『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
テレレレレ、ッテッテッテー………………
テレレレレ、ッテッテッテー………………
テレレレレ、ッテッテッテー………………
テレレレレ、ッテッテッテー………………
テレレレレ、ッテッテッテー………………
…………………
「ひ、ヒッキー……た、助けて―――」
「こ、これは、き、きつすぎる…わ……」
俺の背後で、俺の背中に体を寄せて蹲る由比ヶ浜と雪ノ下。二人は両耳を手で押さえて苦しそうに呻く。正直俺も、さっきから脳内に響き続けるこの音に、意識を持って行かれそうになっている。でも……
苦しい反面、ニヤニヤが止まらない……
まさか、こんなに上手くことが運ぶなんて……
俺はグラつく意識を必死に抑えながら、視線を正面に向けた。目の前には2階建ての家屋程はあろうかという白い骨の怪物が何体も聳えている。そいつらはその虚空の巨大な口を大きく開きつつ、ある一点に向けて咆哮を上げ続ける。その数体の怪物の視線の先。俺達の少し前には、朱色の布の服を纏い、黒い髪を逆立てた一人の屈強な男が、右手に禍々しいオーラを放つ両刃の斧……もはやそれは人が扱う域を超えた戦斧、つまり『魔人の斧』を天高く振り上げているところだった。
次の瞬間、その男は、突然その斧を吠える怪物の一体に向けて投げつける。魔人の斧はその怪物を粉砕して尚勢いが弱まらずに、はるか彼方へと飛び去って行く。男はそんなことはどうでも良いとでもいうように、残りの数体に向かって素手で殴り掛かった。
俺達は、頭に響く、このドラクエというゲームで最も聞きたい効果音のエコーに苦しみながらも、その男の足元に産み出されつづける、数十体の骨の怪物の残骸や、まるで水銀の池と化したあの究極生物の死骸などを、ただ、呆然と眺め続けることしか出来なかった。
暫くして、辺りに静寂が訪れる……
俺達の脳内になり続けていたあの音も、今はもう聞こえなくなっていた。3人で顔を見合わせた後、俺達は立ち上がって、今目の前のこのモンスター墓場を作り上げた張本人に目を向けた。
男は俺達にむかってゆっくりと歩いて近づいてきた。そして一言……
「だいじょうぶだったか?はちまん。オラ、心配したぞー」
その言葉を聞きながらも、俺達は恐怖で一気にすくんでしまった。頭を掻きながら、俺に向かってそう言ったその男のすぐ後ろ……さっき男が作り上げた白骨の屍の山が急に盛り上がったからだ。そこには完全に形を失った巨大な骨の怪物が立ち上がっていた。
「あ……」
呆然として何も喋れないでいる俺達の顔を見た男は、そのまま腰を落としてゆっくりと上体を横に回した。そして両掌を開いたままそこに力を籠めるように、ゆっくりと言葉を吐きだした。
「メーーーーーーーーーーラーーーーーーーーーーーゾーーーーーーーーーーーオーーーーーーーーーーー…………」
腰を落としたまま合わせているその男の両手の平がまばゆく青白い光を放ち始める。それはまるで周囲の空気中のエネルギーがその一点に集まっているとでも言うように、その光はどんどん輝きを増した。そして……
「マーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
男は体を捻ると同時に、その両掌を怪物に向けて突き出した。巨大な青い光が、一直線に怪物に向かう……って、おい、これメラゾーマじゃねえだろ!?
