『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(17)原作breakさせてなるものか……ぐぬぬ③

「どうするんですか、これ!」

 

 狼人(ウェアウルフ)達を眠らせた俺に、そう言って詰めよって来たのは当然アスフィさん。目を飛び出さんばかりに見開いちゃってるし、なんか原作のクールビューティーのかけらが微塵もないんだが。

 

 とりあえず首を巡らせて、現状を確認する。

 まず飛び込んでくるのは床一面の血の海。ついで、破壊され尽くした店内の壁や床、そして粉砕された椅子やテーブル。

 見ないようにしているが、当然天井には俺が空けちまった大穴が……(だから、先に大丈夫かって聞いたってのに……)

 そして、そんな店内に折り重なるように転がる冒険者や町民の体を、ロリー(由比ヶ浜)が一人ずつ確認しながら回復魔法をかけて回ってるところだ。

 つまり、俺たち以外の全員……店員の小人族(パルゥム)の女の子やキッチンの調理人達も含めて、みんな眠ってしまっているわけだ。

 とにかくその数が半端ない。ちょうど今、コンダ(雪ノ下)から報告されたが、店内はおろか、店の外、それもかなりの広範囲で多くの人が眠りについてしまっているようだ。

 

「…………」

 

 ま、マジでどうしよう……

 

 なんでよりによってこのタイミングで、こんなイレギュラーな展開起こしやがるんだよ!どう考えてもおかしいだろ。

 いじめか?いじめられちゃってるのか?俺……

 確かに、もと中二病のうえ、今高二病(平塚先生談)のくせに彼女が二人もいるなんて、俺だって、こんな奴いたらむかつくしな……

 

 あ、納得できちゃったじゃん。

 

 ま、まあ、いい。とにかくこの原作ブレイクをどう対処するかが問題だ。

 

 俺は、ここに至るまでの流れを振り返る。

 

 まずあの狂ったヒュアキントスの登場から全てが始まった。原作だと、確か、ベル君達の近くのテーブルで、他の団員と一緒に座っていたはずだ。

 

 なのに、ビリー・ザ・キッド宜しく、入り口から登場したと思いきや、いきなり叫びやがるし、いったいどこのビフ・タネンだよ!あ、ベル君、チキン(臆病者)で切れちゃいそうな気がするな。

 そんで、いきなり近くの奴の腕切っちゃうし。

 当然俺はコンダ(雪ノ下)に言って、すぐにレムオルで姿を消させて、店の隅に全員を退避させた。

 で、奴がベル君に飛びかかったところで、腕を切られた奴が血まみれで悶えていたから急いで近づいて、ベホマで腕を繋げた。これ、まだ切られたばっかりならすぐくっついて完治することが判明。

 で、ベル君の様子を見ようとしたら、今度はバイオハザードばりに、入り口から正気を失った連中が入ってきちまうし、なに?バールシンドロームなの?

 歌歌わなきゃ治んないの?なんて思ってたら、ホントに切りかかってきちまうし。

 それで、コンダ(雪ノ下)ロリー(由比ヶ浜)に急いで声をかけて、この店の全員にスクルトとベホマラーをかけさせたわけだ。

 一応、効果があったみたいで、みんなめっちゃ切られてたけど、結構元気に逃げ回ってたから死んだ奴はいなそうだ。

 ただ、どう考えても、メダパニの錯乱状態に近かったから、状態回復の術を持ってない俺たちは苦肉の策で眠りの呪文を使うことにした。

 ロリー(由比ヶ浜)に頼んで『ラリホー』を唱えてもらい、客達は一瞬で眠りに落ちたが、狂った暴漢達はふらつく程度でほとんど効果がない。だから、俺も一緒になって、『ラリホー』の重ねがけをして、漸く、ほとんどの連中が崩れ落ちたところで、ベートのところへ走り寄ったわけだ。

 

 後はご覧のとおり……ベートの必殺のキックでヒュアキントスが吹っ飛んで、最後まで起きてたベート達を眠らせて、はい完成。

 

 アンは姿を消してたし、アスフィさんに守ってもらってたから二人とも怪我はなし。特に死人もいないから、まあ良かったって言えば良かったんだが……

 

 そもそも、店が半壊してるし、死んでないとはいえ、刃傷沙汰だし、眠っているだけと言っても、店の外に向かって百メートルくらいはみんな眠っちゃってるみたいだし……

 

 い、言い訳できねぇ……

 

 だいたい、なんなんだ、この『じゅもん』の威力は!!

