「ああもう! 全部貴方のせいよアトラク! こんな夜中に私を働かせるなんて! 邪魔よ羽虫共! 必殺「ハートブレイク」!」
「吸血鬼が夜に働かされて文句を言うのか!? 疾ッ!」
ピチュンピチュンピチュンピチュン
ピチュンピチュン
レミリアが紅い槍グングニルで多くの妖精を貫き、俺も右手の刀と左手の鞭で一体ずつ落とす。それでも数は相当な物。幻想郷では妖精はプライスレス。その辺で勝手に湧いて出る存在でしかない。つまり数だけはたくさんいるのだ。
そして現在の時刻は真夜中。ちょうど日が回ったくらいだろうか。俺とレミリアは夜空の中で大群をなした妖精相手に二人で闘っていた。
どうしてこうなったかと言うと時間は夕方から夜へ移り変わる時分、花見の終わり際にまで巻き戻る。
卑しくも池の酒が水に変わるまで神社で粘ろうとする者も多い中、博麗神社での花見を無事に終えた俺は明日に向けて早く帰宅し、天界への旅の準備をしようとした。するとレミリアが。
「待ちなさいアトラク。貴女たち。先に帰ってなさい。それで美鈴と咲夜は可能なだけあのお酒を確保しなさい」
「かしこまりました。ですがお嬢様はどうなさるのですか?」
「ん~そうね。なら私は一度人里まで妖精屋台の仕事ぶりを見に行くわ。朝までには帰るから日傘は預けておくわね」
「本当ですか? ……ああ、はい。わかりました。約束ですよ。もし破ったらお酒は私たちで全部飲んでしまいますからね。では失礼しますお嬢様、旦那様。ほら起きなさい美鈴。お酒確保して帰るわよ。持つのは貴方ね」
「うぃ~」
「……大丈夫かしらこの酔っぱらい。まあ最悪体に樽を縛り付けて歩かせればいいわね」
そうして彼女らを見送った後で俺はレミリアともう暗くなった空を飛び人里へと帰った。
しかし、向かった先の人里には妖精屋台の姿は無かった。人里の者に聞き込みをしても今日は見ていないと言う。
「どういうことだ? 今日は休憩の日なのか?」
「何よそれ。大体そんなはずないわ。妖精には今日は外に行くように私自ら指示を出したもの」
「じゃあなんなんだよこれは。妖精総出でストライキか? あいつらにそんな頭があるものか」
「私に分かるわけがないでしょ。仕方ないわね。一緒に探しましょう」
不思議に思って再び月と星が煌めく空を飛ぼうとしたが、レミリアが人里の食事も食べてみたいと言ったのでおすすめの食事処で二人で晩御飯を食べた(奢ってやったのに咲夜のご飯の方が美味しいとかぬかしたので口に炒った豆を運んでやった)後で気を取り直して出発、家々の灯りも消えつつある幻想郷を回っていると急に妖精の大群に遭遇。俺とレミリアは現在やっている戦闘に少し前突入したのだ。
「貴方が妖精のビジネスなんか考えなかったら少なくともこうはならなかったのよ!」
「馬鹿野郎! 俺がいた時間軸じゃあ紅魔館の家計は俺が渡す美鈴とのファイトマネーで賄っていたんだぞ!? 今の内に財源確保させようとする俺の親切心に感謝しろ!」
「そんなの今の私には関係ないでしょ!? え? つまり向こうの私たちって無収入なの? 馬鹿なの?」
「なんでも紅魔館が何度か爆発全損して資産と収入源がまるごと無くなったらしいー!」
「なにそれー?!」
そうして現在に戻る。何故か荒ぶる妖精を撃ち落としながらも俺とレミリアは怒鳴り合っていた。
(しかし鞭と剣だけだと妖精相手でも辛い。かといって妖精程度に弾幕や消耗品を出すのは勿体ないし)
俺は弱体化している。その為一キロメートルの範囲を打ち据えることができる宝貝禁鞭を自分の糸を使って再現した鞭、禁糸鞭とこの前微妙と判定を下した刀平蜘蛛改め古天明平蜘蛛でなんとか闘っていた。刀は上物だがやはりただの刀だし、鞭も今は凄い鞭でしかない。はっきり言って辛い。
「アトラク! 貴方やる気ないんじゃないの!? さっきから撃ち漏らしが多いわよ!」
「仕方ないだろ! 弾撃ってないんだから!」
レミリアと比べて確かに俺は撃墜数も少ない。はっきり言って妖精50くらいと良い勝負してるのが現状だ。それに今日の妖精はやたら元気が良い。ありていに言えば手ごわい。なんか弾幕が濃厚な気もする。俺が弱くなっているせいかもしれないが。
「貴方お得意の未来の知識とやらで何か理由とか知らないの!? こんなのもう異変でしょ! 妖精の反乱よ!」
「この時期には異変なんかないはずだ! 記憶にない! ええい、うっとおしい!」
ビュン!
