『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
『オルテガとーちゃん』に救われたその日、俺達は覚えたばかりのルーラを使ってアリアハンに帰ることにした。でも、とーちゃんはなぜかそれを必死に拒否。『すげーつえー奴ともっと戦いたいから、まだ帰りたくない』とか、『ルーラは身体鍛えられないからイヤだ』とか、良く分からない理由をツラツラ上げて、必死に帰宅を拒んでいたのだが、上の世界でまだバラモスが暴れていて、それを倒さなきゃならないんだと、3人で説得したら、本当に嫌そうにだが了承してくれた。
で、俺!
どんな原理か分からんが、頭の中にとんでもない量の知識が一気に注ぎこまれ、様々な魔法の使い方までも理解できるようになってしまった。どんな魔法が使えるのかは原作のゲームをやってる俺は当然理解しているが、今使うのは瞬間移動のルーラ。別に攻撃魔法の類ではないが、さっきメダルおじさんにやって貰って分かったのだが、この魔法、空を飛んだうえで、身体が分解されて移動する。初心者の俺にそれが本当にできるかどうか……もう考えるだけでぞっとする。正直かなり怖い。
ただ、頭の中では使い方をきちんと理解しているから、やって出来ないことはないはずだ。
由比ヶ浜と雪ノ下ととーちゃんが俺の身体に触れた状態で、呪文を唱えた。
「ルーラ」
一瞬で前身がはるか上空へと運ばれる。みるみる小さくなるリムルダールの町の景色を遠目に見つつ、身体が粒子に分解されていく……そして、次の瞬間にはアリアハンの城門の前に立っていた。
嫌がるとーちゃんを引きずって、初めての実家へ。そこへ入った瞬間、なんでとーちゃんが帰りたくなかったのか、なんとなく分かった。
かーちゃんはとんでもなく美人だった、長い髪を頭の上で大きなお団子にした小柄なその女性は、はっきりいって可愛い。とても16歳の子供が居るようには見えなかった。見えなかったのだが……
とーちゃんが家に入ったその瞬間に、感動の再会で抱き付くのかと思いきや、いきなり飛び蹴りをくらわした。もうその後はめちゃくちゃ……あのモンスターを瞬殺していたとーちゃんが、もはやボロ雑巾状態。……全身あざだらけになって、やっとかーちゃんの気が収まったのか、その後は泣いたかーちゃんをとーちゃんが肩に抱いて何度も謝っていた。俺も、由比ヶ浜も雪ノ下もなんとなく気まずくて顔を逸らしたわけだが、正直目のやり場に困る光景だ。それを、角の付いたヘルメットを被った体格の良い祖父さん、多分あれが勇者のじいさんなんだろうな……が、パイプの煙をくゆらせながら、優しい表情で眺めていた。
そして、その後は大宴会。とんでも無い量の料理をかーちゃんが次々と出してきた。あまりの量に俺達3人は目を丸くして、とてもじゃないが食べきれないと怯えていたのだが、それをほとんどとーちゃんが一人でぺろりと食べてしまった。それをかーちゃんがすぐ隣に座って嬉しそうに眺めてる。本当に嬉しいんだろうな。
だって、10年も前に旅立って一度も帰らずに、しかも、死んだと聞かされてた訳だ。その時の心境はどうだったのか、伺い知ることも出来ないけど、自分の好きな人と会うことも出来ないまま、しかも死なれてしまうなんて……そんな経験のない俺には理解できることではなかった。
だからこそ、この再会はかーちゃんにとっても特別な物でもあるんだろうな……まあ、いきなりあそこまでボコボコにするとは思わなかったが……
っていうか、とーちゃんもとーちゃんだ。生きてたんなら、ルーラでもキメラの翼でも使ってちょっとくらい顔出せば良かったじゃねーか。アレフガルドじゃキメラの翼取り放題だし、道具屋でだって、二束三文で売ってるし。まあ、それだけ甲斐性が無いってことなんだろうな、この人。
その日の夜、目にハートマークをつけたかーちゃんがとーちゃんを捕まえて部屋に籠ってしまったので、俺達は3人でふたたびルイーダの酒場に向かった。じっくりとステータス確認をしたかったからだ。
酒場に入ると、そこは昼間とはうってかわって粗暴な感じのオッサンたちが大勢で酒盛りをしていた。奥の方を見ると、遊び人姿の海老名さんがビールグラスを持って、仕事してるのかと思いきや、おっさん同士で肩を抱き合ってるのを、仕事するふりして後ろから眺めてるだけだった。おい、お前、ちょっと鼻血でてるからね。
それから、壁沿いに立ってそんな客たちを睨んでる、川、川なんとかさんとも目が合った。合った瞬間、顔を真っ赤にして目を逸らされたんだが、なに?おれ、この世界でもアイツに嫌われちゃってんのかよ!
