『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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材木座君の恋愛成就大作戦⑫

「ふん。くだらん三文芝居だ。おい、小島(コジマ)会長、帰るぞ、時間の無駄だ。樺太家などもはや過去の遺物だ。相手するまでもない」

 

「むぅ、伊佐(イサ)CEO。先にお帰りください。私はもう暫く残ることにします」

 

「時間の無駄だと言っておろうに。コジマ商会は随分とヒマなようだな」

 

「何、うちは御社と違ってただの下請けですからな。どんな小さな仕事も拾うことにしているだけですよ。いずれまたあなたのビッグトレーコーポレーションの仕事も受注したいものですな」

 

「そのころまで貴社が残っておれば……な。まあ、せいぜい頑張ることだな」

 

 そんな会話が聞こえて、振り向いてみれば、背の高いどこかの会社のトップと思える男性が部下を引き連れて帰っていくところ。

 話し相手だった眼鏡を掛けた小柄なおじさんの方は、心底嫌そうな顔をして、帰る男性のことを見ていた。

 会場はそれだけではなかった。

 次から次へと帰っていくゲストたち。

 瞬く間に、その数は減って、今や最初の頃に比べて3分の1以下になってしまっていた。

 

 これほんとどうするの?

 

 いくら材木座君や愛菜さんのためと言ったって、ホストであるお兄さんは、こともあろうにこんな重要なセレモニーを滅茶苦茶にした挙句、来場者を裏切るような発言を繰り返したわけで……

 普通に考えても、謝って済む話でもないでしょってことだよね。

 これ、この後無碍にされた皆さんからはかなり冷たい対応をされることにもなるだろうし、せっかく材木座君と愛菜さんが結ばれたからって、これではこの先ずっと針の筵だよ。

 

「マジでどうすんだかな……」

 

「うん……心配だよ」

 

 あたしに並んだヒッキーも、周囲の様子を見つつ冷や汗を垂らしているし。

 当然の反応なんだけど。

 そして、帰る人も終わり、辺りが静けさに包まれ始めたときのことだった。

 

「ちょっとちょっと比企谷君! 由比ヶ浜ちゃん!! ど、どうなってるの、これは!!」

 

「あ、橋本さん、ういーす」

 

 息を切らせて駆け寄ってきたのは、真っ赤なタイトなドレス姿でハンドバッグを手にした、焦った様子の綺麗な人……ヒッキーの上司の橋本さんだった。

 

「あ、あれ? なんで橋本さんがいるんですか?」

 

「あのねえ、それを聞きたいのはこっちなの! どうしてあなたたちがこのセレモニーにいるのよ! って、なに? あの妹さんとお知り合いってこと?」

 

 そう顔を近づけたまま言い募る橋本さんに、あたしたちも何て言っていいのやらで、とりあえずヒッキーと並んでうなずいた。

 それを目を細めてみてくる橋本さんは何やらあたしたちを疑っているみたいだけど……

 

「いったいどうやって知り合ったの? 彼女今まで樺太財閥の関連の仕事には一切顔を出していなかったのよ? それなのに……」

 

「いや、あのですね橋本さん。今回のことは本当にプライベートで仕事とか一切関係ないんですよ。俺たちの仲間が彼女と仲良くしていたってだけで……」

 

「だったらなおさらなんで私にそのことを報告しないわけ!? 私がいったいどれだけ苦労して今回のパーティの参加していると思っているの!? ほんとうにもうっ!!」

 

「あ、す、すんません」

 

 ぷんすか腕を組んで怒っている橋本さんだけど、いろいろ話を聞いてみれば、仕事の受注の関係で樺太財閥絡みの人たちとのパイプをつなごうと、今回かなり無理をして招待券をゲットしたということの様子。

 この人、本当にバイタリティ凄い。女性一人で北海道全域の仕事の受注受け持ってるだけのことはあるってことなんだね。

 感心して見ていたそこで、ヒッキーがぽそり。

 

「もう一人くらいチケットもらえたかもなんですけどね……あ」

 

「ひ、ヒッキー!!」

 

 慌てて口を塞いだヒッキーだったけど、目の前の橋本さんはもう目が笑っていなかった。

 そして、こぶしを握りこみながら一言。

 

「お、覚えていなさいよ……今度のボーナスの査定、すぐに本社に連絡しちゃうんだから」

 

 ひえぇえ……とても恐ろしいことを口走る橋本さんだったけど、ヒッキーは割と動じずに答えた。

 

「でしたら、お礼に愛菜さんのお兄さん紹介しますよ。彼に割と貸しを作った感じなんで、きっとゆっくり話ができますよ」

 

「本当に君は仕事できる子なんだからぁ!! あ、ボーナス期待しててね、きゃはっ!!」

 

 もう……

 変わり身速すぎですよ、橋本さん。

 ま、まあ、愛菜さんのお兄さん、カッコいいですものね。()()()だけは……あはは。

 喜びに身を捩る橋本さんはとりあえず放置して、あたしは今回の主役たる愛菜さんと材木座君、それと愛菜さんのお兄さんへと視線を向けてみた。 

 彼は機嫌良さそうにしながら、どんどん帰っていくゲストたちを眺めていた。

 

 そんなお兄さんに、シンシアさんを腕に抱いた勇利さんが声をかけた。

 

「おい、ギニアス。どうする気なんだ? お前まさか、本気で樺太家を潰そうとか考えてるんじゃねえだろうな?」

 

 お兄さんはそれに涼しい顔で答えた。

 

