東方 あべこべな世界で戦う    作:ダリエ

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6 Extra battle それは(おぞ)ましき悪魔

 暗い部屋に入って早々、凄まじい殺気を感じる。咄嗟にレミリアを盾にした。

 

「かりすま☆シールド!」

「ぐえぇぇぇぇ!!!」

 

 盾に魔力弾が直撃する。

 レミリアからカエルが潰れたような声が上がる。死んでないようならまあええやろの精神でシールドをパージして端っこに転がしておく。

 レミリアは置いてきた。この戦いにはついてこれそうにないからな。

 

 薄明かりがぼんやりと部屋を照らし出す。下手人の姿を照らす。

 

「あら? 当たったと思ったけど外れたのかしら?」

「当たりも当たり。大当たりだ。まあ俺じゃなくて君のお姉さまにだけどな」

「お姉さま?」

 

 俺はレミリアを指差す。フランドールはそのままその方向に顔を向け姉の存在を確認する。

 

「アハッ。お姉さまだぁ! そんなところで寝ていたら風邪ひくよ?」

「俺の糸で巻いてるからその心配はない。言ってるほどダメージもないだろう。早速だが俺と闘おうか。最初からそのつもりだったんだろ?」

「たたかう? よくわからないけど貴方が遊んでくれるのね! あなたはだあれ? 人間? それとも妖怪かな? 私たちとおんなじで目が赤いけど吸血鬼じゃないよね。それに咲夜や美鈴と違ってなんだか堅そうだけど……でもその分頑丈そうだからきっと長く楽しめる!」

「そうとも! 男ってのは頑丈なもんだ。触らせてやってもいいがそれは常識を叩き込んでからのお楽しみだ」

「ふぅん。それもよくわからないけど良いよ! じゃあ……壊れないでね!!」

 

 途端部屋が明るくなる。この演出はわかっている。

 フランドールはそう叫ぶや否やその鋭利な爪を向けてくる。こちらはそうだな……まずは糸で様子見だ。

 

「そんな細いので止められるとでも思ったの?」

「ところがどっこい止まったみたいだが?」

 

 幾重にも束ねた糸を最初こそ勢いよく絶ったその爪も糸束の中ほどすら行かずに止まる。

 俺は口角を吊り上げ挑発し、フランドールは不機嫌そうにする。そしてお互いに一度距離を離す。

 

「うわぁーなにこれきもちわるーい。白くてべたべたする」

「そいつは人間が定義した言い方で横糸ってやつだ。そんな感じでべとべとさ。この束はそれと牽引糸って言う丈夫な奴を編んだ物に力を通した特別性だ」

 

 言葉とは裏腹にフランドールは爪に付着した糸を物珍しそうに弄って遊ぶ。

 

「貴方って糸の妖怪?」

「そう言われるのは初めてだな。糸と言えば蜘蛛だろうに」

「くも? くもって足とか目ががいっぱいあるあれ?」

「それ。お空のふわふわじゃない方。まあ妖怪というには少々人に近づきすぎた気もするが」

 

 少なくとも糸は吸血鬼の膂力にも対抗できるとわかった。糸を力で引きちぎった鬼は本当になんなんだ。

 

「近づいたらまたそれがあるんだぁ。お姉さまもその糸でやられてるみたいだし面倒だなぁ……うん! じゃあこれで消えて!」

 

 フランドールは手に光を集め、一気に放出する!

 

「甘い!」

 

 こちらも両手から弾をまき散らす。図らずもここに来て弾幕戦の様相を呈していた。おそらく彼女はそういう戦い方が流行っているなどは知らないのだろうが。

 しかし、こちらの弾はあちらの弾に一方的に消されていく。

 

「なんでもかんでも破壊する能力か……! 羨ましいな全く。俺はどうしても絡め手ばかりでこの状態だと火力が低いってのに!」

 

 可能な限り糸を巡らせつつ避ける。前もって設置した糸もかなりの数が消されるがそれでも十分使える数が残っている。

 

「アハハハハ!!!」

 

