『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(3)魔王の素顔と素敵な夜明け

 俺の視線の先には、一人の黒髪の女性が立っていた。そして真っすぐ俺を見ている。

 俺はその人を当然知っている。いつも、なんだかんだと言いながら厄介毎を運んでくる、俺がもっとも苦手な年上の女性。そして、今俺に抱き付いている雪ノ下の実の姉。彼女の名は……

 

『雪ノ下陽乃』

 

 うわわわ……や、やばい……これはやばい。さ、最悪の状況だ。これはどう考えても最悪すぎる。

 ベッドの上で、寝間着姿で抱き合う3人の男女……しかも内一人は、目撃している彼女の実の妹……もはやこれはなんの言い逃れも出来ない、決定的瞬間。しかも、完全に、俺と目が合って……

 

 ん?

 

 雪ノ下さんは、俺を見据えていた視線を、右へ、左へと交互に動かす。そして一言……

 

「あっれー?おっかしいなー……確かに雪乃ちゃんの声が聞こえたと思ったんだけどなー」

 

 そう言って頭を掻いている。

 ん?なんだ、どういうことだ?すぐ目の前で3人で抱き合ってるっていうのに……

 はっ!?まさか……

 

 俺は、そっと視線を下げた。そこには、さっきまで雪ノ下の頭が在ったはずだ。だが、今は何も見えない。そう何もないのだ。俺の手足でさえも……俺の視線の先にあるのは、誰も居ないように見える。ベッドだけ……つまり……

 

 『レムオル』

 

 ドラクエⅢの呪文の中でも、この呪文の用途はかなり特異だ。身体強化でも、攻撃魔法でもないこの魔法の効果は、ドラクエⅢのランシールで売っている『消え去り草』と同じ効果を持つ。

 そう……姿を消すことが出来るのだ。

 だが、これはあくまで姿を消しているに過ぎない。ドラクエの世界では、姿を消したところで、匂いや体温を感知して襲い掛かって来るモンスターたちから逃れることは出来ないし、消したからと言って、攻撃をすり抜けられるわけでも無い。ただ単に視覚的に見えなくなっているに過ぎない。

 だが、視覚情報に頼りがちな人間に対しては、例え視覚情報以外が残っていようと、その存在を隠すには十分な力を発揮できるわけだ。

 

 多分雪ノ下が咄嗟に俺達全員に掛けたのだろう……なんだかんだ言っても雪ノ下は、レベル60オーバーの大魔法使いだ。瞬間的に効果を発動させたということか。

 まあ、でも、動くことは出来ない。俺達がいるのは柔らかいベッドの上……少しでも動けば、不自然にシーツがよれたり、布団が沈んだりしてしまう。だからと言って、俺達が姿を隠しているとは思われないだろうが、知らないやつが突然何もないところで物が動く所を見れば、それはホラーでしかない。

 少なくとも、このベッドに異常があるという事だけは察知されてしまう。そのことを、俺達3人は良く理解していた。現に、俺の右腕に身体を押し付けてる由比ヶ浜は、さっきからプルプルと震えている……動くのを必死に我慢してるってことなんだろうが、声を出すことも出来ない今の状況では二人がどんな状況なのか確認することも出来ない。

 

 あー、早くどっか行ってくんねーかな……雪ノ下さん……

 

 

 雪ノ下さんはきょろきょろ辺りを見回しながら、俺達の頭のすぐ脇まで歩いて近づいてきた。俺に密着している二人の身体に、ぎゅっと力が入ったのを感じる。

 や、や、や、やばいって……なんで、近づいてくんだよ。

 このまま、ベッドにダイブとかされたら、もう一巻の終わりだ。

 俺達は震えながら身を縮めて息を殺していた。だが、雪ノ下さんは、そのベッドわきのチェストの前で立ち止まり、そこに立てかけてあった写真立てのような物を手に取ると、それを持ってさっさと部屋から出て行った。

 

 俺はそれを見送ってから、小声で二人に話しかけた。

 

”お、おい……ここじゃまずい、とりあえずどっかに隠れよう……”

 

 まだみんな透明なままだが、肌には二人の柔らかい感触もある。3人で手をつなぐと、そのまま、ベッドから起き上がり、そして、雪ノ下の先導でそっと、部屋の隅にあるロフトの階段を上った。

 このロフトは、まあ屋根裏のような感じらしく、結構な広さもあり、リビングの上の辺りまで続いている。要は物置なので、奥の方には窓も何もないので真っ暗だったが、灯りを点けるわけにもいかないのでそのまま3人で静かに這って移動した。

