『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
リビングの隣には、来賓用の客間なのだろうか、大きくて豪勢な革張りのソファーが向い合わせで置かれていて、そこを中心にやはり高価そうな壺や絵が飾られている。中でも目を引くのは、天に舞い上がるように描かれた巨大な黒い翼竜の絵画。その竜の足元にはたくさんの武器を構えた人間や、燃え上がる城が描かれており、一目でこの絵が恐怖の対象として描かれたと分かる。
そう言えば、原作でこんな『黒竜』の話が確かあったな。
魔石の仄かな明かりに浮かび上がったその絵を、ルビス様としばらく見上げた。
「八幡くんは、この竜を知っているの?」
ルビス様に唐突にそう聞かれて、さてどうしようかと改めて悩む。
俺は、ありのままをルビス様に話してしまおうと思っている。その方が面倒がなくていい。もともと、ルビス様の世界についてだって、ゲームの予備知識があったから、すんなりと攻略出来たわけだし、今回のこの世界についてだって、あっちの世界でラノベを読んでたから、なんとなく流れを知っている訳だし。
だが、本当にすんなりそれを話しても良いものなのだろうか。
ドラクエの世界でオルテガとーちゃんに言った時は、とーちゃんがああいう人だったから、別になんともなかったけど、普通に、『俺、この世界のラノベ読んだから、先の展開しってますよ』なんて言って、『うわあ、こいつ何イッチャッテんの?電波なの?』とか思われる可能性が極大だ。ほぼ十中八九そうなる、いや、そうなる展開しか思い浮かばない。
それに、すでに一部、俺の知っている展開からずれてしまってもいる。原作では当然とーちゃんや神龍や俺たちは現れないし、ゴライアスだって、最初の一匹だけだ。
だから、本当に知ってますと言い切るのも難しい。
これについては雪ノ下や由比ヶ浜にもまだ言っていないわけで、このまま黙って俺の記憶を頼りにみんなを引っ張っていくというのも一つの手だ。
だがなあ……。
正直、黙ってたって事態は進んで行くわけだし、原作で帰還の手段が描かれていない以上、その手段の獲得にむけて俺たちが動く必要がある。
だから、原作に沿う展開をただ待っていても、俺たちにとってはなんのメリットもないわけだ。となれば、原作をなぞりつつ、かつ、俺たちの必要な情報を俺たちが集めなくてはならない。
問題なのは、この幼女神(ひと)がどこまで信じてくれるかってことだな。
いくら俺たちがドラクエの呪文を使いこなせるようになってるとは言っても、力押しだけでなんでもかんでも出来るとは思えない。やっぱり神様の不思議パワーは必要だろう。そもそも、この世界では、神様からの恩恵(ファルナ)によって人間がレベルを上げていくわけだしな。だから、前回と同様で、生き残るためにも頼れるものはなんでも頼っていくしかないわけだ。
と、なれば……。
ここまで考え、ルビス様をソファーに座らせた俺は、その対面に腰を下ろし、覚悟を固めて話した。
「率直に言います。俺はこの世界の内容を、もともとの世界で本で読んで知っています。それで、一刻も早く帰りたいので力を貸してください。お願いします」
「いいよ」
くっ……。笑いたきゃ笑え!俺は長年のボッチ生活で大概の精神的ダメージには耐えられるんだ。だから、言いたきゃさっさと……、って、んん?
見上げると、キョトンとした幼子の顔。えーと、この人、今なんて言ったんだ?
「あ、あの。今なんて?」
「うん?だから、いいよって」
あまり表情も変えずに、さも当たり前だとでも言いたげに、ルビス様は頷いている。
「えっとね、今回のことは本当にごめんなさいって思ってるの。だって神龍様経由のお願いだったんだもん。オルテガさん神龍様に無敗らしくてさ。相当お願いストック貯まってるみたいなんだよ」
うへえっ、と、とーちゃん何やってんだよ、お願いしねえなら、戦わないでやれよ。というか、神龍もお願い聞くのは3回までとか決めときゃいいじゃねーか。何、律儀にちゃんと戦っちゃってんだよ。
「それでね、私も元々は精神体だけなら召喚出来るし、自分だけなら、行ったり来たりも出来るんだけど、今回は神龍様の力で能力を強化(ブースト)しちゃって、こんなことになっちゃったって訳。だから、みんなをすぐに還してあげられないから、出来ることならなんでもするって、決めてたんだよ」
「そ、そういうことだったんですか」
「それと、他の世界の内容が本になったりすることって、結構あるから、あんまり気にしなくて大丈夫だよ。世界を渡って転生した人が、なんとなく昔のことを思い出して書いたりすることって良くあるから。そーいえば、八幡くん達の世界に転生して、予言とか言いまくったノストラなんとかさんだけどね、元々別の次元の人で、その世界予定通り滅びちゃったからね。だからね、そういうこともあるのよ」