 攻撃は激しさを増していく。

 しかしこちらは残った糸を使い縦横無尽に高速移動が可能な上、牽引糸で即座に元の位置にも戻れる。弾幕回避は得意なジャンルと言えるだろう。

 

「へえ……躱しきったんだ。それならこれはどう!!?」

 

 フランドールが四人に増えた。

 

「フォーオブアカインド! さらにレーヴァテイン!」

「いいな! 殺す気をがっつり感じる! だが勝つのは俺だぁ!!」

 

 フランドールが燃え上がる炎のような剣を抜く。炎そのものではないと祈りたいがどうだろうか。

 対抗してこちらも懐から武器を出す。真っ白い糸でできた軟鞭。

 

「打ち据える! 禁糸鞭!」

 

 高速で舞う四人のフランドールに対しても数的不利を気にせず全員を相手にできる。かつての殷にいた仙人の使った宝貝を再現した武器。

 

 相手を容赦なく無数に打ち据えこちらに近づかせず、その肉を削る。ただただどこまでも、どこにいても打つ。そのシンプルさゆえに対抗手段が限られる。しかし。

 

「こんなのうっとうしいだけよ!」

「流石に吸血鬼くらいタフだとあんまり効果もないか……あくまで自作のパチモンだからなあ。しゃあないか」

 

 ビシバシ打ってもあまり効果がないようだ。これは人間でも一撃では当たり所が良ければ死なないし、当然とも言える。

 仕方ないので剣を突き出して突貫してくる一体を躱し、禁糸鞭で縛り、縛り上げたフランドールごと鞭を壁に向かって投げる。

 

「隙あり! うぇぇー?!」

 

 後ろから振りかぶって来た一体は蜘蛛糸の罠にかかり停止。

 

「次は……お前だ」

「くっ! こいつ!」

「近くにいたお前が悪い」

 

 抵抗してレーヴァテインを乱雑に振るってくるが凌いだり受け流したりで距離を詰めて掌底を打ち込み、怯んだ隙に天井まで蹴りあげて蜘蛛糸で追い打ちし固定する。

 

 これで動くのはあと一体。

 

「お前もこちらに来い!」

「いやだ!」

 

 糸を伸ばして引き寄せようと試みるが剣で切り裂かれる。手の内がだいたいバレてきたからそろそろ対抗されるだろう。あまり悠長にはしていられない。

 

 フランドールの方も一人に戻る。糸対策にレーヴァテインは構えたままだ。あれは俺の糸を容易く断ち切るようだ。炎っぽいもんなぁ。

 

「楽しかったがそろそろ夜も明ける頃合いだ。吸血鬼にはおねむの時間だろうし決着と行かせてもらおうか」

「それはこっちのセリフだよ!」

 

 剣を上段に構え迫るフランドール。まずは厄介な剣奪うためこちらは手に向かって即興で束ねた糸を鞭のように振るう。

 

 しかしフランドールはそれを読んでいたのか。剣をあっさり手放し、こちらに組み付いてきた。

 

「気を取られ過ぎだよ! 最初はおもちゃにして壊れるまで遊ぼうかと思ってたけど気が変わったよ! あなたからはとってもいい匂いがするんだもん! だから……ね? いただきまー」

「ガブリ」

 

 首筋に噛みつく。吸血鬼ではなく。蜘蛛が。

 

「え?! うわぁぁぁぁ!!! はなせぇぇぇ!!!」

「っと。噛みつくのがお前らだけだと思うなよ。蜘蛛だって噛みつくんだぜ?」

 

 噛まれた痛みでフランドールは暴れて引きはがされる。だがもう遅い。

 

「そう暴れると毒が回るぞ」

「毒……? うぅ……なんかふらふらする……?」

 

 蜘蛛は神経毒を持つ。場合によっては小さな蜘蛛でも人を殺すことが可能なほどだ。雄蜘蛛はだいたい毒が弱かったりなかったりするが、毒の対象である獲物よりもサイズが大きい俺ならかなり強力な毒を生成できる。

 

「死ぬようなのじゃないがしばらくは体調最悪なこと請け合いだぜ。寝てな。棺桶くらいには入れてやるよ」

「うぅぅうぅぅ!! がぁぁぁぁ!!」

 

