『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(4)奉仕部の部室にて

 こうして、俺達3人の初めてのお泊り会は幕を閉じた。当初思っていた展開とはちょっと……いや、かなり……いやいや、非常にとんでもなくありえないくらいに、違ってしまってはいたが……ぐ、ぐふうっ……

 はあ……あの日のダメージはまだ抜けきってない……というか、やっぱり我慢は身体に悪い、悪すぎる。次はなにがあっても絶対我慢しない!というか、泣こうが、喚こうが、何が何でも絶対に……

 

「おにいちゃん、またしょーもないこと考えてるでしょ……このヘタレ!」

 

 荷台に跨った小町が、俺の顔を見てもいないだろうに言葉で心を抉ってくる。

 

「小町ちゃん?勝手にお兄ちゃんの心読まないでくれる?お兄ちゃんすぐに心折れちゃうからね」

 

「だーって、そうでしょー?二人と一緒の布団で眠ってなんで手を出さないかなー……おまけにムセ……」

 

「わーーーあーーーーあーーーーー、いーてんきだなーあー」

 

「誰が洗濯したと思ってんの!まったくもー。ちょっとは反省しなさい」

 

「はい……面目ない……」

 

 そう、あの日帰宅した俺は、あまりのショックにそのまま撃沈。暫くフリーズしているうちに、小町に着替えを全部カバンから引っ張り出され……あえなく全てを悟られてしまったという訳だ。

 はあ……情けない……

 まあ、でも小町は小町で色々と気をまわしてくれているのも分かる。雪ノ下にお礼の電話をしたり、由比ヶ浜にアドバイスのメールをしたり、俺以上にあの二人に気を使っている。そして今回のことで一つ分かったこと。それは……

 

 俺達ウブすぎる……らしい。小町談。

 

 本当に、その通りなんだろうな……俺達は……

 だったら、そう割り切って付き合えばいいか……という結論に俺達は達し、いろいろとまちがってはいるが、スキンシップ&プラトニックを進めている訳だ……どっちなんだよ!一体!

 

 その後の話しではあるが、雪ノ下はあの後、母親と会ってきちんと話し合いをしたらしい。そして、雪ノ下自らの申し出で実家に戻ることにしたようだ。本当に和解できたのかどうかは今の俺には分からないが、雪ノ下さんや、親父さんが味方で居てくれるんだから、まあ、問題はないだろう。ただ、雪ノ下のおふくろさんは、俺達が3人で付き合ってることには難色を示しているようだ。まあ、そりゃそうだわな。でも、それも含めて時間をかけて関係の修復を進めていくことになったわけだ。これは、俺も気を引き締めないとな……こればかりは誠意を以て頑張るしかない。俺だって、最後の切り札「駆け落ち」なんてのはしたくないしな。

 由比ヶ浜の方も、実は動きがあって、俺達3人であの後由比ヶ浜の家に挨拶に行った。3人で付き合っていることも最初こそ驚いていたが、そこはあの由比ヶ浜マ『3人なんて羨ましい~。ママも混ぜてほしい~』みたいなことを口走っていたな。隣に居たパパガハマさんが猛烈な勢いでお茶を噴射していたが、お願いですから、俺を睨まないでください。本当にスイマセン。ごめんなさい。こちらも同様で、時間をかけてお付き合いさせて頂くしかなさそうだ。

 

 こんな感じで、一応俺も彼氏を頑張っている。うちの家?ああ、うちは別にいいんだ。一応かーちゃんが居る時に二人を連れて行ったんだが、紹介した直後、特に何も話すでもなく、いきなり俺に向かってサムズアップ。はい、終了。

 その後、小町が、色々と二人に『お母さん、会えてうれしかったって言ってましたよー』とかなんとか、フォローを入れていたんだが、うちの家族、基本俺についてはどうでも良いからな。二人には悪いが、無視という最大の祝福を頂いたという事にしてもらおう。でも、本当にうちの家族はしょうもない。アリアハンのとーちゃんの方が、よっぽど親らしいよ。まったく。いやマジで!

