月でのいざこざも落ち着き、幻想郷では年が明けた。それから四月になり春が訪れつつあった幻想郷の森の中に彼はいた。
「せい! はっ! とうっ!」
その手にはかつて折れたはずの一振りの刀。名付けて平蜘蛛が握られていた。幻想郷において数少ない男妖怪であるアトラク=ナクァは森の中それを振るい、一人で殺陣を行う。
「うーん。これはなかなか。小傘は良い仕事をした」
アトラクは満足気にその刃文を見つめる。かつて春雪異変の闘いの時、彼は幽々子との決戦に挑む妖夢にこの刀を貸し与え彼女を勝利に導いた。しかし、流石に業物である楼観剣との打ち合いには耐え切れずにその刀身は真っ二つになってしまった。それ以来は全く使っていなかったのだが、少し前、遂に多々良小傘の手によって修復に成功し、彼の元へと戻ったのだった。
「でもやっぱこれ使いづらいんだよなぁ……糸でいいや」
しかし現実は非常であった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ぼけー」
剣の素振りを終えた俺は、その辺の木の太い枝に寝転がり暇を持て余していた。特に闘う相手もおらず。急いでやることもない。異変ももうしばらく起きない予定だし、どこに行こうかと考えていた。
「外。それかやっぱり天界に行くかー」
妖怪の山の頂上から行けると言う天界。そこからなら色々ちょろまかしてもいいだろう。パワースポットもありそうだし、あそこには二人ほどこちらに来る予定の奴らもいるのでちょうど良い。少し早いがもう行くべきか?
「春ですよー」
「あー知ってる知ってる。春ですなー」
春告精が今日も元気だ。俺の周りを飛び回っている。暇なので適当に相槌を打つ。妖精は貧弱なので喧嘩は売らない。他の奴ならブサイクが飛び回ってると見なして攻撃を仕掛けるかもしれないが俺にとっては可愛い妖精さんなのだ。
水筒を取り出して、中身のジュースを飲みながらのんびりし続ける。
「春ですねー」
「はいはい春ですねー」
「売春ですかー?」
「ぶふー!!!」
口の中の物を全て吹き出す。可愛い妖精と言ったな。前言を撤回する。なんだこいつは(驚愕)
「お幾らですかー?」
「売ってない! 春の妖精が春を買おうとなんかするんじゃあない! というか誰だそんなこと吹き込んだのは!」
俺が売るのは主に喧嘩だけ。買いもする。高価買取中。春は売ってないし買ってない。
とっ捕まえてその裏にいる幻想郷の風紀を乱すやつでも捕まえようと手を伸ばす。妖精がこんなことを知っているとは思えない。誰かが吹き込んだはずだ。そうであってくれ。
「逃げますよー」
「あ! 待て! こいつ!」
手からあの公序良俗に反する言動の妖精を捕まえようと糸を出そうとするが。
「……ちっ! やっぱまだダメか!」
糸は出ない。あの神奈子たちとの闘いから体の調子がよろしくなかったので一度応急処置をしたがやはりダメだった。冬にのんびりと籠っていた間にこのざまだ。自然回復が見込めないならやはり冬の間は外でコンディションを整えるべきだった。少なくともどこかで時間を取り万全な体調を取り戻さなければこの先に待ち受ける異変を楽しめない。
「今回は見逃してやろう……妖精にあんなの吹き込んだ奴は見つけ次第吊ろう」
俺はやはり遠出の準備をするために家へと帰宅した。
そして次の日。朝になり、荷造りも終えてさあ妖怪の山へ出発しよう。と思い、店に『都合によりお休みします』という看板を建てていたら家に来客が来た。妹紅と慧音だった。
「またお前は長期休暇か。良いご身分だな。今度は一体誰とナニをするんだろうなぁ」
相変わらず機嫌が悪い。ついでに斜に構えて柄も悪い。こっちはわりといつものことだが。
「こら妹紅。お前はまったく。おはようアトラク。これから一緒に花見に行かないか?」
「今から山登りにでも行こうかと思ったんだが……まあいいか。せっかくだし付き合おう」