 フランドールは自ら首ごと上を破壊した。そして吹き飛んだ灰がそのまま頭に集まり元に戻る。

 

「マジかよ……気付けに体を刺すとかなら結構見たが患部ごと吹き飛ばすのは肝が据わり過ぎだろ! 今日で一番根性あるのが幼女とかだらしねえな紅魔館」 

「ハァハァ……アハハハハ!!! さあ続けよう!? 楽しくなってきた!!!」

 

 再び四人に分身し、襲い掛かってくる。

 今度は前衛が剣と素手の二人に、後衛に弾幕二人とフォーメーションを組んできた。発狂した方がよほどクレバーな戦い方をするようだ。

 

「クソッ! ならば厄介な奴から!」

「やっぱりこっちね!」「でもわかってたよ!」

 

 剣持ちに向かうと素手に邪魔され殴られる。距離を取ろうとすれば弾幕が濃くなる。回収した禁糸鞭でまとめて打ち据えようとすれば前衛が前に出て、損傷を気にせず守りに入る。

 

「中々上手いな。数で勝ってることをしっかり理解した動きだ」

 

 四対一だとこちらはどうしても攻め手にも手数にも欠ける。せめて腕とは言わないので足だけでも八本あれば。

 

「! しまった!!」

 

 勝ち筋を探っているとついに回避に失敗し、相手の弾が左腕に直撃した。

 

「痛っつぅぅぅぅ!」

「やっとまともに食らったね! このまま少しづつ嬲ってあげる!」

 

 元より人よりは頑丈な体を錬丹でさらに硬く鍛えた体なので完全には破壊されなかったものの、治療をしないとまともな働きは期待できない損傷を負った。

 こうなっては若干の不利がかなりの不利にまで傾いてくる。

 

 こちらも本気を出して本能のまま暴れてもいいが、その場合こちらの勝ちは相手の死に他ならない。

 しかもあっさり勝ってしまった場合は満足するまで全てを差し置いて動くものをことごとく標的にして狩りを続けてしまう。これは選べない。この周辺の生物が死に絶えてしまう。

 

「完全に想定外だがここまで追い詰められかけるのはむしろ好都合だ。これこそ俺の望む戦い! あとは俺が勝てばしばらくはのんびり過ごせそうだ!」

 

 いや。これは慢心だ。なんだかんだ言って俺は無傷で勝とうとしていた。

 

「なにをごちゃごちゃ言ってるの? 遺言なら聞いてあげないよ! 死ね!」

「死んでたまるかよ! 折角の戦場でよぉ!!」

 

 一目散に駆け出す。

 

 この陣の攻略法はシンプルに二つ。一人づつ潰すか、本体を殴ること。

 今の俺ではとても四対一は凌ぎきれない。ならば傷を負ってでもこのタイミングで決着をつけられる後者を選ぶ!

 

「ちっ! 気づいてるか! しかし!」

 

 剣持ちが正面から剣を突き出して迫る。それを一度躱しつつすれ違いざまに目に糸の塊を投げつける。そのまま素手個体に飛びかかる。正面からの格闘に見せかけて背後に回りこみ首に毒を叩き込む。そのままの勢いで素手の個体に粘着性の高い糸を巻きつけ、剣を持った個体に投げつける。これでどちらも動けまい。

 

「この際だ! 無理を通すさ!」

 

 前衛を蹴散らしたのでそのまま後衛に迫る。残った偽物と本物が一体づつ。当然本体を攻め立てるがこれまた当然分身が護衛するので細い体を腕で貫き、投げ捨てる。

 

 そして本体に襲い掛かる。一対一ならこのまま確実に仕留めきれる。

 

「チェックだ。悪魔」

「そんな戦い方しておいて。悪魔はどっちよ。それに……こっちはチェックメイトだよ!」

 

 ニヤリとフランドールが笑う。

 

 そう。後ろからは邪魔な分身体を自身の剣で消した、レーヴァテインを持ったフランドールが迫っていた。

 

「「死ね!!!」」

 

 眼前のフランドールもまた力を込めた腕でこちらを狙っている。

 

(俺が負ける……!? 俺が死ぬ? いいや! そんなことはありえん!! 勝つのは俺だぁ!!!) 