とりあえず、ウェイトレスのお姉さんに、空いてる席へ案内されて、俺達はそこに座る。そして、ドリンクとつまみを頼んで、ほっと息をついた。それから、3人のステータスを確認する。
――――――――――
はちまん
HP 30/288
MP 7/102
ゆうしゃ
ひねくれもの
せいべつ:おとこ
レベル40
ちから :138
すばやさ : 80
たいりょく :128
かしこさ : 88
うんのよさ : 88
最大HP :288
最大MP :102
こうげき力 :145
しゅび力 :136
Ex : 642011。
じゅもん
ホイミ べホイミ
ベホマ ベホマズン
ザオラル ルーラ
リレミト トヘロス
メラ ニフラム
アストロン ギラ
マホトーン ラリホー
ライデイン ベギラマ
イオラ ギガデイン
――――――――――
ゆい
HP 20/224
MP 15/228
そうりょ
セクシーギャル
せいべつ:おんな
レベル40
ちから : 56
すばやさ : 95
たいりょく :112
かしこさ :112
うんのよさ :193
最大HP :224
最大MP :228
こうげき力 : 63
しゅび力 :120
Ex : 642011。
じゅもん
ホイミ べホイミ
ベホマ ベホマラー
キアリー キアリク
ザオラル ザオリク
ルカニ ニフラム
バギ ピオリム
マヌーサ ラリホー
ルカナン ザキ
バギマ マホトーン
バシルーラ ザメハ
フバーハ ザラキ
バギクロス
――――――――――
ゆきの
HP 12/202
MP 18/226
まほうつかい
みえっぱり
せいべつ:おんな
レベル40
ちから : 41
すばやさ :131
たいりょく :101
かしこさ :112
うんのよさ :184
最大HP :202
最大MP :226
こうげき力 : 43
しゅび力 :103
Ex : 642011。
じゅもん
リレミト ルーラ
インパス トラマナ
ラナルータ シャナク
レムオル アバカム
メラ スカラ
ヒャド スクルト
ギラ イオ
メラミ マホトラ
ヒャダルコ ヒャダイン
ベギラマ バイキルト
イオラ マホカンタ
メラゾーマ メダパニ
マヒャド ドラゴラム
ベギラゴン モシャス
イオナズン パルプンテ
おお……3人とも一気にレベル40か……。
まあ、とーちゃんがあれだけ大量にはぐれメタル狩ってくれれば、これ位のレベルアップも当然か……
まずは俺のステータス……相変わらず8が多いのはなんかの仕様なのか?まあ、でも、きっちり前衛出来るだけの能力にはなってるな……HP288もあれば、最強呪文のメラゾーマとかイオナズンとかでも即死はしない……というか、このレベルあれば、頑張ればゾーマも行けるな!それにベホマも覚えてる。これがあればひん死でも何とか助かるぞ。
由比ヶ浜も雪ノ下も、爆上がりだな。HPとかこうげきりょくは、まあ、僧侶と魔法使いだからこんなもんだろうが、全魔法覚えて更に、MP200オーバーは、もはや負ける要素が無いな。これで多分とーちゃんがとんでもないステータス何だろうから、このパーティならほぼ安全ってわけだ。
俺は、二人にステータスの上昇と、新しく覚えた魔法についてを事細かに説明した。それをしている最中に、また昼間の様に薄汚れた冒険者風の連中が由比ヶ浜達に絡んできたが、もはやレベル40の俺達に畏れる要素はまったくない。俺はその中の一人に殴られたが全く痛みはなく、暴れるそいつらをそのままに、猫にするように襟首をつかみあげて、そのまま表に放り出した。流石ちから138……全く重さを感じなかった。
呆気にとられた顔をしている他の客をしり目に、俺は二人の待つテーブルに戻って席に着いた。すると突然……
テーブルに置いた右手に、右隣りに座っていた由比ヶ浜が手を重ねてきた。
「お、おい、お前……なんだ急に……」
慌ててそう言って手を引こうとした俺の手を、由比ヶ浜はがっちりと掴んで離さなかった。そして……
「ヒッキーありがとう……また、助けてくれて…………」
そう言った由比ヶ浜は、俺の手を握ったまま、微笑みながらじっと俺の目を見ていた。
恥ずかしくなって、顔を逸らそうとすると、今度は雪ノ下が俺の降ろしていた左手を掴んでテーブルの上に持ち上げた。そして、やっぱり、黙ったまま薄く微笑んで俺の目を見つめてくる。
「お、お前らな……いったいなんだってんだよ……急にやめろよ……びっくりしちゃうだろうが……」
その俺の言葉を聞いた雪ノ下が、信じられないくらい優しい声で言った。
「本当にありがとう……」
「雪ノ下……おまえまで……なんなんだよ、調子狂うな……ったく」
その二人の様子に、俺はあの時……ここに来る前、事故に遭う直前に二人に向かって話したことを思い出していた。
◇
3人で乗った観覧車。俺はこの瞬間がいつまでも続けばいいと、正直思っていた。あの瞬間だけは答えなんていらないとさえも……動くことで変わってしまう未来なのなら、変わらないでいられるこの現実もそんなに悪い物ではないのではないかと……
それが、俺の一番忌み嫌っている欺瞞だということも、分かってはいた。だが……このまま進めばやがて訪れてしまうその終わりを……俺は確かに避けたかった。
でも……
その時は唐突にきてしまった。