光に飲まれた骨の怪物は跡形もなく消滅した。
男は再びくるりと俺達を振り返る。そして言った。
「うしっ!今度こそ終わったな!んじゃ飯食いに行くかー。オラ腹減っちまった~。心配すんな、金はとーちゃんが払ってやっからな」
そう言って俺の肩をポンと叩く。
「あ、ああ、とーちゃん……」
俺はとりあえずそれだけ言って、後ろの二人を振り返る。そこには苦笑いを浮かべた僧侶と魔法使いが立っていた。
なんでこうなったのか……
話は少し前にさかのぼる……
◇
ルイーダの酒場を出た俺達は、その足で街の反対側にある、唯一の飲料水源である井戸に向かった。この街は日本の街に比べれば人口はかなり少ないとはいえ、城を中心とした城下町。集団で生活する以上、生活用水は非常に重要であるだろう。だが、当然上水道などが整備されている訳ではないので、必然的に街の住民はこの井戸に水を汲みに来ることになるわけだ。
これだけでも、この井戸が如何に重要かという事が解るというものだ。昨日も夕方に武器屋から出てこの井戸を眺めていたら、そこには夕飯や湯あみ用の水を求めた人たちの行列が出来ていた。
井戸に着くと、そこには誰もいなかった。時刻は昼を少し過ぎたあたり……ちょうど昼食も終わり、水を汲みにくる人もいなかった。
「井戸に何しに来たの?」
深い井戸を覗き込みながら由比ヶ浜が俺にそう問いかける。俺はそこに据え付けられている釣瓶を手で触りながら、答えた。
「この下に降りる」
「え?」「ええ?」
俺の言葉に二人が驚きの声を上げる。まあ、当然の反応だな。だから俺はさっき由比ヶ浜に渡された小さなメダルを掌に載せて二人に見せながら話した。
「この下にな、メダルおじさんっていう変態が住んでるんだ。その人に会いに行く」
「へ、変態!?」
俺の言葉に二人は体を抱くようにして縮こまった。その捩り方ちょっとエロいが……そんなことは当然口にしない。
「い、いや……別にお前らが思ってるような変態じゃねえよ。ただ、なんていうのか、ゲームだから仕方無い設定なんだが、世界中にあるこの小さなメダルを集めてるっていう収集癖のあるおっさんなんだよ」
「その人になぜ会わなければいけないのかしら?その貴方の手に持っているメダルを渡すことで何か素晴らしい奇跡でも起こしてくれるということなのかしら」
雪ノ下はもっともな疑問を口にした。
「たしかに、メダルおじさんにたくさんメダルを渡すと、かなり凄い武器なんかをくれたりする。全部のモンスターを攻撃できるブーメランとか、まとめて叩ける最強のグリンガムの鞭とかな……だが、今回はそんなのが欲しくて会いに行くわけじゃない。ここは確かにゲームの世界だが、ゲームみたいに選択肢が限られてるわけじゃねえからな。俺の想像通りなら、ひょっとしたら、仲間を無理に加えなくても俺達が生き残れるように出来るかもしれない」
俺のその言葉に、雪ノ下は怪訝な表情をするも、暫く考えるようにしてからため息を一つ吐いて呟いた。
「はあ……まあ、この世界の事に関しては、貴方に全て任せるわ。私達には理解できないことが多すぎるもの。それに貴方は私達のことを守ってくれるのでしょう?」
そう言って、上目遣いで俺を見る。隣にいる由比ヶ浜も同じように頬を赤らめて頷いていた。
「うん!ヒッキーに任せる!ヒッキーのいう事ちゃんと守るよ」
そうやって改めて言われるとかなりむず痒い物があるな……まあ、元よりこいつらは守るつもりだ。普通のプレイで、命を懸けて成長なんてのは俺達には不可能だ。だからこそ、こうやって少しでも生き残れる可能性のある方を目指している。俺はもう一度井戸に視線を移し……言った。
「よし、なら、このままだと降りられないから、梯子を借りてこよう」
そう言って、俺達は近くの武器屋に向かった。
◇
梯子を降りた二人は、その光景に絶句していた。俺は一応予備知識があったから、まあ、そういう物なんだろうくらいに予期はしていたが、それでも、目の前にそれを見た時にはやはり驚いてしまった。
井戸の底は真っ暗だったが、かなりの高さと広さがあった。そんな空間の中に、本来あってはならないものを俺達は見つけてしまったのだ。そう、そこには、家が一軒建っていた。
