手早く妖精の暴走を収めたアトラク=ナクァは家路を急いでいた。彼には次の日の予定があるからだ。自らの弱体化という問題を解決はやはり早急な課題であった。
これを早急に解決せねば幻想郷中の知人友人顔見知りの女全てに襲撃を受け、袋叩きにされた挙句に容赦のない様々な性癖の逆レイプをされてしまう。こわい。彼には男性保護法みたいな掟は適応されないのだ。彼としても多少の興味はあるがちょっとそれは早いと思っていた。
「~~~♪」
だが既に危険な奴らは宴会で粗方酔い潰している。帰宅してからは荷物を取ってすぐにでも出発し、天界に雲隠れする気だったので男は陽気な物だった。
(あの男。尾行されているとも知らず、のんきに歌を口ずさみ人里までの空を往くつもり? でも中々に耳に心地の良く小気味良いリズムね。やるじゃない。私も知らない歌だけど未来の曲かしら? それともこの世界には永劫存在しえない曲? 男の音楽家はこちらでも皆無というほどじゃないけど。その辺り、何が違うのかわからないのよね)
(私たちはあちらでも皆揃って紅魔館にいて、おまけに未来で貧乏暮らししているようだけど。こちらの世界にも私がいるし、みんなも当然いる。ただ彼はあの世界にはいたけれどこの世界にはいないらしい。八雲紫が調べてもこれと断言できるものは見つからなかったそうだし)
(あいつの持っているあの刀にしてもそう。その銘は茶器の名前から取ったらしいけど。向こうの世界ではその茶器は最後は爆散するというなんとも面白い来歴を辿ったそうだけど、パチェが言うにはこちらではなんの逸話も無いただの高級な茶器でしかないそうだ。よほど知識が無い限り知らないような代物だとあの子は言った。事実私を含めて誰も知らなかったし)
歴史の微妙な差異。それは本来は名を刻むはずだった男たちがいないゆえのことだった。歴史の大きな流れは変わらなかったが、それは基点のみである。その周囲は時に名残が見えたり、場合のよっては跡形すらもなかったことは彼女も知らない。ただ彼女の祖となっている吸血鬼の原点たる人物はここにも存在した。
(なにがどうしてそう変わってるのか。いまいちわからないけど……やることはどの道ひとつだけ)
高空で月光を小さな背に受け、眼下を飛ぶ男を見ながら彼女は一人思う。
(例え
これまで闘った相手全てに勝利を収めた男アトラク=ナクァ。吸血鬼も魔法使いも人間も亡霊も宇宙人も神も含めてですら、おそらくこの幻想郷で最強だろう存在。もう男の身で、などとは言わない。全力で挑む。
レミリアは空から無防備な男の背中へと襲い掛かる。
「甘い!」
爪を使ったアンブッシュは振り返りざまの一撃で難なく弾かれた。この男はこういうことを平気でやる。
「不意打ちを凌ぐとは流石にやるじゃない。それでこそ! この私にふさわしいわ!」
「いやいや。少し前から月光で影が見えていたぞ。慣れない事はするんじゃない。誇り高い吸血鬼なんだろう? 正面から来いよ」
二人はそのままお互いに自然と地に降りて距離を取る。降りた地もまた森だった。草木が生い茂り、月の光を遮って若干薄暗い。
「大体急にどうした? 加勢に来ないで帰ると言ってなかったか? こっちももう終わったから帰れよ」
アトラクは呆れながらレミリアの発言を引用した。レミリアはそれを笑顔で否定した。
「それはフェイクよ。種明かしをしてあげるわ。私知ってるの。貴方が弱ってるということ。上手く隠していたみたいだけど私の目は誤魔化せなかったみたいね」
その言葉を聞いたアトラクは途端に真面目な顔をして態勢を戦闘時の物へとシフトする。
「紫以外にはばれていないと思っていたが……そういうことか。だからわざわざ今日は俺に着いて来たんだな?」
