『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(13)なんで私ばっかり!

「いったいなんの騒ぎなんですか?これは」

 

 ダンジョン入り口でもあるこのバベルの下層、その2階に突如現れた人の波に、水色(アクアブルー)のくせっ毛をかき上げながらアスフィは絶句していた。

 冒険者食堂のとなり、つい先頃までは広間だったところは今は黒山の人だかり。

 呆然としているアスフィに近くにいた大柄な猫人(キャットピープル)の戦士が声をかける。

 

「デカルチャーズっていう、すげえ回復魔法使いの連中が

格安で治療してくれるんだよ。それにとんでもなく可愛い娘がいっぱいでよ……でへへ……」 

 

 その戦士はだらしなく鼻の下を伸ばしている。

 万能者(ペルセウス)の二つ名と共に、【ヘルメス・ファミリア】の団長を勤めるアスフィ・アル・アンドロメダにとって、情報は何にもまして重要なものだが、彼女でさえこの【デカルチャーズ】なる集団を聞いたことがなかった。

 アスフィは苛立っていた。

 ここ最近立て続けに起こった異変、セーフティエリアでの大量の階層主の出現や、人知、いや神知をも超えてしまった超越神との邂逅。そして、自分ではまったく相手を出来なかった巨人の大群を、瞬く間に滅ぼしてしまった奇怪な装束の3人の魔法使いと、一人の魔神のごとき青年の出現。

 彼女はその全てを目撃していた。

 だが、あれだけ強烈な事件であったにも関わらず、彼らの行方はあっという間にかき消え、あの異変に巻き込まれた自分達には箝口令が敷かれた。

 しかし、人の口に戸は立てられないもの。噂は確かに流れたのだが、その内容があまりにも荒唐無稽だとされてしまい、ただの与太話にまでに成り下がってしまっていた。全部真実なのに!

 これら全てが、冷静であるはずの彼女の心を執拗なまでにかきみだしていた。

 無性に不快になった彼女は、その少し前に立っている優男(かみ)が訳知り顔であることに、ますます苛立ちを募らせていた。正直この主に振り回されることは今に始まったことではない。彼女はもう一度深くため息をついたところに、主神がポンと肩を叩いてきた。

 

「そんなに難しい顔するなよ。彼らは大事な依頼主(クライアント)だ。それ以上でもそれ以下でもないよ。さてと、じゃあ、行こうか」

 

 そう主神に促され、人を掻き分けて行った彼女は、更なる驚きに打ちのめされる。

 

 目の前には白ずくめの男女が4人。そのうちの一人は明らかにモンスター、半人半鳥(ハーピィ)を思わせる容姿をしている。

 そして、更にリーダーと思しき黒いマスクの男性が、滔々と語るその内容に彼女は頭を抱えてしまった。

 

 このハーピィの姿の少女は人間だと。

 禁断の魔法で融合させたのだと。 

 

 驚天動地とはまさにこのこと。地に足のつかなくなったアスフィは、思考する。

 

 何が起こっているのか?

 あのもの達は何者なのか?

 なぜ、私は知らなかったのか?

 

 今までの常識では計り知れないことの連続に、アスフィーは思考の渦へとはまり、より混乱を深くする。だが、彼女は超常の存在を既に知っていた。

 そう、あの18階層に突如現れた異世界の神々と人間達。

 その異常な力を知っていた彼女はそれを理解すると同時に、激しくその存在を嫌悪した。

 

 バカにしている。

 バカにされている。

 なんで、わたしばっかり、いつもいつもいつもいつもいつも、こんな、こんな、こんな!貧乏くじをー!!

 

「あ、アスフィ?」

 

 呼び掛けられ、一瞬主神を眼光鋭く一瞥した彼女は、返事もせずに肩をいからせて、足早に黒いマスクの男のもとへ歩み寄ったのだった。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「えっとですね、わざわざ正体隠してるってのに、言われてホイホイ白状するわけないでしょうが」

 

 俺たちは予定通り、まだ日も高い午後の早いうちに店仕舞いにした。

 もともと俺が予定していたことは二つだけ。

 一つは、アンの安全対策。原作での異端児達のひどい扱いを知っていたから、それに早めに手を打ちたかったわけだ。

 原作のように秘密裏に匿うにしても、協力者がほとんどいないこの状況で守るのは至難の術。だからこそ、ここまでオープンにしてアンの存在を肯定的に冒険者連中に認知させることにした。これで、件のファミリアの連中も簡単には手出し出来ないだろう。なにせ、アンは人間になった。世間からの認識というだけのものではあるけどな。

 モンスター相手ならどんなエゲツナイ調教(テイム)も可能だろうが、相手が人間ということきなればそれはもう犯罪だ。

 これで少しは時間が稼げるだろう。

 

