東方 あべこべな世界で戦う    作:ダリエ

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9 蜘蛛と冬支度と宴会

「うおおおおお!!!」

 

 ひたすらに編む!編む!編む!俺は妖怪機織り機だ!うおぉん!

 

 今日も蜘蛛の男が経営する店は忙しかった。

 

 季節は冬目前。この幻想郷の人里は外の世界に比べ文明的に遅れている。そのため暖房器具がろくに無い。せいぜい薪をくべるか、囲炉裏か、掘りごたつ。

 薪なども無駄にできないためもっとも選ばれるお手軽な防寒手段は重ね着になる。

 そう。服だ。

 

 中でも俺はこの世界では人間界を含めても最先端を行く、いわゆる○ートテック的な肌着を作れる、うっかり阿求との会話でそれをポロリとこぼしてからはさあ大変。

 実際に作った物を着た阿求が絶賛したため、肌着なので多少安いもののそれなりの価格設定のそれは馬鹿みたいに注文が殺到した。

 

 もう一度言う。冬目前。時間が無かった。

 

「すいません私のせいで……」

「気にするな阿求!! そして同情するなら肉を! たんぱく質をくれ!」

 

 蜘蛛の糸というが俺の服の原料として出す糸は蚕の絹糸に近い。その上で蜘蛛糸の耐久性を両立している上にプラスが付くスーパー繊維なのだがこれの材料は俺の持つ妖力や魔力に加え、たんぱく質を使う。

 

 生成効率も抜群に良いが流石に今回はそれを上回った量を生産しているため、作りながら食事をして補給しつつ作っていた。

 

「すみません! もう獣がなかなか獲れなくて……お魚と干肉をいくつか食糧庫から貰ってきたのでとりあえずこれで凌いでください」

「仕方ないか。せめて俺が外に出られれば自分で獲れるがそれすら惜しい……!」

 

 硬くてしょっぱい肉をかじりながら作業を続ける。

 

 幻想郷の冬は寒い。

 氷精などの類の妖怪が当然のようにいる幻想郷は北国もかくやと言う具合で雪が降る。そのため結構な獣が冬眠をする。森も多いので餌も秋の間に集め終わり、冬前には姿を消すのだ。

 

 それはやはり俺にとって時間が無いということ意味する。

 おかげで既に二日ほど徹夜している。三日三晩闘ったこともある俺だが、正直あれは途中から眠気が敵になるのでもう二度としないと誓った。もう三徹はしたくない……。

 

「そろそろ慧音先生が戻ってくる頃だと思うのでもうしばらくの辛抱です!」

 

 その時、外から足音が聞こえ、その音はこちらに向かってきた。

 

「すまない! 遅くなった! まだ生きているな!?」

「慧音先生! ギリギリセーフです! 獲れましたか!?」

「ああ! 妹紅が手伝ってくれたからな。宴会ができるほど獲れたぞ。とりあえずどう調理する?」

「……状態が悪いのを一つくれ……とりあえず吸うから」

 

 俺は差し出された毛皮もはがされず、血抜きもされていないちょっと焦げた獣に噛みつく。

 そしてその中身に消化液を流し込み液状にして吸い上げる。これが一番早いと思います。

 

「何度か見たがこれは圧巻だな……吸血鬼よりよほど吸血鬼してるじゃないか」

「ええ。これを見るとああ、妖怪なんだなって思います」

「吸血鬼じゃなくて蜘蛛ですが何か? ふう生き返った。助かったよ慧音。後は適当にそっちも食べれるように調理して待っててくれ。糸さえ出せればもうじきに終わる」

「そうか助かる。これで子供たちが寒さで亡くなることもないだろう。感謝するアトラク」

「いいさ。仕事だからな。対価ももらっている」

 

 そうして、しばらく作業を続けつつたんぱく質を補給してを繰り返しなんとか必要数をこさえた。

 