家に戻って荷物を置く。長期外出に必要な荷物は念のためかばんに入れていた。仙術で即席で作った空間に仕舞っておいてもいいのだがいざと言う時に取り出せなくなったりしたら困るのでやっていない。このかばん自体も空間宝貝技術の応用によって見た目以上の収納が出来るので便利だ。
代わりにいくつかの飲食物が入った袋を持って表へ出る。外界でしこたま買っておいた品の一部だ。花見なのでいくつか持ち込もう。慧音なら大丈夫だろうが会場にまともな食べ物が無い可能性も否定できない。
「待たせたな。それでどこでやるんだ?」
「お決まりの通りに博麗神社さ。あそこの桜が一番綺麗なんだ」
「そうなのか」
そんな話をしているとすぐに博麗神社へと辿り着く。俺たちのような者には楽な道だが普通の人間には辛い道のりだろう。途中で妖怪が出ないとも限らなければ、着いた先には妖怪がたむろしていることも多いのだ。まともな神経の人間はけして行くまい。まだ朝早くと時間が早いのもあって他の者には出会わなかった。
「それではお昼まで時間もあるしまずは飲みながらのんびりしようじゃないか。最近あまり会えなかったしお互いに近況報告でもするか?」
「そうだな。前の紅魔館の宴会の時も碌に話せなかったし。寺子屋はどうだ? 子供たちは?」
「皆元気だよ。真新しい事と言えば新しい神社の子の早苗がたまに話に来てくれたりすることくらいだ。ただ何人かはすっかり成長してもう家の手伝いの方が忙しくなって来なくなってしまったがな。みんなお前に会いたがっていたから今度里の催しがある時には参加して顔を見せてあげるんだぞ?」
「機会があればな」
「ところでお前は何をしていたんだ? 私はお前の望みどおりに鍛練をして、後は竹林案内したりたけのこ掘ってたんだけど?」
「いいじゃないか。俺はどこから話すか……そうだな、ここはキリ良く前の夏に守矢神社を呼び込んだ時から話そうか……」
そのまま日が高くなるまで俺は俺の事を話していた。
「……ということになってだな、さらにそこで俺は美鈴にこう言ったのさ。「おいおいそれじゃあまるでレミリアじゃないか! ハハハ!」ってね!」
「…………ああ。お前の話はとても面白いし興味深いしおまけに良い声だが、そろそろ一回中断してご飯にしよう。な? 妹紅もそう思うだろう?」
ブンブンブンブン!
妹紅はもう首が取れそうなほどに縦に振って激しく同意するので俺は話を区切って持って来た袋をまさぐる。ご飯の時間だ。
「それならご飯にしよう。前に外に行った時は秋だったから川で鮭を獲ってきておいたので塩焼きにして食べよう。脂がのっていて美味い。他にもこっちでは珍しい魚を持って来てある。こちらで三枚に下ろしておく、妹紅は七輪と炭は用意してあるから火の準備を」
「そういうのは私に任せろ。しっかりとやっておく」
「では私は器を準備しておくよ。新鮮な魚は久しぶりだな。冬の間はすっかりご無沙汰だった。少し生で食べてもいいだろうか?」
「半妖だしいいんじゃない?」
炭火で魚が炙られて脂のいい匂いが神社に漂い広まっていく。すると当然彼女が匂いに釣られて出てくるのは予想されることだ。既にその分も用意している。
「勝手に人の神社で花見をするのは誰じゃー!? その美味そうなモノをショバ代として寄越しなさいよぉ!」
「おうおうおう! 誰の断りを得てここを使ってるんだぁ? 使わせてほしかったら誠意を見せてほしいもんだぜ!」
とてもがめついヤクザ巫女と盗人魔法使いのエントリーだ!
「やあ」
「あ……どうぞごゆっくり~……」
「こんなしけたところ好きに使ってくれていいんだぜ。じゃあ私はこれで……」
「お前たちもこっちに来てお食べ。まだまだあるから気にすることは無い」
「「神様……!」」
彼女たちはこちらのメンツを確認してからそそくさと退散しようとしていたが引き止めたら神様呼ばわりされた。君たちにとっては足長おじさんも神様になりそうだな?
