『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
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(1)真っ裸の雪ノ下と由比ヶ浜と一緒に居るだけの話
「なんでこうなった!」
そんな俺の質問もむなしく、部室の奥の積み重なった長机の陰にしゃがみ込んで隠れる二人は、顔の上半分……目の辺りだけを出して、呆然と立ち尽くす俺を見ていた。
今は昼休み。うだるような暑さから逃れようと、昼飯を食べられる涼しい場所を求めて彷徨ううちにこの部室に辿りついた。が、ここで異変が起こった。先客がいたのだ。それも二人も……
まあ、それは別に問題ない。なぜなら、その二人はこの部活の部員、雪ノ下と由比ヶ浜だから。だが、その奥の机の山にその身を隠す二人の身体には問題があった。その問題とは……
何も服を着ていない……全裸だということ。
暫くの沈黙の後、声を出したのは由比ヶ浜だった。
「え、えーとね、さっき女子はプールの授業だったでしょ? あたし、ちょっと遅くなっちゃって間に合わなそうだったからさ、ついこの部室で着替えちゃったの。ここプール近いし……それで、戻ってきたら……」
由比ヶ浜は顔を真っ赤にしたまま雪ノ下を見る。すると今度は雪ノ下。
「わ、私も同じようなものね。由比ヶ浜さん達の後、今度はうちのクラスが水泳だったし、この後お昼休みだから丁度いいと思って、お弁当とか着替えとか全部持ってきていたのよ。それで、ここに来たら由比ヶ浜さんが着替えていたので、私も一緒に着替えていたのだけど……」
二人はお互い見つめ合う。そして二人とも真っ赤になってテーブルに顔を隠した。
な、なにゆりゆりしちゃてんの? は!? まさか、本当に……ゆ、百合なのか!? ゆりっちゃったのか!? 百合ノ下さん、百合ヶ浜さんなのか!?
ゴクリ……
「と、とにかく、着替えに来たのは分かったから、お前ら早く服を着ろよ」
そう言うと、テーブルの陰から雪ノ下が声を出した。
「それが……ないのよ、服が」
「は? だって、水着とか、制服とかは、どうしたんだよ」
「えーとね……」
俺の質問に由比ヶ浜が答える。
「えーと、あたしがここに入った時、段ボールが床に置いてあったの。ちょうど、着替えを入れるのにちょうどいいと思って、着ていた水着も制服も全部そこに入れちゃったの……」
「わ、私も、その辺に置いておきたくなくて、由比ヶ浜さんに倣ってそこに入れたのだけど……。丁度私達が全部脱いでしまった時、急に入り口で音がして、私たちは二人で、慌ててこの奥のテーブルの陰に隠れたのよ。誰かが入って来た様だったから……それで、暫くして静かになった頃に出てきてみたら……」
俺はため息をついた。
「その段ボールが無くなってたわけだな……お前らの服も一緒に」
雪ノ下と由比ヶ浜がちょこんと頭だけを覗かせてコクコクと頷く。なんだ、百合じゃなかったのね……
「それでねヒッキー……お願いなんだけど、誰か女子の子を呼んで来て貰えないかな」
「な、なに!?」
じょ、女子だと。このプロボッチ10段の俺にそんな試練を……
俺の思案が終わる前に雪ノ下が言った。
「それは酷という物よ、由比ヶ浜さん。人には出来ることと出来ないことがあるのよ。もっと気を遣ってあげましょう。ね!」
お前もだよ、雪ノ下。もっと気を遣えよ。
「で、でも……このままじゃ……」
由比ヶ浜が声を震わせる。それにしても暑い。ただでなくても昼時で暑くなってるのに、この部屋窓も閉めきってるし。
俺があまりの暑さに耐えかねて、ワイシャツのボタンに手を掛けたその時、由比ヶ浜が声を出した。
「そ、そうだ! ヒッキーの服があるよ。それ貸して」
「は? お前何言ってんの? そしたら俺裸になっちゃうだろ」
「いいから貸してよ! ゆきのんはTシャツと、制服のズボンね。あたしはワイシャツと、ヒッキーのパンツで我慢するから」
な、何!? 雪ノ下が俺のTシャツにズボン直履き……、由比ヶ浜がノーブラワイシャツに……俺の、ぱ、パンツを履くだと……!?
い、いかん……妄想しては危険だ! タダでなくても、目の前の二人は全裸……このままでは……
「や、いや、ちょっと待て、ダメだ。絶対に!」
「ヒッキー……く、靴下は見逃してあげるから……ね? お、お願い……」
「い、いや、靴下だけで何をどうしろっていうんだよ!」
「そ、そんなの、頑張って隠せばいいでしょ! も、もう……いい加減に諦めて、早く脱いでよぉ! もうじれったいぃ!」
由比ヶ浜が突然立ち上がる。当然その大きな二つのビーチボールも跳ね上がる。俺は咄嗟に顔を背けて目を瞑った。
「ば、ばか! 何してんだ! 恥をしれ。恥を!」
「ヒッキーがいけないんでしょ! グズグズしてるから!」
ヒタヒタと由比ヶ浜が近づく音が聞こえる。そして、俺のズボンに手を掛けたのが分かった。こ、こいつ……俺のベルトを外そうとしてる。由比ヶ浜をチラリと見下ろしたら、真っ赤な顔で目を血走らせていた。コイツ……本気だ……
「ば、バカ! 本当にやる奴があるか! お前、この暑さで頭沸いてんじゃないか?」
「ち、ちがう……そうじゃないの……、そうじゃなくて……」
由比ヶ浜はプルプル震えながら、掠れるような声で呟いた。
「も、も、も……漏れそうなのぉ……」
なにぃ? そんな非常事態になってたのかぁ!? って、だからって、俺に出来ることなんて何にもないぞ!
「た、頼む……見逃してくれ! ここで起きたこと、いや、起きることは誰にもいわないから! な!? な!?」
俺がそう言った瞬間、ガシッと後ろから羽交い絞めにされた。
「ゆきのんナイス!」
真っ裸の雪ノ下が、俺の背後から両脇の下に手をまわして締め上げてる。当然、雪ノ下の身体と俺の背中は完全密着状態。
お、おおぅ……せ、背中にわずかな膨らみの感触が……
「ゆ、雪ノ下……落ち着け、こんなことしてもろくなこと無いぞ!」
すると雪ノ下。
「わ、私もお、お
お、お前もかぁ……何を、上品に言い換えてるんだよ!
で、でも、この状況はやばい……ち、近すぎる……っていうか、マジでくっついてるし! それに、暑い、苦しい、いい匂い!! もう、色々ヤバすぎる!?
「もう……ヒッキーのズボンなんか引っかかってるし……なかなか……ぬ、ぬげなぁいぃぃ」
由比ヶ浜が渾身の力を込めて引き下ろそうとする。止めて! マジで! お、折れちゃうから!
「ひ、比企谷君……いい加減観念しなさい」
雪ノ下も引きつった笑いを浮かべながら、俺の耳元にそう囁く。も、もうだめだ……このままじゃおかしくなる……だ、誰か助けてくれぇ!!
ちょっと、油断をした瞬間、由比ヶ浜がズボンを持つ手に力を入れた。
「えい!」
ぴこん!
ガラガラ……
「やあ、すまんすまん、間違えてお前たちの服を持っていってしまったようだ……あ」
その瞬間、開いたドアの前に、段ボールを抱えた平塚先生が絶句して立っていた。