「よーし終わり! さすがに疲れた。飯にしよう」

「ご苦労様です! 家の者を呼んでいるのでそちらに品物は預けてきます。そのまま各家に届けさせますね」

「お疲れ。肉以外もだいたいできてるぞ、妹紅も来るはずだが先に初めてしまおうか」

 

 扉が開いて最高のタイミングで彼女が入ってくる。

 

「遅れた。炭と雉を追加で何羽か獲ってきたが間に合ったかな?」

「来たか妹紅。ちょうどいいところだ。早く入ってこい」

 

 そう言って慧音が藤原妹紅を俺の店に入れる。これで今回のメンツは揃った。

 

「えー。それでは冬支度も終わったことで……これから人里人外部主催の打ち上げを開始します。皆さん乾杯」

 

 上白沢慧音が控えめに音頭をとり宴会は始まった。

 それぞれ酒杯をぶつけあい、カチンと小気味いい音を奏で、勢いよく中身を飲み干す。

 

「あぁー生き返る。俺がんばった」

「水で良かったのか? 酒もあるのだぞ」

「俺ももとは蜘蛛だからな。やっぱり酒とかはあんまり、酔うと蜘蛛の巣が綺麗に張れないし。酔いが理由で負けるのも恰好つかないし」

 

 カフェインで特に酷く酔うのでお茶も飲まない。果実水とかは好き。日本の水は最高。

 

「まあ人それぞれだ慧音。こいつは妖怪だが。それに私たちはアトラクの分の酒が飲めるだろ? 誰も損してないならそれでいいじゃないか」

「妹紅……まあ良いか、だからと言ってあんまり飲みすぎるなよ」

 

 妹紅は了解と言って酒を煽る。まあ酔いつぶれても布団はあるし泊めてやるけど。同衾はしないです。勝て。

 

「しかしこの人外部って……まともに人外なのアトラクさんだけですよ?」

 

 俺。阿求。慧音。妹紅。

 それぞれ。旧神蜘蛛男。転生人間阿礼乙女。半人半獣ワーハクタク。不老不死の蓬莱人。

 

 人間度がかなりお高めになっている。俺意外は割合的に人間と言えなくない面子だ。

 

「仕方ないだろう。私も妹紅もベースは人だからな。しかし全員ただの人間でもない以上こちらの方が収まりが良い。他にまともに人里で働いている妖怪もいないし。アリスには連絡つかなかった。アトラクとの面識も無いし無理に誘うのもな」

「それを言われたらそうですが……確かにアリスさんは人見知りするというか人付き合いが不得手と言うか……ああ、でもアトラクさんは知っているんですかね?」

「ああ。大体は。でもこっちだと確かにまだ会ったことないし今回は仕方ない。おい妹紅これちょっと炙ってくれ」

「はいよ。っとこんなもんか?」

 

 冷めかけていた肉を炎で温めなおしてもらう。かじる。うん。美味い。

 

「それにしてもお二人はいつ知り合ったのですか? 慧音さんには私から寺子屋に紹介しましたけど」

「私は何もしてないぞ。会うのももっぱら寺子屋か里の中だけだ」

「前にハンモックブームあっただろ? その時枠組みの材料として竹に目をつけてな。竹林の案内を頼んだのがきっかけだ」

「最初は驚いたが報酬をはずんでもらったからな。ちゃんとこっちの言うことも聞くし、良い男だしで色々上客さ。おかげで私は心と懐が温かくて幸せだよ」

 

 お互い肉を食いながら言う。あの時はここまでではないが結構忙しかった。どちらも利益は大きかったが。

 

「最初は羨ましいと思いましたけど難儀な能力ですね。本人の意思に関わらずお金が舞い込んでくる能力というのも」

「おかげで仕事が上手くなって困ってるよ。お金も溜まる一方だし。これまでも何度も俺の意思を無視して仕事が舞い込んでたからそっちは慣れたけど」

「それなら私と慧音をまとめて養ってくれ。どちらも末永く生きる予定だから長い事浪費するぞ?」

「ちょっと!? 妹紅!?」

 