「随分と安い神様だな」
俺もそう思うよ妹紅。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
のんびりと五人で食事をしていると次々と神社へと花見客が来た。当然まともな人間はいない。どいつもこいつも高い戦闘力を誇る奴らだった。それが続々と。
まだ日が高いのに日傘をさして訪れた紅魔館一同。吸血鬼としてどうなんだ。そして白玉楼主従。お前たちも仕事はどうした。俺は個人営業だから問題ないけど。あと八雲一家。賢者って暇なんですね。知ってた。他にも多くの個人や守矢神社やプリズムリバー三姉妹などちょっとした団体で花見に集まってくる。
ただ最後に一つ、永遠亭は輝夜がもう普通に顔出しているけどいいのか?何人かその辺で吐いてるぞ。
俺たちもあまりの人の多さに疑問を浮かべる。
「やけに多いな? どういうことだ。慧音。俺たち以外に誰かに今日花見するって言ったのか?」
「いいや。私は特に……妹紅は?」
「私だって……いや、そういえばさっき天狗が近くを飛んでいたような気がする」
「「それだ!」」
天狗か。ならきっと文の奴だ。この辺を好き好んで飛ぶのなんてあいつくらいしかいない。俺たち。いや俺がここにいることを方々で触れ回ったな。
今ここには現状出てきている限りの強者が勢ぞろいしている。ああ、惜しい。いつもの力が出せればきっと楽しめただろうに――
(――あれ? もしやこの状況とてもまずいのでは?)
俺は気づいてしまった。
まず、今の俺がなんのリスクも負わずに可能なことは人の身体で可能な格闘。武器の使用。あとは空を飛ぶことくらい。糸も出せないし、大量の弾幕を出すのもおそらく不可。旧神の力は感覚的に使えるがあまり戦闘で頼りたい物でもないし原型は仙人じゃない時には制御できるか怪しいのでここで使うのはまずい。
だが、その二つを使わなければ俺は今だとそれなりな妖怪二人も相手にできない。つまり連戦も一対二もダメ。というか楽しんで闘えるような状態ではない。そもそも今日から回復の為に動くつもりだったのだ。
(今勝負を挑まれたらすぐに負ける……こんなクソみたいな状態で闘って負けるのは度し難い! だがこいつらがそんなことを言って聞くか怪しい)
負けるのも嫌だが負けて結婚、それからは対戦拒否されるのが一番嫌だ。結婚するのは別に何の問題もないが。だからここでは負けられない。
しかし彼女らなら勝てるうちに勝とうとするだろう。既にそこそこ焦らしているし。咲夜とか妹紅とか輝夜はわかったら絶対に来る。あいつらには今は一対一でも絶対に勝てない。時間停止とか不死とか格闘だけでどうしろと?それに幽香とかが来ても単純に強くて勝てない可能性もある。
(紫はどうだ? 多少弱体しているのは知っているがここまで弱っているのは知らないか……? いや原型を警戒していると見ていいだろう。それなら原型を知っている奴は脅せば十分止められる。それに霊夢と魔理沙は俺と闘う気がなさそうだし敵じゃないと見ていい)
つまり今勝てない相手と闘いになりそうならいきなり原型を解放すると宣言。紫が止めてくれるならそれで止まればオーケー。止まらないならなんとか言いくるめて霊夢とか魔理沙とかその辺を引き込む。それもダメなら博麗神社には犠牲になってもらう。
(早い話俺が負けなければいい。だがこれは下策。今の空気なら闘いの流れを感じさせなければいい。つまり宴会を完遂する! ならばとっておきを使う……!)
俺はいつもより一等覚悟した面持ちで自身の懐をまさぐる。懐にはいつも小さな空間を仕込んでいる。ここには前の闘いでも出した禁糸鞭など頼れる武器や貴重品を入れた空間宝貝の理論を応用した収納がある。普段はその辺に手を突っ込めばそこに繋がるが今はしっかりと懐にいれなければならない。そこから俺は一つの桃を取り出し立ち上がる。
(正直言って勿体ない。使うならせめてあの子らの復活に際してと思っていたが……だが! これの効能は今の状況に最適! やるべき時は今なんだ! 今! ここで!)