いや、予期はしていた。雪ノ下の変調も、由比ヶ浜の困惑も、俺には良く分かっていた。今日この瞬間にいつもの俺達の行動とは違う何かが、きっと起こるのだろうと……俺は心のどこかで畏れていたんだと思う。
由比ヶ浜は俺には過ぎた子だ。明るいし、可愛いし、そして優しい。住む世界が違う。なのになんで俺なんだ。
俺に向かって差し出した手作りのクッキー……それが意味することを俺はちゃんと理解していた。そう、否定することなんて俺には出来なかった。だがそれでも、素直に受け入れることは出来なかった。変わってしまうことへの恐れ……失ってしまうことへの恐怖……なんにもまして、俺にとって大事なこの二人を、俺は傷つけたくなんてなかった。
由比ヶ浜は言った。全部欲しいと……自分はズルい子なんだと……そうまでしても変えようと努力する彼女に俺は何も言えなかった。そして、それはその場にいた雪ノ下も同様だった。
雪ノ下も変わろうと努力していた。自分を嫌い、自分を傷つけ、そして自分を閉じ込めた。
友人を作らず、人を理解しようともせず、ただ、変わることだけを切望していた。そんな彼女の姿は、いつかの自分……俺という存在の全てを自分自身で否定し、全てを諦めたあの時の俺だった。
だからこそ、ひたすら自分に向き合って、自分を変え始めている由比ヶ浜の想いを、今の雪ノ下に受け止められるわけがないんだ。
俺は、全てを放棄しようとした雪ノ下の言葉を止めた。
雪ノ下は変わらなくてはならない。それは雪ノ下自身の為に……自分で決めて自分で行動する……他の誰かの為とかじゃない……雪ノ下自身が自分の望むものを掴まなくてはならない。そうでなくてはダメなんだ。
俺達の目を見ながら、雪ノ下が言った。
俺たちに依頼をしたいと……
由比ヶ浜が求めるもの……
雪ノ下が求めるもの……
そして、俺が求めているもの……
由比ヶ浜は自分の想いを振り絞って俺と雪ノ下に伝えた。
雪ノ下は、俺と由比ヶ浜に救いを求めた。
俺は……
だが、その時俺が二人に言ったのは、多分一番卑怯な言葉だったんだと思う。
”俺はお前らと一緒に居たい”と……
それが俺の本当に欲しかった答えではないことは分かっていた。
何度も望んで、手を伸ばして、そして裏切られ続けてきた俺にとっての本物……そんなものが本当にあるのかどうかも分からない。でも、砂漠で水を欲すように、暗闇の中で光を探す様に、俺は求め続けていた。そんな関係を築けるかもしれない二人と一緒に居たい。それは本物なんかじゃないかもしれない。それは、俺を選んでくれた彼女への裏切りなのかもしれない。それは、やっとの思いで吐き出した彼女の信頼を裏切る行為なのかもしれない。でも……
でも……今の俺には、選ぶことなんて出来なかった……だから……
決めたのだ。彼女たちの想いを全て受け止めようと……
それがどんなに卑怯で、卑劣で、汚い答えだとしても、彼女たちが許してくれる限り、俺は彼女たちと一緒に居ようと……
そう、だから俺はここに居る。その時、答えを言わなかった俺に微笑んでくれた二人に、俺は俺のやり方で気持ちを返してやらなきゃいけない……二人の想いに応える為にも。
◇
「ま……約束だからな……俺はお前らから離れるわけにはいかねーんだよ」
俺の言葉に二人はやはり微笑んでいた。ったく、人目があるんだから、ちょっとは自重してくれよ……
恥ずかしくなった俺は勘定を置いて席を立つと、二人もそれに付いてきた。
酒場を出て家に向かって歩く道すがら、ふと見上げると、頭上には満点の星空が広がっていた。アレフガルドの深遠の闇の空とは違い、ここはまるでプラネタリウム……空を埋め尽くさんばかりの星の間に、いくつもの流れ星の筋も走っていた。
その星空を黙って3人で見上げていた。
気が付くと、俺はいつの間にか二人と手を繋いでいた。
いつもなら、ちょっと触れるだけでもキョドってしまう俺の筈なのに、今は自然と二人と寄り添っていた。それが堪らなく心地いい。暫く見上げたまま3人で立ち尽くしていると、由比ヶ浜が口を開いた。
「なんかさ……こういうのもいいかなって思うんだ。別に帰れなくてもさ、ここでヒッキーとゆきのんと3人で居るのもいいかなって……そりゃあ、パパとかママとかみんなにも会えないのは寂しいけど……でも、二人と一緒ならわたしはそれでもいい」
由比ヶ浜のその言葉に、俺はチラリと雪ノ下を見た。雪ノ下は放心したように星空を眺める。そして、呟いた。
「とてもきれいね……。そうね……私も……、私も由比ヶ浜さんと同じかもしれないわ。ここで貴方達と一緒に居る方が……」
「ダメだ」
その俺の言葉に、二人は急に硬直した。その表情は少し怯えているようにも見える。でもダメだ。
そう、ダメなんだ。諦める言葉を二人に言わせてはダメなんだ。こんな非現実的な世界ではなく、俺達が生きたあの世界で、自分の全てをかけて想いを伝えようとした二人に、諦めさせてはダメなんだ。
「俺はなにがあっても、絶対にお前たち二人を守る。でも、それはこの世界で平和に暮らしたいからじゃない。戻れるかどうかじゃない。俺は戻りたいんだ、お前たちと一緒に……あのろくでもない、苦い思い出ばっかりの世界……でも、お前たち二人と確かに一緒に居た大切な世界に……だから、悪いがその考えに俺は乗れない」
