東方 あべこべな世界で戦う    作:ダリエ

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49 緋想天 いわゆる一つのストーリー

 STAGE 2 夏の雪

 

 天子と衣玖を送り出して天界で一人静かに待っていたアトラク=ナクァの前に、その日、最初の到達者が現れた。

 

「それにしても流石に早すぎる。これは完全に予想外だった。すごいな幽々子。どうやったんだ?」

「ふふ。な・い・しょ♪」

 

 彼の目の前には冥界の主、西行寺幽々子の姿があった。

 まだまだ天子が事を始めたばかりだとアトラクは思っていたし、事実として始まったばかりであるが、彼女は早々にそれを察してここが舞台だと突きとめたのだ。彼が驚くのも無理はない。

 

 当然、彼女が自分を除外すれば一番乗りだと彼は理解しているのでそれを手放しに賞賛する。

 

「うーん天晴れ。いや、天気は雪なんだけどね? というわけで一等賞を祝して何かご褒美をあげよう。何がいいかな? なんでもはダメだぞ?」

「うふふ。それは当然、貴方よ。他にあると思った?」

 

 幽々子は笑顔を絶やさずに答える。

 

 アトラクから見ても本心ではどこまで本気かわかりづらい、というのが幽々子への印象だった。

 悪く思われてないとだけは確信しているがこの捉えどころのなさは未だに慣れない。

 

「さあな。じゃあ構えてもらおう。雪の中で闘うのは凍えてあんまり好きじゃないけど。仕方ない」

「やっぱりね。闘いになるのもこの天気が苦手なのもわかっていたわ。貴方、冬はあんまり見ないものね。私と最初に会ったのは冬だったけど」

 

 幽々子が連れてきた雪に対してぼやくアトラクに彼女はしてやったとばかりに笑ってからゆったりと動き出した。

 

 

 

「あ~ん! つ~よ~い~!」

「当然。たかだか天気が悪い程度で勝率が下がってるようじゃ自然界ではやっていけないからな! まあ最近はずっと里住みだけど……果たして俺は野性を語っていいのだろうか?」

「それは知らないわ。はぁ……天界一番乗りはできたけど貴方への一番乗りはお預けかぁ~。仕方ないから白玉楼に帰るわね。やけ食いでもしちゃおうかしら?」

 

 幽々子が帰ろうとしたのでアトラクは咄嗟に留める。彼には一つ聞きたいことがあった。

 

「ちょい待ち。前の綿月姉妹戦見に来なかったけど。なんで?」

「ああ。あれ? だってどうせ貴方が勝つでしょう? 実際に勝ったようだし。それに私はあの二人に恨みも何もなかったもの。それなら結果の分かる勝負を見るのは時間の無駄だわ」

 

 幽々子は何食わぬ顔でそう言いきった。

 

「なるほどね。引き止めて悪かったな。お帰りはあちらです」

「ご丁寧にどうも。じゃあしばらく頑張ってね~。あ、妖夢が来た時は可愛がってくれていいわよ~」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 STAGE 3 縫い針で鬼を釣る

 

 

「お~い! いるんだろアトラク! 出てこいよ~! 私が来てやったぞ~!」

「呼ばれて飛び出て即参上……っと次はお前か萃香。まあ流れとしてはだいたい下馬評通りかな?」

 

 第二の相手は鬼の四天王伊吹萃香。幽々子に続いてやはり勘も良ければ腰も軽い人物だ。

 

「私を賭けの対象にするとは相変わらず太い男だなぁ。ま、あんたならそれくらいは多めに見てやろうじゃないか……それに。最近姿を見ないと思ってたがそういうことなら……ねぇ?」

 

 萃香はじっくりと周囲を見渡す。

 天界には基本的に何もない。ゆえに彼女の目に映る物は眼前の男と空。そしてとある植物だけだった。それを見て萃香は全てに得心が行ったというように鷹揚に頷く。

 

 そうして一度は落ち着いたかと思ったら鬼は感情を燃やしだした。

 

