『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(9)え? もうこの展開ですか?

 俺たちの前には白い帽子を被った大きな耳の犬人(シアンスロープ)の少年が何かを訴え掛けるような眼差しをこちらに送りつつ立っていた。

 年のころは10歳前後といったところか。まあ、犬人の平均寿命とか知らねえから、あくまで見た目でって話しなんだが、そいつは戸惑った感じに眉目を下げてもじもじしながら雪ノ下達を見上げている。

 

「どうかしたのかしら?」

 

 なかなか話しかけてこないその少年に、雪ノ下が声をかけた。

 そう言われて、その子は意を決した様子で話始める。

 

「あ、あの……た、助けてください。お姉ちゃんを、お姉ちゃんを助けてください」

 

 ん?何言ってんだ?こいつ。

 

「どういうことかしら?あなたのお姉さんがどうかしたの?」

 

 尻尾を垂れて、歯を食いしばったその子は続ける。

 

「ひ、ひどい怪我をしてて、そ、それで、血が止まんなくて……う、うう……」

 

 そのままぽろぽろと泣き出してしまい、その後は言葉にならない。

 

「ねえ、ワレラ……」

 

 由比ヶ浜が俺の肩に手を置いて俺を見る。雪ノ下も俺を見上げてきた。二人とも落ち着かない感じで俺に視線を送ってきている。

 

 だから、そんな顔で見るなってんだよ。はあ、ったく仕方ねえな……。

 

「あー、坊主、もう泣くな。とりあえず見てやるから、そのお姉ちゃんのところに案内してくれ」

 

「うう、うう、うあああん……」

 

 だから、泣くなってんだよ。こういうの苦手なんだよ、俺は。

 手早く片づけた俺たちは、まだ泣いているその少年を先頭にその場を離れた。

 

 階下に降りると、まだ結構な数の冒険者がダンジョンから出てくるところで、数人の屈強な体躯の男達が、大穴の上に取り付けられた昇降用の大きな釣瓶を操って、何かを持ち上げていた。

 穴から出てきたのは大きな木製の箱(カーゴ)

 

 迷宮(ダンジョン)に挑む冒険者達が最も欲しているのは『(かね)』だ。

 モンスターとの死闘に命を掛けるだけの価値が、確かにここにはあるのだろう。その最たる得物が『魔石』だ。

 モンスターの核でもある魔石は、モンスターを倒すことで冒険者には比較的簡単に入手が可能だ。だから、冒険者はダンジョンで狩りを行い、手に入れた魔石を換金し生活するわけだ。

 では、この魔石は何に使われるかというと、それはかなり広範な用途で使用されている。

 この世界の殆ど全ての生活用品に魔石は使われている。

 主な物で言うと、『灯り』、『調理用コンロ』、『冷蔵庫』なんかのエネルギーとなる。バベルの昇降に使ってるエレベーターもこの魔石で動いているらしい。平賀さん、エジソンさんもビックリのすごい燃料だ。

 

 だが、ダンジョンから産出されるのはこれだけではない。モンスターが稀に落とすドロップアイテムや、ダンジョン内でしか産出されないアダマンタイトなどの稀少な金属や、珍しい植物なども、貴重なオラリオの産出品となる。

 そして、モンスター自体でさえも……。

 

 少し気になって、その釣瓶を操作している男たちの横顔を見る。

 そいつらは一様に下卑た笑いを浮かべている。それだけのことだったが、途端に胸糞が悪くなった。

 目の前の大きなカーゴを見て、不快な想像をしてしまったからだ。

 だが、今は手出しはできない。この時点で、ベル君や神ヘルメスやギルドの神ウラノスも、まだ何の尻尾もつかんでいない。下手に動けば、間違いなく展開が変わっちまう。

 俺は、ぐっと唇を噛んで、前に向き直った。と、その時、その作業をしている男たちの声が微かに耳に届いた。

 

「……それにしても、惜しかったなあの上玉。あれならエルリアの旦那もさぞお喜びになっただろうに……」

 

「なあに、あの変態野郎はなんでもいいのさ、どうせ最後は……だかならな」

 

「はっ……ちげえねえ。げはは……」

 

 ”エルリア……”

 

「どうしたの?ひっ……ワレラ?」

 

「あ、いや、ちょっとな……さっさと行こう」

 

 俺はフードを目深にかぶり直し、その木箱を見ないようにしつつ、ホールから出た。

 

 

 時刻は夕方6時は過ぎているだろうか、辺りはすっかり暗くなっていて、街路灯に明かりが灯っている。俺たちは小走りに駆けるその少年を追いつつ、ダンジョンの東へ続く道を進む。こっちの方面は先の方が結構暗い。ギルドの方角が商店街だとすると、こっちは下町……というより貧民街(スラム)なのかな。道も結構荒れていて、建物の明かりも少なく、心細い気持ちになる。

 

 まさか、なんかの罠じゃねえよな。

 

 いや、あり得るぞ。人の良さそうな子供に小金を渡して、呼び出したところで、後ろからバッサリとかな。

 時代劇とかなら定番の奴じゃねえか。黒頭巾の奴が刀構えていきなり現れるんだよな。

 

 って……。

 

 前を走っていた少年が急に足を止めたかと思うと、きょろきょろと辺りを見回し始めた。そして。

 突然に俺たちの目の前に真っ黒いフードを被った人影が、横の暗がりから音もなく現れた。

 

 おいおいおい!ちょっと待てよ……別にフラグ立てたかったわけじゃねえけど、なんで本当に登場しちゃうんだよ。なに、まじかよ。

 大体、俺たち何の武器も持ってねえぞ。いくら呪文使えるたって、いきなり切られりゃ絶対死ぬって!

 

 俺はあわてて由比ヶ浜と雪ノ下の二人を後ろに隠す。どこに何人潜んでるかわからねえ。やばい、マジ大ピンチじゃねえか。

 

 焦りつつも、しばらくそうやって思考していると、不意にその黒いローブの人影が少年に近づいて何かを囁いた。

 

「そうか、見つけたのだな。ならば、早くした方がいい」

 

 なんだこの声?女なのか?

 

「あ、ありがとう、黒いお姉ちゃん」

 

 少年がそう声をかけると同時に、そのフードの人物は風に舞う木の葉の様に、重さを感じさせずにフワリと跳躍する。その時俺は、月明かりに照らされた彼女の美しい容貌を見た。褐色の肌に輝く金色の瞳、そして鋭く尖った耳……一瞬だが、確かにそう見えた。だとすればダークエルフなのか!?彼女は音もなく屋根を越えその姿を消した。でもおかしいな、原作にダークエルフのキャラなんていなかったような気がするが。はて?

 

「お兄ちゃんたち、こっち」

 

 少年の声にはっと我に返った俺は、雪ノ下と由比ヶ浜を連れて、その子が進んだ狭い路地を歩いた。

 

「う、ううっ……」

 

 暫く往くと、かすかなうめき声のようなモノが聞こえてきた。路地の奥は光が届かず、何も見えない。

 

「お、お姉ちゃん。もう大丈夫だよ。聖者様たちを連れてきたよ」

 

 俺たちの少し前方から、男の子の声が聞こえてきた。と、同時に、なにか蝋燭のようなものに火を点けたのだろう。小さな明かりがその暗闇の中に浮かび上がる。それを頼りに近づいた俺たちの目の前に居たモノは……。

 

「うぅっ……タ、タスケテ……」

 

 肩から胸までを真っ赤な血で染めた、美しい有角の半人半鳥(ハーピィ)だった。

 

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