『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(3)そうだイチャイチャしよう

 あちらこちらの街路灯に、優しい淡い魔石の明かりが灯り、町は穏やかな夜の顔を覗かせていた。

 

 で、俺達は……

 

「ねえ、ヒッキー……、素敵な夜景だね」

 

 手すりに寄りかかった俺に、由比ヶ浜がその体を預けている。この高層階のテラスには俺と由比ヶ浜の二人だけ。

 眼下には先程から見える淡い魔石の赤い光があちこちに点在していて、幻想的な風景を演出していた。

 ふいに、由比ヶ浜が俺の腰に手を回しつつ、少し背伸びをして俺に顔を近づけて来ている。それに気がついて、チラリと横目に見ると、頬を朱に染めた由比ヶ浜が潤んだ瞳で俺に何かを訴えかけるように唇を震わせている。

 

 ごくり。

 

 俺は冷えた由比ヶ浜の手を取りつつ、もう片方の手を由比ヶ浜の腰にまわした。

 

「や、やん……」

 

 触れた俺の手に、ビクっと身体を震わせた由比ヶ浜が、震えながら俺にその体を押し付けてきた。その彼女の柔らかな膨らみの感触に心音が速くなってくる。

 どれだけスキンシップを繰り返していようとも、毎回こうやって抱き合うところはどうしても慣れない。まあ、慣れちゃダメなんだろうが……。

 俺の胸の中で恍惚とした表情に変わり始める彼女は、静かに瞳を閉じ、そっと唇を俺に寄せてきていた。俺は……

 彼女をキツく抱き締めながら……唇を重ね……

 

「こほんっ!んんっ!んんんっ!」

 

「な、なんだよ」

 

 俺と由比ヶ浜の唇が触れるその瞬間に、俺達の真横、それも数センチの距離のところに、雪ノ下がその顔を近づけて、いつもの咳払い。

 

「い、いえ、別になんでもないのだけれど……、でも、ちょっとその……わ、私も……その……」

 

 真っ赤になって強気に顔を寄せてきたわりには、雪ノ下は歯切れが悪い。俺は気勢を削がれて、由比ヶ浜から手を放そうとしたが……。

 急に由比ヶ浜が微笑んだまま、俺の唇に激しく吸い付く。そして、今度は雪ノ下と俺の二人に抱きついて、抱え込むように俺と雪ノ下の顔も近づけさせられて……。

 そのまま俺と雪ノ下が唇を重ねる……。

 こいつもこいつで毎回同じなんだが、雪ノ下はキスをすると、一瞬で蕩けた顔になっちまって全身の力が抜ける。だから、今回も俺と由比ヶ浜の二人で、抱いて支えた。

 それにしても……。

 なんで由比ヶ浜のヤツは毎回こんなに幸せそうな顔になるんだ?

 雪ノ下にキスしちまってる俺の言う台詞じゃないが、嫌じゃねえのかな。

 今回もちょっぴり芽生えた罪悪感もあって、俺は微笑む由比ヶ浜の頭を軽く撫でながら、そのままそっと唇を吸った。

 

「えへへ……。ヒッキーやさしい。ヒッキー大好き」

 

「お、俺も、ススス、好きだ、その、結衣も、雪乃……も」

 

「八幡……わ、私も……好きよ」

 

「お、おう……」

 

 三人で抱き合った俺達は、そのままいつまでもいつまでもイチャイチャしていたのだった。

 

 

 

 おしまい

 

 

 

「って、なにやってんの、お兄ちゃん達!まったくもう!」

 

「おお?小町、ちょっと恋人としての義務を果たしてただけなんだが」

 

「だから、仲が良いのは分かってるんだけどね、何も、皆が見てるとこで、そんな昼ドラの最終回みたいな幸せな展開見せなくてもいいでしょうが!」

 

「いや、倫理にうるさい民放で、3人仲良しハーレムエンドなんて絶対やらねえから、それはない」

 