その言葉に、俺の正面にまわった二人が改めて俺の手を握ってきた。そして二人は笑顔で言った。
「ヒッキー、一緒に帰ろう……」
「帰りましょう……私達の世界へ」
「お前ら……ああ、帰ろう!」
星空の下、まだ旅立ってもいない俺達は3人で固くそれを誓った。必ず帰ると……
◇
翌日、部屋で旅立ちの準備をしていた俺達3人の前に、フラフラになったオルテガとーちゃんと、妙に肌がつやつやしたかーちゃんの二人が入ってきた。
で、朝食をとるついでに、早速とーちゃんのステータスを確認。
――――――――――
オルテガ
HP 1/999
MP 1/30
ゆうしゃ
ごうけつ
せいべつ:%イ#人おとこ
レベル99
ちから :*&%
すばやさ :255
たいりょく :255
かしこさ :255
うんのよさ :255
最大HP :999
最大MP : 30
こうげき力 :*$+
しゅび力 :257
Ex :99999999
じゅもん
ベホマ メラゾーマ
うおっ……とんでもない数値だ。ある程度は予想していたけど、まさかこれほどとは………経験値もレベルもカンストしちゃってるし、MP以外は最大値だなこれ……っていうか……なんで、性別のところとちからの辺りが文字化けしちゃってんの!?……これもうチート過ぎるでしょ……なんで、原作でキングヒドラごときにやられちゃってたんだよ……
まあ、一晩休んだはずなのに、HPとMPが1しかないことに関しては触れないでおこう。ちょっと未成年の俺達には刺激が強すぎそうだし……ふと二人を見ると……あ、やっぱり赤い顔して俯いてるな……うんうん。
とりあえずとーちゃんにベホマをかけて、さあ、旅立というその時、俺達3人は改めてとーちゃんに向き直った。そして伝えた。
俺達がこの世界の人間ではないということ……ひょっとしたら、貴方の本当の息子さんに憑依してしまっているのかもしれないという事。そして、この世界がゲームの世界であって、その冒険の筋書きを全て俺は知っていて、最終的に、神様に会って現世に戻りたいと願ってみようと思っていること……そう、俺は最も重要な事をようやく思い出した。この世界には神が確かにいる。そう、全ての願いを聞き届けてくれる『神龍』が存在しているという事を。
俺はそこまでを一気に話し、おそるおそるとーちゃんの目を見た。
多分頭の可笑しい奴だと思われただろう……いくら何でも、いきなりこの世界が虚構だと言われれば、理解なんて出来るわけがない。だって、実際にこの世界に居る限りはここが現実そのものなのだから……
でも、とーちゃんは話を全部聞いてくれた。その上で微笑みながら俺の頭を撫でて、「ここに居るかぎり、はちまんはオラの息子のはちまんだ。遠慮はいらねえから、ほんとのとーちゃんだと思ってくれ」そう言って、全てを受け入れてくれた。
「うしっ!そうとなったら、そのしぇんろんとかいうやつに何が何でも会わねとな!オラ、ワクワクすっぞ!」
え?
ひょっとして、滅茶苦茶強い奴と戦いたいだけだったりして……
まあ、そんなこんなで一抹の不安を抱えながらもとーちゃんは同行してくれることになった。
とーちゃんは10年にも及ぶ冒険?のおかげで、貴重な武器や防具を多数手に入れていた。本人曰く、どうも武器を使うのが苦手だから食費の換金用に持ち歩いていただけだったらしいのだが、そんな貴重な武器の数々を俺達はポンと手渡された。
で、それを早速装備する。
はちまん
E雷神の剣
E刃の鎧
E魔法の盾
E鉄仮面
ゆい
Eゾンビキラー
まほうのビキニ
E魔法の盾
E不思議な帽子
ゆきの
Eさざなみの杖
まほうのビキニ
E魔法の盾
E不思議な帽子
俺に関しては何もいう事はない。敵の攻撃に対し自動反撃する刃の鎧は超高性能だし、雷神の剣に関しては威力もさることながら、道具で使えばベギラゴンというチート武器。はっきり言って、最終決戦装備と言っても過言じゃない。
そういう意味では由比ヶ浜と雪ノ下の二人も同様なのだが、わたされたそれを見た瞬間二人は顔を真っ赤にして絶句していた。まほうのビキニ……薄いただの布きれのようにしか見えないそれは、非常に強力な結界によって、その装着者の身体を守ることが出来る。主にアレフガルドの海に生息するモンスターが持っている。ただ……とは言っても、見た目はただのビキニ。
しかも、とーちゃんはそれを二人に手渡しながら、「遠慮しねーでいいから、さっさと着替えろって」とニコニコ笑いながらで、本当に気を使ってなかった。全くデリカシーのかけらもない。
言われて二人はどうしようか逡巡した結果……
装備した。
ぐはあっ!なんで本当に装備しちゃうんだよ!ってか、法衣とか、マントとかで必死になって隠すくらいなら、着るの止めろって!それ、隠されると余計にあれがあれでだな…………
……まあ、別にお、俺は止めないけど……
こうして、俺達4人はようやくアリアハンを旅立った。
◇
ここからの話しは特に仔細を語るまでもないだろう。
とーちゃんはマジで無敵だ。とてもじゃないが、並みのモンスターなら気当たり一つで失神してしまうほどだ。だから、この上の世界では畏れる存在はまったくなかった。
それに、雪ノ下の奴がアバカムを覚えちまったから、もはや『最後のカギ』も必要なし。全ての扉はコイツの一言で開錠されちまう。これってもはや鍵かける意味無くないか?
