東方 あべこべな世界で戦う    作:ダリエ

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四章 風神録
32 プロローグ 外の世界の廃れた神社


 ここはとある国のとある県。その中でもご当地メニューと呼ばれる類の品が数多くある一軒のお店だ。そんなところに一人の男がいた。その服装や装備からおそらくは旅行客だとうかがえる。

 

 だが、このご時世に成人とはいえ男性単独での旅行とは珍しい。しかもこの場所の特産品を考えれば非常に珍しいと格上げされてもおかしくないほどのレア度だ。

 

「お待たせしましたー。ご注文の商品をお持ちしました。伝票はここに置いておきますね。追加の注文があればお気軽に店員にお申し付けください。それではごゆっくりー」

 

 男は既に注文をしていたようで頼んでいた商品が届く。彼は店員の女性にどうもと一言だけ礼を言ってから軽く会釈をして、運ばれてきたお盆の上の皿の食べ物に意識を向けると、テーブルの上の割り箸を一膳取ってからそれを無言で口に運んでいく。

 

 それは虫であった。食用とはいえ見たり触ったりする分にはまだ良いがそれを食べるのはかなりの勇気がいるはずのそれを男は一切の躊躇なく食す。周りの女性客は彼の注文が来るまでは色めきだって男を眺めていたが、食事を始めてからはそれを見つつも顔色を変えたり、目を逸らしたり、トイレに駆け込んだり、珍しいところでは同じ品を注文したり、でもやっぱり食べられなくて残したり珍しいところでは意外に嵌ったりした。なお店は儲かった。

 

「ごちそう様でした。美味しかったです」

 

 それほどの時間を掛けずに男は完食した。そして席から立ち上がり、椅子をしっかり戻してお会計。改めて店員に礼を言って。もちろん感想も忘れない。

 男はどこまでも気風のいい、愛想の良い振る舞いをして店を出た。接客できた店員は夢心地だろう。食べていた物は虫ばかりだったが。まあそれは店員だから慣れている。

 

 男。幻想郷にてアトラク=ナクァを名乗る男は外界の長野と呼ばれる場所で久しぶりに存分に虫食を堪能したのだった。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「バッタとソフトクリームの悪魔的組み合わせを考えた奴はもしかして同族……いやないか」

 

 ないない。俺は一人で人のいない過疎気味の田舎な道をデザートのバッタソフトを歩き食らいながら、そんな益体もない考えに耽っている。

 

 今回。俺がここに来た理由は当然守矢神社だ。

 

 時期的にそろそろだろうから少し早めに来たのである。こちらの通貨もかなり溜まったので滞在費も潤沢だ。やはり世界が変わっても売れる株は大して変わらないらしい。こういうのは時間跳躍ものの醍醐味だと増え続ける預金残高を見て頬がにやける。ここ最近でよく稼げた。ただそろそろ来年に来るだろう金融危機が怖いので活動は控えめにし始めているが。 

 

「しばらくは倍率の低い当たり馬券でも買って地道に稼ぐか……男だと働くのも少々手間だしな」

 

 こちらでは男はとかく目立つ。それはもう目立つ。店のレジにでも立つと俺の前にしか並ばれない。これはもはや営業妨害では?

 

 男の総数自体は幻想郷よりも外の方が多いが、比率の問題でやたら目立つ。流石にこの辺まで来るとそこまで声を掛けられなくなったがここよりも都会の方だと歩いているだけでそれはもう入れ食い状態だった。どれほど異性に飢えているのかがよくわかる。

 

「んぐんぐ。ゴックン! さて……守矢神社に参拝でもしますかね」

 

 ソフトのコーン部分まで食べ終わり、俺は観光用のマップを片手に目的地まで歩き出した。

 ちなみに服も和服では無く普通の洋服に衣替えしてある。和服は外では目立ちすぎるのだ。一応戦闘が行えるように足には改造したブーツを履き、着慣れているスーツを着用している。背中部分だけは足が生えてきても良いように改造を施した。流石にこちらではあれを使う機会はそんなに無いと思いたい。

