『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
「ねえ、ねえ、聖者様ぁん。もっと……もっと触ってぇん」
「ちょっ……な、なにやってんのよ、この牝猫!つ、次は、あたいの番よ、さっさと退きなさいよ!ごらぁっ」
「ねえ、まぁだぁ?後ろつかえてんですけどぉ!」
じ、地獄だ……。め、めっちゃ怖い。
なにこの人達……たいして怪我もしてないくせに、こんなに並びやがって……。
だ、だいたい、なんで女ばっかなんだよ。しかも完全武装。ダンジョン帰りだから仕方ねえけど、なんでこんなに殺気だってんだよ。こ、殺されそうだ。
それに……。
「よ、よぉ、俺は、アドンってんだ。な、なあ、俺と結婚してくれよ。なあ、ロリーちゃん!」
「あ、あははは……あ、あたし相手いるから」
「そんなこと言わねえでよぉ。俺これでもレベル3なんだぜ!いい暮らしさせてやるからよ」
ぐうっ!!
さっきからずっとこれだ。俺の隣には白いローブに青いマスク姿の胸の大きなロリーが。この筋肉野郎!ゆ、由比……ロリーを口説きやがってぇ……くそ!もう我慢できねえ!ちょっとそこで待ってやがれ!ぶっ飛ばしてやる(魔法で)!
「ねえ、まだ、私終わってないんだけどぉ、ねえ、早くぅ……早くぅ……」
立ち上がろうとする俺を、目の前のアマゾネスの女戦士がとんでもない怪力で抑える。ぐうっ、は、放せぇ!
「八……ワレラ?込み合って来たから、待っている患者さんに紅茶を振る舞おうとおもうのだけれど、良いかしら?」
と、俺の背後に立つ、黒髪ロングヘアーのピンクのマスクのコンダが、紅茶の入ったポットを手に近づいてきた。と、それを見た一部の患者どもが……。
「「「「いやっはあああああああ!コンダちゃーん!待ってましたぁーーー!やっほうーーー!」」」」
もうどうなってんだ、ここの冒険者の連中は……。
「ねえん、聖者様ぁあん。もう……、もう限界なのぉ。お願い、ここ、ねえここさわってぇえん」
「ぶはぁっ!ちょっ……な、なにしてんすか?」
怪力アマゾネスに無理矢理引っ張られて、無理矢理手を、チチに……。
「ひ、ひっき……ワレラ!?」
「ワレラ!!貴方いったいどういうつもりなのかしら?」
「い、いや、ちょ、俺が悪いのか?ま、待て」
「あ、あぁぁん……聖者さまぁ、もっとぉ、もっとぉぉ!」
「いや、だから、あんたもいい加減にしろよ!く、くそう……べ、『ベホマァ』!!」
そして、輝く青い光に包まれながら、俺の目の前にまだまだ延びる長蛇の列に、頭を抱えるのであった。
どうしてこうなったかと云うと……。
話は、今朝に遡る。
× × ×
「ええー?『回復屋』ですか?なんですかー?いみあるんですかー?」
俺の提案を聞いた一色が腐った物でも見るような目付きで俺を睨みながら、そう反応した。
朝食を食べながら、俺はみんなにある提案をした。それは、『なるべく目立たないように、金をいかに効率よく稼ぐか』についてなんだが、結構いいアイディアではあったのだが、斜め向かいに座ってる一色は頗る機嫌が悪い。
そりゃまあ、気持ちは分かるよ。
だって、今俺の両脇には由比ヶ浜と雪ノ下の二人がぴったり寄り添ってるわけだしな。二人はかなり機嫌が良い。
先にその理由について触れておくと、実は昨夜この高級スイートの部屋割りを決める時、俺は一人でリビングで寝ることにした。
理由は簡単、寝室がひとつしかなかったからだ。
当然女子が4人+1幼女にその部屋を譲ったわけでそれでお仕舞いと思っていたのだが……。
夜中に、あろうことか誰かが俺の布団に入ってきた。
で、飛び起きた俺の目の前にいたのは、まさかの一色。
こいつどんな寝ぼけ方したのか、顔を真っ赤にして、寝巻きの胸をはだけた格好で俺に抱きついてやがった。
と、そこに、雪ノ下と由比ヶ浜が現れたのはお約束。
俺からそそくさと離れた一色と入れ替わりに、二人が俺に詰めよって、散々罵声を食らうかと思いきや、ポロポロと泣き出しちまった。
俺は慌てて二人に事情を説明したが、全く泣き止まなかったもんで、謝りつつ二人を抱いて、後はひたすらお前らが一番大事だ、好きだと、延々と二人にコッパズカシイ事を宣い続けたわけだ。