「ご名答。でも一つ追加しておくと私だけじゃないわ。亡霊に鬼、月の賢者、山の神様だって気づいてたみたいよ。なんでか知らないけれどあいつらは見逃してやったみたいだけど。私はこのチャンス逃さないよ!」
レミリアは両手を広げて宣戦布告した。
「そうか。そいつらに徒党を組まれたら普段のコンディションでも相手にするの無理だから即決でトランスフォームしてたところだ。なんにせよ運が良かった」
「運が良かった? 強がりかしら? 私に見つかった時点であなたは大凶よ」
「一人だけなら色々とやりくりすれば勝てると言う意味だ。吸血鬼対策も当然ある。なんなら一番豊富なくらいだ……こちらから行くぞ!」
アトラク=ナクァは虚空に手を伸ばすとその先が消える。彼の持つ異空間に入り込んだのだ。彼の手がそこから出た時、この幻想郷には似つかわしくない金属の鈍い輝きを放つ物を握っていた。
それは
「ふーん。なにかと思えば……そんなおもちゃにやられる私じゃないってことくらいわからないかなぁ?」
対策と聞いて若干の警戒をしていたレミリアも少し表情を和らげる。
比較的最近幻想入りした部類である吸血鬼レミリアだ。当然銃についても知っている。もしかしたら誰かにそれを向けられたこともあるかもしれない。だが、今ここに存在するということはその状況を乗り越えていることになるのもまた当然だ。
「子供相手にはおもちゃで十分だろ? お前の人生は俺のもぐもぐタイムよりも短いんだ」
「言ったわね! じゃあその子供の夫となってもらいましょうか!」
レミリアはアトラクに向かって飛びかかる。今の彼が持つのは銃のみ。
しかもしっかりと両手で構える持ち方をしているので両の手は塞がっている。ゆえに相手にする上で最も警戒すべき手から出る糸を考慮しなくて済む。結果、彼女は近距離戦を行うことを選択した。
「近づいてくれてありがとよ!」
早速カウンターとして一発目を発砲する。
パァン!!と火薬が炸裂する独特な音とともに弾薬が発射されて、うす暗い森の中がマズルフラッシュによって明るくなる。ただ、その音と光は明らかに通常の範疇を超えていた。
「うるっさい! まっぶしい! なにそれ!?」
「聞きたいか? ならば答えよう!!」
レミリアは銃口の向きによる弾道計算と恵まれた身体能力によって銃弾自体は完全に回避していたが、想像を超える閃光と爆音で怯む。そんな彼女に追い打ちを掛けずに彼は朗々と語り出した。
「これはこのような状況! 俺が何らかの理由で力を出せない時に備え、『こんなこともあろうかと』の精神で昔から用意していた装備の一つ。対人外用の特殊改造マグナム弾だ! この弾丸を使うことによってこのようにスタングレネードに近い効果を発生させることができるのだ! すごいだろう!?」
事実、彼が採用したベースの銃は市販品の中では最強のリボルバーマグナムである
「欠点としたら色々派手すぎて隠密性を一切考慮してない点くらいだな。普通の弾を撃っても反動とかがすごい。まあこういうのは逆に浪漫があるから逆に良いってもんだ!」
「このガンマニアめ……! そういうのはキネマの中でだけやってなさい!」
「どうとでも! さあ次は威力を味あわせてやる! アンデッド退治には銃は付き物さ! 館の悪魔には銀の弾丸をお見舞してやる!」
「人を勝手に悪役にするんじゃないよ! 吸血鬼がヴァンパイアハンターに勝つのもまた王道だって教えてあげる!」
カチリとシリンダーを回転させて次弾を装填、そのまま発射する。
レミリアはそれを無数のコウモリとなって回避。夜の闇へと散開する。これならば例えどれほど威力が高かろうと効果は薄く、ある程度撃ち落とされたとしても痛手は無い。
(さあ無駄撃ちしてもらうわ!)