 とりあえず、大きな柱の陰まで来た俺達は、そこでやっと一息ついた。レムオルの効果はすでに切れている。

 

「どうなってんだよ雪ノ下。なんで雪ノ下さんが家に居るんだよ」

 

 俺のその言葉に、雪ノ下も困惑顔だ。首をゆっくり横に振ると、静かに言った。

 

「分からないわ……だって、今日は大学の合宿で戻らないと言っていたのだもの」

 

「とりあえず確認なんだが、今日俺達が泊まることを、お前は雪ノ下さんに言ったのか?」

 

 俺の質問に、雪ノ下は頬を染めて、首を横にふる。

 

「そうか……」

 

「そんなことよりさ、どうしようか……いつまでも隠れてられないよ」

 

 由比ヶ浜が俺の手を握って、不安そうにそう呟く。

 確かにコイツのいう通りだ。こんなところに隠れ続けることは出来ない。かといって、このまま何も無かったような顔して、雪ノ下さんの前に出て良いものかどうか……

 別に何もやましい事は、まだ、していないものの……そうは言っても、内緒で女子の家に泊まりに来ている訳だ……普通に考えたら、妹に手を出す不届きもの以外の何者でもない。

 さて、ではどうするか……

 リレミト使えば、マンションから脱出は出来るだろうけど、今パジャマ姿だしな。あ?それに荷物も置きっぱなしじゃねーか。

 なら、雪ノ下さんが出て行くのを待つか……とは言っても、普通に帰宅してきたんなら、出て行くわけもないが……

 となると、やっぱり直接会って話をするべきか……

 

 

「……あ。もしもし、お母さん?私……陽乃だけど……」

 

 

 突然、小さな声ではあるが、俺達の足元の方から、雪ノ下さんの声が聞こえてきた。どうやら、電話をしているようだ。相手は、雪ノ下のかーちゃんか……

 俺はそれを聞きながら、二人に視線を送る。二人とも緊張した面持ちでじっとしていた。

 俺達は、悪いとは思いつつも、その雪ノ下さんの話声に耳をそばだてた。

 

「……うん……うん……あ、それでね、今雪乃ちゃん具合悪いみたいで、眠っちゃってるの……あ、大丈夫大丈夫、私がちゃんと見てるから……うん……そう、どうも学校でね、体調崩しちゃったみたいでね……だから、今日はちょっと無理だから、また今度にしてあげて……うん、分かってるって……その為に私が付いてるんだから……はい……はーい……それじゃあ……」

 

 ん?どういうことだ?

 雪ノ下が病気?なんでそんな嘘をわざわざ雪ノ下さんがつくんだ?そもそも、雪ノ下さんはコイツの監視の為に一緒に暮してるんじゃないのか?

 でも、この感じだと、どう考えても、雪ノ下を庇っているように思える。

 俺はチラリと雪ノ下を見た。雪ノ下も困惑した表情になり、俺を見つめ返してきた。

 これは、少し考えなくてはならない。

 

 雪ノ下さんは、今日は帰る予定ではないのに帰宅した。そして、俺達の荷物も見つけてあるだろうに、ろくに探しもしない。

 俺と由比ヶ浜が泊まりに来ることを知っていて、それを邪魔しようと考えて来たのだとすれば、真っ先に俺達を探すはずだ。でも、そうしなかった。

 そのうえで、今の電話だ。母親と会話していたんだろうが、あの感じだと、今日雪ノ下は何か予定があったようにも聞こえる。それを、病気だと嘘の返事をしたという事は……

 

「なあ、雪ノ下……今日、お前おふくろさんと会う予定でもあったのか?」

 

 雪ノ下はふるふると首を横に振った。

 

「そんな約束はしていないわ……でも……」

 

 雪ノ下は何か、思い当たったのか、表情を曇らせて俯いた。

 

 俺と由比ヶ浜はあの3人で話し合ったあの時、雪ノ下から聞いていた。

 

 雪ノ下は、母親との間に確かに確執がある。親子だからと言っても、考え方に相違があって当然なのだが、雪ノ下の場合は少し状況が違う。

 雪ノ下の母親は、雪ノ下に対して『自分の好きなように、自由に』と小さいころから自主性を重んじるような対応をしてきたらしい。

 それは、家と家同士での結びつきの為の婚約をして、結婚をした母親自身の憧れからだったのかもしれない。

 好きな事を学び、楽しみ、そして恋愛をする。

 そんな事を雪ノ下に求めたのだろうか……母親は、徹底して彼女に『答え』を与えなかった。与えることで雪ノ下を束縛してしまうと考えたのか、自分なら、人からそんなことを言われたくないと思ったのか……真意は分からないが、雪ノ下は幼いころから全てを自分で考え、行動することを強要された。