俺達は一刻も早いクリアーを目指すべく、とにかくオーブ集めを始めた。だが、世界をまわる為にはやっぱり船が要る。だから俺達は最初に旅の扉でバハラタに行き黒こしょうをゲット、それを持ってポルトガに行って、王様に船を用意してもらった。
その出航の際、アリアハンから無理やり連れてきた材木座を乗せて、スーの村の東の将来開拓地になるであろう平原に住む老人に奴を押し付けて、俺達は海賊の砦を目指した。だが……
その船旅の最中に、あることを思い付いた。
ひょっとして、雪ノ下のドラゴラムで変身した後のドラゴンって空飛べるんじゃないかと……もしそれがだめでも、スカイドラゴンかなんかにモシャスしちゃえば、やっぱり俺達を乗せて飛べるんではなかろうかと……そう考えたのだ。
要は試し……雪ノ下に頼んで船の甲板でやってもらった。
「ドラゴラム」
突然雪ノ下が稲妻のような激しい光に包まれ、白い煙を吹き出しながら巨大な紫の竜の姿に変身した。そのあまりの巨体に、船が大きく傾く。
まさかこんなにデカくなっちまうとは……
雪ノ下竜は、あわあわと慌てながら両手を顔に当てつつ、何かをしゃべろうとするが、そのたびに口から灼熱のブレスが漏れ出ようとしてしまう。あの、究極生物のはぐれメタルさえも溶解してしまうブレスだ。そんなもの浴びたら、こんな船、一発で消し炭だ。
俺は雪ノ下竜に頼んで、その翼で飛べるか試してもらった。
雪ノ下竜は、その両翼を大きく広げて、一気に羽ばたいた。結果は……
はい、見事に飛びました。飛んでくれました。
ついでに俺達も背中に乗せてもらって、少し上空を旋回。
はい、全く問題ありませんでした。ただ……変身が解けるまでの時間がいまいち分からなかったのだが、まあ、20分程度は姿を維持出来ていたから、麓まで歩いて行って、そこから乗せてもらって山越えなら、まあ、問題はなさそうな感じだった。
……という事で、オーブ集めは、はい、終了。材木座?んん……?知らない子ですね?……まあいいか。
飛べると分かった俺達は、すぐにアッサラームヘルーラ。
そこから雪ノ下の背に乗せてもらってネグロゴンド火山へ、いったん休憩の後、再びドラゴンになった雪ノ下に乗り、一気にバラモス城に入った。
まあ、ここでもとーちゃん無双で城を一気に制圧。バラモスちょっと涙目だったな……
それから、俺達はまず第一の目的だった、『竜の女王の城』を目指した。
ここに着くと、やはり弱り切った女王が光の玉を俺達に渡した後に、卵を産んで絶命してしまった。でも、その間際、俺達をこの世界に導いたのが精霊ルビスなのだと教えてくれた。ならば、やはりルビスにも会わなくてはならない。
光の玉をもった俺達は、ルーラでアレフガルドのマイラの村へ。そこで、みんなで一緒に温泉を堪能しつつ、なんでこんな所に捨ててあるのか理解できない、封印を解くカギ、『妖精の笛』を拾って休んでから、そこから北西の小島に立つルビスの塔へ向かい、その塔を速攻で攻略……精霊ルビスも解き放った。
そして問う。どうすれば戻れるのか……と……
ルビスは俺達に謝罪した。世界を守るために、俺達をこの世界に召還してしまったことを……だが、俺達を還す術は持ち合わせてはいないのだという……この世界でそれが出来るのはただ一人……
『神龍』
やはり、最終的に神龍に会わなくてはならないようだ。
こうして俺達は神龍に会うためにも、まずはゾーマを倒すこととなった。
ゾーマの本拠地へ乗り込んだ俺達だったが、その城の一階にはなぜか全くモンスターの気配が無かった。この城の一階はフェイク。玉座の後ろの隠し階段から降りた地下深くの神殿に、ゾーマがいる。そして、原作のゲームでは、そこへの途中で、一人でキングヒドラと戦うとーちゃんに遭遇するわけだが……
そのフェイクの玉座の間に入って、全ての謎が解けた。そこには累々とモンスターの屍の山が築かれていた。その殺戮の主は俺たちの目の前に仁王立ちしていた。
「我は地獄の帝王……我の飢えを満たす力が貴様たちにあるか?」
ちょっと、サ〇エさんのア〇ゴさんっぽい声で、そう言うや否や、その両手の巨大な刀を俺達にむかって振り下ろしてきた。
なるほど!道理で原作でも弱り切ってたはずだ。いくら無敵とーちゃんでもこんなのと一人で戦ったら、そりゃボロボロにもなるわな……まあ、正直俺達ただのお邪魔虫だ……邪魔しないように端っこに居よう。
見れば、喜色満面のとーちゃんが素手で殴り掛かっていた。
一進一退の激しいバトルの末、とーちゃんはついに地獄の帝王を退けた。俺達は、まあ、陰ながらバイキルトとかベホマを掛け続けただけなんだが、まあ、無事で良かった。
その後はちょろかった。
キングヒドラ……
バラモスブロス……
バラモスゾンビ……
そして、ついにゾーマ……
「人間よ!なにゆえもがき生きるのか?滅びこそわが喜び。死にゆくものこそ美しい。さあわが腕の中で息絶えるが……」
「いいから、いっちょやろうぜ!」
最高にカッコいいゾーマのセリフの一番良いところを、とーちゃんが言葉を被せて殴り掛かってしまった。
勝負はとーちゃんの圧勝。
