『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(6)そして冒険へ

~約1時間経過……。

 

 

 

「……とまあ、そんなこんなで、約3ヵ月の旅を終えて、俺達は帰ってきたわけだ。そうしたらびっくり、こっちの世界じゃ殆ど時間が経ってなかったわけで……」

 

「あ、時間停めてたの私だからね」

 

「そうそう、ルビス様が止めてたから、俺達は時間の誤差もなしに帰れたってわけだ。で、覚えた呪文も全部使えるままだったということだ」

 

 全部話終わって、ずずーっと雪ノ下の淹れてくれた紅茶を飲む。もう大分冷めちまったけど、やっぱり旨い。

 

「うへえっ……。なんかお兄ちゃん達ちょっと変わったなって思ってはいたけど、そんなことあったんだねぇ。普通ならいつもの病気だと思って絶対信じないけど、ここは素直に信じてあげることにするよ」

 

「小町ちゃん、病気って?」

 

「えー、それはですねぇ」

 

「お、おい!やめろ。いや、やめてください、マジで」

 

「と、兄が申しておりますが?」

 

 こいつ、ニマニマ嬉しそうにしやがって。なに、人の暗黒面(ダークサイド)を勝手に教えようとしてんだよ!

 

「はいっ!」

 

 由比ヶ浜が元気良く手を上げる。

 

「あたし、彼女なんで聞く義務があります!」

 

「そういうことなら、私も聞かなくてはならないわね」

 

「あ、まだ彼女じゃないですけど、私も聞きたいです」

 

「じゃあ、仕方ないですね。ゴニョゴニョ……」

 

 お、おい!お兄ちゃん駄目って言ったからね。そ、それに一色、「まだ」ってなんだ?「まだ」って!

 くっ……それから、聞きながら俺に「うわぁ」みたいな視線を一斉に送るんじゃねえよ。男の子なら誰でも通る道なんだよ!!

 

「ったく……、もういいか?話進まねぇよ」

 

「えへへ、ごめんねヒッキー。そんな趣味があっても、あたし嫌いにはならないからね」

 

「そうよ。多少の性癖には眼を瞑ってあげるわ。完璧な人間などいないもの……ね!」

 

 うぐぅ、彼女達の慰めが余計にダメージになってる件。泣いてもいいですか?

 

「く……は、話、進めるからな。でだ、今俺たちがいるこの世界も、さっき言った通り、俺は小説で読んでだいたいの筋を知ってる。細部はもう違うところもあるが、主人公のベル君たちは概ね予定通りに動いてるみたいだな」

 

「ああ!だからさっきヒッキー、ベル君にあんなこと聞いたんだ!『ひばちてい』だっけ?」

 

 俺がコクりと頷くと、雪ノ下も話す。

 

「ということは、その集まりで何か問題が起こるということなのね」

 

「まあ、そういうことだ。それにどう俺たちが絡んでいくかだが、その前にこの世界について、ルビス様に教えてもらおう。そもそも、帰る為の手段は原作にもまだ出てきてないしな。というわけなんで、ルビス様お願いします」

 

 一斉に視線が幼女に集まる。ルビス様はため息をひとつ吐いてから話し始めた。

 

「えっとね、この世界を作ったのは、そもそも私なの」

 

「「「えええ?そ、そうなんですか?」」」

 

「ちょっと色々あってね、神龍様が宇宙を作ってから、その頃に産まれたたくさんの神がね、新しい世界をたくさん作ったの。一般的に云うところの『三千世界』とかになるのかな?本当は三千じゃきかないんだけどね、異なる次元に無数の世界を作ったの」

 

 な、なんだ?話の規模がでかすぎて、全然頭に入って来ないんだが……。

 

「でね、どこの世界もそれなりに繁栄してね、人々の信仰で神達も力をつけていったの。あ、神の力の源は信仰心だからね。信者が多いほど強くなるのよ。それで、力が強くなった一部の神達が世界をまたにかけて戦争を始めたの。より強い力を求めて、外の世界の征服を企てたのよ。神々の黄昏(ラグナロク)戦争(ウォー)をね。で、結果としては、神龍様の逆鱗に触れて、逆らった神達はみんな処刑されたの、沢山の世界を道連れに」

 

 ルビス様が紅茶を啜りながら、なにかとてつもなく恐ろしい話をしている。なに?神龍が宇宙を作ったの?というか、神龍そこまで偉いさんだったの?なんか、とーちゃんぼこぼこにしてたけど、あれ、マジでまずいんじゃないの?