 

 だがそれは、雪ノ下自身を苦しめ続ける呪いの鎖となった。

 『答えのない生き方』、こう言えば聞こえは良いが、要は全ての事象を自分で一から考えぬかなければならないという事……当然だが、それは楽な事ではない。自分の出した答えが合っているなんて保証はどこにもない。それが怖くて、一生懸命に聞いても教えては貰えない。そして諭すように、『あなたの思うようにしなさい』……そう言われる日々……いつしか雪ノ下は『答え』を自分で作り出すことの出来ない存在になった。

 模倣は重要だ。自分にとって全くの未知の物であっても、先人が居れば、それがヒントにもなる。だが、雪ノ下には模倣は許されなかった。自分で考え、自分で行動する。これほどきつく苦しいことはない。

 その所為もあり、雪ノ下は友人を上手く作ることも出来ず、壮絶な苛めに遭うことにもなり、そして最後には、頑なに心を閉ざし、ただ変わることを切望する存在になった。

 

 雪ノ下はあの時、俺達に救いを求めた。自分を認めてくれる存在、自分自身を委ねられる存在を彼女は求めた。

 結果として、俺達は今、そんな彼女の求めていた関係を築けている。だが、だからと言って、雪ノ下の母娘の関係が改善したわけではない。現にこうして雪ノ下はまだ実家には戻れていない。

 母親と会話が出来ない日々の中、実家に居辛くなった雪ノ下は、父親と雪ノ下さんの勧めで一人暮らしをすることになり、今はこうしてこのマンションに住んではいるが、未成年の女子がいつまでも独り暮らしというのもおかしな話だ。いずれは戻ることになる筈だが、ひょっとしたら、その類の話しだったのだろうか……

 

「なあ、お前ら……ここはやっぱり、雪ノ下さんときちんと話すべきだと思う」

 

 俺は顔を上げて二人を見ながら言った。二人とも不安そうな表情ではあったが、やはり何か思うところがあったのだろう。二人は俺の言葉に静かに頷いて返した。

 

 

 俺達は、ゆっくりと元来た道を戻り、全員寝室に降りてから、リビングへの扉を開いた。そこには、微笑みを湛えた黒髪の美女が、ソファーにもたれて優雅に座っていた。

 

「ひゃっはろーみんな!急にお姉ちゃんが帰って来たから、驚いて隠れちゃってたのかな?もうやだなーそんな深刻な顔しないでよー。お姉ちゃん泣いちゃうぞ」

 

 さも可笑しそうに笑いながらそう言った雪ノ下さんは、手に持っていたマグカップをテーブルに置くと、俺達3人を悠然と眺める。そして、俺が口を開きかけたその時、雪ノ下が一歩前に出て、先に話し始める。

 

「姉さん……さっきの電話、お母さんでしょう?何故、あんな嘘を……」

 

 その言葉に、雪ノ下さんはマグカップを口に運んで、それを少し飲んでから、話した。

 

「じゃあ、最初に比企谷君達に言っておくね。雪乃ちゃんと仲良くなってくれて本当にありがとう。これからも雪乃ちゃんをよろしくね」

 

 ぺこりとお辞儀をしてそう言った雪ノ下さんに俺達は呆気にとられた。正直、こんな素直にお礼を言われるなんて思いもしなかった。どういう風の吹きまわしなのか……

 暫く動けないでいると、雪ノ下さんは困ったような顔で、言葉を続ける。

 

「あはは……やだなあ、みんな、なんでそんな深刻な顔してるの?私が急にお礼を言ったからびっくりしちゃった?」

 

「え、えーと……それもありますけどね……俺は、二度と雪ノ下に近づくなとか言われるんじゃないかと、正直ビクビクはしてましたけどね」

 

「だから、そんなこと言わないってばー。君のおかげで、私も漸く安心出来たんだからね。それにしても、比企谷君、雪乃ちゃんどころか、由比ヶ浜ちゃんまで一緒に彼女にしちゃうなんて……まさかそこまでする子だとは正直思ってなかったなぁ……ほーんと……君って面白いね……普通じゃない!」

 

 雪ノ下さんは本当におかしそうにケラケラ笑う。

 

「ま、普通じゃないってのは、かなり自覚してますけどね。でも、俺は二人への自分の気持ちに正直に……」

 

「ストーーーップ!」

 