「それも想定内よ。お次はこれだ! そんでもって乱れ撃つ!」
そう言ってアトラクは新たな一丁を取り出してそれを即座に天へと向かって掲げて一発の大きな弾丸を放つ。それは空高くまで一度上がると激しく燃焼しながらゆるやかに降下を始めた。いわゆる照明弾である。これで夜闇はコウモリの領域では無くなった。
それと並行して新たに長い銃身も取り出す。今度はショットガン。鳥のように空を飛ぶ標的を撃ち落とす為の銃なので適していると言える。彼はそれを両手でそれぞれ一丁ずつ持って飛翔しながらも縦横無尽にひたすら乱射して撃ち落とし始める。中身の弾薬が尽きればリロードではなく次のショットガンを取り出し放つ。大盤振る舞いだ。
レミリアは堪らず元の姿に戻って木陰へと身を潜める。そのまま木の後ろから対峙する男に対して罵声を浴びせた。
「いたたたた! なんなの本当!? 人間ごっこするなら空飛んでるんじゃないっての! だいたいそんな物あるならさっき使いなさいよ!」
「それはそれ、これはこれ。流石に銃を持った人間程度の戦闘力でお前を倒せるとは思ってないし。妖精扱いして欲しいなら別だけど」
アトラクは散弾銃は手放して再びマグナムを構えた。そのまま辺りを見回しながらレミリアを探し始める。
その間にレミリアは一旦距離を取りながら思考する。無論内容はどうやって勝つのかだ。
(あのショットガンの弾。ちょっと痛かった……あいつのことだから魔術的な力を使って銀かなにかで加工くらいは当然してるのでしょう。つまりあの
レミリアもまた抜け目なく観察を怠らない。高い能力を誇りながらもその思考を止めないからこそ彼女は幼くして紅い悪魔であり紅魔館の主なのだ。ただ目の前の相手もまた同類。彼女よりもさらに高い能力を誇りながらも思考を止めない。その上で自身の力だけに頼らない柔軟性と長い経験の分が差となって立ちはだかっていた。
吸血鬼の特性は他の物に頼らないで闘うに十二分な力だが、今まではいかんせん地力の差が大きかった。今日はその差が縮まっていたので強襲したのであるが。現状は有利とは程遠い。
(弱体化していようとも簡単じゃないとは思っていたけど、やはり厄介ね。人間を遥かに超える存在が嬉々として人の力を使って来るとこうも恐ろしいなんて。人間が超常の力を使うことに関しては咲夜でわかっていたけど。やっぱり元の性能が違う)
レミリアの見立てでは接近戦が彼我の戦力を考慮すると最も勝ち目のある闘いであると思っている。あいつもそれこそ鬼を殴り倒す力を持っている。それはレミリアや萃香のような種族特性だけの怪力というわけでなく、肉体の屈強さもある。その為今でもかなりの格闘能力があると見ていたが、同時に勝てない物ではないと推定していた。
(全く近づかせてくれそうにないわね。スマートじゃないけど殴り合いの泥仕合になったら回復力の差で私が有利なのだけど。それはハナからわかってるのか寄せ付けないわね)
そう考えている間にもアトラクは確実に近づいてくる。索敵能力が落ちているだろうに経験と勘で確実にレミリアを射程内に捉えようとしてくる。
「かくれんぼとは……やっぱり子供か? レディなら早くお遊びは卒業してほしいものだな!」
(あいつ……! 私が勝ったら覚えてなさい! 血を吸いながら一晩中鳴かせてやるんだから!)
レミリアは挑発に腸が煮えくり返る思いだがそれは我慢する。出て行ったら確実に撃たれてレミリアの小さな体は弾丸で穴が空くどころか吹き飛ばされるだろう。
(弾幕で闘う? ダメ。あいつは間違いなく全て凌いだ上で私を捕まえてあれをぶち込んでくる……まずはなんとかしてあの物騒なのをどうにかしないと。弾薬切れの方は期待はできないわね。あいつのことだから量を用意してないわけないし。だったら本体の方を奪うしかない!)
