『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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材木座君の恋愛成就大作戦⑨

「結衣せんぱーい、遅いですよぅ。どこ行ってたんですか、もう始まっちゃいますよ」

 

「ごめんねー、道に迷っちゃって」

 

 先ほどの休憩所まで戻ると、そこにはいろはちゃん達と、たくさんの貫禄のある人たちの姿。中にはテレビでよく見かける綺麗な女性もいて、本当に華やかな雰囲気になってきていた。

 それを見ているといろはちゃんが寄ってきてぽそり。

 

「な、なんか場違い感が半端ないですよねー。高校の時にプロムは主催して経験しましたけど、あれとは比べものにならないです。めちゃくちゃ緊張してきましたよ」

 

 そういえば、いろはちゃんは生徒会長の時に高校でプロムを開催したって話は聞いていた。

 随分周囲の反対があったみたいだけど、あれもヒッキーやゆきのんが解決したって……

 そう考えて、ここいない彼女のことが凄く懐かしく思えた。

 

 ゆきのん、今なにしているのかな……会いたいな……

 

 きっとすごく綺麗で可愛いのだろう、彼女のドレス姿を夢想して思わず微笑んでいた。

 そんなあたしにいろはちゃんだ。

 

「あ、先輩はどこなんですか? さっき結衣先輩を追いかけていきましたけど」

 

 そう聞かれ、どきりと心臓が撥ねた。

 ええと、どういえばいいのかな……ひぇーん、あたし本当にこういうの苦手だよぉ。

 

「あ、あ、えと、ヒッキーは愛菜さんたちの……手伝い……、そう手伝いをしに行ってるんだよ。そう!!」

 

 まったく嘘ではないことを言った。ただ、手伝っているのは愛菜さんではなくて、お兄さんの方なんだけどね。それと内容も褒められたようなものでもないし。

 やっぱりジトっとした目をむけてくるいろはちゃん。

 あたしはふいっと視線を逸らした。

 

「なんかあやしいですねぇ。隠れてこそこそ何をしてるんですか? まさかさっき二人でいなくなって若い欲望の発散とかしちゃってたんですかぁ!! 家だけじゃ飽き足らず、こんなところでまで!!」

 

「し、してないよ!! っていうか家でだってたまにだし!! あ」

 

 言った直後、いろはちゃんだけじゃなくて、彩ちゃんも材木座君も隼人君も赤面して顔をそむけたし。

 ひーん、こんなの恥ずかしすぎる。助けてヒッキー。

 

「では、ご来場の皆様大変お待たせいたしました。ただいまより開場させていただきます」

 

 ホールのスタッフの人と思しき人がそう大きな声で畏まって宣言したことで、あたしへの追及は完全に逸れた。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 赤い絨毯の敷かれた廊下を通ってその会場へと入ると、そこは本当に広い空間で中央が大きなホールになっていて、その周囲に大きなテーブルがいくつも並べられていて、美味しそうな料理が所狭しと並んでいた。

 会場の奥の方には20名ほどの楽器を手にした人たちの姿。落ちつたBGMの生演奏を始めている。 

 正面には豪華に相即された大きなステンドグラスの飾り窓があって、その上にはバルコニーのようなテラスと、そこから弧を描いて下まで伸びる赤絨毯の階段が。

 見ただけで圧倒されてしまう感じだったけど、あたしたちはゲスト。

 緊張していても始まらないと、そのままなるべく迷惑にならなさそうな壁際へと移動して、ホッと一息ついた。

 来賓だろうと思うえる人たちが次々に入場してくる中、きょろきょろと見回してみれば愛菜さんのお兄さん、儀二亜須(ぎにあす)さんがそのような人たちと握手をしながら談笑していた。

 

 あたしはなんとはなしに材木座君を見た。

 彼は消沈してしまった様子で全く元気はない。でも、視線を右へ左へと忙しなく動かしていて、きっと愛菜さんを探しているのだろうと察することができた。

 その様子にあたしの胸は締め付けられる。

 もし……

 あたしやヒッキーが想っていることとは違う行動を彼がとってしまえば……

 きっと、もうこれで完全に終わってしまうのだ。

 いや、材木座君の中ではもうとっくに終わってしまっていることなのかもしれない。

 愛菜さんが羽門さんたち、家を大事に思っている人たちのために、定められた男の人と婚姻することになる。そのことを彼は、もうほぼ受け入れてしまってここにいるに違いない。

 

 それでも……

 

 やっぱりそんなの、悲しいよ……

 

 あたしはそっと材木座君へと近づいた。

 彼は一瞬びくりと身体を振るわせて仰け反って顔を真逆の方向に曲げた。

 この反応、変わらないよね。ヒッキーが言う通り、彼は本当に女性が苦手なんだもの。

 それでもあたしは声をかけた。

 そうする必要があるのだから。

 

「あのね材木座君。ちょっといい?」

 

「は、はぽぉん? な、何用であるか由比ヶ浜女史。わ、我はとくに用はないのだがっ?」

 

 視線も合わせずそう宣言する彼にあたしは言った。

 

「後で愛菜さんが困っていたら、助けに行ってあげて欲しいの。えと……さ、さっきちらっと愛菜さんをみかけたんだけど、すごく緊張していたみたいで」

 

 わぁ、また嘘ついちゃった。

 あたしが会ったのは愛菜さんじゃなくて別の人なんだけど……うう……ヒッキーあたしやっぱりこういうの苦手だよぉ。

 材木座君は少しだけあたしに視線を向けて目を細めた。めちゃくちゃ警戒してるし。

 

「そ、それはいらぬ心配ということではなかろうか? 愛菜嬢はふぃ、ふぃ、ふぃふぃふぃフィアンセもお、おるのだろうし、これだけのパーティを開くことが出来るほどであろう? わ、我等必要なかろうに……我など……」

 

 尻つぼみにだんだん声が小さくなる材木座君にあたしは言った。

 

「あ。えーとね。多分、きっと……愛菜さんめちゃくちゃ困ることになるだろうって、ヒッキーがね」

 

「八幡がそう申したのであるか?」

 

「あっ!! え、えと……じゃなくて、ヒッキーもなんだけど、愛菜さんの家の人がね……えーとえーと」

 

 もうなんて言っていいのかわかんないよぅ!!