二人が安心して眠るまでそれを続けた自分を誉めてやりたい。
とまあ、こんな訳で、二人はぐっすり熟睡。起きてから会った一色は真っ赤になって目を合わせやしないし、これは大激怒な模様。あ、これ大巨神の台詞だった。で、気絶するまで二人をなで続けた俺は、フラフラの寝不足というわけだ。
決して二人にナニはしていない。いっそ関係があった方がよっぽどすっきりだよ。くうっ……。
と、いうことがあったわけだ。
話を元に戻そう。
俺たちには今先立つものがない。金がなければ、衣食住の全てが保証されない。今はルビス様の口利きで、一応ギルドが面倒見てくれてるらしいのだが、まさかギルドに金をくれとも言えないからな。やっぱり自前で稼ぐ必要がある。
一応、ここはファンタジーの世界だから、ダンジョンにもぐってモンスターを倒して稼ぐって方法も考えたのだが、見慣れない魔法をバンバン使って戦う姿はやっぱり目立っちまう。今は原作の流れをあんまり変えたくないからな。当面はダンジョンで稼ぐのは控えようと思ってる。
こんなことなら、あの時倒した大量のゴライアスの魔石をなんとか持って帰ってくるんだった。もっとも、あの時は色々感情に任せて呪文ぶっぱなしちまって、消し炭も残さずに消しちまったんだけどな。
で、考え付いたのが『回復屋』というわけだ。
「俺たちは目立ちたくない、が、俺たちの呪文は有効に使いたい。となれば、ここはダンジョンの町だ。潜った冒険者は必ずと言って良いほど怪我をする。ポーションや薬草で治せないような重症者もいるだろう。だが、俺と由比ヶ浜には完全回復呪文『ベホマ』がある。更に、仮に死亡してても『ザオリク』で生き返らせることも多分可能だ。ですよね、ルビス様!」
急に振られたルビス様は、丁度白パンにかぶり付いたところで、全く言葉が出せず、こくこくと頷いて返した。この人、どんどん威厳がなくなっていくんだが……。
「とまあ、そういうわけだから、俺たちは旅の途中の謎のヒーラー集団ということにして、マスクとローブで正体を隠して、ダンジョン入り口辺りで診療所を開こうと思う。何か質問は?」
「はい!」
隣で抱きついてる由比ヶ浜が手をあげる。
「医師免許とか持ってないけど良いのかな?」
「お前なあ、こんな世界で免許を誰が発行すんだよ。万が一そういう制度があったとしても、正体隠してんだから、そんときはモグリでいいだろう」
「おお!お兄ちゃん。ブラック・○ャックみたいでなんか格好いいねぇ!わたしピ○子ポジでいいよ。あらまんちゅー~」
「そんなに格好よくはならねえだろうがな、患部に手を当てて『ホイミ』って言うだけだし。それと、○ノ子ポジってんなら、ルビス様だろ!(体型的に)」
「あっちょんぶりけーなのよさ!なんか、八幡くんから、邪念を感じたんだけど」
おお……、以外と勘がいいな、ルビス様。しかもこのネタ知ってたのな。
「ほ、他にはなんかねえか?」
すると、反対側の雪ノ下がちょいちょいと俺の袖をひっぱってくる。
「え、えーと……。八幡?私は回復となると、何もすることがないのだけれど……その……」
そんな寂しそうな顔すんじゃねえよ。まったく……。
「雪ノ下は、呪いを解く『シャナク』が使えるだろう?確か、一部のモンスターで呪い系のスキルを持った奴もいたはずだ。その手の治療ができるかもしれないな。まあ、暇だとしても、患者にお前の淹れた旨い紅茶でも出せれば、仕事の効率も上がるだろう。任せてもいいか?雪ノ下。」
俺のその言葉に、ポッと頬を染めた雪ノ下がうんうんと頷いたんで、俺は頭を撫でてやったら、喉をごろごろならしてる。もうそろそろ、猫になっちまいそうだ。
「さて、じゃあ、早速これに着替えてくれ。さっきギルドのスタッフに頼んで、白いローブと変装用のマスクを調達してもらったから」
俺が手にいれたのは、ちょうどルビス様が纏っているようなすっぽりと頭から被るタイプのフードつきのローブと、眼鏡のように耳にかけて鼻から額までをすっぽりと隠して、目だけを覗かせることが出来る3色のマスクだ。ちょうどオル○ェンズでチョコの人が被ってたマスクみたいな感じかな?
