東方 あべこべな世界で戦う    作:ダリエ

33 / 50
33 神が去る夜

「幻想郷……しかし私たちに引っ越せだと……?」

「それはまあ……またどういった魂胆で?」

 

 二柱はこちらの提案を訝しんでいる様子である。まあ当然と言えば当然かとも思う。彼女らはいわゆる土着神の類だ。ここの土地に対する愛着も当然並々ならずあるだろう。確か千年以上になるとか言っていたし。

 

「自分たちの今の状況を考えれば二つ返事で了承してくれてもよさそうだが……こっちの動機も説明しようか」

「当たり前でしょう。我々は神。それは例え人々の信仰が薄れて弱っていても絶対に変わらないことだ。神を動かすには相応の理由がいる」

「それに万が一に騙されたら堪らないからね~。私もせめて早苗の子供の顔くらいは拝んどかないと死にきれないよ」

「……それは生きていても見れるかどうかすら怪しいんだけどね。はぁ。あの子が末代にならなければいいんだけど……」

 

 なんか世知辛い親の嘆きみたいな物を聞いてしまった……しかし今は勧誘だ。

 

 俺は改まって交渉を続行する。彼女らが来てくれないと大変困ってしまうのだ。正直元から勝手に来たんだから何言おうが来るんじゃね?とか甘く思っていたので雲行きが怪しい今はとてもまずい。

 

「幻想郷の賢者曰く、幻想郷は全ての存在に対して開かれている。特に忘れ去られゆくモノたちには。その辺は流石に自覚があるだろう? 現在進行形で忘れられているだろうし。公には今言った通りで、それと俺個人の目論見で強い奴が増えるのは大歓迎なんだ。あんたたちはむこうで人妖からの信仰を思う存分好きなだけ集めてもらって構わない、対価はささやか。力を取り戻したら俺と闘ってほしい。住む土地は既に用意してあるからここの建物だけでも持っていけばそのまま暮らせるとも。なんならしばらくは俺が一緒に暮らしてあちらの慣習から何まで教えてやってもいい。コンシェルジュの真似事くらいはできる。きっと」

「あら好条件。どうするよ神奈子? 男付きだってさ」

「…………はっきり言ってお前の言葉は私たち……いや私に都合が良すぎる」

 

 八坂神奈子はその表情をゆがめながら重苦しく口を開く。それに反応したのは俺ではなく洩矢諏訪子だった。

 

「神奈子?」

「幻想郷については実は前々から知っていたわ。そろそろ私の神力もギリギリだからそこに移るならもうすぐだろうとも思っていた。諏訪子には悪いけど私の中ではこの計画は決まっていたわ。ごめんなさいね。本来なら元々ここは諏訪子の土地なのに何も言わずにやろうとして」

「なんだそんなことか。いいよ。私はもう昔に神奈子に譲った身さ。楽しく隠居ができればそれでいいのさ。別に私のことを考えてなかったわけでもないんだよね? じゃあいいよ」

「…………ありがとう」

 

 二人の友情がここに来て固まったようでなによりだが俺が放置されている。そろそろ会話に復帰しても良いかなとチラチラ見てアピールする。俺はここにいるぞ?

 

「……さて、それでどうしてお前はここまで都合のいいタイミングで私たちの所へと来たのか聞かせてもらおうか? 前々から私たちを監視していたの? 偶然という訳でもないでしょう。まるで全てを知っていたような用意の良さだ。それならばよくもまあ私たちなんぞを長々と見ていた物だとその胆力を感心するけどねぇ」

「そうか? お前らなら見ていてもそれほど退屈しないし、度胸もいらないけどな。他はともかく俺には得まである。さて、知っていたかという質問にはイエスだ。俺はこの年のくらいの時期に八坂神奈子たちが幻想郷へと移住することをあらかじめ知っていた」

 

 八坂神奈子の表情が険しくなる。そして洩矢諏訪子が所見を語る。

 

「やっぱり監視してたの? ここは田舎だし、蜘蛛はそこかしこにいるからその親玉のあんたなら可能だろうけど……」

 

 しかし八坂神奈子がそれを否定した。

 