 

「ウー……お兄ちゃん……ドキドキしてきたよー」

 

「大丈夫だ!お前なら……そんなに心配すんな」

 

「うう……でも……」

 

 荷台に座る小町がだんだんと弱気な事を口走るようになってきた。まあ、でも無理はないか……いくら自己採点が良かったと言っても、どこか抜けがあるかもしれない。名前を書き忘れたり、答えの書く欄をずらしてしまっていたり。

 それでも、俺はそんなに心配していない。小町の持ち帰った答えを俺なりに確認したが、全教科かなりの点数を取れてるはずだ。本当に小町は頑張った。高得点の一部の教科に偏った俺とは違い、この感じなら間違いなく大丈夫だろう。

 そう……今日は総武高校の合格発表の日だ。俺は小町を連れてその発表を見に向かっていた。そして、その目的地はもう目と鼻の先。親に連れられて発表を見に来ている受験生の姿もちらほら見えてきた。

 

「あ!ヒッキー、小町ちゃーん、やっはろー!」

 

「おお……由比ヶ浜、それに雪ノ下も、お前達も来てたのか」

 

「えへへ……だって、今日は大事な小町ちゃんの発表の日だよ!来ないわけないよ!」

 

「本当にその通りよ。さあ、小町さん、結果を見に行きましょう」

 

「あ、は、はい……」

 

 正門で俺達を迎えた由比ヶ浜と雪ノ下の二人が、小町の肩を抱いて歩いた。その先……合格者の番号の貼ってある掲示板には黒山の人だかり。そこには、手を上げて飛び跳ねている子も居れば、俯いてしまっている子もいる。それは2年前の俺達の姿でもあった。緊張しないわけがない。

 

 小町は震える手で受験票を目の前に持ってくる。そしてその番号と、掲示板を交互に見比べるそして、暫くして受験票に視線を落として固まってしまった。

 俺達3人はそれを固唾を飲んで見守っていた。どう転んでも、これは努力した結果。事実は受け入れるしかない。雪ノ下と由比ヶ浜の握った手にも力が込められていた。

 

 そして……

 

「あった……」

 

 小町がポツリと呟いた。

 

「あったよー……小町の番号あったよー。おにいちゃん、おねえちゃん、小町、小町受かったよー!!」

 

「おめでとう!小町ちゃん!」

「おめでとう!」「やったな、小町!」

 

 うんうんと頷きながら涙する小町を俺達は、みんなで抱きしめた。

 

 

 

 

「では、お祝いをしましょうか」

 

「うん、小町ちゃん、合格おめでとー!かんぱーい!」

 

「あ、あ、ありがとうございます。小町、小町、本当に嬉しいですー」

 

 俺達は今奉仕部の部室に居る。そして長机を囲むように4人で座る。以前は俺と雪ノ下が対局で座っていたが、今は、俺の両隣に二人が居て、更にその隣に小町が居る。もはや長机の半分も使っていない。

 たまたま、今日は平塚先生もいて、小町の事を話したら特別にとこの部屋の使用許可をしてもらったわけだ。

 お祝いと言っても、ここには紅茶くらいしかない。だからさっき俺が自動販売機でオレンジジュースを買って来た。流石に紅茶で乾杯は、雪ノ下スペシャルの冒涜でもあるしな……それに、ジュースの方が雰囲気もでるし……

 

「へー?ここが奉仕部なんだね、お兄ちゃん。いつもここで活動してるんだね」

 

「おお……まあ、そうだな」

 

 ほとんど本を読んでるだけだけどな。

 小町の隣に座った由比ヶ浜が、小町を見ながら、話しかけた。

 

「ねえ、小町ちゃん。小町ちゃんも奉仕部入る?」

 

「はい!絶対入ります!小町は入って、お姉ちゃん達のお世話をさせていただきます!」

 

「い、いえ、別に私達の世話をして頂く必要はないのだけれど」

 

「何を仰いますか、雪乃おねえちゃん。雪乃お姉ちゃんも、結衣お姉ちゃんも、お兄ちゃんの将来の大事なお嫁様!小町は小姑として、甲斐甲斐しくお世話をさせていただきます」

 

「おい、小町……その小姑なんかちょっと違くないか?」

 

「お兄ちゃんがこんなに頼りないから小町が頑張るんでしょうが!お兄ちゃんがしっかりするまで、小町はお姉ちゃん達もしっかり面倒見ますからね!」

 

 にひひっと笑った小町が、俺達を見る。その笑顔、ちょっと何か企んでそうで怖いんだが!