 妹紅の軽口に慧音が本気で動揺する。顔を真っ赤にしてなんともわかりやすい。

 

「いいぞ。がんばって俺に勝ってくれ」

「じゃあお前が私を殺しきるまで戦おうか? お前が諦めたら私の勝ちだ」

「勘弁してくれ妹紅。俺はお前とは相性が悪すぎる。弾幕ごっこにしてくれ。それならイーブンだ」

 

 あはははは。

 二人で笑いあう。妹紅は酔ってきたようだ。俺は場酔い。

 

「え? アトラクさん妹紅さんに勝てないんですか?」

「勝てない! まあルールにも因るがな……俺の糸は水には強いが炎熱には弱いし、毒は不死者には大して意味もない。吸血鬼くらいなら弱点をつけば消滅も狙えるし再生限界もあるがそもそも死なないのはダメだ。妹紅は糸で拘束しても自分ごと燃えて抜けれるし、毒も自殺して解毒できる。おまけに天敵の鳥とも縁がある。弾幕ごっこにしても巣や糸が燃やされるからやっぱり分が悪いか。殴ったところで死ぬけど復活だ」

 

 虫タイプに炎飛行持ちをぶつけるような感じだ。確実に交代してもらいたい。

 

「? ああ不死鳥のスペルカードのことか。よく知っているなアトラク。私でも妹紅のスペルカードは見たことないぞ」

「ふふ。私は喪女一抜けだ。悪いな慧音」

「くっ! 私だって生徒の親御さん達からの目もあるから早く結婚したいのに……子供たちからもからかわれるし……というか生徒の親も元生徒だし……」

 

 慧音は酒をガブガブ飲みつつ、膝を抱えていじけだした。

 このままだと確実に二日酔いだろう。友達なら何とかしろ妹紅。

 

「あー慧音。えーと……あ、そうだ! 二人がかりで戦えば二人とも勝ちだ。それなら一緒にゴールインだぞ。二人で幸せを掴もうじゃないか」

「そうなんですか?」

 

 阿求に聞かれる。俺はそうだと答える。

 

 かつて向こうの世界でも三対一とかの変則バトルは行われていた記録があった。

 こちらも同様だろう。条件として対戦相手の了承が必要ではあるのだが。俺は楽しいからオーケーだ。

 

「俺は構わない。何人来ようと勝つだけだ」

「でも妹紅さん一人に負けるんですよね」

「うん。でも弾幕ごっこなら……」

「それなら常に妹紅さんと誰かに組まれたら負け続けるのでは?」

「まあそれはそうだが妹紅が組むようなのは今は慧音くらいしかいないだろ?」

 

 それはまあ確かにと阿求はとりあえず納得しつつも、不満そうに杯を傾ける。

 

 そしてここだけの話この二人なら別にいいかなと俺は思っていた。

 彼女達とは前の世界でも親交があったからだ。人となりは把握していたし、この世界でも性根がさほど変わらない事も実感した。生活圏も近いのでまともに人里で平和に生きれる。そしてたまに仲良くバトって竹林辺りが荒れる。

 

 それに妹紅はあちらでの数少ない戦闘相手だった。倒したい相手がいるとしきりに言っていた彼女とは相手の命を考慮しない激しい戦いをしたものだ。

 まあ先程言った通りこちらが極端に相性が悪かったので長続きしなかったが。

 

「そうかー。そうだなー妹紅ー。二人で幸せになろうなー」

「ああ! その言い方だとなんか私たちが結婚するみたいになっちゃうけど……大丈夫だぞアトラク! 私たちがお前を幸せにしてやる!」

「してやるー!」

「おう。阿求もこれくらい言えるようになるんだぞ」

「なんでちょっと他人事っぽいんですか?」

 