 18階層でも思ったけど、明らかにドラクエの世界の時より威力あるだろう!?

 ギガデインじゃ流石にヤバイかなって思ってライデインにしたらこんなんなっちゃうし、そもそもグループ指定のラリホーでなんでメガバズーカランチャーばりの範囲に効果出ちゃうんだよ。MAP兵器なのかよ!?おい!?

 

 はあ……あとで、ルビス様にでも聞いてみるか。

 

「で、どうするんですか?」

 

 と再びアスフィさんが俺に訪ねた直後……

 

「ぐ、ぐうぅ……」

 

 呻き声とともに、ヒュアキントスがのっそりと起き上がった。すかさずアスフィさんが短刀を構える。俺も再度呪文を唱えられるように身構えた。

 

「い、痛っ……こ、ここは……お、俺はなにを……」

 

 そう呟きながら、ヒュアキントスは上半身裸になった、自分のぼろぼろの体を触りながら不思議そうな顔で辺りを見回している。なんか、その触りかた、ブルー将軍みたいでちょっと気持ち悪い。

 一応、こいつにもベホマはかけてある。殺すわけにもいかねえしな。

 ブルー将軍……じゃなかった、ヒュアキントスは傍らに倒れている同僚……【アポロン・ファミリア】の一団を見つけてから、その場で構える俺たちに敵意のこもった視線を送ってきた。

 って、そいつらボコったのお前だし、治してやったのは俺たちなんだがな!

 

 と、そこで俺はあることを閃く。

 

 どうやら、ヒュアキントスは正気のようだ。しかも自分が暴れた記憶もないように見える。だったら……こいつを利用して、正規ルートへ戻せるかもしれねえ。

 

「おい、ロリー(由比ヶ浜)、ベル君達とそこに倒れてる【アポロン・ファミリア】の連中にザメハだ。急いでくれ」

 

 一瞬キョトンとしたロリー(由比ヶ浜)だが、すぐに俺の言うとおりにしてくれた。

 

「えーと、ザメハ!」

 

「「「「「「うわあああああああああああああああああ!!」」」」」

 

 呪文を唱えた途端に、ベル君達が絶叫の上、急覚醒。この起き方、ちょっと嫌だな。

 

「な、なんだ?どうなった?」

「べ、ベル様?」

「ひっ……、だ、団長!?」

「お、おたすけ……」

 

 全員状況が飲み込めず、混乱しきりといった感じだ。

 

「べ、ベル・クラネル!?き、貴様……いったい何をした?」

 

「ひっ……」

 

 その声を聞いて、振り向いたベル君は、一気に腰を抜かした。それを、ヴェルフとリリが守るように抱き抱えた。

 そりゃまあ、そうだ。なにせ自分を本気で殺そうとした相手なわけだしな。でも、ちょっとビビりすぎな気もするが……大丈夫だよな?

 

 だが今はそんなことにかまっちゃいられない。この大惨事から正規ルートへ戻んなきゃなんないからな。よし、ここからは俺の出番だ。

 

「あー、ヒュアキントスって言ったか?実はな、これやったの全部ギルドの奴なんだ。さっきの乱闘を止めようとして、ギルドの秘密諜報員が、ギルドの作った秘密の武器を投げつけて大爆発させたんだ。黒いローブを来てて、ガイコツみたいな顔の奴だったな。んで、その爆弾は、爆発と同時に幻覚を見せる薬が仕込んであってだな、だから、あんたらが見たのは全部幻だ。ヒュアキントスが暴れたように見えたのも幻だ。気のせいだ。悪いのは全部ギルドだ。だから、文句はギルドに言ってくれ!ついでに言っておくと俺たちはまったく関係ない。むしろ被害者、怪我したお前らを無償で治療してやったし、ホントに踏んだり蹴ったりだよ。あ、悪いのはギルドだから、そこんとこ宜しく」

 

 そこまで一気に捲し立てると、ヒュアキントス以外の全員の顔が『なにいっちゃってんのこいつ』になってしまっていた。

 お前らのために、言いたくもない嘘ついてんだから、頼むからそんな目をしないでくれよ。

 目で必死にそう訴えかけてたら、ロリー(由比ヶ浜)が……

 

「そ、そうなんだよ、ガイコツ?ポスターアイドルみたいな人が爆弾投げてた。うんうん」

 

 いや、それを言うなら『ポルターガイスト』だろ!ガイコツのアイドルってなんだよ!ガイコツ店員の本田さんかよ!

