『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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材木座君の恋愛成就大作戦⑦

 それから数日経った。

 あたしとヒッキーは、あの愛菜さんに会った日に『彼』に言われたことを遂行するべく、黙々と準備を進めたの。

 材木座君は大分消沈してしまっているのだけれど、釧路の自宅に帰ろうとはしなかった。

 でも、それで愛菜さんに会いに行くわけでもなく、愛菜さんの話題を持ち出したりもしない。ただ、今までの執筆活動を続けているような感じで、毎日を過ごしていた。

 当然だけど、以前のような活気はなくて、静かに黙々とペンを原稿用紙に走らせている感じ。

 彩ちゃんもなんて声を掛けてよいのか分からないようだった。

 

 このままで本当に良いのかな?

 あの人のお願いを聞いてしまったことで本当にうまくいくのかな?

 

 様々な想いが頭をよぎっては消えを繰り返していたけれど、夜、ベッドの中でヒッキーと小声で話した時に、彼にこのまま進めようと言われ、あたしは胸が苦しかったけど覚悟を決めることにした。

  

 何にしても、この先の話は材木座君と愛菜さんの問題なのだから。

 どう事態が転がったとしても……

 

 そして、ついに『その日』がやってきた。

 

「こんばんは」

 

「あ、愛菜……たんっ!?」

 

 夕方全員が帰宅した後、食事の準備をしていたそこでインターフォンが鳴って戸を開けてみれば、そこにいたのはなんと愛菜さん。

 彼女は手に大きな紙袋を持って微笑みながら立っていた。

 それを見て一番動揺したのは当然材木座君。

 材木座君は声を詰まらせて彼女を見つめたあと、ササっと隼人君の後ろに隠れた。

 えーと、いきなりそうやって隠れるのは失礼なんじゃないかな?

 そう思うも、愛菜さんはただそれを見てにこりと微笑んで、今度はヒッキーに向き直って紙袋を差し出した。

 

「先日はどうも……。実は今日は、いろいろ相談に乗って頂いたことのお礼と、それと今度開かれるパーティの招待状をお渡ししたくて直接参りました。どうぞお納めください」

 

 彼女がはいと差し出した袋の中には、小さな袋で可愛くラッピングされたお菓子……これはチョコレート? わぁ、すごく綺麗なチョコ。まさかこれ全部手作り……とか? すごい!

 驚いてしまって声が出なかったあたしの隣でヒッキーが言った。

 

「パーティって……何かのお祝いですか?」

 

 その声に材木座君がびくりと反応したけど、ヒッキーはそれを承知でわざと言ったのだということをあたしは知っていた。

 だから、何も気づかないそぶりのままで愛菜さんの言葉を待ったわけだけど、彼女はごく普通にあのことを口にした。

 

「はい……手前勝手なお話にはなってしまうのですけど、今度婚約することになりましてそのパーティーを開くことになりましたもので。知り合ってまだ間もない人も多いのに、急にこんなお話を持ってきて不愉快になられるかもしれませんけど、もし良ければいらしてくださいね」

 

 彼女はただ笑顔でそう言った。

 どんな顔をすれば良いのか……、このことを知っていたあたしとヒッキーからすればわざと驚いた風を装わなくてはならなかったけど、今はあの『彼との約束』があるからそれに背くような行為をとることはできない。

 むしろ、まったく理解できず、本当に驚いているのは、いろはちゃんと隼人くんと採ちゃん、それと材木座君なのだ。

 なぜ急に愛菜さんが現れたのか、なぜ招待状をもってきたのか……

 あたしとヒッキーはそのことを詳しくみんなには伝えてはいないのだから。

 ただ……

 愛菜さんは材木座君のことを以前から知っていたよ……

 と、その程度のことしか伝えてはいなかった。

 

 その後、彼女はとくに材木座君を見るでもなく微笑んだまま頭を下げて帰って行った。

 それを言葉もなく見つめる材木座君。

 ヒッキーを見ればあたしの方を見つめていて、それに頷いてみせてからあたしは自分の部屋へ。ヒッキーは材木座君のそばに寄って、その招待状を拡げて見せていた。

 あたしは一人になってからスマホを操作してある人に電話を掛ける。

 緊張しつつ通話口に現れたその年配の紳士に向かって、言葉を選びつつあたしは切り出した。

 

「あの……材木座君の友達の由比ヶ浜です。今愛菜さんからパーティの招待状を頂きまして……本当におめでとうございました。あの、当日は是非あたしたちも出席させていただきたいのですけど、出来ましたらもうひとり……あたしの『友人』も連れていきたいのですけれど……」

 

『左様でございますか。宜しいですとも、是非ともその御仁もお連れください。きっと楽しい会になりましょうからな、はっはっは』

 

 電話先の彼は本当に機嫌よく即決で了承してくれた。

 それにほっと安堵しつつ、スマホを閉まったあたしはみんなの元へ。

 何が何でも材木座君をそのパーティに出席させるために、ヒッキーと一緒に説得をしなければならないのだから。

 本心を隠していることに罪悪感を感じつつ、こういうのはやっぱり慣れないなと、胃が痛むのを少し感じていた。

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