

「知っているわよ。ここ最近、花の周りを見知らぬ誰かがうろついてるのが気になってしばらく様子を見ていたから。貴方ちょっと一人言多いんじゃなくて?」

 

 それはつまりストーキングでは?

 いや。彼女の能力を考えるならば花の回りをうろついているこちらが間抜けということか。

 

「そうか。それはちょっと暇だったからだな。それで俺も苛めるか嗜虐主義者。あんまり男相手にやり過ぎると面倒なやつらがすっ飛んでくるかもしれんぞ?」

「そんなつもりはないわ。それに私の何を知っているのかは知らないけど別に誰にでも喧嘩を売る狂犬ではないのよ? 理由が無ければ争わない主義よ」

「苛めたいというのは理由じゃないのか?」

「…………」

 

 風見幽香はすまし顔で言葉を返さない。

 

「なんとか言ったらどうだ。おい。まさか図星だったのか?」

 

 こいつはマジモンのやばい奴じゃないのだろうか?むこうでは会ったことがないので真偽がわからない。完全に開き直っているのがこの上なくたちが悪い。花を愛でる奴には意外と戦闘狂が多いのだろうか。心当たりはあった。

 

「ふぅ……まあいい。この場に現れた以上は何か目論見があってのことなんだろうが……お前とは一度やってみたかった! 掛かって来るがいい!」

「嫌よ。理由が無ければやる気はないの」

 

 なら、いつも通りにやる気を出してもらおう。彼女が興味を惹かれるのかは寡聞にして知らないが。

 

「そうか。俺に勝てたなら俺と結婚できるとし「言質は取ったわ」て……うおわぁっ!?」

 

 風見幽香はそう言うが早いか。話の途中でいきなり極太のビームをこちらに向けて放つ。これは動いても躱せないので防御する。さらに追撃とばかりに手に持った傘をいつの間にか畳んで、それで俺に殴りかかる。

 

「不意打ちとかお前! それはどうなんだ!? 人の話してる時に攻撃してはダメって教わらなかったのか!?」

 

 傘を手で掴む。見た目に反して凄まじい力だ。傘の骨を折ってやろうとしたがむしろこちらの腕の骨が危うい。幻想郷で見た目通りの力の者などあまりいないが、それにしても彼女は鬼などでもないのにどこにこんな力があるというのか。

 

「甘いわね。そんなことは実戦ではなんの役にも立たないわ」

「ごもっとも……! だが、これはルールありきの闘いのつもりなんだけどな……? ウラァッ!!」

「よっと……そうね。でも勝てば正義よ!」

 

 俺は傘を振ってそれごと風見幽香を投げ飛ばす。相手は特になんともなかったように器用に姿勢を整え、余裕の構えだ。こちらとしてはひとまず距離を開けただけで十分。

 

「しかもお前! この花まみれのとこで闘っていいのかよ!? お花を愛する妖怪だろうが!」

「ええ。花は好きよ。でも一番という訳でもないの。その状況を表すのに持って来いのこういうことわざがあるのを知っているかしら……花より男子って」

「それは違うだろう! あるのかこっちにも!? いや! そういうことわざ自体が普通にありそうだ!」

 

 花とか愛でている暇があるなら男を探せなんて風潮がありそうな世界だ。ことわざの存在が疑いきれない!

 

 俺たちはお互い離れてからは空中で弾幕を撃ちあう。あんなことを言った割にやはりしっかりと花に被害が出ない立ち回りはしているようだ。なんとも抜け目のないちゃっかりした女だ。

 

「私も今までは見ているだけで良しとしていたのだけどこっちに来る以上、容赦も我慢もしないわ。食虫植物の気持ちで……いただきます」

「確かに俺は虫だけども……!」

 

 食虫植物も蜘蛛はあんまり食べる機会ないんじゃないかな。にたりと笑う彼女を見てそんなことを思う。

 

 風見幽香はのんびりとした動きで、最小限の速さと挙動でこちらの弾幕を掻い潜る。そしてお返しにと花のような艶やかな弾幕を放ちながらスペルカードを取り出す。

 

「さあ! 月に叢雲花に風とは言うけれど、貴方との障害はもう無いわ! 覚悟はいいかしら?」

 

 どうにもペースを握られているがこちらもそろそろ攻勢に出たい。俺もスペルカードを用意する。

 

「上等だ! 俺が欲しいっていうのなら! 俺に勝ってみせろ!」

 

 

 花びらの舞う戦場で、闘いは激しさを増していった。

 

 

 

 

 

 

 

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