 

 そんな時、道の途中で金属が微かに擦れるような音が後ろから聞こえた。自転車だろう物体がこちらに来ているのを感じたのでさっと俺は道の端の方に避けた。

 

 その自転車は、自転車にしてはやたら低速でゆっくり俺を追い抜いて行った。乗っている少女はしきりにこちらを気にして、何度も振り向きながらもふらふらと前進して道の先へと消えていった。着ていた服から察するに近くの学生のようだ。

 

 そしてそのどこか見覚えのある特徴的な緑色の髪と、蛙と蛇の髪飾りで俺には十分に誰だかの判別がついた。何やっているんだあの子は。危険運転はやめなさい。

 

「……この感じだと誘えば二つ返事で了承されたりしそうだな……」

 

 とりあえず俺はそのまま誰もいない田舎道を一人先へと進んでいく。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 私は東風谷早苗。

 自宅から近所……と言っても自転車で三十分以上の地味に長い距離……の女子校に通う高校生です。女子校なので男子生徒はいません。共学は都会にしかないですし偏差値も倍率も摩天楼でした。早苗の青春は入学前から終わってしまった!

 

 実家は神社をやっています。しかし昔はともかく今の現代社会では全く神様への信仰心などあったものではありません。なので、神社は廃れまくりで参拝者も平時は本当にごくごくわずか。賑わうのは年末年始くらいで、その賑わいも年々減少傾向。私が生まれてからずっと八坂神奈子さまも諏訪子さまもいつも暇を持て余しているご様子。

 

 え?神奈子さまと諏訪子さまとはなんなのかですって?

 よくぞ聞いてくれました!我が守矢神社が奉る二柱の神であらせられるのです!この神秘の失われつつある現代に今もまだ確かに存在する本物の神!リアルゴッド!

 

 そして私は普段こそ至って平凡極まりない女子高生を装っていますが、それはあくまで表向きの顔。

 

「本当の私は神が見えて話せる人間! この守矢神社で風祝をする現人神の東風谷早苗だぁーーー!!!」

「早苗うるさいよ」

「あ、ごめんなさい神奈子さま……」

 

 今は自宅近くのクソ廃れた神社に来ています。少々蜘蛛の巣も張っているくらいの廃れ具合……あの黒いのじゃないだけマシでしょう。蜘蛛なら益虫ですよ益虫。頭文字Gはゆるさなえ。

 

 ああ。それと今は放課後なので私がここにいても問題はなにもありません。宿題?ケセラセラ。

 

「それで? 今日の帰りに何かあったんだろ? わざわざ着替えすらせずに神社(こっち)に来たんだから。おもしろい話だといいけどね~」

「はい! 諏訪子さま! 諏訪子さま好みの話ですよ!」

 

 私はこの気持ちを共有したくて話したくて堪らないので単刀直入に言う。

 

「帰り道の途中でなんと! 男の人がいたんですよ!! イケメンでした!」

「なんだってー!? このクソ田舎に!? 写真とか撮ってないのかい早苗!?」

「そうか。それで?」

「ああ、ごめんなさい諏訪子さま……自転車からでは無理でした。そして諏訪子さまはノリがいいのに神奈子さまのイケず……いいですか神奈子さま? ここは地元民の私だから断言しますが全くと言っていいほど何もないド田舎。あるのは馬鹿でかい湖に根っからの田舎者なおばあちゃんとおばあちゃん予備軍のおばちゃん。それとこの社くらいです。本当に何もないですねここ!」

「地元神の私も断言できるくらいの田舎だな……で?」

 

 ああもう、察しの悪い神様ですこと。

 

「その男の人は見たところ何も持っていませんでした! つまり釣りに来たわけではないです! そしてかなりのイケメンということはわざわざこんなクソ田舎にまで来る理由はないでしょう!」