 話の規模がアレすぎて、みんな押し黙ってる。仕方ないので俺が聞く。

 

「え、えーと、で、それがこの世界と、どう繋がるんですか?」

 

「あ、えと、ごめんね。要はね、神ってそもそも死なないのよ。物質体としても精神体としてもね。精神の方は自然に還元されて新しい命に分割されるから良かったんだけど、問題は体の方。神龍様に処刑されたたくさんの神達の体をね、みんなもて余しちゃったのよ。それで一番たくさん世界を作ってた私に押し付けられちゃったわけ。もう、本当に困ったわよ。放っておいても周りを汚染するだけだし、何億年かけても消滅しないし、だから……」

 

 うん、ばっちり理解してしまった。つまり……

 

「つまり、この星は……、いや、この真下のダンジョンがその神の遺骸の安置場所ってことなんですね」

 

 ルビス様がウインクしながらサムズアップ!

 それ、『それあるー』思いだしちゃうから止めてくれませんかね。

 

「その事、この世界の神様たちはみんな知ってるんですか?」

 

「うーん、どうかなー?ゼウスさんとヘラさんとウラヌスさん辺りは、封印の作業手伝ってもらったから知ってると思うけど、若い神達は良くわかんないね」

 

 って、幼稚園児の姿で若いって言われてもピンとこないんだけどな。

 

「そ、それで、この話のどこに俺達の帰る方法があるっていうんですか?このダンジョンの最奥に、処理不可能な放射性廃棄物があるってことはわかりましたけど」

 

「あ、でね、この世界には昔、カストゥールっていう、魔法科学文明があったの。みんな良い子供達でね、毎日神秘の解明に明け暮れてたの」

 

 おっとー?ちょっと待ってくださいよ。その名前、危険な香りがするぞ!

 

「で、神達からもこの世界の『太守』としてカストゥールの民は任命されててね、そんな彼らの作りあげた五つの秘宝と、その秘宝の守護者たる五色のドラゴンによって、遺骸の聖域を守る……」

 

「はい、ダウトー!なに?なに?完全にそれ、呪われた島の話じゃねーか。ゲーム、アニメ、ラノベときて、今度はTRPGかよぉ!!」

 

「もう!最後まで聞いてよ。帰りたいんでしょ?」

 

「あ、これ、続けちゃうんだ」

 

「えとね、その五つの秘宝の中に、『知識の額冠』っていう叡智の宝冠があってね、その中には全ての叡智が収まっているの。というより、全ての神の知識を記録してあるの」

 

「はあ、つまり、その太守の秘宝を使えば、自前で異世界転移も可能であると……」

 

 ルビス様は再びウインク&サムズアップ!だから、それ古傷にくるからやめなさいって。でも、これ、本当に大丈夫か?まさか、後から法の剣とか、魂砕きとか出てきやしねえよな。

 

「ただね、問題があるの。さっき他の神に聞いたんだけどね、その太守の秘宝を守る古竜(エンシェントドラゴン)のうちの3体が、なぜか1000年前に暴走しちゃって秘宝ごと聖域から出てしまったのよ。そのうちの2体は最近やっと討伐したらしいんだけど、まだ1体残ってるのよ」

 

「いや、ちょっと待て。たしか、逃げ出したのって、『リヴァイアサン』と『ベヒーモス』と『黒竜』のはずだよな」

 

「ああ、一般的にはそうしたみたいだけど、実際は、『水竜エイブラ』、『火竜シューティングスター』、それと『黒翼の邪竜ナース』だよ。古竜(エンシェントドラゴン)は半神の存在だからね。まさか神殺しを大っぴらには出来なかったってことじゃないかな?それで、エイブラとシューティングスターはゼウスさんの子供達が討ち取ったみたいだね。でも、ナースには敵わなかったみたい」