とりあえず光の玉で闇の衣を剥がしてみたら、魔法主体の大魔王は、とーちゃんにぼこぼこにされてしまっていた。結局回復呪文の一つも使わずに終了。なんだかつまらなそうにしているとーちゃんの顔に、俺は呆れてしまった。
ついに大魔王を倒してしまったわけだが、確かこの後上の世界とこちらの世界は隔絶されて行き来できなくなるはずだ。だから俺は地下に落とされる前にリレミトで脱出。そしてすぐさまルーラで、アリアハンへ向かった。
それから俺達は改めて竜の女王の城へ向かう。その天空へと続く迷宮を進み、そしてついに『神龍』の元へと辿り付いたのだった。
◇
神龍の元へ辿り付くころ、俺達はすでにレベル60を超えていた。とてつもないつよさのモンスターの数々に、とーちゃんだけではなく俺も戦うようになっていた。雪ノ下と由比ヶ浜の二人も、直接殴り掛かることなんてなかったが、間接的に魔法や道具での援護にも慣れてきていた。
そして、神龍……
この世界における、絶対的な神としての存在。万物の上に君臨し、その世界の理さえも操る神秘。その存在と俺達は対峙した。
ここで、俺達は初めて意外な物を見た。
とーちゃんが苦戦を強いられたのだ。
神龍のその巨体を覆う硬い鎧のようなうろこには、とーちゃんの必殺の拳も殆ど効かなかった。そればかりか、凄まじい圧力による体当たり、全てを焼き焦がすブレス、そして凍てつく波動……まさに最強だった。
でもとーちゃんは……嬉しそうだった。
自分の全力で戦える相手を探していたのかもしれない。その凄まじいまでの闘争心に、側にいる俺も震えが止まらなかった。
「ベホマ……ベホマズン!」
空間ごと神龍に蹂躙されている俺達は、その圧倒的な力の前に身を守ることで精いっぱいだった。二人も身を寄せるようにして、絶対的な暴力から必死に体を守る。俺は二人を庇うようにして、必死になって、神龍の攻撃を受け続けた。
そんな絶望的な時間がどれくらい経ったのだろうか……。ふと気が付くと、ぼろぼろになったとーちゃんが、全身に白い光を纏って神龍へ向かって体当たりしようとしていた。
俺は、咄嗟に叫ぶ。
「ベホマ!」
なけなしの魔法力でとーちゃんに最後の援護をした俺は意識を失いかけながらも、神龍の頭を殴り飛ばしたとーちゃんの姿を、俺ははっきりと見ていた。
気が付くと、俺は雪ノ下と由比ヶ浜の二人に抱きかかえられていた。二人は心配そうに俺を覗きこんでいる。体に傷はない……きっと、由比ヶ浜が治してくれたんだろう……
そんな二人の向こう側には、晴れやかな顔をしたとーちゃんと、更にその向こうに、ついさっきまで戦っていた巨大な神龍の顔があった。
「さあ願いを言え……どんな願いでもひとつだけ、かなえてやろう」
真っ赤な瞳を輝かせながら話すその神龍のその言葉に、とーちゃんは俺を立ち上がらせて呟いた。
「さあ、はちまん、おめえの願いを言えよ。そのためにここまで来たんだろう」
そう話すとーちゃんの顔は穏やかだった。
俺は由比ヶ浜と雪ノ下を振り返る。二人の優しい眼差しを受け止めつつ、俺は二人と手を繋いで、神龍に向き直った。そして言った。
「俺達を、元の世界に還してくれ」
そう言った瞬間、神龍の目が激しく煌いた。
「よかろう」
あたりにまばゆい白い光が溢れる。自分の身体を見ると、まるで自分が二つに分かれるかのように、透き通った体が、浮き上がってくる。雪ノ下も由比ヶ浜も同様だ。まるで幽霊のように浮かび上がった俺達は手を繋いだまま身体から離れた。そしてその瞬間、生身の身体はどさりと倒れ込む。
そんな俺達を眺めつつ、微笑んだとーちゃんが言った。
「元気でなー、はちまん。おめーらに会えてオラは楽しかったぞー」
「ああ、俺も楽しかった……本当にありがとうな……とーちゃん……」
その言葉は果たして届いたのか……俺達は一気に光の渦に飲み込まれた。
◇
視界が戻ったその時、俺は雪ノ下と由比ヶ浜と目が合った。俺の目の前には、俺に突き飛ばされつつ宙を舞う二人……
なっ!……よりによってこの瞬間なのか……
顔を曲げてトラックの有無を確認する間なんてない。このままじゃ、本当にこの二人を死なせちまう。頼む、こいつらを助けてくれ……
咄嗟に口をついたのは、あの世界で何度もこの二人を助けたあの呪文。それを使えるかどうかなんて悩む間も、余裕もない。ただ、考えるよりも前に、助けたい一心で俺は叫んでいた。
「アストロン!」
………………………………
…………………
………
「ヒッキー、ねえ、ヒッキーってば……」
耳元で由比ヶ浜の声が聞こえる。俺は声のする方へ顔を向けようと体を動かすが、なにか枝や葉のようなものに触れてチクチクして痛い。どうなったんだ、一体……
とりあえず起き上がろうと、腕で踏ん張ろうとしたら、
「ひああっ!ひ、ヒッキー……ちょ、ちょっと、どこ触ってんの!?」
「へ!?」
急に叫んだ由比ヶ浜の声に思わず視線を手の方に向けると、見事に奴の片方のメロンちゃんに手をめり込ませていた。
「す、すまん」
俺は慌てて手を放そうとすると、今度は体勢を崩して、顔が少し前方に……今度は、唇になにか柔らかい感触が……って、う、うわああああ……
目の前には雪ノ下の顔……しかも、ばっちりとせ、せ、せ、接吻してしまっていた。
って、お前なんで頬を赤らめながら、目を閉じちゃうんだよ!