水辺から少し離れた穴の奥の暗闇の中に、雨など降る訳がないだろうに、きちんと瓦屋根までもつけた家が建っており、その窓から明かりが漏れている。俺達はその玄関を目指して歩いた。
扉の前に立った俺達は、ドアを数回ノックする。すると、中から、男性の声が返ってきた。
「どうぞ」
それを受けて俺達は中に足を踏み入れた。
目の前には大きな机があり、その机に向かって一人の中年の男性が分厚い本を読んでいた。小太りでもじゃもじゃ頭、どう見てもインドア派のイメージが強いその男性の周りの壁には、様々な武器が調度品の様に壁に掛けられている。炎のブーメランに、復活の杖、それに、グリンガムの鞭。あ、あれ多分神秘のビキニだな……あんなの欲しがったら、二人にぶっ殺されそうだな。
そんなことを考えていたら、急に正面の男性から声を掛けられた。
「わたしはメダルおじさん。世界中に散らばる小さなメダルを集めている。持って来たメダルの枚数に応じて、君に素敵なアイテムをあげよう。さて、何枚持って来たのかな?」
その言葉に、俺は一歩近づいて、直球で言い放った。
「え、えーと、あんた、自分で世界中に小さなメダル撒いてるだろ」
その俺の言葉に、おじさんはビクリと体を震わせて、俺に顔を向けた。驚きに目を見開いてしまっている。
「な、なぜ、そう思うのかね?」
「いや、別に簡単なことだ。小さなメダルがあるのは、行き止まりの袋小路とか、意味ありげな茂みの中、あと、ダンジョンの宝箱にもあるが、一般の家のタンスや壷の中にもある。はっきり言って、見つけてくださいと言わんばかりの場所ばっかりだ。これは、あんたが催したゲームなんだろう。どれだけあんたが暇を持て余しているのか知らないが、わざわざ自分でメダルを隠した上に、見つけた人に高価な武器を進呈する。本当に酔狂なこった。こんなところに隠れてまで……なあ、大魔法使いさん」
その俺の言葉に、おじさんは更に目を丸くする。だが、少し間を置いて、表情を平静に戻し、俺に話しかけた。
「はっはっはっ……なかなかユニークな発想をお持ちの方の様だ。まあ、もし、君の言う通りだったとしても、だからと言って君になんの不利益があるというのかね?君はメダルを必死になって探す。私はそれを持ってきてくれたらアイテムを渡す。まさか、メダルを集めるのが面倒だから、アイテムを先に寄越せとかそういう事を言いたいのかな?そう、グリンガムの鞭とか……それに、私が隠れるようになったのは全てこの国の体制の所為だ。鎖国までして交流を絶って……このままではますます冒険者の質が下がる一方だというのに……。」
おじさんは『そうは問屋がおろさないよ』とでも言いたげな表情で、ニヤリと笑みを浮かべながら俺を横目に見た。
まあ、今のやり取りで俺の知りたいことは全部確認できた。だから、これからが、本番だ。
「別にアイテムが欲しいわけではないんだけど……まあ、そこにある様な高価な物ではなくて、欲しい物ならあるにはあるけど、今はそんな話をしたいわけじゃない」
「ふむ……では、君は私に何の用があるというのかね?」
俺はおじさんにもう一歩近づいて言った。
「あんたがここに居ることを、近衛隊に報告しようと思う」
「ちょっ……待って……」
ガタッとおじさんが椅子から立ち上がった。そして焦った様子で俺に言う。
「今、私の話聞いてた?わたしは本気でこの国を憂いているんだ。この国の連中は本気で冒険者を育てようとは思っていない。だから、私が試練としてメダルを世界各所に置いて、それを達成した者にふさわしい武器を授けているんだ。このモンスターのはびこる世界には、強い後進がどうしても必要なんだ!」
拳を握りしめながらそう熱弁するおじさんに向かって俺は言葉を続ける。
「えーと、でもそれって、この国の事なら王様とかその周りの人達のやるべき仕事でしょう。なら、貴方がするのは筋違いも良いところだ。それも、こんな井戸の底でこそこそとなんて……もしやりたいのなら、王様に進言するべきなのでは?」
「そ、それはもうやったのだ……だが、この国の連中は誰一人として私の考えに賛同しなかった。それどころか、強い冒険者を育てて、国家に反逆する気だと流言を流され、私は国家から追われたのだ」