「どうしてそうなるの……あるでしょう親戚に会いに来たとか……」

 

 神奈子さまは呆れたような溜息を吐く。この神様今日はなんか冷たい。いや思えばいつも割と辛辣だった。

 

「ここに来た理由……それは間違いなくここ、守矢神社に他ならないでしょう!」

「……続けて」

「はい! この場所には実在の神様が二柱もおられます。さらに現人神の私まで……これは間違いなく能力物バトルの導入です! 私たち三人が主人公になる時間がやっと始まるんですよ! ヒーローの登場と共に!!」

「まーた早苗の痛い妄想が始まったみたいだよ? 神奈子」

「放っておきなさい……お腹が空いたら帰るでしょう。放っておきなさい」

 

 二回も言われた……ですがこれは非常に高精度の予想……のはず。

 

 この辺りに目ぼしいスポットがないのは事実。しかもクソ暑い時期なのに涼しい顔でスーツを着てブーツを履いていた。ただのオシャレではないでしょう。いや、男性のオシャレわかんないですけど。これはもう確実に人間じゃないでしょう。

 もしかしたらお二人のように神様かもしれない。産め!神の子を!とか言われたら私は喜んで生む。サッカーチームだって作りましょう。目指せ守矢ジャパンです。

 

 そしてその予想が的中した場合は間違いなく私が主人公の筆頭だ……!

 

 私は『奇跡を起こす』能力なのに対して、お二人は『坤を創造する』能力と『乾を創造する』能力。明らかにコンビ系能力。ただのバーター。ふたりは神キュア。つまりバランスを考慮して真ん中に立つのは私。

 

 そして間違いなくクレジットされるなら私が一番上になるのは確定的に明らか!仮にあの男の人が主人公だとしてもお二人よりも若い私の方が間違いなく上!なんならツートップ!メインヒロインは私!勝った!

 

「とりあえず私は家に帰りますからね! 多分こういう能力系バトルのような作風なら夜にイベントが始まると思うのでまた夜に来ます! ちゃんとここ掃除して……いや、この廃れた雰囲気も良く考えるとありですね!」 

「はいはい。その間に宿題やっときなさいよ早苗」

「嫌です。ではお二人ともまた今夜」

 

 宿題とかしてる暇はないですよ。最速で今夜異世界行く訳ですから宿題とかやる意味はないです。今日の課題は英語だし。多分使わないですよね?お願い使わないで!

 

「……諏訪子。途中まで付いて行ってあげて。今の早苗のテンションなら飴玉一つで誘拐されそうなくらい脳みそが衰えている」

「そうだね」

「馬鹿にし過ぎですよ!? イケメンに現金ちらつかせられない限り私は無敵です!」

 

 お二人が呆れを通りこいて可哀そうな物を見る目で私を見てくる。いやいや、無理でしょう。この二つがセットになってくるとかもう無敵ですよ?バニシュしてデスとか、こころのめからぜったいれいどとか、プリズムにフォレストボム投げるくらいお手軽な即死コンボですよ?小学生でも知ってます。

 

「……諸々りょーかい。さぁ、早苗いこっか。どんな感じだったか歩きながら詳しく教えてよ」 

「いいですよ! そうですねー全体的には諏訪子さま秘蔵の…………」

 

 諏訪子が早苗に付いて外へと行ったのを確認した神奈子が社全体に聞こえるような声で叫んだ。

 

「さて行ったか…………いるんだろう!? なんの為にこんなところまで来たのかは知らないけどまずは姿を現すのが礼儀じゃないかしら!? 私らを見ていても特に面白くはないでしょう! 出てきなさい!!」

 

 辺りは静まり返っている。

 

「ふん! だんまりかい……いいさ! 近くにいるのはわかってるんだ! 根競べと行こうか!!」

 