「うわっ!うわっ!ゆきのんズルい!ヒッキー、あたしも、あたしにもしてよー」
今度は無理やり首を掴まれて、顔を捩られたかと思ったら、そこに由比ヶ浜が無理やり吸い付いて来た。で、俺は、慌てて絡みついて来る二人をひき剥がして、立ち上がる。
「お、お、お、お前らなあ……いきなり何てことするんだー……って、あれ?」
立ち上がった俺は、目の前の光景に絶句した。俺を追うように立ち上がった二人も、同じように言葉を失っている。
俺達は道路脇の植込みの中に倒れていた。それは分かる。だが、その先、目の前の穴の開いたコンクリートの壁と、その向こうで煙を上げている大きなトラックの様相が異様だった。
俺達はあのトラックにはねられたはずだ。なのにケガ一つしていない。それどころか、本来ならあのトラックとコンクリートの壁に挟まれてしまっていたのだろうに、見事にそのコンクリートを突き破ってしまっている。つまり……
「おい!!そこの君たち!!その車火が出てる……爆発するぞ!早く逃げろー!!」
遠くから、俺達に逃げるようにと声がかけられた。確かに、トラックはもうもうと白い煙を吐き続けている。ここからじゃ見えないが、火が出ているのなら、ガソリンに引火した途端に大爆発するかもしれない。
運転席には……まだ、人が乗っている!
それを見た俺達は、一歩前に踏み出した。
トラックに向かって駆け出した俺はチラリと由比ヶ浜を振り返る。由比ヶ浜はコクリと頷くと両手を前に伸ばして唱えた。
「ピオリム」
俺の身体はまばゆい光に包まれ、常人では視認できない程の速度で移動できるようになる。素早く運転席に飛びこみ、頭から血を流していたドライバーを引きずり出した。
そして、雪ノ下を見やると、彼女は右手を前に突きだし、呪文を唱えていた。
「ヒャダルコ」
辺りを一気に冷気が包んだ。トラックの下方から燃え上がっていた炎はその勢いを弱め、やがてトラック全体が真っ白に凍り付く。
けが人を抱えた俺は、二人の元へ。全身から酷い出血をしていた、その若いドライバーを芝生の上に寝かせた。腕が妙な方向に曲がってしまっている。呼吸も弱い……多分肋骨も折れてしまっているのだろう。
俺はその男の胸に手を置くと、呪文を詠唱した。
「ベホマ」
まばゆい青白い光がその男の身体を包む。みるみる塞がっていくその傷を見た後、俺は雪ノ下と由比ヶ浜を抱きよせて、もう一つの呪文を唱えた。
「ルーラ」
◇
「……今日の午後3時ごろ、千葉県葛西臨海公園内駐車場にて、急発進した貨物トラックが敷地内の壁に激突する事故が発生しました。この事故による死傷者はありません。なお、ぶつかったトラックの周囲が凍り付くなどしたため、警察は液体窒素などの不法な移送をしていたのではないか慎重に捜査を進めています。次のニュースです。………」
俺の家のリビングでテレビを見ていた俺達3人は、その内容に思わず苦笑いしてしまった。
帰ってきた。帰ってこれた。
あの世界での出来事は俺達にとっては数か月もの長い経験だった。だが、戻ってみれば、こちらの世界ではほんの一瞬。まるで瞬きをするがごとくのほんの短い時間しか経っていなかった。普通に考えれば、夢を見ていたという事なんだろう……だが、夢だとしてもかまわない。少なくとも俺達にとってはあの世界での経験は全て現実だったというだけの事だ。
まあ、まさかこんなおまけを持って帰ってこれるとは思わなかったが……
「あー、あんまり魔法は使わない方が良さそうだな……下手に目立てば、後々どんな扱いを受けるか分かったもんじゃないし……」
「そのようね……でも驚いたわ……まさかこちらでも同じように使えるなんて……」
「うん!ほんとだねー!ねえ、ヒッキーゆきのん、じゃあ、これは3人だけの秘密だね」
「まあ、そうなる……かな」
俺のその言葉になぜか由比ヶ浜はすごく嬉しそうだった。そしてソファの真ん中に座る俺に急に抱き付いてくる。
「お、おい……止めろって……」
由比ヶ浜に押されて、雪ノ下の肩に軽くぶつかると、今度は雪ノ下が俺の反対の方の腕に手をまわしつつ、俺の肩にこてんと頭を乗せてきた。
「雪ノ下……また、お前まで……」
「あら……由比ヶ浜さんばかりなのはズルいわ……」
「うんうん!そうだよヒッキー……ヒッキーが言ったんだからね……あたし達二人と居たいって」
「って、おい、それはだな……今までの奉仕部でのお前たちとの関係が大事であってだな……」
「じゃあ、あたしの事、嫌いなの?」
「うっ……そんな目で見るな……っておい、雪ノ下!なんでお前も顔を近づけるんだよ!」
「比企谷君……私もどうやら貴方にずっとそばに居て欲しいと思っているようだわ……その、お願いできないかしら……私も……」