「ん? どうしたんだアトラク? また誰かに喧嘩でも売るのか?」
「ち、ちげーし。そんなまさかー。慧音。宴会の最中に闘うとかそんな妹紅じゃあるまいし……」
「お前は私に喧嘩を売ってるのか? だがまあ今回は許してやろう。だから慧音、腕を掴むのはやめてくれ! 痛い! 大人しくしてるから! なんか骨が軋んでる! 蓬莱人でも骨折はするから!」
慧音の言葉にちょっとビクッとしたが、俺は取り出したる桃を持って水場を探す。少なくとも目に見える範囲にはない。手水舎は小さすぎる。あれなら風呂桶のがマシだ。やはり川か池か湖だ。ここは手早く住人に聞こう。
「なあ霊夢。ここって池とかあったよな?」
「え? あ、はい。ありますけど……何か?」
「使うから案内してくれ」
「使う……? えっと、構いませんけど何するんですか?」
「来ればわかるとも。興味がある奴は着いてこい! 最高の酒を飲ませてやるぞ!」
俺の言葉にぞろぞろと立ち上がり、池に向かうこちらに付いて来る者が続きながら思い思いに雑談を交わす。
「酒だ酒だー! 当然私も行くぜー!」
「最高の酒か~。でもアトラク飲まないし期待できるのかなぁ~? 不味かったらあいつには私の酒器になってもらわなきゃね~。ついでに男体盛りだ~!」
「その角へし折るわよ小鬼。アトラク様が出す物はなんだって美味しくいただくのが礼儀ってものよ。行くわよみんな」
「そう? 私としては萃香のそれもいいけど。でもあいつの酒の目利きは期待できるわ。お土産の洋酒はいつも美味しかったし。だからあいつの言う最高には期待してる。早苗が最初に飲む酒にいいかもしれないけどあんまり良い物が最初だと他が飲めなくなりそうね。困り物だわ」
「あらあら。月のお酒を飲んだ私を満足させられるかしら? ねえ紫」
「どうでしょうね。でもわざわざ移動ってなんでかしら? こっそり飲む訳でもなさそうだし。それにこの人数よ?」
後ろにはやはりぞろぞろと。見れば動ける者はほぼ全員が来ている。これでは樽が軽く十個あっても足りないだろうと紫は予想しているだろう。
「さて……うん。元より綺麗な水だし、水量も十分だ。ちゃんと常に新しく水も湧き出ている。ここは何か住んでいるか?」
「あー。一応亀がいるはずですけど……今いないんで何もいないということで」
「じゃあ使わせて貰うぞ。よっと」
俺は仙桃を池に投げ落とす。
「おいおいアトラクぅ~なあにしてんだよ? 桃があるなら私にくれよぉ~」
「魔理沙お前酔ってるな。少し顔を洗って酔いを醒ますと良い」
「え? ちょっと私の顔掴んでなにするつもりだぁ~? ちゅーでもしてほしいの――」
俺は魔理沙の顔を掴んでそのまま池にザブンと沈めた。
「がぼがぼがぼぼぼぼっ!!??」
「「「魔理沙ーーー!?」」」
「ちょ、何もそこまですることないじゃない! 酔っぱらいの戯言でしょ!?」
「そうですよ! 魔理沙ー! 死ぬんじゃないわよー!」
「そんなのどうでもいいから酒はー?」
好き勝手に反応する彼女らを尻目に俺は魔理沙を引き上げる。
「どうだった?」
「うぅぅ……」
魔理沙は「うぅ」と唸っている。それを泣き声だと判断した霊夢が慰めるべく近づく。
「ああ魔理沙可哀想に……ん? なにかいい匂いが「うまぁぁぁい!!!」きゃあ!?」
ばしゃーん!
魔理沙が今度は急に叫び声を上げた。それに驚いた霊夢はつまづき、上半身が池に落ちる。
「美味い! それに甘くてとってもいい匂い! アトラクなんだこれ!? 何したんだよ!? これ全部酒だぞ!?」
魔理沙に聞かれたので周りにも聞こえるよう声高に答える。
「さっき投げた桃は仙桃と言って仙界に生る仙人の食べ物だ。色んな逸話が人界にも伝わっているだろうがこれは水に溶かすと酒になる物。その味は美味にして心地よく酔えるが人にも毒にならず依存性もない。次の日には体内だろうと水に戻る。ある種理想の酒と言える物だ」
「仙人の食べ物!? そんな貴重な物を……あれ、じゃあ霊夢は? 池に入った割にさっきから起き上がって来ないけど……まさか!?」
「ごくごくごくごく!」
「あ! こいつ滅茶苦茶飲んでる! 引き上げるわよ! 手を貸しなさいイナバ!」
霊夢は息継ぎもせずにひたすら酒を飲んでいたらしい。なんともたくましい奴。だが輝夜に有無を言わさず引き上げられる。
