『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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【八幡達のDQⅢから始まる異世界探訪。】③ダンまちの世界
(1)緊急神会


 薄暗いその広間には、大きな円卓がおかれており、それを囲むように複数の人影があった。

 普段であれば、退屈をもて余している彼らは軽口を言い合い、他を貶めて喜ぶことを是とする、ひたすらに享楽を求めるだけの存在であるはずなのだが、今回に関しては沈鬱な表情を浮かべて押し黙ったままでいる。

 なぜなら、ここに最も必要な(じんぶつ)がまだ到着していないから。

 

『緊急神会(デナトゥス)

 

 会は重々しい空気を纏ったまま、時を止めてしまっていた。

 そこへ……

 

「あ、あのぅ、お、遅れて……すいませ……」

 

 大きな入り口の戸が開き、そこからひょっこりと小さな頭が生える。

 その(じんぶつ)が声を出したその瞬間、円卓に鎮座していた超越者(デウスデア)達が一斉に立ち上がり、その頭を垂れ、そして一斉に声を発した。

 

「「「「「お待ちしておりました。創世神ルビス様。」」」」」

 

「ひっ……」

 

 ルビスと呼ばれたその小さなローブ姿の少女は大音声で放たれるその面々の声に驚愕し立ちすくんでしまう。

 彼女は思う。『めっちゃ怖い……と』だがしかし、ここで帰る訳にもいかない。

 なぜなら、彼女はこの世界でもっとも重要な『箱』を傷つけてしまった一人でもあるからだ。例えそれが自分の意思と関係なかろうとも、この世界を作った者の一人として、このような事態を引き起こしてしまったことには責任を持たなくてはならない。

 彼女は自分達がしてしまったことの意味を深く理解していた。この場にいる誰よりも。

 

”ああ、こんなことになるのなら” 

 

 彼女は思う。

 

”神龍様達と一緒に来なければ良かった”

 

 自分達のしでかしてしまったことの大きさに目眩を覚えつつも、それでもこの世界の安定を一番に考えなくてはならないと、円卓の空いていた大きな椅子によじ登ってちょこんと座った彼女は、その幼い容姿のまま、怯えた声音でその場にいる全員に向かって言葉を送った。

 

「あ、あの、『聖域(ダンジョン)』に大きな穴を開けてしまって、本当にごめんなさい。」

 

 ぺこりと頭を下げつつも、穴を開けた張本人である神龍と、神龍よりもさらに強くなってしまった人間の青年に文句を言いたくなってきていた。

 

「べ、別に、もう済んでしまったことやし、気にせえへんでええんとちゃう?どうせダンジョンは勝手に直ってまうし」

 

「そ、そうね……ルビス様達も悪気があったわけではないことだし、この話は終わりと言うことでどうかしら?」

 

「「「「さ、さんせーい」」」」

 

 赤毛の神ロキの言葉を受けて、妖艶な色香をその身に纏った神フレイヤが、冷や汗混じりにそう言ったのを皮切りに、まわりにいる男神達が一斉に頷いている。

 

 その様子を見たルビスは、ホッと大きく一息ついてから、少し表情を緩ませてみんなに向き直った。

 

「ありがとうございます、皆さん。いきなりやって来ちゃったし、迷惑かけちゃってたから、少し安心出来ました」

 

 そのルビスの言葉に、最初に反応したのはやっぱりロキ。

 

「いややなあ、そんな他人行儀に。うちらとルビス様の仲やないですかぁ。困ったことありましたら、なんでも言うたってください」

 

「そ、そう?ロキさんありがとうね。じゃあね、取り合えず聞きたいんだけど、どうしてみんな下界にいるの?」

 

 その瞬間、その場が凍りつく。

 ルビスにおもねるように、手を揉んでいた神ロキも笑顔をヒクつかせて固まってしまい、神フレイヤに関しては、組んだ足に視線を落とし、穏やかな表情のまま時を停めていた。他の神達も視線を逸らしたり、手帳を開いてみたり、顎に手をあてたりと、皆が皆、一様にソワソワとし始めた。

 それを見つつ、ルビスは首を傾げて問いかける。

 

「あ、れ?み、みんなどうしちゃったの?」

 

 その言葉にすぐに反応できる者は、やっぱりこの場にいなかった。

 そんな神達の様子を眺めつつ、ルビスは言葉を続ける。

 

「『現世不可侵』は絶対だもんね。こんなにたくさん降臨してるなんてよっぽどだったんだね」

 

 まさか、人間ライフ楽しんでます!とも言えず、だからと言って言い訳しようにも、八百万(やおよろず)の神々が結託して、下界降臨をある種、ツアー感覚で執り行ってしまっているため、どんな言い訳も今は出来ないでいた。

 そんな中、一人の大神が言葉を発した。

 

「発言を御許しください、ルビス様」

 

 ルビスの対面の大きな椅子に腰を掛けるその姿は、まるで山を彷彿とさせるどっしりとしたもの。そして、その姿を、この場に居合わせる神々であっても、容易に見ることのなかった神が突然沈黙を破った。ギルドを裏から管理し、このダンジョンの脅威を1000年に渡り封じ続けてきた苦労多き神、ウラヌス。