 

「つまり、どういうことなの?八幡……」

 

 雪ノ下にそう聞かれて俺は頭を掻きながら、壁の絵に視線を移して答える。

 

「つまりだな、俺達の欲しいその知識の額冠を持ってるのが、その半分神でもある最凶の邪竜ナースってことなんだよ」

 

 みんなも、俺の視線を追うようにその壁の禍々しい黒竜

の絵に注目した。

 

「それとね、もうひとつ問題があるの」

 

「まだあるんですか?」

 

「う、うん……。えとね、エイブラとシューティングスターを討伐して、エイブラの持ってた秘宝『魂の水晶球』は回収されたんだけどね、シューティングスターの『支配の王錫』は戦いの最中で行方知れずになってるんだよ。この錫自体の力も問題なんだけど、何より、1000年も封印の秘宝が欠けてるせいで、聖域(ダンジョン)で何か問題が起き始めようとしてるみたいなんだよね。もう、ウラヌスさんでも抑えきれなくなってるみたい」

 

 はあ、とため息を吐きつつ、ルビス様はまた紅茶をすする。

 ため息つきたいのはこっちだよ、と、あまりの事態の大きさに頭がさらに痛くなった。

 

「つまり、その邪龍を倒して、知識の額冠を手に入れれば良いということかしら?」

 

「それは難しいだろうな」

 

「なぜかしら?」

 

 雪ノ下があごに手を当ててそう言ったのだが、どうもそれだけじゃ収まりそうにない。

 そもそも、ダンジョンに異変が起きているってのは原作でも書かれていることだし、それを放置して邪竜討伐を俺たちがやるってのも、ちょっと無理がある。

 

「まず、その邪竜がどこにいるのか分からないってのが一点目。それから、いくら、俺たちが呪文を使えるからって、そのドラゴンに効くかどうか分からないってのが二点目。そんで、これが一番重要なんだが、ここの神様ってな、油断ならねえんだよ」

 

「それはどういうこと?」

 

「まあ、小説を読んだ俺の感想から言えば、ここの神様たちはみんな欲望に忠実なんだ。気に入った人間(ヒューマン)が居れば、あらゆる手段を使って手にいれようとするし、気にいらなければ、結構汚い手を使ってでも排除しようとする。そもそも、さっき話に出た古竜(エンシェントドラゴン)を討伐した【ゼウス・ファミリア】と、【ヘラ・ファミリア】だって、黒龍の討伐に失敗してボロボロになったところを【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】に襲われて壊滅させられてんだ。この世界の神様は、自分の【ファミリア】だけを重視しててな、他はどうでもいいんだ。だから、下手に動けばいい標的になっちまう」

 

「なにそれ?ひっどいし!」

 

「最低ね」

 

「な、なんですか!?それは!」

 

「ろくでもないね、お兄ちゃん!」

 

「詳しいね。八幡くん」

 

「いやまあ……」

 

 原作読んだしな。

 

 憤慨している女子4人と感心している小っちゃい女神様。俺はみんなに言った。

 

「だからまあ、速攻で邪竜を討伐するんではなく、仲間を集めるべきだと思う。急がば回れってやつだ。最終的には俺達も全面に出て戦わなくちゃならないかもだが、とにかく強くて頼りになる仲間を増やすんだ。とーちゃんみたいなな。背後を取られて数で押しきられたら、あっという間に全滅だ。ドラクエの時みたいにほいほいとみんなが助けてなんてくれない世界だからな」

 

「だったら、どうするの?ヒッキー、信用できそうな人なんてそんなに簡単に見つかるのかな」

 

「由比ヶ浜の言う通り、そんなに簡単じゃない。だから、俺たちの武器を最大限使う。要はこれだ」

 

 俺は自分の頭を指差しながら続ける。

 

「原作の知識を使う。この世界で一番強いのは、間違いなくベル君だ」

 