 

「なんだ?随分と楽しそうじゃないか」

 

「平塚先生……ノックを……」

 

 ガラガラっと扉が開いたかと思ったら、平塚先生がつかつかと入って来た。そして、いつものように雪ノ下が注意をしようとしていたが、彼女はその言葉は止めた。雪ノ下は優し気な表情をしている。こんな余裕も雪ノ下の良い変化なんだろうなと思う。

 

「ほぅ……」

 

 そんな雪ノ下を見つつ、満足気なため息を漏らす先生。先生は、目を細めて俺達を見回した。

 

「いや、すまない。ノックだったな……気をつけるよ。でも、やはり、君たちを一緒にさせて正解だったようだな。みんな良い顔をしている」

 

 先生は、そう言いながら、積んである椅子を二つ手に持って、俺達の側にそれを置いた。そしてそれの一つに腰を掛ける。

 

「ま、まあ……3人で付き合うようになったと聞いた時は……は、は、はらわたが捩れるくらい……む、む、ムカつきもしたが……はぁ……けっこんしたい……」

 

「せ、せんせい……ちょ、ちょっと、震えながら、俺の腕に爪立てないでください!」

 

 ウルヴァリンか!あんたは!!それとぼそりと悲しい事言わないで―。

 

「ふう……済まない……まあ、でも良い方に向かっていると私は確信しているよ。それで、あれはどうするね?」

 

 突然そう言われて、俺達は首を捻る……あれと言われても、咄嗟に思いつくのは……ああ、あれか!『勝負』!『勝った人の言う事をなんでも聞く』というアレ。

 ほぼ同時に思い出した俺達は、3人でお互い顔を見合わせた後、頷き合って先生に答えた。

 

「勝負の件でしたら、俺達は、3人とも辞退します。もともと勝負で手に入る様な関係を誰も望んではいませんでしたし……それに、俺達にはもう必要ないことです」

 

 そう、俺達にはもう必要ない。お互いのことを理解しようと努めることが出来るようになった俺達には、そんな強制も、制約もなんの意味もない。欲しい物はいつだって目の前にある。ただ、それにどう手を伸ばしていいのか分からないというだけの事でしかない。

 俺達にはそれが出来る。だから、あえてそれを使いたいとも思わない。

 

「ふむ……なるほど、良く分かった。では、私の勝ちと言う事で文句はないな」

 

「え?」

 

 先生が腕を組んだまま何か不穏な事を口走る。

 一体何をする気なんだ、この人は……

 

「君たちが辞退したんだ……この部を管理する私に、その権利が返ってきてもおかしくはあるまい。と、いう事で、君たちに命令する」

 

 うおっ……本当に何やらせる気なんだよ……俺たち、あんたのサーヴァントじゃないからな。

 焦る俺達をしり目に、ニヤリと笑った先生が人差し指を俺達に付きだして言った。人に指向けちゃいけません!

 

「ふふふ……この部の新入部員だ。当然拒否はなしだぞ。さあ、入り給え」

 

 そう言われて、入口を見る。そこには黒髪の少女が立っていた。

 肩までのショートヘアーだが、その佇まいはどことなく雪ノ下を彷彿とさせる。彼女はゆっくりと部室へ入ってくる。でも、何か妙な感じだ。俺の記憶ではこんな知り合いはいない。というより、女子の知り合いなんて、両手で数えられるくらいしかいないわけだが、何故か、知っているような気がする。でも、誰だ?どこであった?

 俺はその妙な既視感に悩みつつ、ふと、雪ノ下と由比ヶ浜の二人を見る。すると、二人は、その黒髪の少女を見ながら、急に目を大きく見開いて、口をアワアワとさせた。そして……

 

「い、一色……さん?」

 

「はあ……!?」

 

 その雪ノ下の声で、改めて彼女を見ると、そこには頭をこつんと自分の拳で叩きながら、ぺろりと舌をのぞかせている……そのあざとい仕草はまさに、一色!