「それよりも! アトラクこの前私との約束破って勝手に酒を飲んでただろ!! 鬼との約束破った奴は酷い目に合わせるからな! 覚悟はいいか!?」

 

 彼女が怒っているのはかつてアトラクが酒を飲まないと言ったのに対して萃香が私が勝った時は一緒に飲もうという約束をしたからだ。

 前の花見で彼がそれを無視して勝手に一人で飲んでいたことを萃香は腹を立てていたのだ。

 

「ふーん。その酒の池を浮かれて裸になった挙句に飛び込んで飲みながら泳いで、終いには溺れかけてたのはどこの誰だっけかなぁ?」

「うっ! そ、それは仕方ないだろぉ……あんないい酒で文字通りの酒池なんて作るなんてまるで夢のようだったんだからさぁ。あんなの鬼なら誰でもああなっちゃうってもんさ」

「そうか。その場で俺の所に来て一緒に飲もうとしなかったり、追及しなかったんだからもう時効だ。きっぱり諦めろ。それに、俺も酒を楽しむ為じゃなく回復の為に飲んだんだからな。今回は許せ。な?」

「ぐぬぬ。納得いかない!」

 

 萃香は言葉通りに不満そうな表情でギリリと歯を噛みしめる。

 

 実のところ、萃香が勝てなければアトラク側は約束を履行する必要はないので問題はないのだが、自分以外が一緒に飲んでいたのは少々腹に据えかねたゆえの萃香のやつあたりだった。

 

「いいだろう! お前がそう言うなら私に勝ったらこの前のは許してやる! 私が勝ったら許さない! どうだ!? やるか!?」

「俺にあんまりメリットないけど……いいぞ。前に山で元部下共とまとめてのしてやったのを思い出させてやる!」

「ふん! あれはあいつらが邪魔で闘い辛かったから本気じゃないもんね! 今日こそが本気の本気だ! 行くぞ!!」

 

 アトラクは鬼との殴り合いに突入した。

 

 

 

「残念。俺も前は本気じゃなかったんだ。今回こそ俺の本気の本気。仙人モードだ。味はどうだった?」

 

 鬼との正々堂々の殴り合いですら、勝ったのは男だった。

 元々のただ人間に化けた力では足りず、かつての全力である仙人の力だけでも足りなかっただろう。しかしそれに外の神(アトラク=ナクァ)の力も上乗せして、彼は遂に鬼の土俵で上回ることができた。

 

 といってもそう言う彼の膝もガクガク震えているので完勝とはほど遠い。それでも膝が地に付いていない以上やはり勝ちだろう。

 

 仰向けで倒れる萃香が勝者に応える。

 

「……口の中血の味でいっぱいだからよくわかんない」

「あー、ペっ! てしなさいぺっ! その瓢箪に酒入ってるだろ。それでゆすぐんだ」

「ちょっともったいないけど……ぺっ! ペっ! あ~まだちょっと血の味だ。久しぶりにここまでやられたよ。ここまで激しいのは鬼同士の本気の喧嘩くらいだ」

 

「ほうほう。やはり今の俺の筋力は鬼に匹敵するのか。やっぱり昔よりも強くなったな! 前は流石に殴り合いだけだと勝てなかったからさ」

「へぇ~。流石のあんたでもそうだったんだ。それじゃあもう勇儀くらいしか勝てないかな。知ってる? 星熊勇儀って鬼がいるんだけど」

「おうとも。詳しくは言えないがきっと近いうちに会えるぞ」

「ほんと!? それは良い事聞いたかも。もうちょっと聞きたいから私はこっちに残るかな。どうせ地上から他の奴らも来るんでしょ?」

「……萃香。お前まさか飯をたかる気じゃないだろうな?」

「ばれた? 実はアトラクの家の備蓄全部食べちゃって。その後神社にいたんだけどお酒飲み過ぎて追い出されたんだよねぇ~」

 

「こいつ……」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 STAGE 4 真実の有頂天

 

 

「これで異変は解決ね。全く。霧を萃めるなんて犯人がわかりやすすぎるのよ。これが物語ならいささかチープに過ぎるわ。三流もいいところよ」

 

