『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
クリスマスも近づいた12月のとある日曜日の夕方。
あたしとヒッキー、いろはちゃんと隼人君、採ちゃん、そして材木座君の6人はフォーマルな衣装に身を包んで旭川駅に降り立った。
あたしの格好は、肩を出した紺色のイブニングドレスで、ママからフォーマル用にと貰った真珠のネックレスをつけてきた。ヒッキーと隼人くんは、まるでお揃いの黒のフォーマルスーツで、二人とも細身用のそのスーツが良く似合ってる。
いろはちゃんは薄い桃色の可愛らしいワンピースで、どちらかといえばアフタヌーンドレスになるのかな?
採ちゃんは髪をオールバックにしてのタキシード姿で、カッコいいんだけど、どちらかといえば宝塚的なカッコよさで本当に女の子みたい……材木座君はブラウンのダブルのスーツ姿で、珍しく髪を整えて七三わけにしていてかなり貫禄がでていた。かなり緊張しているみたいではあったけど。
ここからパーティ会場であるイベントホールまでは、タクシーで5分くらいとのことだったから、2台に分かれて行くことになるのだけど、とりあえずあたしとヒッキー、材木座君と採ちゃんの3人が先にタクシーに乗ることになって、それを見送るいろはちゃんが、隼人くんの腕に抱き着いたままぶんぶん手を振っていた。いろはちゃんちょっとはしゃぎすぎじゃない? 隼人くん苦笑いしてるよ。
そんなこんなで目的地のイベントホールへとつくと、その駐車場には黒塗りの大きな車がずらりと整然と並んでいた。その数数百台。
ハリウッド映画とかでこういう場面を見たことはあったけど、明らかに偉いと分かる人たちが、女性をエスコートしつつ車から降りてホールへと入っていく様は、なんというか現実離れしていて、周りに報道陣がいないのが不思議なくらい。
いれば、フラッシュの嵐だよねとかそんなことを思いながら、場違い感たっぷりのあたしたちも気おくれしながら、その偉そうな人たちの後についてホールへと入って行った。
「な、なんか思ってたパーティと全然違いましたね。わたしてっきり、ケーキとかお菓子とかでるホームパーティくらいなのを想像していましたよ」
そんなことを言っているいろはちゃんは、それでもしっかりと隼人くんの左腕に自分の腕を絡めていた。
それを見て、なんとなくあたしもヒッキーに寄り添って彼を見た。
すると、ヒッキーは視線を泳がせた後で、そっと左腕を持ち上げてそこに隙間を作った。
だから……
なんとなく気恥ずかしかったけど、あたしはそこに自分の右手を添えた。
頬が一気に上気していくのが分かって、それが恥ずかしくて思わず顔を伏せてしまった。
別に、手を触れるくらいどうってことないことなのに……もう、抱き合ったり、一緒に寝たりだってしているのだもの。それでも、この胸の高鳴り様に戸惑いを覚えつつも、それがすごく心地よいことにあたしは幸福感を味わっていた。
好きな人とこうやって一緒に居られる。それが何よりも嬉しくて……
好き合っている者同士は、この思いを持つべきだよ……と、あたしは背後で採ちゃんの手を取ろうかどうしようかあたふたしている材木座君を見ながら決意した。
× × ×
「これはこれは、ようこそおいでくださいました。愛菜もさぞ喜ぶことでしょう」
そうにこやかに応対してくれたのは、薄いブルーのタキシードに身を包んだ
「お招きいただいてありがとうございました。愛菜さんはどちらですか?」
そうヒッキーが尋ねるのに羽門さんは愉快そうに笑いながら言った。
「愛菜は本日の主役の様なものですからな、準備に時間がかかっておるのですよ。どれ、控室までご案内を……」
「い、いえ、それには及びません。もし先に行き会えたらお話したいと思っただけですので」
ヒッキーはそう言葉を濁しつつ、会釈をしてからあたしの手を引いてその場を辞した。
羽門さんも会釈を一つしてから、すぐに次のお客さんの対応へと移った。
