『八幡』と『結衣』と『雪乃』のオムニバスストーリー   作:こもれび

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(18)八幡達のお引越し。スウィートホームって知ってます?

「比企谷先輩!いったい、どうしてくれるんですか、これ!?」

 

 俺の目の前で一色いろはが、まなじりを吊り上げて羅刹顔!言い換えると、MA・JI・GI・RE☆きゃるん!

 いやいや、全然可愛くないから今は。むしろ怖い。というか死の危険すら感じる。

 小悪魔いろはは、伊達じゃないな。あ、意味違うか。

 

 一色が怒っているのには当然理由がある。

 

 あの、焔蜂亭幻覚昏倒事件(笑)の直後、俺たち……アスフィさんも含めたその場にいた全員はギルドに下手人として引っ立てたれた。

 まあ、当然だ。ギルド主謀説を唱えた上で、スタコラとんずらしようとしてたしな。さすがのエイナさん達も見逃してはくれなかったってわけだ。

 で、ギルド本部に到着した途端に、なんかブヨブヨした豚頭の下卑た感じの奴に、超上から目線で尋問されそうになったところに、2M以上はあるんじゃないかってでかいジイサンが割り込んできて、一言。

 

『その者の申す通りだ。暴徒鎮圧用の武器を試用した。ロイマン、被害に遭った者達にギルドとして謝罪と謝意を示すように』

 

 ジイサンはそれだけ言って出ていったわけだが、そう言われたロイマンって豚頭は、ものすごく歯噛みして、そのまま俺たちは無罪放免。どうやら、この人が例のギルド長のエルフだった模様。豚人って亜人なのかと思ったよ。まあ、これでめでたしめでたし、と思っていたのだが……

 

 そのあと、誰もいないギルドの廊下で俺たちの前に現れたのは、まさかの『愚者(フェルズ)』。

 

 原作の通りに、真っ黒なフーデットローブから、ほぼ白骨になったその顔を覗かせてる。もうはっきり言って、ホラーもいいとこで、俺も含めて全員ビビリまくり。

 

 フェルズは原作にも出てきた、不死身の肉体となった元賢者で、死なない代わりに、体は骸骨とか、もう笑えないレベルの不憫な人だ。

 で、神ウラノスと協力関係にあって、アンの仲間、異端児(ゼノス)の保護に奔走していることは知っていたわけだが、それだけではなく、ギルドの裏の仕事も色々やっているらしい。何をしているのかは不明だが。

 

 で、彼は、同行しているアンを見て、何度か頷いてから、色々話してくれた。会談した場所は、真っ暗な石の部屋。地下に降りる階段の途中に幾重かの隠し扉の先の部屋へ連れていかれた。

 まず、さっき現れたデカイジイサンが、神ウラノスであったこと。彼から俺たちを監視するように命じられていたこと。そして、出来る限り協力するようにと。

 

 まあ、そこまでは良かったのだが、要はさっきの乱闘騒ぎも実は監視していたらしく、俺たちの行動は筒抜けだったようだ。だったら早く助けろよ!と思いつつも、俺の言った適当な誤魔化しを本当の事にしてくれるあたり、かなりいい人……というより、お人好しだ。

 

 ここで改めて、異端児狩りを行っている件の【ファミリア】への対応を依頼された。

 もっとも、ここにはルビス様も、神ヘルメスも、神ウラノスもいない訳で、末端の兵隊同士での約束にはなるんだが、まあ、断る理由もない。

 アスフィさんにしても、もうそのつもりで考えてくれてるようだから、後は、捕まっている異端児達の解放と、その後の処遇をどうするかだ。

 ただ、やはり表だって異端児達の存在はまだ公にできないし事情がギルドにも山積みで、一朝一石にはいかないのは良くわかった。その上で、俺のプランで行こうと提案だけしておいた。

 この世界に不案内な俺たちだけじゃなかなか難しい部分もあるからな。その点フェルズなら安心できる。というか、むしろ、全部任せたい。ああ、仕事したくない、子供でいたい、僕らはふふふんふんきっず!