がさがさと草をかき分けて近づいてくる音がもう相手がそこまで来ていることを教える。
(仕方ない……もう少し出し惜しみしたい気持ちもあったけど奥の手を!)
レミリアはそれを早速実行に移す。起死回生の一手を。
「デーモンキングクレイドル!」
「させるか墜ちろ!」
「がぁぁ!!」
レミリアがその身を回転させながら突撃してくるがアトラクは自身へと衝突する前にマグナムの装填限度である五発全てをレミリアに撃ち込んだ。全弾が直撃し、レミリアはそのまま勢いが弱まり地面へと墜ちた。
「全く。調子が戻ったらまた相手してやるから。な? 今日はさっさと帰れ――!?」
そう倒れ伏すレミリアへと告げた瞬間。別の木の後ろからその木を貫きながら紅い槍グングニルがアトラクへ向けて飛んできた。彼はその認識外からの一撃すらも咄嗟に躱す。
「なんだなんだ? 置きグングニル?」
しかしさらに目の前で倒れているはずのレミリアの物であろう攻撃が追加で迫ってくる。もう一度確認してもレミリアは間違いなく目の前に伏している。しかし今まさに周囲からグングニルに紅いナイフ。紅いビーム。とにかく彼女の紅の弾幕がアトラクに向かって襲い来る。
「ええい! よくわからんがレミリアめ! 何をしたのかやっぱりやるじゃないか! すごいぞ!」
アトラクは最上の笑みを浮かべながらマグナムを再度リロードして攻撃が来た地点へと射撃で反撃する。彼の射撃も樹木を容易く貫通していくが手ごたえはない。弾幕は絶えず彼へと送り込まれ続ける。
「仕方ないか! お迎えに行ってやるよ!」
アトラクは距離を取った射撃での状況解決は不可能と判断して木々の闇に紛れる何かに向かって接近しはじめた。がさがさと物音も気にせずに走り寄る。
(来た!)
接近を勘付いたレミリアが弾幕を停止させて飛びかかる。
「レミリアだとっ!? ちぃっ!」
ドンッ!と重たい発砲音とともに50口径の弾丸が発射されてレミリアの身体をその威力で元の方向に吹き飛ばす。更に追撃として両腕と両足に一発ずつ撃ちこまれる。
「さあこれでチェックだな。さっきの種明かしをしてもら――」
森の暗がりから更にレミリアが飛び出してきた。しかも同時に二人がだ。
(まさかフランのフォーオブアカインド!? 使えるなんて聞いてないぞ! もう一人は!?)
内心でそんな驚愕を浮かべながらもしっかりと一人に回し蹴りを見舞い、一人に肘を食らわせて怯ませてから首を折って沈め、周囲を見渡しながらリロードしようとしたのも束の間。下から手が伸びる。
「やっと手が届いたわ! つくづくお高い男ね!」
「影か!? なんでもありだな吸血鬼め!」
完全にアトラクの意表を着いた形で四人目のレミリアが影から這い出てきた。即座に格闘戦が始まる。
銃を投げ捨て、手を自由にしたアトラクだったがそれでもレミリアの拳や蹴りをなんとか直撃を避けたり、攻撃を防いだりすることしかできない。真夜中のレミリアに落ちた力では対抗しきれなかった。徐々に攻防の激しさに対応できなくなり、ついに腹部へと一発が通る。
「えいっ!」
「ぐぅぅっ」
そして一撃を入れられたアトラクは派手に吹っ飛ぶ。レミリアはその隙に銃を拾ってから彼女は一人に戻りすぐに銃を手早く分解した。
「あーやっぱり自分が増えるのって変な感じね。フランはよくこんなことできるもんだわ。でも……はいこれで良し。流石に撃たれるのは痛かったわ。もうやらないでね?」
「痛ったぁ……ばらし方まで知ってるのか。めんどくさい奴め」
「それはお互い様。これで仕切り直しよ。また四対一で畳み掛けてあげる」
(はぁ。強くなるのは嬉しいけどちょっとタイミングが悪いんだよなぁ。せっかくだから自力で存分に味わいたい。しかもここで負けたらレミリアは成長を止めるだろうな。なにか勝つ方法はないか。銃は予備もあるけど俺の腕が二本しかないから足りないしなぁ。それぞれを一撃で倒せそうなのはRPGかクレイモアだけど間合いが近すぎる。諦めて弱点のニンニクでもぶつけてみるか……あ!)
