『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(16)原作breakさせてなるものか……ぐぬぬ②

「ベル様ぁー!」

「ベルー!」

 

 まったく動かなくなったベルにヴェルフとリリが悲痛な声を上げる。

 二人の視線の先には完全に意識を失ったベルと、殺意で醜悪に歪んだその狂暴な顔を隠そうともしないヒュアキントス。

 そして、そのヒュアキントスの前で、刃をブーツで受け止めている狼人(ウェアウルフ)の第一級冒険者が対峙していた。

 

 ただ、それだけではない。店内は阿鼻叫喚の修羅場と化していた。

 武器を持った獰猛な野獣となった冒険者たちが、一斉に店内の客たちへ切り込んできている。

 すでに床は切り伏された者たちの血の海となっていた。

 

「スクルト」

「ベホマラー」

 

 悲鳴の傍らで、小さな声でその二つの呪文が唱えられていた。

 黄金(ゴールド)とか白金(プラチナ)の輝きが店内に満ちていく。

 だが、そんなモノはお構いなしに、暴漢たちは動くものに得物を振るい続ける。

 その地獄のなかで、一人狼人のベート・ローガは普段と変わらぬ声音で相手……男神アポロンの寵愛を一身に受けるその長身の美男子に言葉を叩きつけた。

 

「おい!男色(ホモ)野郎……気色わりいからさっさと死ね」

 

 ベートは自身のブーツで波状剣を蹴り上げ、そのまま竜巻のような連続脚蹴りを叩き込む。刹那、そのベートの背後から波状剣が襲いかかった。

 

「なっ!」

 

 振り向く間もなく、凄まじい数の剣撃がベートの首目掛けて振るわれる。咄嗟に頭を振り、避けようとするも、またもや、背後に気配……一瞬でまわりこんだヒュアキントスが殺気を放出し続けていた。ベートは身を屈め一気に横に跳ぶ。

 

「て、てめえ……」

 

 ヒュアキントスは獰猛な瞳をベートへ向けながら、右手に持った剣を下段に構え直している。

 

 ベートは苛立っていた。

 ヒュアキントスのLv.は確か3だったはずだ。例え多少偽っていたとしても、Lv.5である自分にここまで肉薄出来ようはずがない。しかもスピードでだ。

 今となってはアイズに溝を開けられたとはいえ、かつては【ロキ・ファミリア】において最速を誇っていた自負もある。

 有り得ない……

 

 いや……

 

 ベートは自身の脳裏を過ったその思いを一気に振り捨てた。

 

『有り得ないことは有り得ない』

 

 かつて自分の欲望に忠実だった伝説の人物の言葉。どんな悪夢も、どんな奇跡もダンジョンでは起こる。

 ベート自身ですら、その有り得ないと思っていたことを目の前で横たわる、このひ弱だと思っていた白兎のような人間(ヒューマン)から見せつけられてきた。

 彼はヒュアキントスを見据えたまま、腰のホルダーに収まった自身の剣に手を伸ばそうとしたその時、不意に背後から声をかけられた。

 

「おい、あんた。あのイカレ野郎を押さえ込めねえのか?力貸してやろうか」

 

「ああん?」

 

 僅かに横目に見ると、そこには真っ白いローブに黒いマスクの怪しい男が。表情は読めないが、そのマスクの内から凍てつく眼差しを送ってきていた。

 

「てめえ、誰にものを言ってんだ。雑魚がぁ!」

 

 正体不明のマスク男にそう叫ぶと同時に、ベートは飢えた狼のごとく剣を正面に構えたままヒュアキントスに躍りかかる。

 だが、その攻撃はまたもや簡単にしのがれた。

 つきたてた剣を軽く波状剣(フランベルジュ)にいなされる。幾度も振るうも、それに合わせるような猛烈な速度での剣の打ち合いとなり、まったく傷を負わせることが出来ない。

 

「ちぃっ」

 

 一度飛び退いたベートは渾身の力を込めて、自身最強の武器でもある戦靴【フロスヴィルト】を相手の胴体に叩き込もうとした。しかし……

 

「な、なにぃ?」

 

