『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー 作:こもれび
壁に凭れるように倒れこんでいるその有翼の少女は、草原を思わせる鮮やかなライムグリーンの長い髪をもち、その耳の上には羊のような角がまるで髪飾りのように伸びていた。腰から上だけを見るなら、間違いなく人に見える。というより、儚く可憐なふんいきを纏った、美少女の容姿だった。
だが、その足は、まるで猛禽類のような細く長いもので、鋭く伸びた鉤爪が光り、その肩から先には、羽毛を廻らせた大きな翼が。
明らかに人外の者。しかし、今この瞬間、その顔は蒼白で、呼吸も弱く、その赤い瞳はただ力なく涙をこぼしているだけだった。
俺の脳裏にはさっきダンジョンからカーゴを引き上げていた連中の声が蘇る。そして、ひょっとしたらこの人外の少女が原作で犠牲になってしまった、あの
俺は慌てて彼女に近づき、露わになったその深い傷のある胸部に躊躇いなく直接手を押し当て、素早く呪文を唱えた。
「ベホマ!」
俺の手からいつもの青い光が溢れる。だが……
「な、なんだ?魔法が入っていかない」
何時もなら、俺の手から迸った魔力が相手の体に流れこみ、そのまま相手を光が包むはずなのだが、今はその手応えがまったくない。
「ベホマ、ベホマっ!」
繰り返し唱えるも、やはり魔力は滞ってしまい、しかしなにも起こらなかった。
焦りながら彼女を確認する。その顔は苦悶に満ち、涙の筋を頬に張り付かせたまま、その呼吸を止めてしまっていた。
し、死んだのか……ま、間に合わなかった……ってのか?嘘だろう?だって、今の今まで息してただろうが……くっ、くそっ!
なんでだよ。どうして……どうしてこんな……
俺の頭には原作で語られていたあるワンシーンのビジョンが……、ヘルメスファミリアのとあるエルフの苦悶の言葉……陵辱され、全てを奪い尽くされたであろう、この存在の、命の灯火の果てるその時をただ見守ることしか出来なかったそのエルフの苦しい告白を思い出していた。
助けたかった。
救いたかった。
なんとかしたかった。く、くそっくそっくそっっ!!
い、いやまだだ。まだ使ったことのない呪文がある!
俺は、もう一度彼女に手を伸ばすと、今度は額に掌を当て、渾身の思いで祈るように唱えた。
「ザオラルッ!!」
その瞬間、周囲が一気に真っ白な光に包まれる。そして、ハーピィと俺に向かって金色の光の粒子が集まってきた。
『ザオラル』
ドラクエの呪文の中で、もっとも禁忌とされる蘇生呪文の一つ。滅んだ肉体を再生し、尚且つ離れた魂をもその身に戻してしまう。だが、その魂が失われたその時、この呪文は復活ではなく呪いへとその意味を変え、その体を人為らざるものへと変えてしまうこともあるという。そして、詠唱者へは過度の負荷を強いる。
まばゆい光が収まった時、俺は急激な疲労感に襲われそのままハーピィにおおい被さるように倒れこんでしまった。
「ヒッキー!」「八幡!」
二人の俺を呼ぶ声が聞こえる。
ぐっ……、ここでMP切れかよ。ダメだ、もう意識が持ちそうにない……。ハーピィは、助かったの……か……?
必死になって、なんとか目を開くと、そこには目を真ん丸に見開いた美しい少女の顔。
今にも、口と口が触れてしまいそうな距離で、彼女は言葉を発した。
「あ、あなたが……あなたがタスケテくれた……ノ?
そして、その大きな両目から、今度こそ大粒の涙が零れた。
はは……、よ、良かった……な……
声は出なかったが、いよいよ意識が混濁としてきて俺は目を閉じる。その間際の記憶に残った光景は、驚愕したような由比ヶ浜たちの顔と、迫り来る
× × ×
見上げると、そこには真っ白ななんの模様もない石の天井が……。
「知らない天井だ……」
いや、ただ言ってみたかっただけなんだが……。
頭はまだずいぶんボンヤリしているが、意識は平常のようだ。まったく、
アホだな。
それにしてもここは……
首を振ろうとすると、体全体に何か重石が掛かっているようで、上手く動かない。な、なんだ?
