いわゆる戦争孤児というやつだった。
地鳴りのような音とともに大量の瓦礫が降ってきて、避ける間もなく下敷きになった。何が起こったのか分からなかった。のしかかるコンクリートから逃れようとして初めて、右腕がないことに気付いた。不思議なほど痛みはなかった。左腕を使ってどうにか瓦礫の山から這い出てようやく、戦争がコロニーを巻き込んだと理解した。それと同時に少しずつ戻ってくる痛覚、近いはずなのにずっと遠くで響くように聞こえる戦闘音、地面で擦れた頬、乾いた土の匂い、右肩から脇腹にかけての生温かくどろりとした感触——。
あのとき一度死んだのではないかという気がする。もちろんあれ以前のごく平和な生活のことも覚えてはいるが、今となってはどこかとても浅薄な、仮初めの時間だったように思えてならない。あれ以降安否の分からない家族のことを考えて頭を抱えたことなどなかったし、もはや家族の顔もはっきりとは思い出せなかった。
目を開けて——こんな言い方はこの機体だからできるのだが——右腕を見た。携えたマシンガンのグリップの感触で、脳髄が打ち震えるような気がした。
「おい、右腕はもういいだろう」と声がする。「そんなに嬉しいならシミュレータで好きなだけやれ。初の任務なんだ、集中しろ」
前方に目をやると、二本の海上幹線道路間に設えられた足場の上に、数機のマッスル・トレーサーがいるのが見えた。ロックカーソルの表示されないここからでは機種までは判らなかったが、シミュレータで散々戦ったのと同様、不細工にもぞもぞと動いていた。
「やだなあセレンさん、心の中まで読んじゃってさ」
「無駄口はいい。ミッション開始、ラインアーク守備部隊を全て撃破する——」
薄っぺらな足場を壊さない程度に蹴って空中でブースターをふかし、トップアタックを仕掛ける。ブースト機構を持たないあっちは、足場を壊せば水没してそれで終わりだ。カーソルを出さないまま、眼下の足場へ向けてマシンガンを乱射した。こんな敵が相手じゃ集中しなくたって——と、今の状態では噤む口もないのだが、気付くのが一瞬遅かった。ないはずの四肢を操れるネクスト機の操縦システムは本当に良いものだ。唯一この通信の仕様を除いて。
「ふうん……? ならそうだな、無傷で帰ってこい。減らしたAPの分だけ、機体の修理費に加えて更におまえの報酬から差っ引いてやる」これだ。訓練中も幾度となく、通信内容としての思考とそうでない思考とを区別できず、それはもう多種多様な不利益を被った。
「あーもう、分かったよ、分かりましたよ……」
MTだろうがノーマルだろうが、勝つだけならそれはもう余裕だ。何と言ってもこちらはネクストなのだから。しかし一切被弾するなというのは、カラードランクを取得したばかりのリンクスにはどだい無理な注文で、ノーマルの増援も含め敵部隊の沈黙を確認したときには、当然ながらAPは幾らか減っていた。
「さて、報酬はさっき言った通りだ。忘れるなよ。……しかしこの程度の相手、ウィンあたりなら無傷だろうにな」通信の向こうで嘆息するのが聞こえた。
「いや、フレッシュマンにいったい何を求めてるのさ……」
天引きされる報酬のことと、じきにまた失ってしまう右腕のことで少しだけ憂鬱になりながら帰投した。