 パチュリー・ノーレッジが天界で管を巻いていた萃香を容赦なく倒してそう吐き捨てた。

 

「と思うじゃん? 犯人は萃香じゃないんだなこれが」

「あら、アトラクじゃない。流石ね。もうここに辿り着いていたなんて。でももう私が解決してしまったわ。ごめんなさいね」

「……パチュリーさん。俺の話聞いてる?」

 

 どうにも話が噛み合わない。幻想郷の者は多かれ少なかれこういうところがあるのだ。

 

「ええ。犯人を退治した私についでにやられに来たのよね? それとも真の黒幕として満を持してのご降臨? 貴方なら鬼だって使えるでしょうからね」

 

 パチュリーは彼を真の黒幕として出てきたと勘違いしていた。完全な勘違いでもないがそれは置いておく。

 

「どっちも違う! いや、お前が犯人を倒したのは間違いないんだが……」

「なによ、間違ってないならいいじゃない。それならこのまま勢いに乗って貴方も超えさせてもらうわよ!」

 

 魔法使いは問答無用と襲い掛かってきた。

 

 

 

「むきゅう……やっぱり勢いなんてなんの根拠にもならないわね。魔理沙のやつにでもあてられたかしら? 魔法使いなんだからしっかりと理屈でやらないとダメね。反省だわ」

「理屈と言うか経験だったろ今回は。愚者は自分の経験に学ぶとかいう言葉があるけど正しくそれだ。よくないぞそういうの」

「あら。でも今回はそれで合っていたでしょ?」

 

 パチュリーは得意げにそう言ったがちょっと違う。

 

「いいや。今回の黒幕はお前が萃香とやる前に下した青い髪の小さいのだ。覚えてるだろ」

「え……確かに見たことないなと思った上にやたら強いとも感じたけど……あいつが!?」

「ああ。それが今回の異変の真実だ。まあ萃香が紛らわしいという意見は否定しないが蛇足だったな……なぁちょうど良いから倒したついでにあいつ下に連れ帰ってくれない? 萃香のせいで食料の備蓄がもりもり減るんだけど」

 

 深刻に困っていた。彼は果物も食べるが栄養として最も適しているのは肉魚などの動物性たんぱく質なのでそれが持ち込みのほとんどを占め、パンや麺などの炭水化物を少々と言った具合なのだ。

 

 萃香は肉や魚で好き放題酒を飲んだ。その所業は彼の備蓄にも甚大な被害を与えたのだ。

 

「ああ、貴方最近見ないと思ってたら天界で過ごしてたのね。それなら一度地上に降りない? どこかで食料を補充した方が良いでしょうし、なんなら紅魔館にでも来る? 咲夜もアトラクからの頼みなら絶対に断らないだろうし、それによく知らないけどレミィが貴方に会いたがってるみたいなのよね。何かあったの?」

「あー。心当たりあるわ。そうだな。じゃあ少し降りるか」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 STAGE 5 夏休みに引きこもるタイプの吸血鬼

 

 パチュリーに伴われ地上の紅魔館へと彼は降りてきた。

 相変わらずサボって寝ている門番の美鈴を横目で眺めて入館し、勝手知ったる他人の家とばかりに館内を迷わず歩いて彼はレミリアの部屋へと押し入った。

 

「レミリアちゃんあーそーぼー!」

「っ! 来たわねアトラク! あの夜はよくもやってくれたじゃない! 今日は許さないわよ! たっぷりと仕返ししてやるんだから!」

「ほう? これを見ても同じことが言えるかな?」

 

 そう言って前と同じ容器のスプレーを取り出した。チャプチャプと中に入った液体を見せつけるように揺らす。

 

「うー! ガードするわ!」

 

 レミリアは頭を両手で覆ってしゃがみこんだ。

 

「それでガードできるもんでもないのでは……?」

「ふふっ! このカリスマ溢れる絶対無敵の防御に恐れをなしたわね! 「プシュッ」 きゃー!!」

 

 躊躇なくスプレーを吹きかける。レミリアは叫んでいるが中身は容器に書いてある通りにただの市販品だ。効果はせいぜいがいい匂いがする程度だ。

 