で、少し力をいれて、体全体を捩ると……
「は……はぁあああん!」
な、なんだ!?きゅ、急に艶かしい声が!!
「だ、誰だよ!!」
そう言って布団を跳ねあげると。
ガチャリっ……
「あ、ヒッキー起きた?って、アンちゃん!!また勝手にヒッキーにくっついてるし!!」
「ふえぇ、ご、ゴメン……なさーーい」
扉から入ってきた由比ヶ浜が急に大声を出したかと思ったら、俺のすぐ真後ろから耳慣れない少女の声が。
慌てて振り替えると、そこには、一糸纏わぬ
「ぬあ!?お、おまえ、何してんだ?」
「え?え?だ、だって、
「って、誰にそんなこと言ったんだよ……って、冒険者に決まってるか……。あのバカどもが。あのな?いきなり裸で抱きついちゃだめだ。お、お前もっと、自分を大事にしろ」
「で、でも……マスターは、アンのことキライなの?アンはマスターがスキ!マスターにアンのゼンブあげたい!」
「はあ!?」「ふぁっ!?」
ハーピィのアンの言葉に思わず絶句。チラリと入り口の由比ヶ浜を見ると、みるみる赤くなっていく。
「マスター~」
「はわわわわ……」
アンがその両の翼を大きく広げて、そのたわわな果実をそのままに俺に馬乗りになってきた。
「や、やめろー」
「もう!ヒッキー!キモい!なんで顔にやけてるし!それに、キモい!後、キモいキモい!」
バタンっ!!
扉を勢いよく閉められて、由比ヶ浜が消える。ちょっ……待っ……
「マスター、スキー。えへへー」
「はわー!だからやめろってえんだよ!」
「きゃんっ!」
アンを押し退けて、俺はベッドのシーツを剥がして無理矢理にそれを彼女に巻き付けた。
「い、いいか?女の子は素っ裸で人前に出ちゃだめだ。も、モンスターだから今まではしかたねえけど、これからはダメだ!いいな!わかったか」
アンは口元を緩ませて、そのシーツをその腕の翼で撫でながらうっとりしている。どうも気持ちが良いらしい。
そして……
「アン……わかった。マスターのイウコトちゃんとマモル」
「ったく……」
俺はそのままドアを開けて部屋の外へ出た。
そこは小さなダイニングのようで、4人がけのテーブルに由比ヶ浜と雪ノ下の二人が料理を並べているところだった。
そう言えば、二人も俺も変装用のマスクを外してしまっていた。椅子の上に、ローブとマスクが置いてある。
「あら、ずいぶん早かったのではないかしら?」
何故か雪ノ下がジロリと横目で俺を睨んでる。由比ヶ浜もなんか頬を膨らませて視線を逸らしてるし……
「ゆ、雪ノ下、お、お前なー。ちょっと勘弁してくれよ、俺、なんにもしてないからね?言っておくけど。な、なあ、由比ヶ浜も……、あ、そうだ!さっき、食堂のドワーフの親父にこれもらったんだ。『乾燥クラゲ』これで中華料理食えるぞ!」
「いい。クラゲは生がいい。生で丸飲み」
「声、低っ!こわっ!」
雪ノ下も由比ヶ浜も好感度絶賛だだ下がり中だ。それもこれも全部このモンスター娘のせいなんだが。
「マスター♪マスター♪」
はあ、まあ、憎めないキャラではあるな。むしろ可愛いまであるな……って!
突然二人に殺気のこもった目で睨まれる。
お、お前ら、ちょっと勘良すぎでコエーからな!?