くぁっ!な、なに?って、ことは、あの人マジもんだったんだ!こ、こえー。よ、良かった。その世界に住んでなくて。いや、こんな言い方したら、最低だな。その世界の皆さん、心からお悔やみを申し上げます。あ、これ、十分失礼だ。
「じゃ、じゃあですね。この先の展開とか、ダンジョンについてとか、俺の知ってること全部話します。だから、ルビス様もこの世界で知ってることを教えてください。あ、由比ヶ浜とか雪ノ下達も一緒ってことでいいですよね」
「うん、当然いいよ」
「OK、なら、呼んできます」
そう言って、扉を開けた先で、顔面を巨乳に埋めたベル君が、苦しそうにもがいていたというわけだ。
× × ×
「あ、今日はご馳走さまでした。それと、お騒がせしちゃってホントにすいませんでした」
ヘスティア様に腕に抱きつかれたままのベル君が、ぺこぺこと頭を下げて帰ろうとしていた。
俺は、気になってた事を最後に聞いた。
「なあ、ベル君。明日か、明後日か、ヴェルフとリリとどっかで飲むことになってないか?」
俺の質問にベル君は目をしばたいている。そして。
「えっと、明後日ヴェルフの誘いで祝賀会を開く約束しましたけど……」
「それって、焔蜂亭(ひばちてい)ってとこじゃないか?」
「ええ!?ど、どうして、知ってるんですか?あれ?おかしいな、僕だってさっきその場所聞いたばかりなのに」
「あ、いやいいんだよ。楽しんできてくれ」
「あ、はい。ありがとうございます。では、失礼します」
首を傾げたベル君が、再度大きくお辞儀をして、ヘスティア様をぶら下げたまま、帰っていった。
「ヒッキー?今なんでそんなこと聞いたの?」
不思議そうに俺を見上げる由比ヶ浜が、キョトンとした顔で声をかけてくる。
俺は由比ヶ浜の頭を撫でながら、みんなに向かって言った。
「これから、超大事な話し合いをするから、こっちに集まってくれ。俺たちの今後の方針を左右する、大事な会議だ」
ごくりと息を飲むのは、小町と一色だ。さすがに雪ノ下はもう馴れたみたいで、またか、みたいな顔。というか、由比ヶ浜の頭に置いた俺の手を眺めてるな。なに?お前も撫でて欲しいの?ま、まあ、後でな。
そして、みんなは俺に付いて、先程のソファーのある客間へと向かった。
「って、ルビス様、一体何やってんですか?」
見ると、何故かルビス様がローブを完全に脱いで、パンツ一丁に。
「ぎっ!ぎぃやあああああああああっ!!み、見ないでよぉ!!」
いや、って言われても、そんなに堂々と脱がれちゃったらこっちも顔背けるくらいしか出来ないんですけど。
そもそもが、幼稚園児くらいの体型なんだから、市営プールで着替えてるお子ちゃまにしか見えない。
「ひぃっく、み、見られちゃったよぉ。お、お嫁にいけない」
「いや、すぐ横向きましたから見てませんから(見えたけど)大丈夫ですから、お嫁に行ってください。それにしても、なんでいきなり脱いでんですか?」
「くすん、えっと、あ、汗かいちゃって気持ち悪くて……」
あー、はいはい。女子特有の、気持ち悪くなっちゃったから仕方なくってやつですね。
「あの、ルビス様?ここ、お風呂ありましたから、後で私達と一緒にはいりましょう。お背中お流しいたしますから」
雪ノ下ナイスフォロー。ここ、風呂あるんだな?マジで高級ホテル並じゃねえか。雪ノ下と由比ヶ浜が手際よく服をルビス様に着せ始める。
「まあ、このままじゃ全然進まないから、始めようか」
「な、なんかちょっと緊張しちゃうね、ゆきのん」
「ええ、でもこの世界にも猫がいたのは、せめてもの救いだったわ」
「あ、相変わらず、よく分かんないポジティブ発言だ!?」
すぽんと、新しいローブを頭から被ったルビス様は、FFの白魔導士みたいだ。頬を膨らませて俺を睨んでやがるが、気にしない。
大きめのソファーにめいめい座り、俺はルビス様と向き合うように腰をかけて、話を始めた。
「色々あって、お前らも混乱してると思うけど、ここで全部話してやる。小町。お前、俺達がなんで魔法使えるかって気になってたよな。それに、ここがどこかって……。その話をするためには、この世界の前に行った世界の話から始めなきゃならねえんだ」
みんな真剣な表情で、俺に視線を送ってきている。なんかこういう雰囲気は苦手だ。超シリアスすぎる。誰か屁でもしてくんねえかな?あ、ここ俺以外、女子しかいねえから、そんな展開になったら余計居づらくなっちまうか。
ま、まあ、いいや。
「あ、あー、じ、実はな、この前俺と由比ヶ浜と雪ノ下の3人は、ドラクエの世界に行ってたんだ」
『ぷぅッ!』
あ……、だ、だれだ?今放屁った奴は!!
全員顔を真っ赤にして固まってる。こ、これ、犯人探しは無理だろう……。
「あ、ごめーん、おならしちゃった。てへっ」
犯人は目の前の自由奔放な幼女神様だった。