 

「そ、そうね……だから私達はけがをした人を治療したのよ。あなた達だって、ケガはもうないでしょう?」 

 

 そのコンダ(雪ノ下)の言葉で、全員体を確認して戸惑った顔になる。

 すると、ヒュアキントスが拳を握って憤った。

 

「ゆ、許せん!ギルドめ……アポロン様のためにあるこの大切な身体に傷をつけるとは……」

 

 その言葉に、俺も含めて一同ドン引き。

 うわあ、この人マジでそっち系なんだ。

 だが、まあ、これで怒りの矛先がうまいこと逸れた。後は仕上げを……

 と、思っていたら、背後から鋭い殺気!

 

「てめえ、まだとち狂ったままなのかよ。ぶっ殺す」

 

 不意に後ろから怒気を孕んだ声が聞こえてきたと思ったら、そこにいるのは狼人(ウェアウルフ)のベートさん。げっ、こいつ自力で『ラリホー』から回復しやがった。

 

「おい、せっかく話が上手くいきかけてんだから、水さすんじゃねえよ。頼むから」

 

「知ったかことか。だいたい俺はテメーにもムカついてんだよ。おら、そこを退きやがれ」

 

 はあ、もうなんなんだよ、この狼男は……それじゃあ、坊っちゃんも電撃集中ピキピキどかんだぞ。もっと丸くなれよな、ちょっとは。

 

「だから、頼むから、なんでも言うこと聞いてやるから、ちょいと、黙っててくれよ」

 

 その言葉に、ベートは耳をピクリと動かした。

 そして、ニヤリと笑いながら俺を覗き見る。

 

「言ったな?よし、ならてめえの言うとおりにしてやるから、こいつを直せ」

 

 言われて、ベートの指差す先にあるのは、自身のブーツ(フロスヴィルト)……

 たしか、あれめっちゃ高かった気がするが……まあ、壊したのは俺か……くっ……

 

「わ、わかったよ。だからちょっと黙っててくれ」

 

 ベートはニヤリとしたまま腕を組んで一歩下がった。

 それを確認してから続きを言う。

 

「あー、でもな、そもそもの原因は、お前ら全員の乱闘騒ぎだ。ギルドも悪いが、お前らも悪い!だいたい5:5くらいだろう、だから修理費も当然請求されるからな、覚悟しとけよ……って、あれ?」

 

 言い終わる前に、さっきまで聞いてたはずの連中はすでに姿を消していた。アポロンの連中はおろか、ヴェルフたちや、ベートまでも……蜘蛛の子を散らすってこのことだな。

 

 はあ、まあこれで、完全じゃないが正規ルートへは繋げられたか?

 当然だが、これだけの惨事のなかで【アポロン・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】の双方に被害者を出すわけにもいかないし、当然逮捕者を出すわけにもいかない。

 あとは、神アポロンが自分本意に勝手に解釈して、うまいこと次の展開に進めてくれれば御の字だが……たしかあの神様、原作でもかなり楽天家だったから心配はいらないか……

 

 だが、まあちょっと……

 ベル君の目が完全に死んでたのが気になるが……。

 

 とりあえず目処が立ちそうで安心した俺はみんなに言った。

 

「これで、俺の知ってる展開に進めると思うぞ。まあ、全部ギルドのせいってことにしたから、後はギルドに全部任しちまおうぜ」

 

 その言葉に、アスフィさんやコンダ(雪ノ下)達が絶句。

 何故か、俺の後ろに視線を送っている。

 俺はいや~な予感を覚えつつも、ゆっくり後ろを振り返ると、そこにはスーツでピシッと身を固めた美人のOLが!。

 

「言いたいことはそれだけですか?ワレラさん!」

 

 美しさを際立たせる知的な眼鏡を煌めかせつつ、耳の長い彼女は、コメカミに青筋をたてて俺を睨んでいた。

 

 ……あ、これ、もうだめな奴だ……。

 

 

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