「いいえ。それも実はおかしいのよ。少なくとも私は見られている感覚を今日初めて察知したわ。鈍っていると言ってもこの中を見られていたら流石にわかる。だからお前はどうやってそれを知ったアトラク=ナクァ。それに少なくともそういう話を私は心の外に漏らした覚えはない。仮に見ていたとしてもそれだけだとそこまで詳しくわかるものでもないわ。悟りでもあるまいしまるで……」

「それに関しては俺がこの世界に近い未来の異世界から来たからだ」

「「は?」」

 

 何度目かになるこの返答だが……以下省略。別の言い方でかくかくしかじか。

 

「……つまり私たちはお前が元いた世界において、この少し後の時間に自分から幻想郷に転移すると?」

「そういうことだ」

「それでアトラクの元いた世界ではこっちとは男女のあれそれの概念とかその他諸々が違うと?」

「イグザクトリー」

 

 そう言って笑顔で二人を指差す。

 

 二人はその話をゆっくりと噛みしめながらもなんとか納得しようとしてくれている。

 

「私の計画は確かにお前が来なければそうなっていただろう……だから未来から来たというのはとりあえず認めよう……そういう事象が存在することも知っているからね。早苗と一緒に映画で見た」

 

 八坂神奈子からの疑いは晴れたようだ。ただ今度は洩矢諏訪子が疑ってくる。

 

「ただねぇ……私たちが美人に見えるってのがやっぱり胡散臭いよねぇ……幻想郷自体はそういう訳でもないんだろう? だったらいかにもハニートラップですって感じで疑わしいなあ。そういう映画あったし」

 

 ここの神様映画観すぎでは?暇なのかな?

 

「そうだな。この世界は一律でお前たちの常識で回っている。こんな価値観持っているのは俺だけだ。俺のいた世界ならそれはもうごまんといるが。あとハニートラップとかはしないでーす。そういうのは俺を倒してからのお楽しみだ」

 

 そういうイベントはバトルクリアのおまけとなっております。ご了承ください。

 

「何を言っているのかちょっとわからない。正直あんたは早苗の痛い妄想から出てきた都合のいい男過ぎて判断しづらいんだよねぇ~。私はそういうの嫌いじゃないけど」

「ああ。そんな感じね。いまスッと腑に落ちたわ。早苗がすっごい好きそうな小説とかゲームみたいな設定なのよね貴方。なんなら早苗が書いたのを現実に出力したレベル」

「えっ酷くない?」

 

 そんな中二病の権化みたいな謂れは流石にあんまりでは……?

 

「いやぁ……だってねぇ?」

「うん。未来から来たくらいなら私たちもちゃんと納得できたよ? そういう映画も見たことあるし。でも異世界とかのワードが出てくると……ほ~ら来た」

 

 そう言った神奈子の視線の先を追うと頭が緑色の少女が凄まじい速度でこちらに駆け込んできた。それはそれは床が抜けそうなほどの力強い踏み込みだった。床がミシミシ言ってる。やっぱボロイなここ。神が早いか建物が早いかと言った具合だ。

 

「異世界と聞いて!!! 転生と聞いて!!!」

「転生は誰も言ってないよ。早苗……あんたちゃんと宿題はやったの? というかなんでその服着てんのさ?」

 

 緑の少女。東風谷早苗は脇の空いた巫女服。いや風祝だから風祝服?とにかく俺も見慣れたそれを着ていた。

 

「そんなもの私の知ったこっちゃ……おお!! さっきのかっこいい人だぁ! ずるいじゃないですか神奈子さま諏訪子さま! 私に黙って会ってるなんて! やっぱり私たちは異世界へと旅立つんですね! しっかり家に帰って着替えた甲斐がありました! そして始まる素敵で甘いちょっぴり過激な恋の冒険物語……! さあ早く行きましょう! 行き方はトラックですか? それとも謎の穴? 私としては魔法陣とかが楽だし痛くなさそうでおすすめです! でも、一度死んでから転生して美女になって子供の頃からちやほやされるのも憧れますよね! 悩んじゃいます! まあそれはともかくレッツ私たちの新天地へ! ハローワールド!!」

 

 彼女は両手を天に掲げて叫ぶ。近所迷惑とかそんなチャチなもんじゃない。そしてシンプルに勢いがあり過ぎて内容が理解できない。何言ってんだこいつ。

 

 なんだこれ。こちらの外界の常識はマンガ喫茶のパソコンとマンガと週刊誌と新聞で一夜漬けしたがおおまかに理解できている。だから彼女がなんかおかしいのがわかる。なんだこいつ。