「ただいまー……いやあ、受験大変だったよ、お兄ちゃんって、うわあっ!ど、ど、どしたの?おにいちゃん達」
突然帰宅してきた小町が、リビングに入ってすぐに、ソファーで3人並んで抱き合ってる俺達を見て驚いた声を出した。そりゃまあ、当たり前だよな。
「お、おお……小町おかえり。……そういや受験だったな……どうだった……っておい!」
またもや急に顔を掴まれて由比ヶ浜の方に向けられた。
「ごめんね小町ちゃん、今ヒッキーと大事な話ししてるの」
「そうね……もう少し待ってくれるかしら、小町さん」
「あ、はい」
おおう……小町がまるで撫でられるカマクラのようにおとなしくなっとる。
「ねえ、ヒッキー、この前の……じゃない、今日のさっきのことか……とにかく続きね。あたしはヒッキーが好き、大好き。それにゆきのんも好きなの……あたしは今まで通り仲良くしたまま、ヒッキーの彼女になりたいの」
「はわわ」
その由比ヶ浜の言葉に小町が顔を真っ赤にしてる。
「今度は私の話を聞いて欲しいのだけれど、私は今までずっと自信が無かったの……何をするにも自分では決められない。そんな自分が嫌で嫌でしょうがなかったのに、変わりたかったのに、自分ではどうにもできなかった。でも、比企谷君、貴方が私を守ってくれた。くじけそうになる私を支えてくれた。だから……だから、あなたに私は感謝しているの……もし出来ることなら、わたしも貴方の彼女にしてくれないかしら」
「はわわわわわ……な、なにが、どうなって……おにいちゃん!!」
「ひゃい!!」
急に小町に言われて俺は飛び上がる。というか、なに?俺なんにも言ってないのに、二人同時告白とか、一体どうなってんの?はちまん、ほんとにわかんない。
小町は顔を真っ赤にしたまま、俺を睨んで言った。
「これはあれだね?おにいちゃん二人と付き合いなさい。公認二股……周り中、みんなが『バカ!ボケナス!はちまん!』って罵っても、小町はおにいちゃんと、お義姉ちゃん達の味方だからね!いい?分かった?ちゃんと彼氏として二人と付き合うんだよ!」
「あ、はい。……あ……」
そう口走った瞬間に、由比ヶ浜と雪ノ下の二人が俺に同時に抱き付いてきた。そして俺はもう一度二人をみる。
二人と居たい。この気持ちに嘘はない。でも付き合いたかったのか?うーん、わからん。付き合った経験なんて無いし……でも、悪い気なんて全くしない。そりゃそうだ。俺は自分で避けていただけで、こいつらを嫌ってなんていない。うん、そうか、分かった。俺は素直に思ってなかったんだな……二人を俺から離しておくために、嫌いじゃない、そんな関係じゃない、俺なんかでいいはずがない……俺は、そうやって、自分の本心を隠してきた。自分自身へも偽って。なら、本心はなんだ?お前の本当の想いはなんだ?お前にとっての本物は……お前が心から望むそのお前自身の想いそのものなんじゃないか?
嫌われるのがイヤ、失うのがイヤ……そうやってお前の思う本物から逃げ続けていたのはお前自身じゃないのか……
だったら……そうだとしたなら……
ただ……伝えればいいんじゃないのか……
俺は立ち上がって二人を振り返った。見上げるように俺を真っすぐに見つめる二人の視線を俺はまともには見れなかった。見れなかったから、顔を背けたまま話した。
「俺はお前らが思っているようなちゃんとした人間じゃない。いつも逃げてばかりで、口先ばかりで、捻くれてて、まともにお前たちの想いに応えられるとも思えない。でもな、お前らと一緒に居たいんだ。どんな形であれ、俺はお前らと一緒に居ることを俺は選びたい……誰になんと言われようともな……俺は」
今度はまっすぐに二人を見た。二人は緊張した面持ちに変わってしまっていた。待っている。俺の言葉を……こいつらは言った。臆面もなく正直な自分の気持ちを……
だから俺も言おう……遠まわしでも、言い換えるでもなく、素直に思っていることを……
「俺はお前らが好きだ。ずっと一緒に居てくれ」
「ヒッキー!」「比企谷君!」
二人に抱き付かれた俺を小町が嬉しそうに眺めていた。
これにて、俺達の冒険は一つの幕を閉じる。二人の想いと、自分の中でくすぶっていた想いを漸くにも形にできた俺は、未来へ向けて確かな一歩を踏み出せた。これが本物かどうかなんて問題ではない。ただ、大事にしたい。それだけだ。
だから、これからも努力しよう、こいつらの為に……
「あ!ヒッキー、私達以外と浮気したらバギクロスだかんね!」
「こっちはメラゾーマよ!」
その言葉に目を丸くした小町が一言……
「ドラクエか!?」
つづく