レミリアは再び四人へと増えて、五体満足な状態の分身が揃う。アトラクは露骨にめんどくさそうな顔をしてから一つある考えに至った。レミリアにとっての詰みの一手だ。
「俺は早く帰りたいんだが……そういえば今回の出来事は力のある妖精に他の妖精が扇動されたからだったよ」
「知ってるわよ。尾行してたんだもの。これだから妖精は困るわ」
「つまりお前のカリスマ不足もそこそこの要因だということになるよな? そこんとこどう思う」
「…………まあ少しくらいなら認めても良いかもね。それで? だから私を異変の一部とみなして霊夢でも呼ぶぞって言いたいの? あの子は今頃おねんねよ。ご愁傷様。諦めなさい」
レミリアは警戒を止めない。こんなトラッシュトークから何が飛び出るかわからない。現状予測される上で一番恐れているのはマグナムの
しかし今から出て来るものはそんな物よりも恐ろしい。最強のチートアイテムであった。
「そうか
「なにかわからないけどさせないわ!」
彼はそう言うとまたまた懐から何かを取り出そうとする。当然レミリアは阻止に入る。彼の取り出した何かを複数のレミリアが奪おうと迫り、内一人が遂にそれに手を触れた瞬間だった。
「ぎゃっ!!!!」
カリスマを称するレミリアにあるまじき悲鳴を上げてその分身体レミリアは手から灰になって消滅した。本当に一瞬に近い出来事だ。
「え!?」
「うわー。容器越しに触ってこれとか、やっぱ本物は違うわ」
アトラクはレミリアの疑問を声を受け流し、その市販品の水の瓶に入っている透明な水のような何かを眺める。
「原液のままは俺でも危険かも。希釈しないと……良さそうなのは外で買ったファブ○ーズしかないな。なら○ァブリーズでいいか。吹きかけられるし、人に向けてもまあそこまで危なくないだろ。いい匂いだし」
彼はほんの少しだけ水の瓶を傾けてファ○リーズの容器へと一滴だけ入れてから瓶を戻して、それを混ぜるように振ってからこちらへと構えた。レミリアはそれを見ている事しかできなかった。先程の出来事があまりにも理解を超えた光景だったし、意味がわからなかったからだ。
そしてなによりも。本能がうるさいくらいの警鐘を鳴らしている。今すぐに逃げろと。
「アトラク! それは何!? お前なにをした!?」
「吸血鬼退治に聞く聖水だよ。知ってるだろ?」
「聖水!? あんな眉唾ものが私たちに聞くわけがないじゃない! あんなものは欲深い修道女どもが愚かにも私たち吸血鬼を商売道具にしようとしたただの水よ! 大蒜や炒った豆の方がよほど優秀だわ!」
「確かに。念仏よりもコーヒーの方が効くよな。俺も宗教なんて脆弱な人間のどうしようもない感情のはけ口くらいにしか思ってなかったんだが……まあどこにでも本当に人間を超えた人間はいるわけだ。咲夜や霊夢に早苗とか。これはその人類史上で最たる例の一つに運よく出会えて貰ったものだ。そこに散らばってるマグナムよりもよっぽど安くすんだよ。なんせ最新の家電と聖水にしてもらった水の値段だけで済んだからな」
(
そんなことを回顧する。その記憶の中ですら後光を背負った聖人たちを思い出し、彼はまた少し吹き出す。
「じゃあ自分の身で試してみるか? もう一レミリア分は堪能してるけど、あと三人もいるんだし……な?」
「う、嘘よ! そんなあ、や、やめ……やめなさい! いや来ないで!! 来ないでください! もう私の負けでいいから! ね? 紅魔館の主を譲っても良いわ! だからそれを振りかけるのは――シュッ――アッーーー!!!」