「もうっ!結衣さん、料理苦手だから待っててもらっただけなのにイチャイチャしてるし、雪乃さんもお兄ちゃん達呼びに行ってもらっただけなのに、自分も参加しちゃってるし~~~。反省しなさい」

 

「えへへ。ごめんね小町ちゃん」

 

「私もごめんなさいね。小町さん」

 

「ううっ!うーー……な、なんか二人とも素直でとっても可愛くて、悔しいです……。も、もう、いいから早く来てください」

 

 ぷいっと顔を背けた小町がスタスタとリビングに向かった。

 俺達3人は顔を見合わせて、苦笑してから部屋に入った。

 

「むう」

 

「な、なんだよ」

 

 何故か俺の目の前には、エプロンをして頬を膨らませている一色が立っている。こいつ、なんでこんなに怒ってんだ?

 

「本当に、結衣先輩と雪ノ下先輩と付き合ってたんですね。実際目の前で見せつけられて、本当にショックでした」

 

「わ、悪かったな……。俺もこんな風にしか付きあえないんだよ。まあ、その、なんだ……。失恋したばっかのお前に見せつけたみたいで、本当に悪かったよ」

 

 俺の言葉に、一色はびっくりしたように目を見開いて、そのあと、言葉を続けた。

 

「本当に、敏感なんだか鈍感なんだかわかんない人ですねー、比企谷先輩は。ま、まあいいです。いつか思い知らせてやりますよ、この唐変木」

 

「はあ?おまえ、なんだ急に」

 

「あんなの見せられて、黙ってなんていられませんよ。ほら、ご飯できましたから、さっさと食べてください!」

 

 そう言って、一色に背中を押されて食卓へ向かった。

 

 石の床の上に敷かれた、何か巨大な生き物の毛皮らしき敷物の上に、大きめの木製のローテーブルが置かれ、そこに色とりどりの料理が並べられている。

 天ぷら、唐揚げ、野菜炒めに、魚介の載ったサラダかな?それにご飯に、お吸い物まである。見た感じは普段の俺達の食べてるメニューに近い感じだ。

 その大きめの、所謂『ちゃぶ台』には、俺達の他にゲストが二人、身を寄せ会うようにというか、片方のツインテールの神様が無理やりに抱きついた格好で座っている。

 その抱きつかれた方の白髪赤目の少年も、抱きついている女神様も、二人とも真っ赤になって俺に視線を送ってきていた。

 な、なんで俺を見てるんだ?あの二人は。

 

「うわぁ、おいしそうだねぇ。こ、これ、みんないろはさん達が作ったの?」

 

 ちゃぶ台に身を乗り出すようにして、涎を垂らしつつ目を輝かせているのは、ルビス様。

 

「あ、はい。さっきルビス様からもらった材料で頑張ってみました。お米もあったし、お野菜とかも知ってるものに似てたので、小町ちゃんと雪ノ下先輩と手分けしまして。ねえ、小町ちゃん」

 

「はい!でも、後、お味噌とお醤油があれば、もっと色々できたんですけどねぇ」

 

「けれど、これだけ作れれば大したものだわ。小町さんも一色さんも、本当にお料理が上手ね」

 

「な、なんですかー、雪ノ下先輩。そ、そんな最高の笑顔で言われたら、は、恥ずかしいですよぉ」

 

「あら?本当のことを言っただけなのだけれど。一色さんは良いお嫁さんになるわ、うふふ」

 

「ふぁっ!?う、うう~~~……」

 

 うわぁ、雪ノ下に褒められて、一色のヤツ茹で蛸みたいになってやがる。なに、あいつ、雪ノ下のこと好きなの?ゆりなの?いろはす、ゆり味なの?