 彼はルビスが小さく頷くのを見てから話し始めた。

 

「ことの始まりは1000年前の『聖域』の暴走からでした……」

 

 ウラヌスはここ最近起こったこと……と言っても、要は1000年前からのことではあるが、この地に起こった異変を語る。

 増幅する悪意、恐慌する人類、混乱する天界……。

 そして、それを納めるべく、神々はあることを決意する。

 

 現世不可侵の原則を守りつつ、自分達に成り代わり世界を救う救世主を誕生させる。

 

 この題目を掲げ、多くの神々が力を封印して下界へ赴くことになる。そして1000年。

 ウラヌスは言葉を続ける。

 

「英雄の器は、現れては消え、現れては消えを繰り返し、ですが、確かに新たな力は育っています。我々が子供達に与えることが出来るのは僅かな恩恵(ファルナ)のみ。子らは、その僅かな神秘を自ら鍛え伸ばし、成長し続けています。そして、いつか彼の者を討ち滅ぼせると我々は信じています」

 

 その長いウラヌスの話しに、ルビスも再びため息をつきつつ、返した。

 

「つまり、アレが生まれようとしている訳ですね。ウラヌスさん、どうしてこうなっちゃったの?この地は人々の篤い信仰と多くの神々の恩恵で、安寧だったでしょう?少なくとも、聖域が侵されるようなとこじゃなかったのに」

 

「子らは弱いのです。欲にまみれ、奪い合い、殺し合い、果てのない戦乱を続け、いつしか信仰は廃れ、本来の姿を失いました。そして、我々の力も弱まり、ついには聖域が暴走するまでに至りました。直接介入は我々の本意とするところではありませんでしたが、致し方なかったのです」

 

 沈鬱な表情でそう語る神ウラヌスに、一人、また一人と頷き始め、終いには全神がこのビッグウェーブに乗り遅れてはなるまいと、コクリコクリ、頷き合いの大合唱に。『そういや、そうだった。うんうん』なんて、声も聞こえる。

 そして、しばらくして、精霊神ルビスが涙ながらにつぶやく。

 

「み、みんなも大変だったんだねぇ。人間の堕落は神の責任だもんねぇ……。わ、私もついこの前までその苦しみを味わってたから、よく、よく分かるよ……ぐすん」

 

 神々は話すルビスを見て、ホッと肩を撫で下ろしている。ルビスは言葉を続けた。

 

「でも、良かったぁ。皆さんが神の仕事をほったらかして好き勝手に遊んでるなんてなってたら、皆さんを『消去(リセット)』しちゃうとこでしたよ~。私もハラハラでしたよ。みなさんが真面目に神様やってて本当に良かった!えへへ」

 

「「「「「ふあっ!!」」」」」

 

 にこりと微笑んだ、その幼女神に見つめられた途端に、その場の殆どの神が絶句した上、だらだらと脂汗をかき始める。

 ただ一人、ウラヌスだけは真摯な眼差しをルビスに送っていた。

 

「つきましてはルビス様。ルビス様のお連れになられた異世界の方々にも是非とも御協力いただきたいのですが、宜しいでしょうか。私には彼の者達から非常に強い力を感じるのですが」

 

 ルビスはその言葉に少し戸惑いながら答えた。

 

「八幡君達は今回巻き込まれちゃっただけだから、あんまり危ない眼に遇わせたくないなあ。聞いてみて大丈夫そうならお願いしてみるよ。あ、オルテガさんは多分頼めばいくらでも戦ってくれると思うよ!神龍様と戦いすぎて飽きたって言ってたから」

 

 それを聞いた神達がぽかーんと口を開けて呆けている。無理もない。神龍と言えば創世の時代に宇宙を作った超越者。その尾の一凪ぎで星を破壊しうると言われる絶対の存在。あまりの力に居場所を失い、竜の世界……つまり、創世の精霊神ルビスの創造した世界に身を寄せたという伝承も神々の中では残っている。

 その神龍と戦える力を有する人間とは……

 

 レベルにすればいったいどの位置であるというのか。

 

 唖然とする一同を見回しながら、こほんと咳払いをしたウラヌスが改めて謝辞を述べる。

 

「ありがとうございます。つきましては、彼らが望むのであれば、ギルドとしても最大限尽力致しましょう」

 

「あ、本当に色々ありがとうね。じゃあさ、一先ず教えて欲しいんだけど、子供達のレベルってどうなってるの?それから、恩恵(ファルナ)は、どうやって授けてるの?」

 

 その後ルビスは、その場に居合わせた神々により、様々な指南をうけることになる。そしてその流れで八幡達のレベルが公開され、その場の全員が再び凍りつくことになるのだが……。

 

 こうして、かつて聖域とも呼ばれていた『迷宮(ダンジョン)』に現れた多くの異変について、神達の間では一応の決着がついた。

 

 だがこの時、この一連のイレギュラーによって、かつてない程の脅威が生まれ出でようとしていることを、この場に居る神でさえ、まだ誰も気がついてはいなかった。

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