「恐れをなしてるのはお前じゃい。まあいい。今回はあんなヤバいの使わないでやってやる。来いよレミリア。カリスマなんか捨てて掛かってこい」

「ほざいたわね! その聖水さえなければ貴方なんて怖くはないのよ! いい加減に黒星をプレゼントしてあげるわ!――」

 

 館の中で何度目かのリベンジマッチが始まった。

 

 

「力取り戻してるなんて聞いてないわよぉ……」

「いや、気づけよ。どう見ても仙人っぽい服着てるだろ。紫とかもこういうの着てるけどさぁ」

 

 レミリアは今度は正攻法で挑み、正攻法でボコボコにされた。その姿にカリスマはなかった。

 

「とりあえず今日のところはお前の家の食糧いくつか貰って行くから。代金は今度持ってくるんで。それじゃあな。咲夜とフランによろしく」

「はぁ!? 貴方一体何しに来たのよ! 遊びに来たんじゃないの!?」

「ちょっと食べ物を奪いに」

「主を痛めつけて物を持っていくってもはやただの強盗じゃない……」

「痛めつける必要はなかったんだけど主が襲い掛かってきたから仕方ない。正当防衛だ」

 

 過剰防衛でしょー!という罵声を背にアトラクは天界へと戻って行った。

 紅魔館には床に転がってくたびれた主の姿と寂しくなった食糧庫が残ったのだった。

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 STAGE 6 風雨に消える新聞記者

 

 地上から天界に行くためには妖怪の山を通らなければならない。

 それは彼も同様のようで堂々と妖怪の山の道を頂上へと進んでいた時だった。急に風が吹き雨が降ってきた。

 

 それと同時に見知った顔が近づいてくる。

 

「あやや! これはこれはアトラクさん! ここ三か月ほど行方をくらましていたかと思えばこんなところで会うとは奇遇ですね! もしかして私に会いに!?」

「文か。もしもそうだったら?」

「新聞に『アトラク=ナクァ!某新聞記者と結婚間近!?』という見出しで号外を刷ります。しかし、もしもということは違うんですね?」

「そうだな。今日はちょっとここ通りすがっただけだ。なので通らせてもらうぞ」

「まあ貴方なら止めはしませんが……守矢神社にでも行くのですか?」

「いや。今日は別件だ」

 

 そう言うと射命丸文の表情が変わった。いつものおちゃらけた雰囲気は鳴りを潜めている。

 

「……そうですか。そういえば知っていますかアトラクさん? ちょうど今から三か月前に守矢神社でとある事件が起きたんですよ。一応容疑者はいるのですけど中々自供しないので捜査班の中では真犯人がいるのではと目されているというのはここだけの話なんですよねー。ああ、そういえばアトラクさんも行方を眩ませていましたね。……ちょうど三か月前から」

 

 二人の間に張りつめた空気が走る。

 

「……何が言いたい?」

「守矢神社で東風谷早苗さんを吊るした犯人は……貴方でしょう?」

「勘のいい新聞記者は早死にするって相場が決まっているんだ。覚悟しろよ!」

「えっ!? ちょっ!?」

 

 なんとなく怪しいなーと思って声を掛けたらまさか本当に犯人で、しかも口封じを図ってくるとは思わなかったようで射命丸は焦りながら抵抗を始めた。

 

 

「お前は何も見なかったし何も知らなかった。オーケー?」

「おーけーです! 私は何も見ていません! 何も知りません!」

「よろしい。全く。いつの世もマスコミは厄介だ。人の世に紛れていた時もこっそりと処理するのに苦労した物だよ」

 

「あの……その()()とは? もしかして……」

「まあそういうことだ。お前もしてほしいか? 一番簡単かつ最終手段が物理的に消えてもらうことなんだが」

「滅相もありません! 絶対に喋りませんから! ではごきげんよぉーーー!!!」

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 STAGE 7 時のある間に薔薇を摘む

 

 再び天界へと戻った彼は途中で天子からもうすぐで地震が起こせると言う報告を受け、有頂天でのんびりと英気を養っていた。

 