 

 だがしかし、二柱はしっかりこの突飛な内容を理解しているようだった。流石保護者。世界が変わっても保護者だ。二人はどこまでも冷静に彼女に対応する。

 

「は~い落ち着いてね~。今は私たちが大事なお話し中だから座って待っててね~。外の自販機でジュース買っていいから。はいお金」

「あ! またお賽銭から抜きましたね。でもわかりましたー! 異世界にはコーラとかないですもんね! ちょっと行ってきまーす!」 

「私はお茶でー! ……おい、お前大丈夫か? いや、そもそもそちらの世界にも私たちがいたのなら早苗に驚くこともないでしょうに」

「ちがう。俺の知ってる早苗ちゃんとこれはちがう。これじゃない」

 

 俺は首を猛烈に横に振りながら否定する。こんなヤバい女があの比較的常識的な東風谷早苗であるだろうか。いやないだろう。無いと言ってくれ!

 

「……一応聞いておくけどあんたの知ってる早苗って?」

「外見は同じ。評価は容姿が逆転するからとても良いに変わる。新参かつ人間として現代社会で生きてきたから幻想郷の常識からはちょくちょく外れてたらしいけど俺からしたらそれなりに折り合いをつけて楽しそうに生きてたように思う。つまりこんな一方面に特化したサブカルクソ女みたいなのじゃ断じてないってことだ!」

「……あの子にはそんな未来もあったんだね……」

 

 その未来を諦めないでくれ!!お前が諦めたらおしまいだろう八坂神奈子ぉ!!

 

「…………気持ちはわかるよ」

 

 洩矢諏訪子がそう言って訳知り顔で俺の肩の高さまで頑張って跳んで叩く。背が低いので蛙のようにピョンピョン跳ねながら。もう空も飛べないらしい。いや気持ちを察するくらいならなんとかしてほしいと視線で訴える。

 

 あっ、このケ○ッピ(諏訪湖のすがた)俺から視線を逸らしやがった。おい。こっち見ろ。その可愛いお顔を向けろって言ってるんだよ!

 

「……私はここ数年で諦めたよ。だって仕方ないじゃない。この現代で神様が見えて、家が神職で、おまけにささやかな物とはいえ自分の意思で力まで使えるんだよ? 学校ではモテないから男の子と遊びに行ったりもできないし早苗は当然そっち系にのめりこむ訳さ。なまじ能力は本物だからそんなお話はフィクションだって言っても心のどこかでは諦めきれないだろうし。ねえ、あんなのだけどあんたにとっては美人なんだろ? 貰っておくれよ! なんなら私たちもつけるからさぁ! 私も神奈子も生娘だから! 貴重な神様の処女だよ!?」

「やめなさい諏訪子いい歳してみっともない! あと私の情報までばらすな!!」

「それ以外の理由でも止めろ! 止めてくれ!」

 

 止めてください。

 

 俺もこの世界にはかなり慣れてきた。普段なら多少喪女を拗らせた奴だって受け入れる器量ができてきたつもりだが、あの東風谷早苗は長考させてほしいくらいには悩む。

 

 いや。これまでのイメージの彼女なら何の問題もなかった。むしろちょっとこっちからアプローチしたっていいかなとすら思っていた。彼女なら俺を倒す見込みもあるし。

 

 やはり俺も現代で長く生きた身。外界の話が多少なりとも通じる数少ない相手なのでその辺の話をしたいとたまに思っていたが、幻想郷から出られない彼女にその話をするのは酷かもとも考え、むこうでは自重した。だからこちらではなんて思っていたのだが。

 

「……とりあえず幻想郷には行かせてもらうよ。お前の思惑なんかどうでも良くなったよ。早苗がいればなんとかしてくれそうだし」

「思惑なんて一つしか無いって言っただろう! 力を取り戻したら時たまバトってくれりゃあそれで良いんだ! それで俺に勝てればお前も幸せ! 俺も強い奴と闘えてハッピー! OK?」

「ふぅん。まあそれくらいなら良いんじゃない神奈子? 私たちも戻った力を試すのにちょうど相手がいた方が良いだろうし。このアトラク=ナクァは間違いなく強い。力を取り戻した私たち二人にも十分に対抗してくるだろうよ。それに私も結婚生活してみたい。ウエディングドレス着たいな~」