 

 と、これで済めば良かったんだが……

 

 別れ際にフェルズが一言。

 

『いい忘れていたが八幡君。君たちの責任についてだが、全部ギルドが肩代わりした代償として、バベルから退去してもらうことになったからな』

 

「へっ?」

 

 

   ×   ×   ×

 

 

「くそう……フェルズのやつめぇ」

 

 と、恨み言を口にしても何もかわらないわけだ。

 

 バベルを追い出された俺たちは、夜逃げよろしく風呂敷に包んだ荷物を背負って、只今東方面のメインストリートを歩いているところだ。といってもまだ夕方なんだが。

 フェルズの奴もただ追い出すわけにもいかないと、ギルドが管理している物件をひとつ融通してくれたわけだ。俺たちは今、そこに向かっている。

 まあ、荷物らしい荷物はもともとないので、大した量ではないのだが、高級プレジデンスルームから追い出された一色はもうカンカンだ。

 

 俺の目の前には、三白眼で睨んでくる一色と、特に動じてない雪ノ下、それと困ったような表情の由比ヶ浜が。

 少し後ろでは、小町とアンが仲良さそうになにか歌いながら歩いてる。どうも、調子っぱずれではあるが、一応歌になってるな。

 

 俺たちは今は変装していない。ただの引っ越しだし、今やデカルチャーズはちょっとした有名人だしな、あの格好じゃ目立ちすぎる。だから今着ているのは、この世界に転移してきたときの服だ。これはこれでかなり目立つので、落ち着いたら着替えも購入せんとな。

 アンも今日は白装束ではなく、この前ポリィに買ってもらったショールとスカートの町娘スタイルだ。これで隠せるくらいの美少女っぷりって、どんだけ?通行人の男どももアンの笑顔で骨抜きになっちまってるし、ほんとどこのアイドル?

 そういえば、全然関係ないが、ハーピィとセイレーンって見た目ほとんど同じようなもんなんだが、何が違うんだ?歌が超上手いとセイレーンになれるのかな?なんか、セイレーンオーディションとかあるんなら、ここはプロデューサーの端くれとして、アンを是非トップ・セイレーンに……

 

「ねえねえ、八幡君。あとどれくらい?」

 

 密やかな野望を叩き潰したのは、俺の袖を引っ張るルビス様。

 ルビス様はバベルから追い出されたにも関わらず、あまり気にはしてないようで……と、いうか、この人逆にすっごいワクワクしてるように見えるんだが……

 

「えーと、たしかこの先だった筈ですよ……あっ!」

 

 ルビス様に言われて、視線を向けたさきに、見慣れた青髪の犬人(シアンスロープ)の少女がこちらに手を振っていた。

 

「おーい!おにいさんたちー。こっちこっちー」

 

 そう、声を掛けられて急ぎ足で向かう。

 

「よぉ、ポリィ。出迎えご苦労」

 

「へへ……これくらいどうってことないやい。あ、アンおねえちゃん、元気だった?あたし心配してたんだよ」

 

「うん、ポリィ、アン、ゲンキだよ」

 

 久々に、というか、たったの二日ぶりだが、お互い問題ないのを確認してひと安心ってところか。急遽追い出された関係で、場所の案内をフェルズに頼んだのだが、『適任者がいる』とか言って、要は俺たちと行動していたポリィに全部丸投げしたわけだ。F・M・N!(フェルズ・マジ・ヌカリナシ)。うーん語呂悪いな。

 

「そういや、ここポリィの家のそばだよな?」

 

 一昨日の夜に歩いた記憶をたどって考える。たしか、ここから路地をひとつふたつ入った先に、隠れ家みたいなポリィの家があったはずだ。

 

「うん、でもびっくりしたよー。おにいさん達が『幽霊屋敷(スウィートホーム)』に住むなんて聞いたもんだから」

 

「「「「「え?」」」」」

 

 その言葉に一同絶句。

 

「えーと……初耳なんだが……?」

 

 今度は逆にポリィの方が驚いた顔になってる。

 

「え?知らないの?この辺でもかなり有名な話だよ?あんまりにも怖すぎて、周りの人たちがみんな引っ越しちゃったくらいだし……」

 

「お、おい……、それマジか?マジなのか?」

 

「?うん、そうだけど」

 

 チラリと女子連中を見やると、アンとルビス様以外、みんな震えて固まってるし。たしか、雪ノ下も由比ヶ浜もこの手の奴はだめだったな。

 

「おいおい、お化け屋敷なんて勘弁してくれよ。そんなとこで寝たくなんてねーよ。で、どこなんだ?それは」

 