「さっき少し揺れたかな。ということはもう少ししたら博麗神社の方でも起こるか。そうなったら流石に腰の重い奴らも動くだろう。そう思わないか? 咲夜」

「そうですわね。やっぱり旦那様の仕業でしたか」

 

 そう言いながら振り向いた彼の視線の先には夏らしく薄手のメイド服を着た少女、十六夜咲夜の姿があった。彼女は何か言いたげな目で彼を見ていた。

 

「それは違うぞ咲夜。全てやったのは天子だ。俺はそれに相乗りさせてもらったに過ぎない。そして最後の相手としてよくぞここまで来たと褒めておこうか。お前は人間では最速だぞ?」

「お褒めに預かり恐悦至極。では早速ですが私の気質で挑ませてもらいます」

「よし来い。何か言いたいことがあるならその後に聞こう」

「はい。では参ります!」

 

 

「やはり……まだ遠いようですね……」

 

「中々いい感じに仕上がりつつあるな。天気はあんまり役に立たなかったけど。それはさておきなんだ?」

「ああそうでしたわ。旦那様! いくらなんでも勝手に食料を持っていかれては困ります! せっかく立てていた献立が危ういところだったのですよ!」

「それは済まなかった。献立はどうなったんだ?」

「幸い妖精たちがいくつか食材を持っていたので彼女達から徴収して間に合わせました」 

「流石はメイド長。リカバリーもお上手なことで」

「そんなことを言っても誤魔化されませんからね……今度からは食材が欲しい時は絶対に私に話を通してください! 直接面と向かって言うんですよ! いいですか!?」

「わかったわかった。今度から紅魔館に寄った時はちゃあんと咲夜に会いに行く。それでいいだろ?」

「……その言葉を信じましょう。いつまでもこんなところにいないで早く戻ってきてくださいね。それでは」

 

 咲夜はたっぷりと釘を刺したことを確認してから地上へと帰って行った。

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 STAGE 8 十指八足の糸使い

 

 

 咲夜を見送ったのと同日。いくばくと経たない内にやってきたのは魔法の森の魔法使いアリス・マーガトロイドであった。

 

「黒幕は貴方だったのね……なんて台詞は聞き飽きたからいらないぞ。黒幕じゃないし」

「でもあの天人が異変を起こすのを知って、ここにいるんでしょう? なら同罪じゃない。違って?」

「違うな。俺がいようがいまいがあいつは異変を起こす以上俺に罪はない。そう。俺は悪くない」

 

「ふぅ。確かにそれは私が決める事でもないか……でも紫や霊夢に怒られたって庇ってあげないわよアトラクさん」

「怒り狂って襲いかかって来る分には歓迎だ。問題ないよアリス」

 

 アリスはうーんと少しだけ思案してから言った。

 

「本当に仕方ない人ね。あの二人だともしかしたら勝っちゃうかもしれないし今の内に私とここで闘ってもらうわ。いいかしら? 資格はあると思うけど」

「むしろ勝負もせずに帰るつもりだったのか? それはあまりにもつれないだろうよ。でもやる気になったのならよし! さあ来い!」

 

 

「あっちゃー。やっぱりダメか。私も何か別の手を考えなければダメかしら?」

「強くなる分には何をしてもいいぞ。俺は寛容なんだ。寝ている時に住んでる地域ごと消し飛ばす核ミサイルとか撃ってきたら流石に怒るけど」

「しないわよ! ……もしそれをされたらアトラクさんは仕返しに何をするの?」

「そりゃ……そうだな。そいつの一族郎党を皆殺しとかかな? 族誅は効率的なんだ」

 

「貴方やっぱり妖怪ね。言ってること結構えげつないわよ」

「まあその辺はな。そんなことよりもだ。お前は地上に戻るのだろう? 帰り道のついでに博麗神社に行ってくれ」

「神社に? いいけど……何かあるの?」

「まあこの時間だと行けば分かると思う」

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 STAGE 9 天にて妖仙、地にて蜘蛛、人中にありて雄たらんとす

 

 