 それともう一つ。

 それは今目の前に立っているこの男神との折衝だ。

 ルビス様に頼んで、神ウラノス経由でこの神ヘルメスに渡りをつけてもらっていたわけだ。

 当然、俺達の素性は明かしていない。ま、隣でなぜかすごい目付きで睨んでる女団長さんは気が付いているみたいだが……

 さすが万能者(ペルセウス)ってところか。

 

 仕事を終えた俺たちは食堂のドワーフの叔父さんの好意に甘えて、賄いをもらって、隅の方のテーブル席で食べながら話をしている。

 叔父さんすっかり俺達のことを気に入ってくれたみたいだ。アンもなんか興味深そうに叔父さんの仕事見てじゃれてるし、今度なにかお礼しなきゃな。

 

「いやあ、そうだよねぇ、悪かったね、ワレラ君。どうかうちの子を許してやってくれよ。君たちにだって都合はあるものな」

 

 神ヘルメスは見かけ通りの軽い感じでそう、頭を下げた。それをまたもや隣のアスフィさんが睨んでるし……。だから、俺を睨まないでくださいって!

 

「それで、ワレラ君達は、僕たちに何を頼みたいんだい?うちのファミリアに頼むってことは、相当な金額か、もしくは貸しが出来るってことになっちゃうけど、分かってるよね?」

 

「そうでしょうね。でも今の俺たちが渡せる金額なんてたかがしれてますよ。リボ払いできたらありがたいんですけどね、無理ですね、そうですね、はい。えーと、とりあえず金額は置いておいて、依頼はします。料金はそれをきいてそちらで決めてください」

 

 ヘルメス様はあごに手を当てて少し思案している。どうせ俺達の正体を知っているんだろうし、あの顔はなにか悪事を企んでる感じだな。相当な金額を吹っ掛けられても、最終的には神ウラノスにでも払って貰えばいいしな。

 

「そうしたら、依頼内容を教えてくれるかい?」

 

 そう言われて、俺はアンを呼んでヘルメス様の脇に立たせて言った。

 

「まずは紹介します。この子が、俺たちが保護した『ハーピィ』のアンです」

 

 その言葉にアスフィさんは目を大きく見開き、ヘルメス様は微笑みをたたえた瞳で、俺をジッと見ていた。

 

 

 

「なるほど……つまり、君たちが知りたいのは、【イケロス・ファミリア】の品物の販売先ということだね?そして、その品物がこのアン君の仲間、『異端児(ゼノス)』ということで間違いないかな」

 

 一頻り説明を終えたところで、ヘルメス様は合点がいったのか、ひとり頷いた。が、隣のアスフィさんはアンをひたすらに凝視し続けて、真っ青になっていた。

 

「そういうことです。俺たちはまだこの件に関わる気はありませんでした。ただ、このアンのことを知ってしまった以上、このまま見過ごせないってだけのことです。これは俺たち全員の総意です」

 

 ロリーとコンダもそれに頷く。もちろん、アンも。まあ、分かっちゃなさそうだが。

 ヘルメス様は、やれやれと首を振りながら言った。

 

「随分と深刻な依頼をされたもんだ。君たちに聞きたいことが二つある。一つ目は、【イケロス・ファミリア】についてだ。あそこはそれほど規模の大きなファミリアではないし、今まで問題も起こしていない。こんな裏取引をしている事実をどうして君たちが知っているんだ?それともう一つ、なぜこんな重要な話を僕たちにする?ウラノスも付いてそうだが、神なんか信用するもんじゃないぜ。それくらい知ってるだろう?」

 

 一番原作で割り食ってる神様なだけのことはあるな。だから信じられるんだけどな。

 でも、なんて答えよう。『原作読んだからお願いしたいんです』なんて言えないしな。なんて言ったら信用してもらえるんだ?

 俺はニヤニヤしているヘルメス様を見つつ、視線を横に少しずらすと、そこにはまだ困惑半分といった感じで俺を睨んでいる、アスフィさんが。

 この人にも協力して貰いたいんだよな。すごいスキルもってるし。なら、そうだな……。

 

「正直言えば、イケロスファミリアが怪しいってだけで、まだ証拠は持ってません。敢えて言うなら『勘』です。でも、ただの勘じゃない。俺にはある程度の未来なら予想出来るんですよ。だから、ヘルメス様達も信用してるんです。『勘』でね」

 

「へえ」

 

 ヘルメス様は面白そうなもの見たとでも言うように身を乗り出してきた。

 よし、ならちょいと俺の予知能力を披露するか。

 

「実は今夜、ヘスティア・ファミリアのベル君と、アポロン・ファミリアのヒュアキントスがある場所で乱闘騒ぎになりますよ。一応予言しておきます」

 

「面白い!なら、アスフィ一緒に行って確認してこい。もしその通りになったら、無償で仕事を請け負ってやろうじゃないか!」

 

「「え?」」

 

 俺とアスフィさんの声が重なった。

 あれぇ?これ、失敗するフラグじゃないよね?

 何余計な問題作ってんの?と、俺の二人の彼女から無言の圧力がかかった。

 

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