 急に雪ノ下さんが俺の前に人差し指を立てて、言葉の続きを塞いだ。

 

「そういう惚気話はね、私のいない所で3人でしてくれるかな?これでも私彼氏いない寂しい身の上なの……もうちょっと気を使って欲しいなー」

 

「はあ……」

 

「まあ、でも、比企谷君が私も仲間に加えてくれるって言うんなら、話しは別だけど?」

 

「な!?」「ちょ、ちょっと、姉さん」

 

「なーんて、冗談よ、冗談。さてと、さっきの話しの続きだったね」

 

 本当にこの人はつかみどころがない。話のペースは持って行かれっぱなしだし、俺達の意見はなかなか伝えられないし。もう、暫くは黙って聞いているしかないか……

 雪ノ下さんは、組んでいた足を下して、姿勢を正して雪ノ下を見る。そして言った。

 

「お母さんがね、雪乃ちゃんを今日連れて帰るって急に決めたのよ。それをさっきお父さんから聞いて、こうやって急遽私が戻って来たってわけ。こうでもしないと、お母さん、無理やり家に押しかけてきちゃうからね。三人のお楽しみ邪魔しちゃって本当にごめんね」

 

「んぐっ……」

 

 それ言われると何も言えない。本当にまだ何にもしてはいないのだが……でも、そこに母親乱入とかはマジ笑えない。どこの昼ドラだよ……少なくともそうならないようにしてくれた雪ノ下さんには感謝しないといけないな。

 真っ赤になった雪ノ下が、口を開いた。

 

「でも、それならなぜ姉さんが私を守ってくれたの?お母さんに言われて私を見張っていたのでしょう?それなら、放っておけば良いじゃない。私が実家に戻れば、こんな監視もしなくて良い訳だし」

 

「それはちょっと違うんだなー、雪乃ちゃん。お姉ちゃんはお母さんから言われたからってだけで、ここに居るんじゃないよ。私がお母さんに言って、一緒に暮させてもらってるの」

 

「え?」

 

「あー、その目は信じてないなー?本当にしょうがないなー。お母さんはね、雪乃ちゃんをすぐに家に連れ帰るって家で騒いだんだよ。でも、そんなことしたら、雪乃ちゃんまた昔みたいに、お母さんの操り人形になっちゃう。せっかく環境を色々変えて、雪乃ちゃんも変わり始めたっていうのに、ここで終わりにしたら、元の木阿弥。だからねお父さんと話して、もう少し、少なくとも高校を卒業するまでは雪乃ちゃんにはここで暮させてあげようってことにしたの。でもね……」

 

 雪ノ下さんは、ふふふと可笑しそうに微笑みながら俺達をみつめる。そして、テーブルに置いてある写真立てを眺めた……これはさっき寝室から持ってきた物なのだろうか……そこには、まだ幼い雪ノ下と、雪ノ下さんの二人が笑いながら写っていた。優しい眼差しでそれを見つめながら、雪ノ下さんが話始めた。

 

「でもね……雪乃ちゃんはもう大丈夫かもしれないね……気が付いてる?今の雪乃ちゃん、ちょっと前までと全然顔つき違うんだよ!うん!今なら大丈夫!お母さんに何言われても、今の雪乃ちゃんなら多分平気だね!好きな人できると、こうも変わるんだねー、お姉ちゃんびっくりだよ!私も恋愛しちゃおっかなー……ねえ、比企谷君!」

 

「うぐっ……そこで、なんで俺に振るんすか……ちょっと勘弁してくださいよ」

 

「あははは……だってここに男子って比企谷君しかいないんだもん。まあ、そういう事。雪乃ちゃんはもう大丈夫そうだし、比企谷君も由比ヶ浜ちゃんも信じられるし……もうそろそろお姉ちゃんもお役御免かな?」

 

「ね、姉さん……」

 

 雪ノ下さんは薄く微笑んで、もう一度俺達3人を見る。そして大きく伸びそした。

 

「話はこれで御終い……あ?もう一つだけあったね。雪乃ちゃん、お母さんも色々あるけど、全部雪乃ちゃんの為を思っての事だからね。それだけは忘れないであげてね」

 

 雪ノ下はその言葉に、拳を握って胸に当てた。そして言った。

 

「ええ……解っているわ……後でお母さんとはちゃんと話しをするわ……」

 

「そう?なら良かった」

 

「姉さん……」

 

「ん?」

 

「……本当にありがとう……」

 

「どういたしまして」

 