俺は早速、雪ノ下にローブとピンクのマスクを、由比ヶ浜にはローブと青いマスクを渡した。そして俺はローブと黒のマスクだ。
そして、俺は先に立ち上がって、さっさとローブを被り、顔にマスクを着用して見せた。
「あっ!!」
「うわっ!!お、おにいちゃん!?」
「え!?う、うそっ!?せ、せんぱい?」
「は、はちまんっ!!そ、その顔!!」
その瞬間、何故か女子4人が一斉にガタリと立ち上がって真っ赤になって俺を凝視してる。
ん?なんで、みんななんでそんなに驚いてんだ?
「お、おい……。なんか、おかしいか?」
俺の言葉に、俺以外の全員が、集まって丸くなってなにかこそこそと話始めた。
「……ど、どうしよう…………止まらないよ……」
「……やばいです…………したいです……」
「……驚いたわ…………合わせられないわ……」
「……昔から目以外は…………ですからねぇ……」
なんか、チラチラ俺を見ながらなんかぽしょりぽしょりと話してるし……なんかめっちゃ気になるんだが!!
そんな俺のところに、とことこルビス様が歩いてきて、徐に言った。
「おおー!なかなかの美男子だねぇ、これなら、ここの天界でもモテモテ間違いなしだよー」
その言葉に女子4人が飛び上がってるが。なにお子ちゃまの戯言に驚いてんだよ。
「あのですねー、美男子って、いったいどんなイジメなんスか?んなわけないでしょうが。お前らもいい加減にさっさと着替えろ。時間はあんまねえんだ。今日一日、稼げるだけ稼いで、明日はベルくん達のイベントに介入しなきゃなんねえんだからな」
「う、うん、わかったよヒッキー」「ごめんなさいね、八幡」
で、二人もササっと着替えてマスクをつけたわけだが……
「ぐはあっ!」「!」「わっ!?」
俺と小町と一色が絶句。
こ、これはヤバイ。もともと可愛いんだが(多分に彼氏の欲目)、それを差し引いたとしても、その白い衣とマスクのせいで神秘的な色気が漂ってやがる。ど、どうしよう……。ど、どきどきが止まらねえ。
「ど、どうかな?ヒッキー」「に、似合うかしら」
二人が上目遣いで俺に近付いてくる。ううー、これはマジでやばい。理性が崩壊しそうだ。
「に、にににににあってゅるよ」
ぐっ……噛んだ。
その後、深呼吸を繰り返して落ち着いてから、嬉しそうにしている二人に向き直る。
「よ、よし!なら、さっさと行くぞ。もうギルドには話してあるんだ。と、その前に、正体を隠すんだからこれからは偽名で呼び会うぞ。え、えーとな、由比ヶ浜が『ロリー』、雪ノ下が『コンダ』、で、俺が『ワレラ』だ。いいな!で、俺達の設定は、旅の神聖魔法使い『デカルチャーズ』だ。いいな。文句言うなよ」
「ええ?ヒッキーなんか格好悪いよ」
「いいんだよ、名前なんてなんだって。さっさと小銭稼いだらそれで終わりなんだから。さて、じゃあ、今度こそ本当に行くぞ」
少々不満顔の雪ノ下と由比ヶ浜を引き連れて、俺たちは部屋を出た。そして、魔石で浮遊するエレベーターにのり、降りていく。目指すはこの塔の1階にして、ダンジョン入り口へと続く通路のある中央ロビー。
この時、まさかこの『デカルチャーズ』がこの世界の歴史に名前を刻むことになるとは……。
そんなの本当に予想できるわけねえだろうが!