「ふっ……そう慌てるなよ勇利。たしかに私は樺太家なんてどうでもよいと思っているのだが、別段無理して潰そうなどとは思っていない。寧ろ、私の思い通りになるというなら是非とも存続させたいと思っているのだよ」

 

「おまえな……これだけのことをやらかしておいて、存続も何もないだろうが」

 

 少し怒気を荒くした勇利さんに、お兄さんは口元を緩ませた。

 そして、もう一度入り口の方へと目を向けると、近くにいる会場スタッフへと視線を向けた。

 

「そろそろだな……君、済まないが、入り口の戸を閉めてくれるかな」

 

「あ、はい。承りました」

 

 給仕服姿のその男性は一礼してから会場の戸まで歩いていって、そのままその戸を閉めた。

 それを確認したお兄さんは、手近なマイクに手を伸ばし、そのスイッチを入れる。

 一瞬、きぃんとハウリングが響くも、それが収まるのをまってから語り始めた。

 

「お集まりいただいたみなさん。ここまでの余興は楽しんでいただけたかな?」

 

「はあ!? 余興だと!?」

 

 勇利さんが大声でそう怒鳴るのを、お兄さんは手で制してつづけた。

 

「当然余興だとも。わざわざこれだけの人たちを集めておいて、これでおしまいでは本当に失礼ではないか。ははは」

 

 そう笑っているのだけど、もう十分失礼すぎるよね。多分、この会場の人全員がそう思っている感じ。

 そんな中で、彼は手元のパソコンを操作して、正面のスクリーンへとあるイラストを投影した。

 突然現れたその絵は、平たい地面に天を目指すように突き立つ円錐形の構造物外観図。

 周りに山や川の絵があることから、相当に大きなものであることは分かるのだけど、いったいこれがなんなのか、あたしにはわからなかった。

 けど、隣でヒッキーがぽそりと言った。

 

「これは……『ソーラータワー』か?」

 

「ソーラー……タワー?」

 

 そう聞き返すと、ヒッキーはあたしの方を見て説明してくれた。

 

「ああ……正式には、ソーラー・アップドラフト・タワーだな。あの下部の透明なパネル状になった部位の空気を太陽光で熱して温度を上げ、その空気をあの煙突状のタワーに集めて、上昇気流によって一気に上空へと打ち上げる……その空気の通り道に風車を設置して発電するいわば、太陽光風力発電だな」

 

「風力? 太陽光じゃないの?」

 

「ああ、上昇気流で発電タービンを回すからな」

 

 そう言ったヒッキーの隣で、今度は橋本さん。

 

「うちの会社も、以前ソーラータワーの建造プランを立てたことがあったんだけど、政府主導で進めるにあたって各社の見積もり金額が大きすぎて、棚上げになっていたんだよね。でも……それにしたってこのイラストのタワー……私の知っているタワーと随分違うみたいなんだけど……」

 

 橋本さんがそう呟いた直後、お兄さんはまっすぐに橋本さんを見てにこりと微笑んだ。それからあたしたちの方にむかって拍手をする。

 

「え!? え!?」

 

 真っ赤になってドギマギしている橋本さんを他所に、お兄さんは話始めた。

 

「そう、その通り! これは従来型のタワーとは全くの別物だ。全高350mとサイズではサウジのものよりも小振りではあるが、このタワーの要は『ソーラーミラーシステムの導入』と、『ハイメガ加速器の設置』、それと最新の『ミノフスキー発電機』を三基設置したことにある。そのうえ小型化したことで大幅なコストダウンも成功している。今、詳細な説明は省くが、これにより、従来の同サイズ帯のソーラー・アップドラフト型に比して、2000%を超える発電量を確保することに成功した。これは、原子力発電所が有する原発2基に相当する発電量であって、これが増産の暁には国内……いや、世界のエネルギー事情が激変することは言うまでもないだろう。この発電事業を我が樺太家が先行出資して行くものとする。さあ、ここに残られた皆さんはどうされますかな。賛同頂けるのでしたら、それが生み出す利権の数々をまずはこの場の皆さんにご提供しましょう。ふふ」

 

 そう言って見回すお兄さんに、会場の人たちは言葉もない。

 あまりにも唐突に始まった事業の話にみんなついていけてない感じ。

 でも、そんな中で一人だけ手を挙げる人がいた。

 

「質問宜しいかな、樺太殿。私はコジマ商会の小島と申すものだが、今の話……、机上の空論ではただの時間の無駄でしかない。まさか貴殿はただの暇つぶしのつもりではあるまいな」

 

 それにお兄さんは微笑んで返した。

 

「無論……現実性はありますとも。すでに試作型の新型ソーラータワーは完成しているのです。これよりは幾分か小型ではありますが、石狩の私の私有地内ですでに稼働状態ですよ。理論値以上の発電効果を生んでいると申しておきましょう。便宜上、私はそのテストタワーを『アプサラス2』と呼称しておりますがね。当然、ご賛同いただける皆様は後日ご案内させていただきますよ。しかる後に正式機、『アプサラス3』の建造に入ることにしましょう。世界は新たな一歩を刻むのですよ。ふふふ。さあ、私の夢を受け取る気はありませんか?」

 

 高らかにそう宣言するお兄さんに、その場で反対する声は出なかった。 

 先ほど発言した小島さんというおじさんを先頭に、その場に残った人たちが、お兄さんに、協力の意を示した。

 その様子を……

 愛菜さん、材木座君、それに勇利さんたちやあたしたちは、ただ茫然と見ることしかできなかった。

 

 帰っちゃった人達……

 

 なんか可哀そうだな……

 

 愛菜さんのお兄さんやっぱり、癖強いよ。

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