 ニコッと笑った雪ノ下さんが、手に荷物を持って立ちあがって歩き出した。俺達はその背中を静かに見送った。

 いつも何を考えてるか分からない不思議な女性。いつもあれやこれやと難問を持ち込んで俺達を悩ませてきた張本人……だが、その本意を今理解できたような気がした。

 由比ヶ浜が、どこか嬉しそうに微笑みながら俺を見返してきた。雪ノ下は、穏やかな表情のまま、うっすらと目に涙を浮かべ雪ノ下さんを見送っている。

 俺達はやはり感謝しなくてはならないのだろうな。いつも見守り続けてくれたこの優しい姉に……

 そう、心から思うのだ。

 

 雪ノ下さんがリビングから出たところで振り返りながら言う。

 

「じゃあ、みんな、私自分の部屋でもう寝るから、あんまり騒がしくしないでね。じゃあ、おやすみー」

 

 え?

 

 雪ノ下さんもここに泊まるの?ってかここに住んでるんだったな……

 

 前言撤回!

 やっぱり鬼だ!悪魔だ!魔王だ!

 今日だけは、俺達3人にしてほしかったあああああああああ!!

 

 という、俺の心の叫びも虚しいままに、雪ノ下さんはさっさと自分の部屋へ。

 

 

 取り残された俺達はお互い顔を見合わせる。

 雪ノ下さんと話したりで結構時間も経ってしまい、もうそろそろ寝てもおかしくない時間。まあ、俺は寝ないつもりで来たんだが、まあそれは良いとして、二人はもう寝る気まんまんの様だ。俺は二人に手を引かれ、雪ノ下さんの部屋の隣、ばっちり音響設備の整った先程の寝室へと3人で向かった。

 雪ノ下も、由比ヶ浜もとても幸せそうで……はあ……こいつら、別にアレを期待してたわけじゃなかったんだな……

 三人でいそいそと一緒にベッドに入る。俺は真ん中、右側に由比ヶ浜、左側に雪ノ下。二人は幸せそうに俺に抱き付いてきて、二人とは「おやすみ」と、軽くキスだけを交わす。そうキスだけ!

 

 ぬぐわああああ!!

 

 これでどうやって寝ろってんだああ!!

 

 いや、待てよ……まさか本気で寝る気じゃあるまい……多分……きっとだが、二人も何か期待してるはずだ。きっとそうだ。

 だけど、そうなると、俺から手を出さなきゃならないわけか……となると、どっちからだ?雪ノ下か?由比ヶ浜か?それとも、このまま二人の身体を同時に……

 

「スウスウ……」

 

 仰向けの俺は完全に二人にサンドイッチ状態で、二人とも俺の二の腕を枕に頭を寄せているのだが、そのどちらからもスウスウと寝息が聞こえ始めていた。へ?何?寝息か?本気で寝ちゃったってのかー……いや、マジかー……マジなのかー!?

 焦るその俺の左右の足には、二人の少し冷たいそれぞれの脚が絡んで来ていて、二人が寝返りを打つたびに、いろんなところが擦れて、俺の一部がそれに過剰に反応してしまってる。というか、痛い!痛すぎる!せめて脱ぎたい!(え、なにが?)

 

「ヒッキー……大好き……」

 

「愛してる……八幡……」

 

 そんな二人の寝言に身もだえながらも、全く動くことが出来なかった俺は、ひたすら脳内でラリホーを唱え続けた。

 

 

 翌朝、目を覚ますと、ベッドわきの例の機械から伸びるヘッドフォンに二人が耳を当て、何やらきゃっきゃと嬌声を上げている。

 って、なに勝手に録音してんだ!それ禁止って言ったよね?俺!

 はあ、まあ別にいいか……でも、自分じゃ絶対聞きたくない。聞いたらもう二度と立ち直れないまである。

 まあ、でもアレだな。昨晩はあれだけ悶えて苦しんだけど、まあ、一晩乗り切ればなんとかなるもんなんだな……流石自意識の化物と言われた俺だ。でも、アレだ……雪ノ下さんがいなければ、多分こんなに大人しくしてなかったろうな、俺だって男で、オスだ。一周周って、よく耐えたって逆に褒めて……

 

 

 

 アレ?

 

 

「あ、ヒッキーおはよう」

 

「八幡!おはよう」

 

 そう言った二人が同時に俺に顔を近づけてくる。そんな二人の唇に、おはようと言いながら俺はキスをした。

 満足そうに、顔を緩める二人を眺めつつ……

 

 

 両手でズボンを抑えたまま部屋を出た俺は、こっそりトイレでパンツを履き替えた。

 

 

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