 

「流石ですねー、やっぱりお二人にはこのくらいじゃごまかせませんねー。はあー、それにしても比企谷先輩にはがっかりもいいところですよー」

 

「い、一色なのか!?お、お前、いったいどうしたんだよ、その髪は……というか、新入部員!?お、お前、生徒会は!?サッカー部は!?」

 

 まったく気が付かなかった。よく見れば髪の色が違うくらいで、後はほとんど変わらない。女って、こんなことくらいで別人みたいに変わっちまうもんなのか……。

 呆然とする俺を見つつ、一色が話しかけてきた。

 

「サッカー部は辞めました。生徒会は辞めたり出来ませんけど、今までだって、ここには来れてましたから、問題はないですよね。それと、わたしー、実は最近失恋してしまいまして―、先輩方が恋愛のエキスパートってことを窺いまして、是非、こちらで修業をさせて頂きたいと!」

 

「わ、私達は別に、エキスパートでもなんでもないのだけれど……それに、そもそも奉仕部は奉仕の精神を理解したうえで……」

 

「拒否は無しと言ったはずだぞ、雪ノ下。一色の入部は私の命令だ、逆らうことは許さんぞ」

 

「うっ……は、はい……分かりました」

 

 雪ノ下は、なにか納得いかない風ではあるが、しぶしぶと言った感じで頷いていた。

 それを見た由比ヶ浜が、ジュースの入った紙コップを手に持って、みんなに声を掛ける。

 

「じゃ、じゃあさ、今日は小町ちゃんも合格したし、入部もするし、それに、いろはちゃんもはいるんだからさ、みんなでお祝いに、もう一度乾杯しようよ」

 

 それを聞いた小町と雪ノ下が、もう一度、人数分のジュースを用意する。

 それを待っている間に、一色がぴょこんと俺に近づいてきた。こいつ、いったいどんな裏取引を先生としたんだか……

 

「まったく、お前も懲りないやつだな……また葉山に告白してついに部活まで辞めちまいやがったか……」

 

 それを聞いた一色が、はあーっと大きなため息をひとつ吐く。そして……

 

「比企谷先輩のにぶちん具合も半端ないですねー。まあ、もともと期待もしてませんけどね。えーと、失恋したってのもありますけど、生徒会長だしちゃんとした方がいいかなって、髪の色もどしたんですよ。どうです?似合いますか?」

 

 そう言って、俺の前でくるりとまわって微笑んだ。えーい、あざとい……っていうか、あざとすぎる。

 

「お前な……自分でそんなに可愛いでしょアピールされたら、似合うとしか言えないじゃねーか。そもそも、平塚先生になんて言って許可してもらったんだよ」

 

「それが乙女に対して言うセリフですかー!本当にもうせんぱいは……おっと、え、えーとですね、平塚先生には、私の警察官の従兄弟を紹介するって言っただけですよ、独身の」

 

「そういうの裏取引って言うんだよ。はあ、相変わらずだな、おまえは……」

 

 本当にこいつは相変わらずだ。この前はあんなに泣いてたし、今日は突然髪の色を黒く変えてたからよっぽどショックを受けたんだと思って心配していたが、そうでもないようだな。まあ、このノリの方が一色らしくていいか……

 

「はい、ヒッキーの分!」

 

「おお、サンキュー」

 

 由比ヶ浜が俺にまたジュースを渡してくれた。ふと見ると、俺の両脇に、雪ノ下と由比ヶ浜が寄り添って立っていた。そして、雪ノ下が一言。

 

「一色さんと随分と仲が良い様だけど、私達に浮気と判断されないように気を付けることね、不義ヶ谷君!」

 

「お、おい、それなんか妙に比企谷っぽくてかえって嫌なんだが……っていうか、苗字呼びに戻ってる!?」

 

 雪ノ下は少し怒ったように、ふんと顔を逸らした。由比ヶ浜はそれを見て、困ったように眺めつつ、そっと、俺の下している手を握ってくる。

 く、くそ……可愛いじゃねーか……ふたりとも……

 そんな俺達に他の連中が、シラーっとした視線を送ってくる。

 俺は、手に持ったコップを慌てて、上げて、声を出した。

 

「そ、それじゃあ、小町と一色の入部を祝って……乾……」

 

 グラグラグラグラグラッ…………

 

「きゃああああああ!!」

 

 俺の音頭が終わるか終わらないかの、その時、突然足元が大きく揺れた。

 

 

 

 

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