 Lv.5の渾身の一撃で放ったその必殺の蹴りは、あろうことかヒュアキントスの左手で簡単に押さえ込まれてしまった。慌てて体を捻り、逃れようとしたベートを、ヒュアキントスは乱暴に放り投げた。

 

 ベートの思考は混乱の渦に陥っていた。

 あの身体能力は、Lv.6の自身の【ファミリア】の団長フィンや副団長のガレス並……いや、普段から手合わせをしている感覚からすれば、それ以上の力を感じる。

 

 いったい、なにが起きてやがる……

 

「なあ、あんた、その靴魔法で強化出来るんだろ?なら、俺が力貸してやるよ」

 

 唐突にベートの脇にまたあの白いローブの男が歩み寄ってきていた。

 今は下手な自尊心に拘っている場合ではなかった。相手の力が少なくともガレス達以上だとするならば、全力で当たっても勝てる見込みはない。

 ベートは普段の強気な感情を押し止め、すぐさまローブの男に言った。

 

「てめえ、魔導師か!なら、すぐに魔力を込めやがれ」

 

「いいのか?風船みてえに破裂したりしねえよな?」

 

「いいから、さっさとしろ!つべこべ抜かすとぶっ殺すぞ」

 

「よ、よし……なら、いくぞ…………。『ライデイン』」

 

 白いローブの男がフロスヴィルトの宝玉に手を翳して呟いた途端に、強烈な青い閃光が走った。

 

「は?む、無詠唱だと!?」

 

 驚く猶予もないままに、瞬く間に、両足に凄まじい魔力の塊が注ぎ込まれる。その溢れる電撃に、唖然としていると、不吉な音が足元から響いた。

 

 ビキリッ

 

 ベートはこの音を知っていた。

 そう……フロスヴィルトの宝玉が砕ける音……

 

「ばっ……ばか野郎が!てめえ、すぐに魔法を止めやがれ!」

 

「と、止まる分けねえだろうが!ションベンじゃあるまいし……ああ、くそぉ……どおりゃああ!」

 

 ローブの男はそのかざした手を無理矢理に引き剥がして真上に突き上げた。その手の先から雷撃を放出したままで。

 解き放たれたそのエネルギーは周囲を青白く染めながら、バリバリと激しい音を立て、直上へと巨大な激流となって駆け昇る。そのうねる光は、天井に大穴を開けてしまっていた。

 

「ぼさっとすんな!さっさとその蹴りでやっちまえ」

 

 男のその言葉で唖然としていたベートは我に返る。

 

「う、うるせい!このくそがぁっ!」

 

 叫んだベートは、一気に跳躍する。壁に着地し、足下を破壊しながら渾身の力で飛び立つと、そこから一気にヒュアキントス目掛けて捻りを加えた蹴りで襲いかかった。

 ヒュアキントスは再びベートの脚を弾こうとするも、凄まじい電撃を帯びたその蹴りは、触れる前からヒュアキントスの身体を焼いていた……

 

「おお!スーパーイナズマキックだ!」

 

 というマスクの男の声。

 

「ギャアアアアアアアア!」

 

 ベートの渾身の蹴りはヒュアキントスの胸の正面に炸裂し、電撃の火花に皮膚もろとも衣服を焼き尽くしていた。

 まるで爆発のような衝撃に焼かれながら吹きとばされたヒュアキントスは、激しく身体を回転させて大理石の柱に叩きつけられる。そしてそのまま動かなくなった。

 

「ベルッ!」「ベル様!」

 

 ベートのすぐ後ろ、床に倒れ伏しているベル・クラネルの元へ、仲間とおぼしき二人が掛けよってきていた。

 ベートは首をまわし、例のマスクの男を探す。男はすぐそばで右手を正面に突き出しながら呟いていた。

 

「よおあんた、助かったよ。あと、先に謝っとくわ……わりいな」

 

 ベートが文句を言おうとしたその時。

 

「ラリホー」

 

 またもや無詠唱。てめえは何者だ、と言おうとしたベートだったが、既にベル・クラネルに覆い被さるように眠りについた先程の二人を見つつも、次の瞬間には一気に意識を刈り取られて眠りに落ちていた。

 

 

 

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