あたしたちは足早にホールの端……お手洗いや休憩用のソファーのあるエリアへとまっすぐに向かった。そこにはドリンクを振る舞ってくれる従業員がいることをもう知っていたから。
「み、みんな! こ、ここで飲み物貰えるから、好きな物のんでね!!」
そう宣言した瞬間に、両手を腰に当ててあたしを見上げるようにして迫ってくるいろはちゃんの姿が視界に入った。それと、はぁと大きくため息をつくヒッキーの姿も。ひぇえん。
「結衣先輩!! なんか隠していませんか?」
「か、隠して……な、ないよ、ね、ヒッキー?」
そう首をぐりんと動かしてみれば、ヒッキーはやっぱりあきれ顔。
そして彼は言った。
「隠してねえよ。結衣はただあれだ……便所に行きたくなっただけだ」
「便所!? そ、そだね、そだよ、お、お手洗いに……だからごめんねいろはちゃん!!」
言ってそのままダッシュであたしはトイレの方に……じゃなくて、途中の植え込みの陰に隠れた。
息を落ち着かせようとして胸に手をあてていると、そこにスーツ姿のヒッキーが。
「お前な……いくらなんでもあのごまかし方はねえだろ。なんとでも言ってさっさと離れれば良かったんだよ」
「だ、だって……あたし嘘つくの苦手だもん」
「まあ知ってるけどよ。嘘付けなくてモヤモヤしていることくらい、ま、気にするな」
「うん……ありがと……じゃなくて! なんでさっき便所なんて言ったし!! あ、あたしあれじゃずっと我慢してたみたいじゃん」
「うるせえな。お前が急に俺に振ってきたんだろ? ああいうときの返しは便所とか用を足すってのが一番自然なんだよ」
「お、女の子には自然じゃありませんっ!! 恥ずかしくて死んじゃいそうだよもう!!」
ヒッキーはやれやれとばかりに頭を掻いているのだけど、あたしはもうそれどころじゃなかった。でも、ここで怒っていても仕方ないし、もうそろそろ『約束』の時間だということも分かっていたから、あたしはグッと怒りを飲み込んだ。
覚えておいてよね!! 帰ったら絶対とっちめてやるんだから!!
「君たち……」
「あ、はい」
キイっと近くの扉が開いたので、あたしたちはそっちを見た。
当然今周りには誰もいないのだけど、それをもう一度確認してからあたしたちはその声の主の元へと歩み寄った。
そこに居たのは背の高い金髪に近い茶髪の青年。
黒の燕尾服姿の彼は、少しせき込んでからあたしたちを手招いてその扉の奥へと進んだ。やっぱり体調はすぐれないのかな?
そこは従業員通路を思わせる廊下で、給仕服やコック服姿の人とすれ違うこともあったわけだけど、道々彼らはあたしたちにお辞儀してすれ違う。
これだけ人がいるから、ここで話をするわけにはいかないということなのかな?
彼は何もしゃべらないままに先へと進んむ。
あたしたちは先を行く彼を追いかけるようにして歩むと、彼は『樺太家第2控室』と書かれた扉の前に立って、そこに鍵を差し込んで中へと入って行った。
あたしとヒッキーも、その扉の前に立った。
カギは開いていた。
周りを確認してみれば、従業員の人たちの姿もない。だからそのまま扉を開いて中へと身体を滑り込ませた。
部屋の中は暗かった。
部屋の中には、少なくとも一人はいるはずで、だからその人物がどこにいるのか探ろうと首を回したわけだけど、まだ暗がりに慣れていないせいで見つけることが出来ないでいた。
背後の戸のカギがかちりとかかる音を聞くのと、時を同じくして彼の声が響いた。
「よく来てくれた。君たちは私『達』の同士だ」
そう言われた直後、部屋の明かりがパッとつく。
その明るさの中、あたしとヒッキーは正面に置かれた椅子と、それに腰を掛ける人物に目を奪われた。
そんなあたしたちに背後の人物……愛菜さんの実兄、樺太
「さあ、粘膜が作る幻想にしかすぎん愛を、本物に昇華してやろうではないか!! 」
「え?」「へ?」「はい?」
あまりにあまりなその発言に、あたしたちその場の3人の時間が凍り付いた。