「ええー!?せ、せんぱい!ベル君ってさっきの男の子でしょ?そんなに強そうに見えませんでしたよ」

 

「今はな。ただ、彼には他人に口外していない。彼自身でさえ知らない特殊な【スキル】がある。少なくとも、原作の通りの苦難の道を進めば、間違いなく最強になるはずだ。だから……」

 

「だから?」

 

「だから俺たちは、ベル君に最大限恩を売って売って売りまくって、さらに、媚びへつらって力を貸してもらおうと思う!!」

 

「「「「さ、サイテーだぁ!!」」」」

 

「なんか、ヒッキー……ドラクエの世界でも最初おんなじような事言ってたよね」

 

 ふっ……なんとでも言え。使えるものは全て使う。最後に立ってたものが勝者だ。だから俺はやってやるぞ!

 まあ、由比ヶ浜と雪ノ下もちょっと引いてるのが悲しいが……くぅっ……。

 

 

「じゃ、じゃあ、最初のプランを説明するぞ……っと、その前に、ルビス様。さっき出掛けた先の【緊急神会】に、神アポロンは来てましたか?」

 

「うーん……来てなかったかな」

 

「OK。なら、その会で話された内容を全部教えてください。その上で、作戦を立てます」

 

「おお!了解!な、なんかワクワクしてきたよ」

 

 神様がこんな反応で本当にいいんですかね。

 

 そして話を詰めた後、俺は、この後起こるであろう、数々のトラブルをみんなに話した。

 ひとつ重要な点があった。

 今回の18階層で起こった異変に関しては、完全に情報封鎖されることになり、異変の全ては『ある神の気まぐれ』で起こったということで片付けられた。

 まあ、間違っちゃいない。この世界の神様達じゃ、どうしようもない(かみ)が来ちゃったわけだしな。

 当然だが、このことを知っているのは当事者の俺達と、神会に出た少数の有力神のみ。

 このことも利用しなくてはならない。

 俺達の目標は、ベル君を中心として集まる強者達の支援の取り付けだ。この世界で戦う以上、純粋な力や知識だけでなく、食料や武器防具や様々な生活物資の仕入れも必要となる。

 当然先立つもの『金』も重要だ。だから、様々な形での交流を築きつつ、しかし、原作の流れを極力変えないように注意しながら前進しなくてはならない。

 なぜならば、ルートが変わるような事態、例えば、ベル君が途中で離脱したりしてしまうと、それだけで、原作とはかけ離れた状況になってしまう。俺達の予定も全部狂っちまうわけだ。

 とにかく、今は目の前に来る問題の対処を優先する。

 

「いいか、お前ら。最初のミッションは、『【アポロン・ファミリア】との抗争の勝利』だ!」

 

 そう、この時より、俺達のこの世界での冒険が始まったのだった。

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

「それは、確かか?」

 

「はい。18階層に階層主が出現し、階層にいた冒険者達が総出でこれを討伐。そして、止めを刺したのが件の【リトル・ルーキー】のようです」

 

「くっ、ふふっ、ははははっ……。そうか、よくやったぞ、ヒュアキントス」

 

「ありがとうございます。ただ……別の筋の情報によると、100体以上のゴライアスや、巨大な新種の竜種が出現したなどの報告もあり、それを3人の魔法使いが全て瞬殺したとの噂も……」

 

「ふっ……噂とはこうも尾ひれがつくものか……。捨て置け、そんな世迷い言は……。複数体の階層主を屠ふれる魔法など聞いたこともないわ」

 

「は……もうしわけありません」

 

「だが、もしそのような者が本当にいるのであれば、是非ともその者も手にしたいものだ……くくく……」

 

 暗い部屋の中で、その主はヒュアキントスと呼んだその青年の頬を、愛おしげに撫でた。

 

「だが、まずは……ベル・クラネル……やはり素晴らしい。彼はこのアポロンが必ずいただく」

 

 日の光を放つきらびやかな金髪をゆらし、その神物は、欲深い笑みを浮かべていた。

 

 

 

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