レミリアは聖水入りファブリー○を浴びせかけられてほんのりとろけた姿となって紅魔館へと届けられたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
二人の勝負が決着をみたのと同時刻。
「いやぁオチが酷かったね~。まさかそんな物まで持ってるなんて。忘れられることがおよそ絶無の神の子の遺物まで持ってるとは。珍しい物が見れた」
「途中までは酒の肴に良かったんだけどねぇ? アクション映画みたいで」
「それ貴女達以外でわかる人いないわよ神奈子。映画なんて私の幻想郷にはまだ早いわ」
「吸血鬼も弱点が多そうで苦労してるね~。いや~気持ちはわかるな~
「私もあれはちょっと……僧侶の念仏よりもよほど危険だわ。もしかしたら成仏しちゃうかも?」
「手負いの獣ほど恐ろしい物はないって証明されたわね。可哀そうなお嬢さんだこと。お墓に供える花くらいは出してあげようかしら?」
「たまに思うんだけど、彼ってもしかして私たち蓬莱人もどうにかできちゃうんじゃないかしら? 正直今更死ぬ気は私は勿論輝夜も妹紅も無いでしょうけど。前に蓬莱の薬を飲めなんて要求への対応もあまりに軽かったし」
「彼は死後の魂への干渉が可能なのは既に確定しています。生きている魂に同じようなことが出来ないとも言い切れませんね」
博麗神社の今日酒に変えられた池の近く。そこでスキマを開いて二人の闘いを観戦していた女達だった。既に酒は水に戻る時間だったが紫が今日と明日の境界を弄っているので池の中身は未だに酒のままである。彼女らはそれを飲みながら議論を重ねる。
それぞれ上から諏訪子、神奈子、紫、萃香、幽々子、幽香、永琳、映姫だ。彼女らもレミリア同様彼の不調を大なり小なり知っていたり見抜いていたりした人物が揃っている。
彼女らが何故レミリアと同じようにアトラクに挑まなかったかと言うと。
「お酒が美味しかったから」という酒好きらしい返答が幽々子、萃香、神奈子。
「気が引ける」というような善良さを感じる返答が紫、映姫。
「むしろ危険を感じる」という正しい答えが幽香、永琳、諏訪子といった具合に別れた。
レミリアも脅威を感じてこそいたがそれを承知の上で挑んだのだ。虎穴に入らずんば、虎子を得ず。と言うがここで正しい選択は君子危うきに近寄らず。という結果となった。
事実彼女らの半数以上も悩みはした。これはチャンスではないかと。しかし。
「いやいや。この酒を逃してまでやるのは微妙でしょ。あいつと闘うのはいつでもできるけどこの酒は今日だけだよ? あ~勇儀がいればもっと美味しいのにな~」
「小鬼に同感ね。私があいつより強くなればいいだけの話。酒は私がどれだけ強くなっても美味くあるわけじゃないしね。一期一会を楽しむべきよ」
「私もそうね。いつか勝てればいいんだもの。桜と月を肴に飲みきれない美酒に溺れる方が雅と言う物よ?」
酒組はその嗜好と同時に自らの力に自信を持っているゆえに見逃す度量があった。
「アトラクがああなったのは私に原因があるからそれを突くのはちょっとねぇ。ただでさえむこうの私の行いで心象が悪いもの。できるだけ良い子にしていなきゃね」
「貴女たち……そこは真っ当に弱った男性に襲い掛かることを躊躇なさい。八雲紫。貴女は幻想郷の住人の甘やかし過ぎではないですか?」
「私!? 四季映姫さまさっき私が言った事聞いてなかったのですか?」
賢者は閻魔に説教をされる。
「私としてはあの桃をわざわざこんな席で取り出したことが気になったわね。酒好きが多いとは言っても人の目を自分から背けるにあれは目立ちすぎる。お医者様ならなにかわかるんじゃないの?」
