『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
一応、きちんと並べなおしましたので、これで問題ない……はず?
大変失礼いたしました。
「愛菜の想い人と出会う、面白い催しであった。材木座殿……私が一番に願っているのはこの子の幸せなのです。どうか……どうか愛菜をお願いいたします」
「はぷっ!?」「
あの会が終わった後、羽門さんがあたし達のところにやってきて頭を下げた。
それに涙ぐむ愛菜さんと、緊張のあまり声もなく固まってしまう材木座君。彼はなんとかコクコクと頷くと、それを見た羽門さんが二ッと口角を上げたようだった。
それから愛菜さんがぎゅうっと抱き着いて何かを耳打ちしながら二人でどこかへと消えた。
ここで何か声を掛けるのも野暮だよねとヒッキーたちと話していたし、見て見ぬふりをしたわけだけど、お幸せにね、材木座君、愛菜さん。
会場は、サプライズの続出で混とんとした様相を呈していて、でも、愛菜さんのお兄さんが提案した内容に賛同した人々の熱気によってかなり温度が上がっている感じ。
お兄さんはエネルギー事業の自由化を見越して、この新型発電システムの開発をしていた様子だけど、愛菜さんの話では、お兄さんはロボットのプラモデルに夢中で、実はこの類の話はあくまでついで……ビルド……ビルドなんとかっていうプラモデルを使って遊ぶゲームに夢中で、『私のロンメル隊がー』とか言いつつ、毎日ゲームをしているそう。
病気のわりにアクティブだよね、お兄さん。
それにしてもついででこんな事業を始めてしまえるって、本当に天才なんだね。うん。
今回一番割を食ってしまったであろう、愛菜さんの婚約者の勇利さんは、なんだかんだ言いながらもお兄さんの提案に一番に賛同。周囲にいた企業や政治家の人々を巻き込んで、かなり本格的に発電所建設を推し進めることにしたみたい。
原子力発電の批判が出ている中、それに匹敵する電力供給可能なエコ発電施設は今後かなりの需要が見込めるとのこと。まずは石狩の設備からの売電を始めて―—と、かなり具体的な話も出てきて、その話を勇利さんが取りまとめることにしたみたい。勇利さんの隣のシンシアさんも幸せそうだったし、本当に良かった。
今回の愛菜さんのお兄さんの奇行は、協力関係を築ける相手かどうかを見極めるために行ったのだと、今ならはっきり分かる。
お金持ちとはいっても、まだ若いお兄さんと愛菜さんだもの、年配の人たちから軽くみられて当たり前。
今回は特に、前例のない新規の事業ともなるわけで、そんな頭の固い偉い人達に足を引っ張られたくなかったということかもしれない。
いずれにしても彼は今回多くの味方を手に入れることになったということだよね。
それでそのお兄さんなんだけど……
「橋本女史……あなたの博識さには驚かされますな。お美しさもさることながら」
「ほんと、お上手ですわ、ギニアス様……おほほ。つきましては建設も是非我が雪ノ下建設へ」
橋本さんとめちゃくちゃ仲良さそうに会話していた。
なんとなくいい雰囲気なんだよね、あの二人。
というか、橋本さん、思いっきり密着しながら、めちゃくちゃ営業してるし。根が仕事人間なのかもだね、あの人。
それを見ていたヒッキーはぽりぽりと頭を掻いていた。
それであたしを見てから言った。
「んじゃ、帰るか」
「うん!!」
彼が伸ばした手をあたしは取った。
そしてその手を包み込むように抱きかかえて、あたしは並んだ。
その後を、にこにこした隼人くんと彩ちゃんが続いて、いろはちゃんだけはむすっとしたままだった。
「むぅ……今回、私だけ全然出会いなかったんですけど!! どう思います!!」
「あ、あはは……」
はい、何も言えませんでした。がんばれいろはちゃん。きっと良いこともあるから!!