 そんなユルユリ空間の脇で、フォークとナイフを両手で握った幼子が目を血走らせてる。こりゃ、さっさと食べ始めんとな。隣に座る由比ヶ浜と、雪ノ下を見てから、俺は顔を正面に向ける。

 

「じゃあ、戴くとしますか」

 

 俺の言葉を皮切りに、みんなで一斉に食べ始めた。

 

「うわあん、お、おいしいよー。こんなに美味しいの生まれて初めて食べたよー。というか、1000年くらい封印されてたから、本当に久々だよー」

 

 なんかルビス様が泣きながら唐揚げ食べてるし。それを見て、雪ノ下も由比ヶ浜も一色も唖然としてる。おい、そんな可哀想なもの見るような目は止めろ。一応神様だから。小町はテキパキとみんなの皿にオカズよそったりしてるな。さすが出来る妹だ。

 ベルくんもなんか満足そうだな。って、おい、ヘスティア様、そのタッパーでなにする気だよ!

 

 とまあ、こんな感じで一色達の料理を堪能しつつ、ホームレスを一時的に脱した俺達は束の間の安息を得ているところだ。

 

 ここは、地下迷宮(ダンジョン)に蓋をするように、その上に真っ直ぐ聳える巨大な塔『バベル』、その上層階に位置するギルド管理の貴賓室であり、俺達はとりあえずここを寝床として提供された。

 貴賓室と言うだけあって、見るからに豪奢な感じの調度品がたくさん据えられていて、俺みたいな庶民からすればはっきり言って落ち着かない。

 確かここの最上階に、フレイヤっていうエロい神様がいるんだったけかな?で、ベル君狙ってるんだっけ。はあ、ハーレムフラグ建築士のラノベ主人公も大変だな。俺なら、とっくに逃げ出してるよ。で、家に引き込もって、一日中ゲームだな。あ、ここゲームないんだった。あちゃー。

 

 ベル君には、金も借りちゃったし、この世界の今後のこともあるんでとりあえず話だけはしておきたかったから、今日は来てもらったわけだ。おまけとして、巨乳の神様もついて来ちゃったわけだが、この神(ひと)本当に胸でかいな。由比ヶ浜といい勝負なんじゃねーか?って、い、痛ぇっ!

 案の定、邪なことを考えていたら、由比ヶ浜につねられた。

 

「ああ、お腹いっぱーい。御馳走様でした。あ、ヘスティアさんもベルくんも、ゆっくりしていってねー」

 

 膨らんだお腹をさすりながら、ルビス様が言った。って、結構食ったな、このひと。

 みんながいそいそと食器を片付け始めるのを見つつ、今後の方針をぼんやりと考えていると……。

 

「どうぞ……」

 

「ん?」

 

 すっと、俺の前に湯飲みが置かれ、それに雪ノ下がお茶のようなものを注いできた。

 

「あの……、紅茶のような茶葉があったから、淹れてみたのだけど……、あなたの口に合うかしら……。一応、香りは良かったのだけれど」

 

「お、おお……」

 

 めっちゃ熱そうではあったが、雪ノ下が直近で俺をまじまじと見下ろし続けてるから、なんとか頑張って一口啜る。

 

「ど、どうかしら?」

 

「あ、ああ、すごく……、旨い……」

 

「そう、良かったわ……」

 

 俺の言葉に安心したのか、雪ノ下はホッと胸を撫で下ろしている。く、くうっ……。こいつ最近どんどん素直になってきてて、なんか、なんか……。

 

「あ、え、えーと、えーと、あっ!そ、そうだ!ねえヒッキー、ゆきのん、あたし洗い物するね!みんなに作らせちゃったし、あたし、頑張るからね」

 

 そう言って、腕捲りをした由比ヶ浜が勢い良く立ち上がる。で、なぜか暫く俺をチラリと見下ろして立ち止まっている。こ、これはあれだな、『頑張っちゃうからちゃんと見ててね』光線ってやつだな。う~~~……。

 

「じゃあ、頼むな、結衣。えーと、さ、サンキューな」

 

「うんっ!!」

 

 由比ヶ浜は満面の笑顔で、パタタッとキッチンへ小走りで向かった。

 なんかちょっと前の俺には考えもつかない状況にいるな。これが恋人関係ってやつか……。

 リア充の連中がどうやって、カップルライフを送ってんだか知らねえけど、この何て言うんだ?共依存っていうのかな?俺はあんまり寄っ掛かってる気はしないんだが、最近の雪ノ下と由比ヶ浜の俺に対しての傾きが半端ない。