「あなたがなさろうとしていることは立派だと思いますけどね。でも、それでもダメだ。それは所詮あなたのエゴでしか無い。それにあなたも御存知かとは思いますけどね。この井戸は、この城下町唯一の貴重な水源だ。そんな貴重な水のある場所に、得体の知れない人物が住んでいる……なんて、事実を民衆が知ったら、一体どんな反応が返ってくるでしょうね。貴方の志は尊いものかもしれないが、それでも、街のみんなは理解を示してくれますかね?」
「い、いや、待ってくれ……まだ、次代の若い力は育っていない。それに私はすでに国を追われた身だ。ここを離れたらこの国にもう居場所なんてないんだ。頼む、黙っていては貰えないだろうか?」
その慌てたおじさんの言葉に、俺は当然表情には出さないが、内心ほくそ笑む。ゲームでは導き出すことが出来ない選択肢……それを、俺は今確かに掴んだ。
「分かりました。なら、一つだけお願いを聞いて貰えますか?いえ、べつにその高価なアイテムを無償で下さいとか言ったりはしません。ただ少しだけあんたの力を借りたい」
俺はまっすぐにおじさんの目を見つめて、最後の言葉を言った。
「あんたのルーラで、俺達をリムルダールへ連れて行ってくれ」
◇
「うわあ……凄いねここ……空は真っ黒なのに、周りはぼんやりとだけど、遠くまで見えるね。なんか、月明かりの中に居るみたい」
その由比ヶ浜の言葉の通り、辺りは薄暗い。これが所謂、アレフガルドを覆う闇というやつなんだろう。
俺達は、今、大魔王ゾーマの居城の直近の人間の町、リムルダールにいる。この街ははっきり言って危険だ。周りに生息するモンスターは、スカルゴンをはじめとする大型の物が多く、そのどれもがHP100オーバーで、流石に今の俺ではバスタードソードの一撃を持ってしても仕留めることは不可能。まあ、レベル1の上、まだスライムを一匹しか倒したことがない俺に、倒せるわけがないんだが……
そんな危険なモンスターが多数いる地域ではあるが、どうもこの街は強力な結界が張られているらしい。集落のまわりをぐるりと囲む堀の様な池も含めて、その中へのモンスターの侵入を阻み続けている。まあ、そうでも無ければ、一般市民がこんな辺境で生き残れるわけがないのだが……
「それにしても、さきほどのメダルおじさんは、よくあなたの言う事を聞いてくれたわね。元々こうなることを比企谷君は知っていたのかしら?」
「いや、メダルおじさんは、ゲームではあそこから動きはしない。ただ、ここに来てから、王様とか近衛隊の葉山とか、ルイーダの店の連中とかを見て思ったんだが、ここに生活してるやつらには、何らかの設定があるように思えた。言い換えれば、生活感って言うのかな。ゲームみたいに、ただぼうっと突っ立てるだけの奴が居ない以上、そこに存在してる奴らの殆どに、思考や思惑があるように思えたんだ。そうやってあのメダルおじさんを見た時、どうしてあそこに居るのか、どうして世界中の小さなメダルを欲しがるのか、どうしてあんな史上最強とも言える武器を与えるのか……そう考えたら、まあ、世界中を旅したことのある魔法使いかなんかだったんだろうなって思い至ったんだ。まあ、でも単純に賭けではあった。はずれても構わないくらいの賭けだったから、ここに連れて来てもらえたのは本当にラッキーだったよ」
「そう……でも、ここで一体何をしようというの?そのあたりについては良く分かっていないのだけれど……」
「まず道具屋で、このバスタードソードを売る。20000ゴールドくらいで売れるハズだ」
「え?でも、それは王様から借りたものではないの?」
「いや、まあ、でもこの剣は後で店で買えるんだ。アレフガルドでは……だから、最悪新品を後で買って返せばいい。で、聖水を大量に買う」
「聖水?」
俺の言葉にやっぱり首を傾げる雪ノ下に、それ以上の説明はせずに、俺達は道具屋へ向かった。
俺がこの街に来たかった本当の理由。それはズバリレベリングだ。