× × ×
それから数日後のこと……
「で、ではこれからあ、愛菜たんとし、市役所に行ってくるでござる!!」
「おう、いってらっしゃい。んでもう二度と来るなよな」
「はぽんっ!! 酷いっ! 八幡酷い!! 我いなくてもいいの? いいの?」
あはは……
相変わらずだけど材木座君やっぱりヒッキーの事大好きだよね。
「ほらほら四郎……じゃなかった、義輝さん。やることは多いのですから早く行きましょう。それではみなさん、どうもお邪魔しました」
「愛菜さん! がんばってね」
「はい。結衣さん」
にこりと微笑んだ彼女が材木座君の手を引いて出かけていった。
なんだかんだ材木座君、にやけすぎだったよ。
そんなやりとりのあとでヒッキーがどっかとソファーに座った。
あたしは台所でコーヒーを淹れてそれを彼の元へと運んだ。
香りのあるエスプレッソに、入れるのはミルクと練乳。これで彼の大好きなあのコーヒーのイメージに近づく。
あたしとしてはこっちの方がおいしいとおもうんだけどね。
「ヒッキー、はい、コーヒー」
「おぅ、サンキューな」
彼はそれを受け取ると少し香りを楽しんだあと、ちびりと舐めるように飲んでニコりと微笑んだ。ふふ、猫舌さんめ。
「それにしてもさ、材木座君もすごいよね。まさかこの数日で愛菜さんとあそこまで話をすすめちゃうなんて」
「あーそれはあれだ。もともと愛菜さんの方がノリノリだったってだけのことだ。材木座というよりは愛菜さんが結構強引に決めちまったみたいだし。ま、材木座にしてみれば良かったんじゃねえの」
「ふーん。それでも凄いよ。だっていきなり『入籍』なんてさ」
そう入籍。
彼らはなんと結婚してしまったの。
正式にはまだなのかな? 今日市役所に婚姻届けを出しに行ってそれを受理されて晴れて夫婦ってことになるみたいだし。
結婚って、あたしはもっと難しい手続きがあったり、お金がかかったりとかするものだと思ってた。
でも、実際は紙を一枚役所に提出するだけ。それだけで法律的に二人は夫婦になってこれからの人生を歩んでいくことになるという。何か不思議。
「結婚式はどうするのかな? ヒッキー何か聞いてる?」
「ん? ああ。対外的にはこの前の婚約パーティがおしゃかになった関係でいろいろ周囲がざわついているみたいだからな。そもそも、あれ婚約パーティですらなかったからな……あの事業から省かれた企業の人たちにしてみれば、苦い思い出でしかないだろう。だから、結婚式みたいなセレモニーはしばらくはできないだろうと言っていたな。ま、もともと二人ともそんなに結婚式には固執していない感じだったけどな」
「ふーん。そっか……結婚式しないんだ。あたしはしたいけどね」
と、そうわざとにこりとしてみせてからヒッキーを見る。
彼は額にじっとりと汗をにじませたままであたしを見ていた。そして口を開いた。
「ま、まあ……そのうち……な」
「うん……そのうち……ね」
あたしたちも結婚の約束は確かにしてるけど、でもそれから先のことは決まっていない。それが少しもどかしかったけど、ヒッキーにはヒッキーの考えがあるわけで、だからそれを無理に進めたいとはあたしには思えなかった。
でもいつかきっと、あたし達にもその日が来る……
今はそれを楽しみにしようとあたしは決めていた。
だって、今一緒にいれることが何よりうれしい事なんだから。
「そういえばさ、材木座君達って結婚したらどこに住むって? 材木座君の今の家の釧路? それとも愛菜さんの仕事場の湧別にするのかな?」
そう聞いた直後、彼の動きが止まった。
そして上を見上げてただ大きく息を吐いた。
え? 何?
「結衣……あいつらな……このマンションの最上階に家を買ったらしいよ」
「え、ええー!?」
こうしてあたしたちの友達、材木座君は伴侶を得た。
小説家になって、その小説がアニメ化することになって、さらに結婚までしちゃって……
なんというか、今の彼って全部上手くいってる感じだよね。
思い出してみれば、確か彼の小説を最初から応援していたのは愛菜さんだったはず……それに出会い系サイトでも材木座君を独占していたのは愛菜さんで、彼は浮気もしていなかった感じだし。
そう考えれば、彼の人生の要所要所は全部愛菜さんの助けがあったわけで、こうして家を買って結婚までして……
「愛菜さん……すご」
「だな」
あたしは心底バイタリティ溢れる彼女を尊敬した。
それからソファーに腰を下ろして、コーヒーを啜る彼へと身を寄せた。
この穏やかな時間がなによりも愛おしくて幸せで……
こんな時間がいつまでも続けばいいなって思えた。
でもいつか……
結婚式してね、ヒッキー。
第二章 材木座君の恋愛成就大作戦 Fin