「日本の神様がそれってどうよ?」

 

 洩矢諏訪子は抜け目なくこちらの力量を測っていた。しかも最初から勝った気でいる。別にいいけど。そろそろ俺も出来上がってきたことだし。望むところだ。

 

「それに最悪早苗を押し付けてやればいい。なあに神との約束を破ったらどうなるか楽しみにしているんだね」

「やめろぉ!!」

 

 せめてもう少し大人しくさせてから引き渡せ。そんな俺の気持ちなど酌量せずに神奈子は続ける。

 

「それに私たちが幻想郷に行くならお前がしばらく面倒をみてくれるんだろ? 大船に乗ったつもりで任せるからしっかり頼むよ。三人だけどよろしく」

「来るのは良いけど早苗ちゃんはもっとなんとか躾けろ。むこうではお隣さんだっているんだぞ! 近所迷惑だ!」

「お隣さんって?」

「天狗とか河童とか色々な妖怪」

 

 そう言えば喧嘩吹っかけてきた奴らだから多少困らせるくらいはいいかとも思える。あれ?特に問題ない?

 

「大丈夫さ。今はちょっと普段よりもテンション上がってて調子に乗っているだけ。帰ってきた時には治まっているんじゃないかな?」

「ほんとぉ? だが諏訪子様よ。流石に人は急にテンションが下がるってのはそう多くないんだぞ? 薬でもやっている訳じゃないんだろ?」

「まあ待ってなって」

 

 俺はそう言われたので信じてはいなかったがそのまま待った。やることもないし。頭では彼女の性格をどうやって、誰に矯正させようかを考えていた。果たして今から光源氏の真似事をして間に合うのだろうか。

 

 すると、外の水場で手を洗う音がしてからその後すぐに彼女は帰ってきた。

 

「どうもお待たせしました。こちら飲み物になります。そちらの方もどうぞ。ああそうだ。お名前をお聞きしていませんでしたね。私は東風谷早苗です。この守矢神社で風祝をやっているしがない学生です。よろしくお願いしますね」

「あっはい。アトラク=ナクァです。ドウゾヨロシク」

「まあ! 海外の人だったのですね。はいよろしくお願いします」

 

 目の前の東風谷早苗は先程の無限大で記憶上の数倍の礼節ある振る舞いをしていた。

 

 なんだ。中身を総とっかえしてきたのか。誰だこいつ。いや、むしろ知ってる方に寄ったけど。最初に会っていたらそこまで驚かなかったがアレが間に挟まったせいで訳が分からない。誰か説明してくれ!

 

 俺はこんらんしている。そんな俺を放置して神奈子は話を進める。

 

「早苗。私たちはこれからそこのアトラクの勧誘を受けて幻想郷と言う妖怪たちの国へと移住する事に決めた。お前はどうする? 共に来るか? 一人残るか?」

「一緒に行きます。それでいつ行きますか? 今ですか?」

「今すぐでも構わないけど早苗は最後に家族の顔を見ておいで。それくらいは待っておくから。生活に必要な物があれば持ってくると良いよ。あっちの文明はかなり低いそうだからそこも考えて持ち出す物は考慮しなさい」

「……私を置いて行ったりしないですよね?」

「最後だから私も一緒に行くよ。それなら安心だよね? 私もみんなの顔を見ておきたいしね」

「はい! 諏訪子さまが一緒なら安心ですね。ではちょっと失礼します。お二人を待たせるのも悪いですし急いで行きましょう諏訪子さま!」

「合点! 勝手に行かないでよー神奈子ー!」

 

 二人は東風谷家があるだろう方角へと駆けて行った。フリーズしていた俺と終始あぐらをかいてそのまま居座った神奈子だけが残った。

 

「さて、大方早苗の豹変の秘密が知りたいんだろう」

「うん」

「一応聞くけどなんだと思う?」

「二重人格とか? 実は双子とか? 封印されていた裏の人格が目覚めたとか?」

「あんたも大分早苗に毒されたね。違うよ。あるんだよ、とっても簡単な方法がね。正解は」

 

 正解は?

 

「オn」

「わかったそれ以上いけない」

 

 その後、帰ってきた二人とともに俺たちはその日のうちに幻想郷へと移動したのだった。

 

 

 






  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。