「よくもやってくれたわねこの天人! ざまあみろってのよ! さあ! 早く地震で壊れた神社の責任を取りなさい!! 具体的には金銭で!!」 

「この巫女俗物すぎるんじゃないの!? 私こんな輩のいる神社を自分の家の神社にしようとしていたの? ちょっとそこの魔法使い! どうなってんのよこいつは!?」

「いや……私に言われても困るって言うか……」

 

 天子を下した霊夢に数分ほど遅れて追いついた魔理沙が関係ないのに天子に絡まれる。

 

 二人は返答できずにしどろもどろな魔理沙を余所にいがみ合いを続ける。

 霊夢は普段はそこまで噛みついたりはしないが今回は流石に元凶をはっ倒したくらいでは気が済まないようである。

 

 そんな時にもう一人の元凶と言える男がやってきた。

 

「遅かったな……とか格好よく台詞を言いながら迎えようと思ってたんだけど、何をやってるんだお前たち? もうすでに決着がついたんじゃないのか? なんでまだ殴り合ってる。白黒つけたなら穏やかにしろ」

「アトラク! とりあえず二人を止めてくれぇ!」

「そうだな。そうするか。ほれ、糸に巻かれて鎮まりたまえー」

 

 これまで通りに天子を倒した人物の相手をするためにアトラクは近くで待っていたのだが、あんまりにも勝者が自分の元へと来るのが遅いので逆に天子の所までやってきたアトラクは、ひとまず魔理沙の言葉の通りに二人の身体を糸で縛った。

 

「ああ! 師匠! 何するんですか!?」

「あっ! アトラクあんたね!? あんたにも言いたいことがあるのよ! どうせ神奈子たちの時と同じで今回も裏で糸を引いてたんでしょ!? 他の奴らは騙せても博麗の巫女の私の目は誤魔化せないわよ!!」

 

「それはつまり俺とやろうって言うことだな?」

 

「そういうことよ! わかったらさっさとこれを解きなさい! そして私に退治されなさい!! そんでもって神社弁償しろぉ!! あんたが金持ってんのはとっくにお見通しなのよ!!」

「いいだろう。天子もついでに解いてやるから大人しくしておけ。いいな」

「うー…………わかりました~」

 

 アトラクが指を振ると瞬く間に二人を抑えていた白い糸が即座に緩まり、霊夢は彼に向かって立ち上がった。

 

「よくもやってくれたわね……もう男だからって容赦はしないわよ! 今日はボッコボコにしてやるんだから! 覚悟しなさいアトラク=ナクァ!! 例え紫が許してもこの私が許さないんだからぁ!!」

「良い闘気だ。これには流石の俺もわくわくするんだがなんでこいつはそこまで怒ってるんだ魔理沙? たかがボロ屋が壊れただけだろうに」

「ああ。そりゃあお前らのせいで霊夢が神社ごとお陀仏になりそうだったからだよ。流石の霊夢もブチギレってもんだぜ」

 

 魔理沙が呆れたように彼へと告げた。それを聞いたアトラクは彼には珍しく大層驚いた。

 

「そうなのか?! おかしいな。今回の異変では神社が崩れるのを巫女と一緒に見たと聞いたんだが……神社の倒壊に巻き込まれるなんて事があったのならあいつが話さないってことないだろうし…………そうなるとやはり意識的に同じ道を辿っても出来事は少しずれていくのか? ……フフ、これは面白いかもしれんぞ」

 

「ざけんな!! こっちは危うく死に掛けたのよ!? 何も面白い事なんかないってのよ!!」

「え? 魔理沙の小粋なジョークとかじゃなくて冗談抜きで死にかけたの? それはごめん。本当に申し訳ない。お詫びに永遠亭での検査ともっと良い家……じゃなくて良い神社建てられるように取り計らうからなんとか怒りを収めてくれ」

「当然じゃない!! 神社はきっちり元通りに建て直して家も家具も祭具も全部そっちで用意してもらうわよ!! ついでに食料も納めなさい!!」

「ん? それだけでいいのか? 部屋の増築とかお風呂を広くするとか炊事場を使いやすくするとかもっと要求してもいいんだぞ? 前に集まった時に部屋狭かったし今回はそういうのも考えずくでこっち側についたんだが」