鞭を振るう。妖精なので場合によっては容赦なく一回休みにさせても良いが威力が足りない。仙人とまで行かなくても普段の力があれば物理で殴っただけで既に片が付いているのに。
「なら黒幕を探してきなさい! ここは私がやっておくわ! 曲がりなりにも私の配下もいる様だからついでに全部片付けてあげる! 後からそっち行かずにそのまま帰るからちゃんと解決しておきなさいよ! 紅符「不夜城レッド」!」
レミリアは自身を中心に紅い十字架を具現し、妖精を蹴散らす。確かにこれならレミリア一人の方が早く倒せるかもしれない。この時間ならば朝までだいぶ余裕もある。時間切れの心配も無いだろう。
「すまんレミリア! ここは任せた!」
俺は離脱ルート周辺の妖精を排除してからこの空域を抜け出したのだった。
「きゅ~」
「うぅチルノちゃ~ん」
抜け出してきた先にあった夜桜の咲き乱れる道にて、リリーホワイトと大妖精が氷まみれで倒れていた。周辺も不自然に凍っている。今は春なのでこれは自然現象ではない。思えばこの二人も妖精だった。だが今は大人しくなっているようだし話を聞いてみるとしよう。春告精の方には別件でも聴取したい。
俺は作り置きのお手製ブランケットを凍える二人に巻いてやりながら話かける。
「お前たち何があった? この氷は今の状況から考えるとおそらく妖精のチルノだろうけど……ケンカでもしたか? それにしては随分とやり方が派手だけど」
「あ……アトラクさん。実は……」
大妖精曰く。始めは少し前くらいの日。光の三妖精という三人組の妖精が仲間の妖精を扇動して何かしようとしたらしいが、正月に彼女らに悪戯で家を壊されたがそれを最近になって思い出して怒ったチルノが図らずも単独で殲滅。しかし今日、強くなった自分の力を試そうとしたチルノが今日また妖精を煽ったので紅魔館の妖精も今度は仕事をすっぽかして好き勝手していたらしい。
これはどうやら妖精にまともな社会性を期待した俺が馬鹿だったようだ。教育しなければ。せめて「今日はお休みします」の連絡くらい入れられるだけの常識は叩き込む。
「私たちもさっきチルノちゃんにやられちゃって……今は力試しするから花見帰りの妖怪を追うって。あっちの方に行っちゃいました」
「あっちは……方角からして魔法の森の方か。となると妖怪はアリスか成美……はまだいないか? いや妖精の言うことだ。あの子は特におバカだから魔理沙かもしれん。まあ実力は大差ないか。ただ霖之助の所に行かれたら少しマズイな。風邪をひいてしまう。なによりその場合は魔理沙がキレる」
「え? チルノちゃん大丈夫かなぁ……」
「アリスも魔理沙も自分だけに喧嘩売ってくる分には優しい方だから妖精相手なら手を抜いてくれると思うぞ。とりあえず俺もそっちに向かうからお前たちは今日は帰りなさい。あったかくして寝るんだぞ」
俺は彼女らに帰宅を促してから追跡に入る前に、最後に聞いておく。
「そういえばリリー。お前あれ誰から聞いた? 最近どっか行ったか?」
「んー。新しくできた神社? の巫女さん? とお話しました」
早苗だな。奴は明日天界に行く道中で寄って鳥居に吊るしてやる。おしおきだ。
「わかった。後は任せろ!」
俺は二人と別れて、更に魔法の森付近を目指して飛んだ。何か手がかりはないかと目を凝らす。