 その後、神奈子は諏訪子が戻ってくるまでその調子で一人で大声を出して喋っていたため、戻ってきた諏訪子に「早苗はそういうところは神奈子に似たね」と言われ散々からかわれた。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 一方その頃。

 

「え? 俺のこと呼んでたの? それは悪いことしたかな……? おっと、先にお前たちに礼をしないとな。はい。これご飯。気にするな、森の中にたくさん湧いてたからさして苦労も無い。働きには報いねば、みんなで好きに食いなさい」

 

 近くに獲物を置くと数匹の蜘蛛たちがそれぞれにかじりつく。そして俺は彼らに背を向けて守矢神社へと歩き出した。

 

 今現在、俺は守矢神社から少し離れたところの森にいた。少し前まで軽く外から神社を探っていたのだが運悪く近くに通行人が来たのでそこらにいた蜘蛛に眷属となってもらい諜報を任せ、ここに隠れ潜んでいたのだ。

 

「聞いた限りだとやはり勧誘は簡単そうだな。楽な仕事になりそうで助かる……俺の身が若干心配な気もするが……」

 

 そうこっそりと一人ぼやいてから守矢神社へと向かう。

 

「むこうで見たのと大体同じだがやはり多少は廃れて具合が激しいかな……おかげで蜘蛛たちが目立たずにいられたわけだが。しかし幻想郷に戻ったら建物の修繕費も負担してやるか? しばらくは金策もままならないだろうし、いきなり借金を負わせるのもな」

 

 移住者にいきなり借金を作らせるとか、そんなとんだタヌキ野郎じみたことはしないのだ。

 

 そして守矢神社に着いた俺は、そう感想を述べながらも微かな力のある方へと進む。

 

 昔、前の世界で会った神たる彼女たちはもっと強い力を持っていたが今は存在自体がとても儚いものになっている。これでは確かにこちらの世ではそう長くは持つまい。そう思うと八坂神奈子の幻想郷への引っ越しは英断だったわけだ。この死に体からあれほどの力を得るところまで行ったのだから。

 

「ここかな? おい八坂神奈子に洩矢諏訪子。来たぞ。いるんなら出て来てくれないか?」

 

 本殿。いや神楽殿だったか?

 とにかく、そんな他よりちょっと立派な感じの人の気配がある建物に足を踏み入れる。土足でいいかな?

 

「お前ー! お前がさっさと来ないからー!!」

 

 中では八坂神奈子が大荒れしていた。洩矢諏訪子が小さい体で必死に抑えている。それにしても呼んでいたから来たのにどうしたというのだ。俺が来るまでの間に何かあったのだろうか?

 

「落ち着きなよ神奈子。ほれどうどう。ああいらっしゃい。あらま、本当にあんただったの。それにしても男前だねぇ。薄汚れている上にお茶も出せないようなところだけどゆっくりしていってね。そちらお名前は?」

「アトラク=ナクァ。今はそう名乗っている。偽名だが特に本当の名前があるわけでもないのでそれで通してくれ。それと俺は蜘蛛なのでカフェインが入ってそうな茶は出せても断る。酔うからな」

「それは良かった。ほら神奈子! アンタも挨拶しなよ。ただでさえ見た目が良くないんだからせめて愛想くらいは出しときなって」

「くっ……! 八坂神奈子だ。なんの用で来た。それに貴様人間ではないな?」

 

 彼女は威厳を引きずり出すべく少し高くなった場所まで戻り、あぐらをかいて座り直し、八坂神奈子は大仰に俺に問う。洩矢諏訪子もそれに追従して傍に座る。

 

「そだね。そっちには私たちが普通に見えるみたいだし、本当に久しぶりに見た男の妖怪……だよね? どうもそれだけでもなさそうだけど」

「そうだ。俺は蜘蛛の妖怪だ。そして今回こちらに伺った要件は簡単だ」

 

 俺は少しの間を空けてから告げた。

 

「お前たち、幻想郷に引っ越してこないか?」

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