 そんなこんなで冬の夜は更けて行った。

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「うわぁ積もったな」

「積もりましたねー」

 

 結局、あの晩のメンツは俺の店に泊まり、俺の作った布団でぬくぬく朝まで過ごした。

 そして酒を飲んでいなかった俺と控えめにしていた阿求が朝起きると雪が積もっていた。

 白湯を飲みながら外の様子を見る。

 

「本当にギリギリでしたね」

「全くだ。来年は早めに用意しておくとしよう」

 

 かなり寒い。しっかり俺もどてらを着ているが冷える。

 

「やっぱり虫なんで冬眠して越冬するんですか?」

「馬鹿を言え。俺は文明の利器を使ってぬくぬく過ごす。ただ今年の冬はその前にやることがあるからな。家にある食料を食い尽くしながらいくつか予備の冬物を作った後はしばらく家を空ける、なので管理を頼みたい」

「ええ。良いですよ。出る前に一言くださいね」

「ああ。作った衣服もその時にそちらに預けるつもりだ」

 

 

 

「うう……気持ち悪い……」

「さすがに飲み過ぎた……クソ……いっそ一度リザレクションを……」

「俺の店で死ぬのはやめてくれ。事故物件になってもここの不動産は安くならないんだ」

 

 妹紅が起き抜け物騒なことを言ったので止める。ただ本気でやられると俺では止めようがないので祈るしかない。お願い止めて。死なないでもこたん。店のため切実に。

 

「……では私は帰りますね。また春にでも宴会しましょうね皆さん」 

「逃げたな……はぁ仕方ない。これ二人とも、もう一仕事するからでていけ。って言っても聞かんだろうな。送っていくか。慧音の家でいいな?」

「すまない。迷惑を掛ける……」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 私は目を覚ます。

 見慣れた天井だ。

 

 ああそうだ。思い出した。確か昨日はアトラクの店で飲んでそのまま寝てしまったのだった。そして自分が何を言っていたのかもしっかり覚えていた。恥ずかしい。妹紅のせいで飛んだ目にあってしまった。

 

 横ではその妹紅が寝ていた。そろそろ目覚めそうなので恨みを晴らす意味も込めてひっぱたく。

 

「ほら起きろ妹紅! もう昼だぞ!」

「ぶぇっ!? ったく何だよ慧音。もう少し寝かせてくれよ……」

「ここは私の家だからな。私がルールだ。家主よりも長く寝るとは何事だ」

「いいじゃんか。どうせ後々家族になるんだからさ。そうなったら慧音も家主じゃなくなるだろ? あいつの店の方が広いんだぞ」

「っ!? まだ言うかこいつは!」

 

 私は妹紅を踏みつける。しかしクルリと転がって躱される。死なないのだからせめて憂さ晴らしに殴らせてほしい。

 

「死ななくても痛いものは痛いんだ。それにそんなに暴れたいならアトラクと闘う時のために使えるコンビネーションでも早速練習するか?」

「…………する」

「ふふふ。正直でよろしい。死ねない奴より死ぬ奴の方が素直に生きるべきだ。私はいずれそれができる時が来るかもしれないが死ぬ奴には時間切れがあるからな」

「そんなことは言うな。私は……」

「いいよ。私も今回のような幸運はそう来ないとわかってるさ。だから死ぬ気でやってやる。一緒に来てくれるか?」

 

 妹紅がこちらに手を差し出す。

 

「ああ。行こう妹紅」

 

 私は手を掴む。

 勝利はこの手で掴む。一人ではなく二人でだ。

 

「でもとりあえずはお昼にしようか」

「ふふ。全くお前は……」

「腹が減ってはなんとやらだろ? 死なないといっても腹は減るのさ……」

 

「さて……だがその前に決着をつけるか……輝夜」

 

 

 

 

 

 

 

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