「…………ん? なにか光ったか?」
すると何かの光が視界に入った。そこまで強い光では無い。それこそ懐中電灯クラスの光。しかしここでは逆にそれは奇特な光だ。魔法の光の方がよく見ることができる幻想郷では。
「行ってみるか。外来人でもいたら拾っておけば良い」
光の方へ近づく。するとどうやらまさに本命だったようだ。彼女らの会話が聞こえる。
「あははは! 見たかー! あたいがさいきょー!! 最強はあたい!!」
「クソ! あー飲み過ぎて頭が……しかもなんか今日のお前やけに強いじゃないか? どうなってるんだ?」
「あたいは最強だから強い! 妖精に最強あれ!」
「だめだこりゃ。会話にならないや」
どうやら魔理沙がやられたようだ。彼女は手に八卦炉では無く懐中電灯を持っている。まさかあれで闘ったのか?流石にそれは無茶だと思うぞ。懐中電灯では妖精の頭は割りづらいだろう。
「魔理沙。やられたようだな、怪我はないか?」
「アトラク!? 情けないところを見られちゃったな。霊夢とかには黙っててくれよ? というか仇を取ってくれ! こいつ今日はやけに強いんだ。お前の酒が美味過ぎていい感じに酔いが回ってる今の私じゃ勝てないんだよ」
魔理沙は帽子ごしに頭を掻きながら俺に頼む。そこそこやられたみたいだが怪我は大したこと無さそうだ。その辺は所詮妖精ということらしい。
「ふふふ! 男の中で最強のアトラクと妖精の中で最強のあたい……どっちが上か今日で白黒つけようじゃないか! もしも勝てればアトラクの家に引っ越していいんだよね? なら毎日みんなを呼んでアイス食べ放題パーティだ!」
「え? そりゃあ結婚すれば一緒に住むことになるし引っ越しだろうけどさぁ。マジで言ってるのかよチルノ? こいつは男どころか幻想郷の中でも最強――」
「無駄だ魔理沙。どうせあちらさんやる気だ。言っても聞かん。なら俺がここで倒しておく。チルノ! 俺に勝ってもアイスは一日五個までだぞ!」
「五個も! たくさんだ! ご飯の時とおやつで二回も食べれる!」
「そういう計算はできるのか。お前にも今度屋台を引かせてやろう。ではやるぞ!」
「「勝負!」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(アトラクとチルノの勝負か。結果は見えてるな)
魔理沙はそう思っていた。当然だろう。チルノは強いと言っても所詮どこまで行っても妖精。対してアトラク=ナクァは妖怪で仙人で神。ついでに得体のしれない力まである。同格と言えば紫や八坂神奈子など最上の存在だ。あの強力な吸血鬼のレミリアすら彼と比べてみれば少し劣る。弱点の無い吸血鬼とでも言えるほどだ。
しかし、彼女は知らない。今のアトラク=ナクァは非常に弱体化していることに。それこそ懐中電灯を使った魔理沙自身と良い勝負なほどに。
「あたいのアイスバリアは無敵だーぁ!」
今のチルノには弾幕を凍結させ、消滅させるアイスバリアがある。レーザー系には無力だがそれでも強力な力だ。これがあるならチルノにも勝ちの目がある。弾幕は勿論、厄介な糸は範囲が広いのでむしろ好相性。そして彼は炎弾は使わない。警戒するのはビームだけ。しかしそれは相手が弾幕を使うのならという条件があった。
そして今日の彼には弾幕と言う攻撃手段は無かった。その手に再び刀と鞭を執り、チルノに向かって高速で接近してくる。