 しどろもどろになってしまってもう頭を抱えるしかなくて、あたしは材木座君に詰め寄って言い切った。

 

「と、とにかく!! 愛菜さんが困ってたら助けに行ってあげるの!! いい!? 分かった!!」

 

「は、はひぃっ!!」

 

 仰け反って逃げる材木座君にそう言い切ってあたしも顔をそむける。

 なんというかこれで大丈夫だとは思えないのだけど、言う事は言ったからひとまずはオーケーということにしよう。

 うう……本当にこんなんで大丈夫なのかなぁ。

 そう思いつつ、この後ヒッキーがきっと挽回してくれると信じてあたしは周囲を見回した。

 いつの間にか来場者の話声が小さくなってきていることに気が付くととも、先ほどまで穏やかなメロディーを奏でていたバンドのメロディーは、どこか厳かな雰囲気の漂う曲へと変更されていた。

 それを聞きつつ、舞台袖を見やれば、そこにはブルーのスーツの羽門さんの姿……

 彼はマイク台の前に立つとそれに向かって話し始めた。

 

「ご来場の皆様、大変長らくお待たせいたしました。ただいまより、樺太家主催にて、樺太家長女樺太愛菜様と、毛良家御子息、毛良勇利様のご婚約の儀を執り行わせていただきます。お二人の入場でございます。どうぞ皆さま、拍手でお迎えください」

 

 そう宣言した直後、会場全体から拍手が沸き起こった。

 みんな笑顔で拍手をしているのだけど、これ本当に愛菜さんやそのフィアンセの方の知り合いなのかな? こんなに大勢の人に祝福されるような身分の人なんだなと、今更ながらに驚いてしまった。

 

「なあ、今の羽門氏の言い方だと、まるで愛菜さんの側が偉いみたいな感じじゃないか?」

 

 そう隼人君があたしに言ってきたので、すぐに返した。

 

「うん、そうみたい。羽門さんの話だと、今回は婿入りの婚約みたいだよ。と言っても、確かどこかに屋敷を構えて、樺太家の分家のような形にするとかって」

「へ、へぇ。偉い人達も大変なんだな」

 

「そうだね」

 

 あたしが羽門さんから聞かされたのはこの程度のこと。でも、これを更に補足して説明してくれたのは、あの愛菜さんのお兄さんだったのだけどね。

 満場で拍手が響く中、中央上方のテラスの様になっている場所に、3人の陰が現れた。

 それは愛菜さんと、となりにいるのが多分フィアンセの勇利さんという人だろう。

 とっても体格の良い人で、白のタキシード姿だけど、なぜかその袖の部分をめくりあげてしまっている。

 こんな状況なのに、腕まくりしてるとか、この人なんなんだろう。空気を読めないだけか、それとも度胸が良いということなのか。

 愛菜さんはずっと俯いたまま。表情はすぐれない感じのままだった。

 そして中央に立つお兄さん、儀二亜須(ぎにあす)さんは、すこぶる機嫌が良いと言った感じで、バルコニーから来場者へと手を振っていた。

 凄くイケメンなんだけどね、見た目だけは。

 彼の内面をすでに知ってしまっているだけに、いまいち微妙な気分だったけど、会場にいる若い女の子達、多分来賓の人たちの娘さん達なのかな? は、お兄さんを見て黄色い歓声を上げていた。

 うーん。

 

 歯を見せつつ、手を振りながら二人を先導して階段を降りてきたお兄さん。

 彼はマイク台の前に立つ羽門さんの前まで行くと、そっと手を差し出して彼と握手を交わそうとしていた。

 それを見た羽門さんは、目に涙を湛えて感極まったとでもいった感じで両手でお兄さんの手を握りしめた。

 樺太家という家のためにずっと頑張ってきた羽門さんにしてみれば、これで漸く肩の荷が一つ下ろせた……そういうことなのかもしれない。

 それを思って……

 あたしはまた胸が苦しくなった。

 申し訳なくて。

 

「あーでは、ご来場の皆様……まずは現当主である私からご挨拶をさせていただきましょう」

 

 そう羽門さんに代わって立ったお兄さんが、マイクに向かってそう語り掛けた。

 会場はシーンと静まっていて、壇上に並ぶ二人についての話が始まるのだろうと、みんなは予想しているのだろうなと、そう思っていた。

 そんな中、目の前の扉がきぃっとひらくと、そこから目つきの悪い男性と、彼がエスコートする金髪を結い上げた綺麗な女性の二人が現れた。そして、そのまま何でもないことのように儀二亜須さんの脇に並んだ。

 それを壇上の二人も見て驚いていたのだけど、特に驚いたのは、勇利さんの方だった。

 

「えー……」

 

 二人を迎えてからお兄さんが口を開いた。

 

「今回の子の婚約パーティは、これでお開きだ!!」

 

 当然だけど、全員絶句した。うう……胃がいたいよぅ。

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