 

「そうだったの?! えーとそれじゃあね――」

 

 そうなのだ。アトラクは前に一度神社の中に招かれた折りに、そのこじんまりした日本家屋を少々手狭に感じたこともあって、ある意味率先して神社の破壊に乗り出したという側面もあった。

 

 彼の視点ではこの異変では神社が壊れる以上の被害は出ないし、加害者側ならば男の立場でも流石に賠償を要求されるだろうと踏んでのことだったのだ。

 

 それにこのままだと守矢神社と命蓮寺と廟だけに支援して、博麗神社には何も渡さないということになるのも憚られた。

 

(早苗たちには色々やったし、寺の敷地は既に確保済み。……仙人たちにはそもそも俺と言う本物の仙人がいるのだからそれが何よりの贈り物だろう。うん)

 

 ゆえに霊夢の被災は本当に予定外だった。正直彼もこの世界に来てからの出来事でも一二を争うレベルで肝を冷やしていた。

 

(危ない危ない。今霊夢に死なれたら堪ったもんじゃないからな。何の為に異変が起こるのを大人しく待ってるのかわからなくなるところだった。しかし、これは本当に興味深いぞ。彼女の死はもっと先の出来事のはずなのに今それを起こせそうだったということは逆に死にそうなときに生かすことができるということでもあるはずだ。少し考えておくか)

 

 アトラクは一つの懸案事項としてこれを記憶に留めることにした。

 

 そんな時に霊夢はその欲望をそらんじていた。魔理沙はそれをなんともいえない顔で黙って見ていた。

 

「――して、お風呂は檜にして泳げるくらいに大きくして……ああ! 悩んじゃう!! どうしよう魔理沙!? あんたも欲しい物あったらなんかねだっときなさい! こんな機会もうないわよ!?」

「私はいいぜ。というかそんなに要望詰め込んで仮に実現したら掃除が大変になるんじゃないか?」

「はぁ? そんなのやってやるに決まってるじゃない! それくらいの努力はやるわよ!」

「ほんとかなぁ? どう思うよ二人とも」

 

 魔理沙から話題をパスされた師弟がそれぞれの感想を述べる。

 

「さてな。前に行った時は汚いと言うわけでは無かったし本人がやるって言うならやるんじゃないか? 天子はどう見る?」

「そうですね。私も会ったばかりだからわかんないけど三日坊主とかになるんじゃないかと」

「あーそれっぽいな。流石天人だ。お前良い観察力してるな」

「あんたたちね……!」

 

 またまた話が逸れて行くことになりそうだったのでアトラクは焦り気味に霊夢へと声を掛ける。

 

 どのみち彼から見てもこのタイミングで闘うのは悪くない。前回逃した分の一戦を回収しておくくらいのつもりでいた。  

 

「ああー。霊夢? そろそろ始めないか? 結果がどうあれとりあえず神社再建の費用はちゃんと出すから」

「…………それなら私としては別に貴方とやろうって気も起きないんだけど。お金だけちょうだい」

「えー。ここは普通付き合うってもんだろ……」

「いやよ。私の評判が落ちちゃうもの。男をボコって金を出させた悪鬼羅刹に転職するつもりはないわ。という訳で帰るわね。そんなに体を動かしたいのなら魔理沙とでもやってちょうだい。じゃあねー」

 

 霊夢はそう言い終わる前に猛スピードで帰って行った。

 

「「「…………」」」

 

 結果的に三人はそれは茫然と見送ることになった。

 

「おい。あいつマジで帰ったぞ。どうするんだよアトラク」

「……とりあえずやる?」

「嫌だぜ。お前と闘うメリットないんだからな」

 

「じゃあせっかくだし天子とやっていけよ。黒幕だぞ」

「……じゃあそうするか。よろしくな天子」

「あ、うんよろしく」

 

 魔理沙は天子をなんとか倒した後、なんだかんだでアトラクとも闘わされて普通に負けた。

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