「ゆくぞ! この刃受けて見ろ!」
「え!? アトラク弾幕はー!? 弾幕使ってよー!」
「今日はお休みだ! うおおっ!!」
「うわぁぁぁー!!!」
チルノは全力で彼の突撃を回避する。アイスバリアは人にもそこまで効かない。あくまで熱を持たない弾幕に強いだけだ。下手な部類の剣術でも氷の壁は力まかせにあっさり砕かれてしまう。相性が悪かったのだ。
「おお! その手があったか! なるほどな! 私も箒で叩けば良かったのか!」
「そこか! せぇい!」
「うわーん! もうかんべんしてー!」
(うわぁ……これはちょっとチルノに負けた私が情けなさすぎる。ちょいと助言してやるか)
チルノは逃げ惑う。そこで魔理沙は流石につまらないと思いチルノの足りない頭を補ってやることにした。
「おーいチルノー!」
「なーに!? 今いそがしいー!」
「お前も氷で剣を作ったらどうだー!?」
「おおっ! 魔理沙あったまいいー! アトラクちょっとタイム!」
「四十秒で支度しな」
アトラクは丁寧にその場で止まり、チルノの準備が整うのを待つ。
「できた! ふふん! なんてかっこいい剣なんだ。アイスソードと名付けよう! 無敵のアイスバリアに最強のアイスソードを手に入れてしまったわ。あたいったら最強ね!」
「じゃあ行くぞ!」
「うおー! チェストー!」
二人の剣戟が重なる。するとポキーンという小気味いい音がしたかと思うとチルノのアイスソードは綺麗に半分の長さへとカットされていた。なお大した知恵が無いのに知恵を捨てたのは別には敗因ではない。単純に急ごしらえのアイスソードが脆かっただけだ。
「折れたー!? 降参! 降参するから!」
剣を見つめてふらふらと飛びながらチルノは白旗を揚げた。もはや彼女にやる気はない。彼女のやる気ゲージは霧散した。無敵と思っていた新パワーはあっさりと砕かれて自信も折れた。
そしてチルノは降参してアトラクにあっさりと捕まった。そのまま捕まったチルノはアトラクに目線を合わせられて約束をさせられる。
「他の妖精を巻き込んで暴れたりしない」
「しない!」
「友達を凍らせたりしない」
「しない!」
「あと諏訪子からなぜか俺に苦情が来てるんでその辺にいる蛙を凍らせて遊ばない」
「遊ばない!」
「よし! お家に帰ってぐっすりお休み」
「うん! おやすみー!」
チルノは霧の湖に向かって帰って行く。これで異変……これは異変なのかわからないが異変は解決した。この闘いは後に妖精大戦争と呼ばれるようになるがただの妖精の喧嘩である。頭がアルコールでゆるくなった花見の時期ゆえのことだろう。なんでも酒の肴に変えてしまうらしい。
「ふぁぁ~あ。じゃあ私も家に帰るぜ。お前も気を付けて帰れよ。なんなら香霖のところくらいなら送ってやろうか? 男の独り歩きは危ないぞ。お前にも該当するかは怪しいもんだけどな!」
「今は該当するかもな。でも結構。お前のその気遣いはあいつにだけ向けてればいい。そっちこそ気を付けてな」
「……むこうの私に何を聞いたか知らないけどお節介は勘弁だぜ。じゃあおやすみ~」
チルノと闘った二人も解散する。月の具合から既に丑三つ時を回っている。二人はそれぞれの帰路を飛んだ。
「………………」
何者かが暗い森の中からその姿を見ていた。