「かっは! ぜぇぜぇ……近づくんじゃないわ! これはウチの庭の池の水の酒よ! 全部私が飲むわ! 欲しければ金を払いなさい!」
「ふざけるんじゃないぜ! こんなもん一人で飲めるわけないだろ! それにこれはアトラクのおかげだろう! あいつが振る舞うって言ったんなら振る舞え! 何よりこんな美味い物一人占めしようたってそうは問屋がおろさないんだぜ! みんな! こんな巫女やっちまうぞ!」
「「「うおおお!!!」」」
「かかってきなさい馬鹿どもがー!!!」
霊夢対喧嘩っ早い奴らの闘いになってしまった。これは予想してなかったがまあいい。俺は適当に自分の分を一升瓶に汲んでおいてしばらくは離れておこう。過激な奴以外は俺の様にあいつらから離れた場所で池の酒を好きに楽しんでいるようだ。
「あっ、それとこの酒は一日したら飲んでなくても水に戻るからー。そんなことしてる暇があるなら仲良く飲んだ方がいいぞー」
ぴたり
そう言うと過激派連中は闘いをやめて、今度はそれぞれ手だったり持って来た器だったり顔を突っ込んだり池に飛び込んだりで争うように飲み始める。
「ふふふ。醜いわね。これだからカリスマの無い者は。貴方もそう思うでしょ?」
「どうも旦那様」
「これおいしいね~」
「さすが仙人様の食物! 最高ですよアトラクさん!」
「御機嫌ようアトラク。いただいてるわよ」
「こんにちはですアトラクさん」
池での醜態を眺めている俺にレミリア一行が近づいて来た。レミリアは咲夜に日傘を持ってもらいその小さな手で酒杯を両手に持っている。それ以外の面々も皆片手にはあの仙桃の酒が入った酒杯を持っている。それ以外だと美鈴が酒樽を担いでいるのが目立つ。中身があれとしたら何時の間にそこまで確保したんだ?
「お前はやらないのかレミリア? 子供だからあそこで水遊びしてても許されるぞ? あとその樽どうやった?」
「やらないわよ! まあ言ってしまえば私は従者が優秀なのよ。争う必要すらなかったわ」
「咲夜か。相変わらず便利な……それで? 俺のとっておきはレミリアお嬢様の口には合ったかな?」
「ええ。中々ね。これなんとかして保存できないかしら?」
彼女は美鈴が担いでいる樽をポンポンと叩く。どうやらお気に召したようだ。この酒は今の俺でも口にしたい知る限り最上の名酒だ。まあ糸がでない今だからこそ飲めるタイミングでもあるが。
「それを聞きに来たのか? 咲夜が時間を止めればしばらく持つだろうよ。俺も詳しく知るほどは持ってないし飲んだことも無いから実のところわからん」
「そうなの?」
「きっとそうですよお嬢様。これは仙人の食べ物。私の祖国に伝わる本当に伝説の代物なんですから! 口にする機会があっただけでも感謝するべきです!」
美鈴は流石に知っているらしく感激して涙目になりながらも凄い勢いで杯を傾け、樽からおかわりする。
「ちょっと。美味しいのはわかるけどペースが早いわよ。あそこから汲むのは私なんだから貴女は少し遠慮しなさい」
「持つのは私なんだから良いじゃないですかさくやさ~ん」
「ああめんどくさい。酔っぱらいはこれだから……」
「まあそういうな咲夜。美鈴としては本当におとぎ話に聞いたような伝説の酒だ。今日くらい気持ちよく酔わせてやれ。二日酔いもないし」
「……そういうことならば。しかし本当にこれ美味しいですね。あの桃はやはり稀少なのですか?」
「ああ。後十個もない。何より育てられる環境もない……いやもしかしたら」
「何か?」
俺は咲夜の言葉で一つ思いついたことがあったが今は置いておこう。すぐに試すことができる疑問だ。
「いや。ありがとう咲夜。少し考えが浮かんだ」
「それは良かったですわ。旦那様のお力になれて私も幸せです」
「でも残念ね。ウチなら桃の状態で保存できるから催し物の目玉にできたのに。水場も湖を使えるわ」
「動物にも大して影響はないがここの奴だと魚ごと酒飲みそうだし危ないんじゃないか?」
「そんなバカは死ねばいいのよ。それよりその桃の個数問題が解決したら私たちに売りなさいよね。絶対よ」
「はいはい……お」
俺の器に桜の花びらがひとひら舞い落ちる。
「これは……風流ね」
「吸血鬼が言うことか。だが忘れていた。そういえば俺は花見に来ていたんだったな。ハハハハ」
その後、俺たちはのんびりと天上の酒を味わいながら花見を行ったのだった。