「あ、えーとね、もう着いてるよ。ここ。」

 

 言われてポリィが指差す方向に顔を向ければ、そこにあるのは巨大な2階建ての洋館……

 

 おおう……、なんでこんなところにアンブレラの研究施設が……

 

 メインストリートから外れたここは、貧民街の外れに位置しているらしく、人通りも少ない。というか、立ち並ぶ他の家々にも人の気配はない。

 そんな寒々とした家々の中で、突然かなりの大きさの家が現れる。

 元々は塀が巡らされていたんだろうその外周には崩れた石が散乱していて、前庭とおぼしきそこは、まだうすら寒いこの時期にも関わらず、枯れた背の高い草がびっしりと生えたままになっている。

 そしてその向こうにそびえ立つ石作りの洋館。

 一階の正面にはかなりの高さの大きな両開きの玄関ドア

と、その脇に並ぶ割れた窓ガラスの内に、漆黒の闇が広がっている。

 2階は、こちらから見る側全部が大きなテラスで外通路のように繋がっているが、そのすべての窓や扉が、残骸のみを残して朽ち果てている。

 

 これはやばい。

 

 もう本能が、ここはダメだって、非常事態警報ならしているんだが……

 よくあるだろう?

 地元で有名な幽霊スポット。廃ホテルとか廃病院とか、千葉の外房なんかじゃ、廃集落なんてのも結構ある。もうね、人が暮らしてた分、その残り香がすごいのなんの。

 誰もいないのに、くさった畳の上のちゃぶだいに、煤汚れた女の子の人形とか置いてあるわけよ……

 それで、こっちをじーっと見つめてこう言うんだ。

 

『オイテイカナイデ……オイテイカナイデ……』

 

「ぴゃあああああああああああああああああ!」

 

「っわあああああああああああああああああ、って、な、なんだよ、一色!」

 

「せ、せんぱい、そ、そ、そ、そ、そこ、そこ……」

 

 口をアワアワさせた一色が指差す先、そこは正面入り口の大扉の開いた先の空間……

 

 注意深く見ると、そこには、暗闇に浮かんで揺れ動く……

 

 ……真っ白な顔!!

 

「「「キャアアアアアアアアアアア!!」」」

 

「で、出たー!このやろ、ちくしょ、二フラム!二フラムっ!」

 

「ダメよ!八幡!」

 

「なんでだよ、雪ノ下!」

 

「あなたまで消滅してしまうわ!」

 

「お、お前、こんな時に、なにどや顔で言ってんだー!俺は眼がほんのちょっと、少し、ミニマムに腐ってるだけだー!」

 

「ひえーん……に、にふらむー」

 

 逃げたいのを必死に我慢して、俺と由比ヶ浜の二人で、必死に呪文を繰り返し詠唱。

 

『二フラム』

ドラクエの世界にさ迷う、モンスターと化した魂を失った者のなれの果てを、消滅させる神聖呪文。もはや魂のないその存在は通常の死を迎えることができないため、その身に宿る魔性の呪いを光で消し去り、永遠の安息を与える。ちなみに経験値は得られない。

 

 繰り返し詠唱することで、真っ白い光が建物全体を覆い、夕闇に包まれようとしているにも関わらず、真昼のように明るく輝く。

 そして、その光のなかで、入り口に佇むその影が絶叫……

 

「ま、待て、待ちなさいって、八幡君!あ、熱い、熱いぞーーーーーーーーーーー」

 

 あれ?

 

 ものすごく場違いな絶叫が木霊する。

 なんとなく聞き覚えのあるその声に、俺たちは石畳を飛んで、急いで近づいてみた。すると、そこには……

 

「あ、あう……あ、熱い……」

 

 ひっくり返って、プスプスと煙を上げて痙攣している黒いフーデットローブの男。

 やっぱり知っているやつだった。

 

「なんだ、フェルズかよ……おどかすんじゃねえよ……ホイミ」

 

「あっちぃぃいいいいい!こ、殺す気かぁ!」

 

「んだよ、うるせいなー、ちょっと治療してやっただけだろうが。不死身の癖にガタガタ言うなよ……っていうか、回復魔法とか二フラムでダメージとか、あんたホントは死んでんじゃねーか?」

 

「え?そうなの?」

 

 なんとなく明かされてしまった真実に、愚者(フェルズ)(元賢者)は衝撃を受けるのであった。

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