この街の側には、ドラクエの経験値稼ぎの代名詞とも言われるはぐれメタルが多数生息している。その経験値は一匹で40000越え。一応、アリアハンで、スライムを一匹俺が倒した時に、何もしていない同行者の由比ヶ浜と雪ノ下に経験値がちゃんと入ったことは確認済み。だから、3人一緒に居る状態で狩れば、一人13000以上の経験値が手に入る。確か、レベル1の状態ではぐれメタルを一匹狩れば、一気に10以上レベルを上げることが出来たはずだ。そうすれば、守備力も格段に上がるので、一角兎やスライムの体当たり程度では、ケガもしなくなるだろう。そうやって、前もって俺達の身体を強化するために、俺はここに来たのだ。
はぐれメタルはこうげきりょくはそんなに高くない。呪文も使うが、ギラのみで、HPに関してはスライムそのもの。その点ではアリアハンのモンスターとそんなに大差はない。だが、その莫大な経験値を保有する究極生物としての真の力は、その素早さと防御力にある。はっきり言って、速すぎて攻撃は当たらない。さらに例え当たったとしても、鋼鉄よりも固いその体表には、傷一つつけることが出来ない。ではどうするか……
だから聖水だ。
はぐれメタルもモンスター、やはり聖水には弱い。だから、出会ったらとにかく振りかける。逃げられてもなんでも振りかける。そうやってなんとか1っ匹を仕留められれば、俺達は身体を強化できる……
……はずだった。
「うわーん、ヒッキー、聖水全然効かないよー」
「おわっ!やばい、囲まれる、走って逃げろー」
大量の聖水を抱えて、いざ狩りへと赴いた俺達だったが、街を出て直ぐにはぐれメタル3匹にエンカウント成功。それで、喜び勇んで聖水を所かまわずはぐれメタルに向かって投げ続けたのだが、どういう訳か、まったくはぐれメタルは動じない。それどころか、地面の聖水の上で滑るように移動し、スピードが更に上がってる。これは、もしかして……
「あ、聖水が効くの、ドラクエ4だった……てへり」
舌を出して、お茶目を演出したものの、二人にそんな余裕はもはや無く、俺の捨て身のネタはもはや無視。
とにかく急いで逃げようと、二人の手を掴んで、スピードを上げようとしたその時……無情にも、一匹のはぐれメタルが俺達の行く手に立ちふさがった。後方の2匹のはぐれは残像を残すほどのスピードで旋回をしている。このまま、体当たりと、ギラを食らい続ければ、俺達なんてあっという間にお陀仏だ。チクショー、ここまでか……
と、その時……
「あれぇ!?おめえ、ひょっとしてはちまんじゃねーかぁ?なあ、はちまんだよなぁ?」
その俺達の背後から、声を掛けられた。恐る恐る振り返ると、朱色の布の服を着て、ズタ袋を肩に担いだ体格の良い黒髪の男が俺達に歩み寄ってきていた。だが、その足元には、史上最速で、最硬の生物が……
一匹のはぐれメタルが急に接近してきたその男に向かって体当たりを仕掛けた。刹那……
「でっかくなったなぁ、オラ、びっくりしちまったぞぉ」
そう言いながら視線も向けずに右手ではぐれメタルを掴み、そのまま握りつぶしてしまった。えええーーーー!
そして、何も無かったかのように俺達の側に来ると、そのまま、俺を抱きかかえた。
うわあああ、は、放せ……お、男に抱きかかえられる趣味なんか、ねえってんだよー
「お、俺は、八幡だけど、あんたなんか知らねーよ!」
由比ヶ浜も、雪ノ下も、さっきまでの恐怖はどこへ行ったのか……目を点にして俺達に見入っている。そして、俺を離さない男は、俺に頬ずりをしたまま、言った。
「忘れちまったのか―?オラはおめえのとーちゃんだぞぉ!」
「「「えええええーーーーーーーーーーーー!!」」」
俺達3人の絶叫がアレフガルドの暗黒の大地にこだました。
ドスン…ドスン…ドスン……
いつの間にかさっきまで俺達を囲んでいたはぐれメタルは姿を消していた。その代り……
辺りの暗闇の中には不気味な赤い光が、あちらこちらに浮かび上がっている。次第に近づく巨大な影……それを振り返った男が言った。
「ひょっとしておめぇたち、レベル上げしてたのか?よし!ならいっちょ、オラが手伝ってやっか!」
そう言って、肩から降ろしたズタ袋の中から、禍々しい意匠の魔人の斧を取り出したその男……とーちゃんは、何か、散歩にでも行くように、ふらりとモンスターの中に進んで行ったのだった。
つづく