「そういうフラワーマスターの方が心当たりがありそうなものだけど? 桃のことは。ただ考慮すべき点はあるわ。いつもはお酒を飲まない彼が今回に限っては飲んでいた。あれが何かの毒ならそうはならないからその逆」
「つまり回復のための行動でもあったってこと? 早苗も美味しそうに飲んでて初めての割にはかなり飲んでも悪酔いせずに今も気持ちよく寝てるみたいだし……その線はありそうだね」
「つまり何だかんだ言ってあいつはその気になればまともに闘えたって訳ね。食えない男だわ」
幽香がそう結論を出す。そしてそれが事実だった。
アトラク=ナクァを名乗る男は基本的に本領を発揮して自分の力だけで闘っている時が最も安全であり、弱体化している時こそあの手この手を使い、結果的に容赦のない闘いをする。あの綿月依姫や今回のレミリア・スカーレットは運が悪かったのだ。アーメン。
「わかりましたから勘弁してください映姫さま。それじゃあ結論が出たところで締めましょうか。ここにいる者は彼の調子が戻るまでは自分を含めて誰も手を出さない様に見ておくこと。いいわね?」
八雲紫の言葉に全員が頷いたのだった。
文々。新聞123季 卯月の■ 一面から引用
犯人は一体!? 鳥居に吊るされた風祝!!
先日のことである。妖怪の山にそびえたつ守矢神社にて事件が起こった。守矢神社の風祝である東風谷早苗さん(1■歳)が神社の鳥居に
事件の前日は守矢神社の住人は遅くまで博麗神社の宴会に参加していたらしく、神奈子さんと同居人である早苗さんと同じく神の一柱である洩矢諏訪子さんらは深夜に神社に併設された自宅へと帰宅。事件発覚までの間は全員自室で就寝していたとみられる。その間はわずか三時間ほどしかなく、山の見回りの白狼天狗の証言とも一致した。
被害者の早苗さんは「気づいたら縛られていました。犯人は見ていません。心当たりもありません」と頬を赤らめ、息も絶え絶えの苦しそうな様子で答えた。しかし、その夜の警備担当だった白狼天狗の犬走椛の「守矢神社の一行以外は誰も山道を通していない。私の能力なら間違いない」という証言もあったことから、妖怪の山捜査当局では事件当日の状況と凶器である注連縄から身内の犯行と目されている。守矢神社の二柱は容疑を否定しているが、監察医として協力した永遠亭の永琳先生の「鮮やかな手並み。間違いなくプロの犯行。普段からこういう縄のような物を扱っている人物が犯人でしょう」と述べたことから、当局は二人の内特に普段から注連縄のイメージが強い八坂神奈子さんを容疑者と見なして捜査を進めている模様。
現在、念のため妖怪の山は厳戒態勢を敷いているがそれの解除も時間の問題だろうと思われる。当紙の読者も用がないならしばらくは山に近づかない事をお勧めする。
なお、妖怪の山捜査当局では事件に関する目撃証言を募集している。詳しくは欄外を…………
お騒がせ男またも失踪!? なんどめだアトラク!!
人里在住。服屋経営の男妖怪として非常に高名な自称アトラク=ナクァ氏がまたも行方を眩ました。詳しい状況はまたも不明。今度の帰りはいつになるかも不明。人里では「またか(笑)」と言って心配をしない者が遂に九割を超えたそうだ。これならば早ければ今年中には十割に届くと専門家の間では推測されている。
さて、前回に引き続き今回は本記者が氏が最後にあったと思われる人間の魔法使いである霧雨魔理沙さんと妖精のチルノさんへと独占インタビューをすることに成功…………