 

 赤い目が輝き、その黒き肢体が露わになった。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 その日。紅い霧を広め始めて数日が過ぎた日の夜。我が紅魔館に遂に客人が来た。

 その客人は私の想定していた巫女や賢者などといった存在ではなく。それどころか女ですら、雌ですらなかった。

 

 この世で希少になって久しい男。私が生まれた時には既に数が減ってからだいぶ経つと幼き日に教えてもらった。きっと両親のように吸血鬼同士で結ばれることはないだろうとだけは幼い私も漠然と考えていた。

 そしてこの幻想郷に越してきた時には完全に同じ人外との婚姻は諦めていた。ここですら男の妖怪は少なかったから。吸血鬼は人間と交配可能なので問題はなかった。

 

 そんな中現れた男である。そいつは美鈴と咲夜を打倒し、私の元まで来た。

 まあ美鈴は戦うか決めかねて逃げ出したところを咲夜に咎められて床とキスをする羽目になったようだけど。しかし彼女の行動も一概に非難できるものでもないでしょう。あの子も意外と真面目というか良い子だからしっかりここのルールというのを学んでいたみたいだから。

 

 平たく言うとこの幻想郷にも男性に危害を加えた者に対して厳罰を与えるという掟があるから、それを気にしていたのでしょう。なんとも家族思いの門番ね。あの子ウチの子なんですって自慢したいくらい。

 ただあちらから誘ってきた場合は自己責任だから気にせずやっちゃいなさい。それで文句を言ってくるような性悪までは向こうも面倒を見ちゃくれないでしょうし。

 

 それはさておき、戦わなかった美鈴は置いておいても咲夜を倒すのは驚いたわ。

 時間を止めるというのは吸血鬼に対してもそれなりに有効な力だから。攻めるにしても逃げるにしても使い勝手は良い方だろう。少なくとも私のモノよりは戦闘で物を言う力だ。

 

 それをこの男は初見で打ち負かした。種を明かせば手の内はばれていたらしいが。

 

 そんな興味深い客を見ずにはいられないだろう。私はすぐにそいつの運命を見た。だが実の所違ったと思う。きっと私は見せられたのだろう。

 

 私が見たもの。それは言った通り。彼のあちらの世界の幻想郷に着いてから、こちらの幻想郷に来るまでのおおまかな記憶。そして彼の中の特に大切な思い出だろう出来事。

 

 そして彼の中に巣くう、まるで異界の生物なように恐ろしい。そう。まるで冒涜的な、宇宙の闇の深淵の恐怖の権化のようなバケモノ。

 

 彼の髪のような黒檀色の毛で覆われた体に、彼の眼光のように赤い目をした蜘蛛の神のような大いなる存在がただ佇んでいた。

 

 私は生まれて初めてどうしようもなく怖いと感じたわ。

 今までも怖いと思ったことは本当にほんの少しだけいくつかあったけれど。どうしようもなく取り乱して、泣いたり、失禁したり、いっそ狂いたくなるほどの恐怖はなかった。

 

 何より怖いのは見せられている彼の記憶は、たくさんの退屈なまでの穏やかさと、ほんの少しのわくわくするほどの戦いの興奮に満ちているようなもので、こんなバケモノとは無縁に思えてならなかった。

 

 だから私は道化を演じた。彼の真意を知るために。

 だけど結局、私が見たあの記憶と目の前の彼に違いは無く。化け物だけが浮いていた。

 

 でも今この時。フランとの戦いの中で彼がその本領を見せた時に理解した。

 きっとあれは世界から世界へと旅立つ同種へ向けた(はなむけ)なのだろう。

 あのバケモノの力は彼の意思だけで振るわれた。

 

 彼はその身に失って久しいはずの蜘蛛の相貌を顕現させて、我が妹に完膚なきまでの敗北をもたらしたのを見て私は酷く安心した。

 




レミリアさんは再び異界の神性を見たのでカリスマ値チェックどうぞ。
……成功ですね。レミリアさんはカリスマに戻ります。
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