 まあ、まだなんだかんだ言って、二人に対して最後の一線を踏み越えていないし、俺の場合は心のどっかでブレーキを掛けちゃってるのかも知れないが、確かにいつでも二人を目で追ってしまってはいる。

 これ、今二人が俺にべったりで居てくれてるから、なんとなく平静を装おっていられるけど、この先別々に行動したりとかなったら、一体どうなるんだ?俺。

 

「良く見るんだ、ベル君。あれが俗に云う『天然ジゴロ』

ってやつさ。ああやって、女をコロリと弄んじまうのさ。君はあんな風になっちゃだめだぜ」

 

「えーと、聞こえてますよ。ヘスティア様」

 

「ひぃっ!ち、近づくな、このジゴロ!ぼ、ボクは、ボクはベル君だけのものなんだからね」

 

「え?」「へ?」

 

「うはああっ、わわわ……ち、ちがうんだベル君!じゃなくて、違わないけど……、じゃ、なくて、ボクはボクで、君がもので……うわああああっ」

 

 真っ赤になったヘスティア様が頭を抱えて立ち上がる。なんか、目がぐるんぐるんしてますよ。大丈夫かこの人。

 ヘスティア様はそのまま走ってどっかに行ってしまった。

 

「な、なに?あの神様どうしちゃったの?」

 

「なにかしらね?」

 

「さあな、神様にも色々あるんだろ。ズズ……」

 

 食器を取りに来た由比ヶ浜が不思議そうに呟いたのを聞いて、雪ノ下と俺が紅茶を啜りながら答える。

 

「あ、あのぅ、は、八幡さん!ちょ、ちょっとお話があるんですが!」

 

 俺の真横に、ベル君が真剣な顔で近付いてきた。

 

「あ?な、なに、金はまだ返せねえよ」

 

 仕事とかしてないし。

 

「あ、ち、違いますよ。ちょっと、その、相談したいことがありまして」

 

 ぐぬぅっ。ほら、これだよ。金借りた。とーちゃんほぼ食い逃げ。これ、もうどんなお願いも聞かないわけにはいかないじゃん。借金は身を滅ぼすって本当だな。

 

「ま、まあ、聞くだけなら、タダだしな。まあ、言ってみろよ」

 

「あ、はい、でも……」

 

 ベル君は周りをきょろきょろ見てる。由比ヶ浜や雪ノ下と視線が会うたびに、キョドって俯いてるし。

 あー、はいはい、女子に聞かれたくないってわけね。

 

「あー、じゃあ、テラスで聞こうか」

 

 そう言って、ベル君を連れて来たが、何故かまだうつむいたままだ。

 さーて、なにを聞かれることやら。

 いきなりゴライアスと死闘を繰り広げてるところに、俺達が現れて、自分達が必死の思いでやっと1体を倒した直後に、脇から出てきた俺達がなぜか100体以上を瞬殺しちゃったわけだしな。『その力の秘密を教えてください』とか言って来るのかな?

 それともか、異世界のことを聞きたいのかな?もう別に俺達が転移してきたってのはみんな知ってるしな。でも、総武高校のはなしとかしても、あんま意味ないな。そしたら、ドラクエの世界の話でもしてやろうか。

 もしくは、あれか。『雷神の剣』。さっきヴェルフに預けちゃったけど、ああいう強力な武器が欲しいのかもしれないな。ベル君、原作でもこの先結構苦労するしな。別にそれなら貸しっぱなしでもいいか。どうせ、今の俺には重すぎて扱えねえし。あ、そう言えば、あのゴライアス戦の後って、確かどっかの神様に因縁つけられて……。

 

「あ、あの……」

 

 思考の渦に嵌まっていた俺の前で、ベル君が意を決したように声を出した。

 

「あ、あの!八幡さん!ハーレムの作り方教えてください!」

 

「は?」

 

 この一見純朴そうなラノベ主人公の本性が、実はハーレム至上主義者だったことを、俺は唐突に思い出した。

 

 

 

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