「ただいまー。あー、お兄さん、やっと起きたんだね。お姉ちゃん助けてくれてホントにありがとう」
声がする方に目を向けると、さっき俺たちに救いを求めてきた犬人の少年が立っていた。
「えーと、ここ?ひょっとしてお前の家か?坊主」
その言葉に少年はぷぅっと頬を膨らませる。
「坊主じゃないやい!あたしには『ポリィ』っていうちゃんとした名前があるんだい!」
そう言って帽子をとると、ふわりと青いショートヘアーが舞い降りた。
お、女の子だったのか……なんか、ベーカー街に居るような感じの子だな。声もなんか麦わらの一味船長みたいだし。
ポリィはアンの側までくると、手に持った袋から何か布のような物を取り出して、それを広げ始めた。それはボタンシャツのようなもので、羽織るショールの様なものや、丈の長いスカートのような物もあった。
「うーん、多分サイズは合ってると思うんだけど……、お姉ちゃん翼があるからねー、どうやって着ればいいんだろ?」
何か、一生懸命になって首をかしげるポリィに、アンが言った。
「マスターこれくれた。アン、これでいい」
え?いや、そもそもそのシーツ俺のじゃねえし。というかそれポリィのだろ、間違いなく。
「ええー?それベッドのシーツでしょ?あげてもいいけど、ちゃんと服も着てよ」
そう言われて、アンもしぶしぶ頷く。このハーピィ、結構素直なんだよな。
さてと、俺もこっちを片付けないとな。
ポリィ達のやり取りを見つつ、まだ何か不満気な顔をしている雪ノ下と由比ヶ浜のところへ行って、俺は……
「すいませんでした」
頭を下げた。俺が悪くなくてもまず謝る。はい、伝家の宝刀です。彼女がプリプリしてたらやってみようね。
ただし、この技使いすぎると愛想つかされるので要注意!なんだこれ?
二人は困ったように顔を見合わせてから、俺を見る。
「ま、まあ、アンさんが八幡にお礼をしたいという気持ちは私も良くわかるわ」
「あたしも、八つ当たりみたいにしちゃって、ごめんね」
とりあえず、なんとか機嫌を直してくれた模様。ホッとした俺は、気まずそうにしている二人に近づいて、いつものように抱き締めようと……
と思ったら、今度はポリィとアンがジロリと睨んでいた。あ、ごめんなさーい。そうだよな、人前でいちゃいちゃはやっぱね…ははは。
まあ、そんなこんなで一応場は収まった。
まずは女子3人でアンに服を着せた。シャツの肩の部分がどうしても通らなかったようで、そこは脇の下の部分をカットして広げて通した。
が、切り広げられたせいで、その脇から豊満な下乳がチラチラ見え隠れして、裸でいる時より反ってエロい。アンも由比ヶ浜ほどではないが相当にごりっぱ様だった。なんか着せてる雪ノ下が自分の胸を必死に寄せてあげてるんだが……。お前、今は無心になった方がいいと思うよ。俺、変な気持ちになっちゃうからね。
で、スカートや他の衣類も着せる。長いスカートは綺麗に鳥の足を覆い隠し、ショールをかけたら、翼の大部分も隠れて、パッと見、その辺の町娘のようになった。
ポリィは大きなブーツも買って来ていたのだが、それはヤッパリ猛禽類の足、いくら大きくてもブーツを履くのは無理だった。
そして食事。雪ノ下達の作ったスープとサラダとパンを、みんなで食べたのだが、アンは意外な程器用にスプーンなどを翼でつまんで、食べ物を口に運んでいたのだが、やっぱりスープはまだ難しかった。
仕方がないので、そこはアンの強い申し出で、俺が食べさせてやることに。アンにアーンってって考えてたら、どうも顔に何かが出てたようで、雪ノ下達に白い目を向けられた。
食後、どうして俺たちがここにいるのかをみんなに聞いてみた。
どうやら、俺が急に気を失ってしまったもんで、バベルに帰ることが出来ず、近くのポリィの家までなんとか俺を運んだらしい。そんなに距離はなかった様だが、念のためにレムオルで姿を消したとのことだ。
着いて早速ポリィにバベルの一色達へと帰れない旨の伝言を頼み、ポリィはその足でアンの服を買って帰ってきたところだったらしい。
それにしても……。
「ポリィはどうしてアンを見つけたんだ?お前、ダンジョンに潜ったりしてないだろうに」
俺がそう聞くと、ポリィは頭を掻いて言った。
「違うんだよ。地下から、地面から急にお姉ちゃんが生えてきたんだよ」
「生えた!?」
俺達はポリィからその時起きた不思議な出来事を聞いた。